ルートボックス全盛期が過ぎ去った今、海外AAA級タイトルは何で収益化を図るのか。『アサシン クリード オデッセイ』の先行アクセス権や経験値ブーストなど「早く遊び・速く進める」に再注目

ゲームの開発費が膨れ上がり続けつつも、増収増益が常に求められる現状において、パブリッシャー/デベロッパーはゲーム本体以外に何を売ればいいのか。どんな商品であれば消費者に受け入れてもらえるのか。快く財布を開いてくれるのか。それは絶えず問答が繰り返されている業界の課題であり、パブリッシャー/デベロッパーのノウハウ蓄積、そして時の流れとともに、マネタイズ手法のトレンドというのは移り変わっていく。

2017年には、『Star Wars バトルフロント II』にて問題視されたゲーム内課金システムが引き金となり、世界各国でルートボックス規制を検討する動きが本格化した。ベルギーやオランダでは一部メジャータイトルで販売されているルートボックスが違法であると認定されるなど風向きが怪しくなり、それまで増加傾向にあったAAA級タイトルにおける有償ルートボックス販売に待ったがかかった。BioWareが開発中の期待作『Anthem』においては、ルートボックス騒動を受けてマネタイズモデルの見直しを余儀なくされたと報道されている(関連記事)。

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『オーバーウォッチ』はベルギー当局の要請を受けて、ベルギー国内でのルートボックス販売を停止している

ルートボックス全盛期が過ぎ去った2018年。AAA級タイトルの多くが有償ルートボックスの販売を封じ、スキンアイテムやゲーム内コンテンツの直販売へと再びシフトしていった。収益増を図るためさまざまな工夫が凝らされているわけだが、そんな中、「コンテンツの直購入化」以外にも、新しいトレンドと呼べる言ような傾向がいくつか見られるようになってきている。普通よりも早くゲームをプレイし始められる先行アクセス権や、ゲーム内のキャラクター成長速度を速める時短アイテムといった、「早く遊び、速く遊び進める」ための商品である。それらは大分前から存在してきたものであるが、Electronic ArtsEA)やUbisoft、スクウェア・エニックスといった大手パブリッシャーのタイトルでは、ここにきてより顕著になりつつある。

 

「早く遊べる」で顧客単価アップ

まずは今年リリースされたタイトルおよび今後リリース予定のAAA級タイトルが、収益増のために何を売り出しているのか確認してみよう。AAA級タイトルにおいては、8000円前後の価格帯で売られる通常版だけでなく、さまざまな特典をセットにしたデラックス版・ゴールド版といった豪華エディションが製品ラインナップに並べられることが多い。特典内容はサウンドトラックやアートブックといった物理的なものから、ゲーム内コンテンツや各種プラットフォーム用のアバター・壁紙といったものまでさまざま。そんな中、今年に入ってデラックス版などの予約特典として、製品版のゲームを発売日の数日前からプレイできる先行アクセス権が売り出されるケースが目立ってきている。先述したようにAAA級タイトルの開発費が上昇し続ける中、プレイヤーごとの単価を少しでも押し上げるため、特典内容も変化を見せつつある。

ゲームの予約購入者にベータ版へのアクセス権を付与するケースは以前からあった。また、『レインボーシックス シージ』『フォーオナー』といったライブサービス型のマルチプレイタイトルにおけるシーズンパス特典の一部として、追加コンテンツへの先行アクセス権が与えられることも、スタンダード化しつつあった。製品版の先行アクセス権というのは、そうした先行アクセス権の商品化の延長線にあるものとも考えられる。以前から先行アクセス権を何かしらの形で提供してきたUbisoftEAといった大手パブリッシャーが、ゲームの製品版にまで先行アクセス権の商品化を推し進めつつあるのだ。

『レインボーシックス シージ』

「他の人よりも早く遊べる」という特典内容は、物理的な商品を届ける必要がなく、かつ商品内容が明確であり、デジタルダウンロード販売との親和性が高い。ダウンロード販売による売上/売上率が上昇し続けている昨今において、先行アクセス権は新しく売り出すのに適した商品だと言えるだろう(EAUbisoftともにダウンロード販売が拡大しつつある旨、業績発表・決算発表にて報告している)。

いくつか具体例をあげていこう。まずUbisoftの『アサシン クリード オデッセイ』ではゴールドエディションの特典として3日間の早期アクセス権。『ディビジョン2』の予約特典としてはプライベートベータアクセス権、ゴールド/アルティメットエディション特典としては製品版の3日間先行アクセス権が付いてくる。今年6月に発売された『ザ クルー2』 でも、ゴールドエディション特典として3日間の先行アクセス権が提供されていた。

