「突然いなくなった恋人はどこにいったのか?」現実と幻想の合間で揺れる、切なさと穏やかさが交差するSteam百合ミステリー『SeaBed』をもう遊んだか

物語は1990年代の日本を舞台に、デザイン事務所を営む主人公・水野佐知子の視点から始まる。

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Steamでは日々数多くのゲームがリリースされている一方で、個人や少人数チームによる国産タイトルには大作の話題に隠れながらも、独創的なアイデアや強いこだわりを持つ作品が少なくない。本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」では、同人・インディーゲームを中心に、国産Steamタイトルを毎回1本ずつピックアップして魅力を伝えていきたい。

まどろみの中で真実を探す百合ミステリー

連載第3回となる本稿では、同人サークル・Paleontologyが制作したビジュアルノベル『SeaBed』を紹介。2016年にPC向け作品として頒布され、後にFruitbat Factoryによって英語・韓国語・中国語(簡体字・繁体字)へ対応しSteamで配信。2020年には追加シナリオ付きのNintendo Switch版がリリース、さらにボイスドラマ作品「SeaBed Audio Novel Collection」が制作されるなど国内外で根強い支持を集めているタイトルだ。

物語は1990年代の日本を舞台に、デザイン事務所を営む主人公・水野佐知子の視点から始まる。幼馴染であり恋人でもあった「貴呼」が忽然と姿を消して以来、佐知子は彼女の幻覚に悩まされるようになる。かつて一緒に過ごした日々の記憶が断片的によみがえるなか、精神科医となったもう一人の幼馴染・楢崎響の診察を受けることに。シナリオは現実と幻想、過去と現在を交錯させながら、佐知子と楢崎・失踪した貴呼の視点を行き来しつつ、少しずつ物語の輪郭を浮かび上がらせていく。

一見すると佐知子と貴呼の日常を丁寧に描いた百合ノベルのように映るが、実際には「現実なのか、回想なのか、幻想なのか」という境界が曖昧なまま物語は進行するのが特徴。登場人物たちが体験する出来事がどこまで事実なのか、断片的に語られる記憶がどのようにつながっていくのか、プレイヤー自身が少しずつ読み解いていく構成がミステリーの所以だ。

本作を唯一無二の存在へ押し上げているのは、間違いなく独特な文章表現だ。抑制の利いた乾いた筆致で日常や心情を紡ぎながら、ときおり詩的な比喩や哲学的な思索を織り交ぜることで、独自の空気感を生み出している。特徴的なのは感情を直接説明するのではなく、風景や会話、何気ない行動の描写から登場人物の内面を浮かび上がらせる点だ。淡々としているにもかかわらず、読み進めるほど言葉の奥にある感情が伝わってくるようなテキストは最大の魅力と言える。

『SeaBed』はミステリーをテーマにしながら、派手な展開や明確な謎解きで引っ張る作品ではない。旅行先で交わされる何気ない会話、事務所で過ごす穏やかな時間、学生時代の屋上で交わした言葉などの日常の断片が積み重なることで、登場人物たちの関係性や過ぎ去った時間の重みが、ゆっくりとプレイヤーの中へ沈殿していく。起伏が少ないため人によっては「単調」と感じるかもしれないが、もやのかかった世界を漂いながら、登場人物たちとともに真実へ近づいていく感覚が味わえ、読み終えたあとにはTIPSや作中の描写を振り返り、自分なりの解釈を巡らせたくなる余韻が残るだろう。

『SeaBed』は、PC(Steam / DLsite)およびNintendo Switch向けに発売中。

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Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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