Wiiの『スーパーモンキーボール』の上手さと、“内視鏡手術訓練の上手さ”に意外な相関。おサル球転がしゲームが、未来の医学教育に役立つかも

ゲームの習慣・技能が、高い技術を要する手術訓練のスコアとどのような関係にあるのか分析した論文が発表された。

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ドイツのシャリテ・ベルリン医科大学とミュンスター大学病院の研究者らは7月、ゲームの習慣・技能が、高い技術を要する手術訓練のスコアとどのような関係にあるのか分析した論文を発表した。「Influence of Regular Video Game Play on the Basic Skills of Arthroscopic Surgery – Results of a Prospective Study(前向き研究の結果–日常的なゲームプレイが関節鏡手術の基本技能に及ぼす影響)」と題するこの論文は、医学教育に関する国際学術誌「Medical Science Educator」に掲載され、オンライン版はSpringer Nature Linkより誰でも無料で閲覧できる。

本調査では、内視鏡手術の一種で高い技量を求められる関節鏡手術の訓練のスコアについて、ゲーム習慣が手術訓練スコアと関係しているかを調べるため、ゲーマーと非ゲーマーのグループを統計的に分析。さらに、特定のゲームの技量とも関連がみられるか調査するために、『スプラトゥーン2』と『スーパーモンキーボール アスレチック』のスコアと関節鏡手術の訓練スコアの関係を分析した。結果として、ゲーマーと非ゲーマーでは違いが見られず、『スプラトゥーン2』の上手さとも有意な関連がなかった。一方で『スーパーモンキーボール アスレチック』のスコアと関節鏡手術の訓練スコアの一部には有意な相関関係が示されたという。このことから、一部ゲームで測定される技能が、難度の高い外科的手術の基礎技能と関連しており、将来的には低コストな補助的トレーニングに活用できる可能性があると考察されている。

『スーパーモンキーボール バナナランブル』


内視鏡手術の技能と“おサルの球転がしゲームの上手さ”は、わりと関連あり?

まず関節鏡手術について説明すると、この手術は半月板の損傷や靭帯の断裂、五十肩の治療など、全身の大きな関節の病気や怪我に対して行われる内視鏡手術だ。関節の皮膚に数ミリほどの穴を数か所あけ、そこから小型カメラと専用の器具を挿入。医師はモニターの映像を見つつ間接的に細かな作業を行っていく。大きく切らないため出血が少なく、術後の痛みが軽い上、回復も早いが、医師には高い技術と独特の操作感覚が求められる手術となっている。また、この手術の訓練には専用のVR機器のほか、物理的な訓練キットも存在するが、費用面や訓練機会の捻出に難があるそうだ。そこで、手軽に取り組める補助的なトレーニングとして、ゲームを活用できないか研究されているというわけだ。

本調査には、医学部生41人と他学部の学生9人の計50人が参加。平均年齢は23歳ほどで、19歳から30歳の参加者が集まった。男女比としては男性が38人、女性が12人。また、右利きの人が42人で、左利きは8人だった。参加者には、幼少期からのゲーム経験や自身の器用さへの自負などを問う質問票も渡されたという。なお募集にあたっては、関節鏡授業への参加や、関節鏡手技の経験がある人物は除外されている。参加した学生らは、その場で各手術訓練キット・モジュールに取り組む前に書面で説明を受け、必要に応じて質問する機会も与えられたのち、訓練に臨むこととなった。

関節鏡手術の物理訓練キット3種。それぞれ左からMaze/迷路モジュール、Transfer/移動モジュール、Numbers /数字モジュール
Image Credit: Influence of Regular Video Game Play on the Basic Skills of Arthroscopic Surgery – Results of a Prospective Study on Springer Nature Link

研究チームは3種類の手術訓練キットのスコアをゲーマーと非ゲーマー間で比較するため、週3時間以上のプレイ時間を持つ学生をゲーマーとし、それ未満のプレイ時間の学生を非ゲーマーとして扱った。なお、2つのグループはそれぞれ25名ずつとなるよう参加者の募集が行われている。

