“彼らが破滅するのを見守ることしかできない”無情と人間臭さのSF群像劇ADV『BLACK SHEEP TOWN』をもう遊んだか

連載第4回となる本稿では、BA-KUが2022年9月にSteam向けにリリースしたビジュアルノベル『BLACK SHEEP TOWN』を紹介。

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Steamでは日々数多くのゲームがリリースされている一方で、個人や少人数チームによる国産タイトルには大作の話題に隠れながらも、独創的なアイデアや強いこだわりを持つ作品が少なくない。本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」では、同人・インディーゲームを中心に、国産Steamタイトルを毎回1本ずつピックアップして魅力を伝えていきたい。

血と暴力に彩られたギャング×SF群像劇

連載第4回となる本稿では、BA-KUが2022年9月にSteam向けにリリースしたビジュアルノベル『BLACK SHEEP TOWN』を紹介。企画・脚本を務めるのは『CARNIVAL』『SWAN SONG』『ヒラヒラヒヒル』などで知られるシナリオライター・瀬戸口廉也氏。舞台の「Y地区」は移民やギャング、超能力を持つ「ミュータント」などが暮らし、ギャング組織「YS」が強い影響力を持つ日本のスラム街だ。序盤に描かれる組織のトップ「クリス・ツェー」の死をきっかけにYSの後継者争いが始まる一方、猟奇殺人鬼「コシチェイ」やミュータントを束ねる秘密結社「八龍会」も動き出し、街の人々を巻き込みながら騒動が広がっていく。

本作では主人公「謝亮(ツェー・ルォン)」だけでなく、謝亮の親友「見土道夫」、超能力を奪われた元探偵「路地邦昭」、いたずら好きの超能力姉妹「灰上姉妹」など、Y地区に暮らすさまざまな人物の視点を切り替えながらストーリーを追っていく。特定のシナリオを読むことで新たな物語が解放されるザッピング形式で、ある人物の視点で分からなかった出来事が、別の人物の視点では「この人は何を考えているのか」「この先どうなってしまうのか」と違った意味をもちはじめていくのだ。

『BLACK SHEEP TOWN』は一見すると血と暴力に彩られたギャングものに、ミュータントというSF要素を組み合わせたド派手な作品に見えるだろう。だが実際に遊んで強く印象に残るのは、超能力バトルやSF的な謎ではなく、Y地区に暮らす人々が自分なりの答えを求めて生きている泥臭い姿だ。血筋、恩、誇り、理想など彼らが大切にしたいことは異なり、価値観が交錯することで少しずつ歯車が狂っていく。誰かにとって正しい選択が別の誰かを傷つけ、予想していなかった悲劇へとつながっていく姿にはもどかしさを覚える。

ミュータントという設定もバトルではなく、特殊な身体や精神を抱えて生きることの困難さや、社会から向けられる差別を描くために機能する。非現実的な背景を借りながら作中で描かれているのは、周囲から理解されないことや自分ではどうにもならない生きづらさといった現実にも存在する問題だ。また登場人物たちを単純に善悪で裁こうとはせず、差別を受けるミュータントとして生きる苦悩など、テキストの多くを占める独白を通じて何を考えてきたのかが丁寧に描かれていく。

また本作の特徴はプレイヤーが物語に介入できず、悲劇を回避するような選択肢は存在しない点だ。どれだけキャラクターに感情移入しても人生を変えることはできず、登場人物たちは信念に従って先へと進んでいく。別の言葉をかけていれば、違う選択をしていれば、もう少し早く話し合っていれば……。ストーリーを俯瞰できるプレイヤーだからこそ、「こうすればよかったのに」という切なさが心に積もっていくが、結末が悲劇だったとしても「間違った選択だった」と簡単に片付けることができない。

だが『BLACK SHEEP TOWN』をクリアしたあとに残る感情は悲しみだけではない。うまくいかなかった人生も取り返せなかった選択も、キャラクターたちが最期まで走り切った結果だったと思えるからだ。だからこそ本作は破滅へ向かう人々の人生を見届けることで「人生を見届けられてよかった」という静かな肯定と、悲しいのに愛おしいという複雑な感情をプレイヤーの心に残してくれるビジュアルノベルだ。なおBA-KUは新作『百白(ヒャクビャク)』を開発中だと8月6日にアナウンスした。またどのような体験が味わえるのか、今からリリースが楽しみだ。

『BLACK SHEEP TOWN』はPC(Steam)向けに発売中。

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Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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