また調査では、特定のタイトルにおけるゲーム技能と手術技能の関連性も分析対象となった。選ばれたゲームは『スプラトゥーン2』と、2010年にセガから発売された『スーパーモンキーボール アスレチック』(以下、スーパーモンキーボール)の2作品だ。『スプラトゥーン2』といえば、ステージに色を塗りながら競い合う対戦アクションシューター。そして『スーパーモンキーボール』といえば、ボールに入ったおサルを転がしながらゴールを目指すアクションゲームだ。

『スーパーモンキーボール』の採用理由として本論文では、2002年にゲームキューブ向けに発売された『スーパーモンキーボール2』と、腹腔鏡手術という内視鏡手術における技能指標との間に有意な相関関係が示された先行研究を紹介。今回の調査はWii版の『スーパーモンキーボール』となるため、学生はWiiリモコンプラスを使用している。調査において参加者は、コントローラーを傾けてボールに入ったサルを操作し、60秒以内にゴールに到達する10のステージを連続でクリアする必要があったという。研究チームは『スーパーモンキーボール』のゲーム内スコアと、クリア時点の残機などから調査における点数を独自に算出。手術訓練キットのスコアとの関連性を比較している。

また『スプラトゥーン2』が選ばれた理由として本論文では、3次元シューティングゲームと関節鏡のシミュレーターでの技能に強い相関関係が示された先行研究を紹介。複雑なシューティングゲームが内視鏡手術における空間認知能力を高めるという知見にも合致していたためだという。学生らはジャイロ機能を備えたコントローラーを使用し、敵や障害物を回避しつつキャラクターを救出するステージをプレイ。到達したチェックポイントの数や、残機数、掛かった時間などをこちらも独自のスコアとして算出し比較している。

“Wiiリモコン”と『スーパーモンキーボール』の広がる可能性

2つのグループに分けられた学生らは、3種類の物理的な手術訓練キットと、2つのゲームにそれぞれ取り掛かった。その結果、『スーパーモンキーボール』のスコアと一部の手術訓練スコアとの間に統計的に有意な関係が示された。一方、関節鏡手術の訓練成績についてはゲーマーと非ゲーマーとの間に有意な差は見当たらず、『スプラトゥーン2』のスコアと手術訓練スコアの間にも統計的に有意といえる相関関係は認められなかった。

横軸が『スーパーモンキーボール』のスコア、縦軸がNumbers /数字モジュールのスコアを表すグラフ
Image Credit: Influence of Regular Video Game Play on the Basic Skills of Arthroscopic Surgery – Results of a Prospective Study on Springer Nature Link

上のグラフは『スーパーモンキーボール』のスコアと、手術訓練キットの一つである数字モジュールのスコアの関係性を表している。同ゲームのスコアが高いほど、数字モジュールのスコアが小さくなる傾向が見て取れる。物理的な手術訓練キットのスコアは低いほど高い技量を持つことを示すので、今回の調査における相関係数rは、-0.418となっている。このrは要素間の関係性の強さを表す指標で、正負に関わらず絶対値が1に近づくほど強い相関を表す。分野によって異なるものの、一般的にrが±0.3前後になると一定の関連があると解釈されることが多い。今回は、『スーパーモンキーボール』のスコアが高いほど、手術訓練キットのスコアが小さくなる相関関係が示されたかたち。なお、相関の統計的有意性を示すp値も0.003と低く抑えられており、統計的に有意な結果であると解釈されている。

このほか、3つの物理的な手術訓練キットの総合スコアと、『スーパーモンキーボール』のスコアを比較した場合でも、統計的に有意な相関があると示された。こちらのrは-0.356で、pは0.011となっている。総合スコアも低いほど成績が良いとされているので、同ゲームのスコアが高い参加者ほど、関節鏡手術の訓練でも良好な成績を残す傾向にあると指摘されている。

今回の結果について研究チームは、どれだけの時間ゲームをするかという習慣よりも、特定のゲームの測定可能な熟練度の方が、関節鏡手術の技能との関連を見る指標としては適正な可能性があると考察している。また『スプラトゥーン2』のスコアと、手術訓練キットのスコアに相関が見られなかった点に関しては、使用したゲーム機や操作方式の違いが一因となった可能性を挙げている。本論文ではWiiのコントローラーを用いたいくつかの先行研究を紹介し、手術器具の操作との類似性を指摘。Wii版の『スーパーモンキーボール』とNintendo Switch版の『スプラトゥーン2』では、操作性の違いが相関関係の有無に影響したのではないかと説明している。一方で腹腔鏡手術に関する過去の研究では、アナログスティックを用いる『スーパーモンキーボール2』についても手術技能との関連が報告されており、Wiiリモコンという入力方式のみが要因なのか、『スーパーモンキーボール』シリーズがもつ独自のシステムによるものなのかまでは判断ができないとも言える。

研究チームは、ある特定のゲームが関節鏡手術における技能の一側面を確実に反映しているなら、そのゲームを臨床前の訓練カリキュラムに導入したり、シミュレーターなどの本格的なトレーニング前に、追加の空間認識能力の訓練が有用となる学生を見極めたりする用途が考えられるとしている。手軽かつ低コストな補助的手段として、特定のゲームが潜在的な価値を持つ可能性にも言及しており、特に学生における初期の訓練においては、準備や補助的なトレーニングツールとして活用できる可能性があると指摘している。

Image Credit: Influence of Regular Video Game Play on the Basic Skills of Arthroscopic Surgery – Results of a Prospective Study on Springer Nature Link

ちなみに、ゲーマーと非ゲーマーの平均値の比較として、『スーパーモンキーボール』では非ゲーマーが4万9864点だった一方、ゲーマーは5万2543点であり、これは統計的に有意な差とはならなかった。しかし『スプラトゥーン2』の場合は、非ゲーマーのスコアが616点だったのに対し、ゲーマースコアは8581点を記録。これに関しては統計的に有意な差が認められている。

なお本論文では、参加者が過去に両タイトルをプレイしていたかどうかという具体的な記載はみられないが、事前の質問票では、どのゲームジャンルをどれだけプレイするか、といった事柄を調査している。それによると、ゲーマー群ではFPSが週平均で4.7時間と、各ジャンルの中ではもっとも長くプレイされていた。一方、『スーパーモンキーボール』については参加者がどの程度プレイ経験をもっていたのかは不明。同作への慣れが、今回の成績にどの程度影響したのかも明らかではない。

そのため本論文においては、今回の研究の限界点として、ゲーマーの分類が適切でなかった可能性が挙げられている。実際、ゲーマーは『スーパーモンキーボール』で非ゲーマーより有意に高い成績を残しておらず、研究チームはこの点から分類方法の妥当性に疑問が残ると説明している。また、ゲーマーと非ゲーマーで関節鏡手術の訓練スコアに有意な差が見られなかったのも、こうした分類方法が影響した可能性があるようだ。

また研究チームは、50人という参加者の規模もやや小さいと認めている。本論文では、今回の調査の規模はほかの同様の研究よりも大きいものの、さらに人数が多ければ結果の有用性が高まるとしている。さらに、これらの50人は任意の参加者であり、もともと関節鏡手術に対して関心があった可能性も指摘。結果にバイアスがかかっているかもしれないと示唆している。くわえて、本調査で行われた事前の質問票は外部の妥当な検証を受けていないという。というのも、外科的技能とゲーム経験を評価する標準のツールは現状で無いため、先行研究に基づいた内容を独自に設定せざるを得なかったそうだ。

『スーパーモンキーボール バナナランブル』

そうした課題も示されているものの、今回の研究では、研究チームが独自に設定した『スーパーモンキーボール』のスコアと、関節鏡手術の訓練スコアの間に統計的に有意な関連があることが示された点は興味深い。とはいえ「『スーパーモンキーボール』が上手いから関節鏡手術の訓練での良い成績につながるのか」あるいは「空間認識能力など何らかの共通した能力が、手術訓練とゲーム双方の成績に反映されているのか」という因果関係については明言できないとしている点は留意されたい。今回明らかになったのは、あくまで両者に相関があるという点だ。

いずれにせよ、『スーパーモンキーボール』のような特定のゲームが、内視鏡手術の訓練に役立つ可能性があるというのは興味深い。同作、あるいは同シリーズが今後、医学教育に採用されることはあるのか。コミカルなおサルのゲームが未来の医師の訓練を支える時代が来るのか、さらなる研究の発展も気になるところだ。

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Kei Kano
Kei Kano

キャラクリが出来て没入感のあるゲームが好きです。ゆっくり歩いて世界観を味わったり、自分なりに脳内設定を組み上げたりして遊んでます。

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