EAの作品でいうと、『Battlefield V』では先行ベータアクセス権、『FIFA 19』のアルティメット/チャンピオンズ・エディションでは3日間の先行アクセス権、『Anthem』ではプレイデモVIPアクセス権、Origin Access Premier加入者向けには公式体験版の早期プレイ権が特典として押し出されている。スクウェア・エニックスもここにきて先行アクセス権を特典としてつける傾向を強めており、『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』のデラックス版特典として48時間先行アクセス権、『ジャストコーズ 4』のデジタルデラックス版・ゴールド版の予約特典としてゲーム本編の1日先行アクセス権、拡張コンテンツへの1週間先行アクセス権を提供している。

『ジャストコーズ4』

年々ダウンロード販売に押されつつあるパッケージ販売に関しても、先行アクセス権とはやや違ったかたちで「他の人よりも早く遊べる」というメリットを届けようとする施策が見られる。Rockstar Gamesの最新作『レッド・デッド・リデンプション2』では、米国の大手ディスカウントチェーンTargetが、パッケージ版の販売を発売日前日21時に開始するという施策を実施。ゲーム自体は発売日当日までロックされているため発売日までプレイできないが、長蛇の列に並び、24時になってから店舗受取するよりも早くゲームをプレイし始められるというわけだ(Forbes)。

 

「速く進める」はいまだ賛否両論

10月に発売された『アサシン クリード オデッセイ』では、他のプレイヤーよりも早く遊び始められる先行アクセス権に加えて、他のプレイヤーよりも速く遊び進められる時短アイテムが売り出されていることでちょっとした議論が巻き起こった。同作には、恒常的な50%経験値ブースト効果を付与する約1000円相当のアイテムと、uPlay Coinで入手できる一時的な経験値ブーストアイテムが存在する。論点となったのは、時短アイテムが存在すること自体の是非と、時短アイテムがゲーム体験に及ぼす影響力の程度である。

アクションRPGである本作では、1キャラクターレベルごとの与ダメージ・被ダメージ量の変化が激しく、メインクエストを進めるにあたっては、サイドクエストや各種アクティビティをこなすことがほぼ必須となっている。初めから全てのコンテンツを網羅するつもりのコンプリート主義者であれば、メインクエスト以外のコンテンツに時間を割くことは負担にならないと思うが、メインクエストを中心に遊びたいプレイヤーにとっては、レベル上げのために余分な時間を過ごすことになる。そうしたプレイヤーは経験値ブーストを購入することで、より快適にゲームを遊べるようになる。。

『アサシン クリード オデッセイ』ゲーム内ストアページ

・開発陣の意図
この経験値ブーストについてUbisoftは、メインクエストに集中したいプレイヤーと、コンプリート主義のプレイヤー両方を考慮した上でバランス調整を行っており、現在のゲームバランスには満足していると語っている。経験値ブーストのような時短アイテムは、広大なオープンワールドを探索しきる時間がないプレイヤーでも本作を楽しめるようなオプションとして存在するものであり、本作本来の遊び方ではないとも説明している(海外IGN)。

・各メディアの反応
とはいえ経験値ブーストの存在を危惧する声は多く、複数の海外メディア・個人の動画配信者が問題提起している。PC Gamerは、経験値ブーストがなければゲームのペースやレベル上げのプロセスについてそれほど気にならなかったであろうと感想を述べている。経験値ブーストが有料アイテムとして売られていると、経験値ブーストという快適さを買わせるために、ゲームのペースやレベル上げのバランスが厳しめに調整されているのではないかと勘繰ってしまうからだ(PCGamer)。

Polygonは経験値ブースト有りの状態こそが『アサシン クリード オデッセイ』を遊ぶ最善の方法だと語っている。時間が無いプレイヤー向けのオプションにとどまらず、時間が有るプレイヤーにとっても「ベストの選択肢」になっているというわけだ(Polygon)。経験値ブーストのために10ドル支払うことでようやく、プレイヤーの時間を尊重するようなペース/レベル上げ配分になる。ただ、Polygonのスタンスはどちらかというと「コンプリート主義」ではなく「メインクエストに集中したい」派であることは念頭に置いておきたい。ゆえにコンプリート主義者よりも経験値ブーストの恩恵を実感していると思われる。

KotakuJason Schreier氏は「コンプリート主義」目線でこの問題を捉えており、Schreier氏自身長時間プレイしたものの、マイクロトランザクションや経験値ブーストの存在が気になることはなかったと発言している(該当ツイート)。またAAA級タイトルの販売価格が変わらない中、ゲーム開発にかかる費用は指数関数的に上昇し続けていることを受け、ある程度のゲーム内課金はやむを得ないというスタンスを維持している。プレイヤー全員の出費が増えるゲーム本体の値上げよりも、一部プレイヤーのみ追加支払いが発生する『アサシン クリード オデッセイ』スタイルのマネタイズ手段の方がマシだというわけだ。また同じゲーム内課金という括りの中でも、ガチャやルートボックス、ソーシャルゲーム型の課金スキームよりはよほどマシだという考えも示している。

どれだけ開発陣が否定しようとも、ゲームバランスに直接影響し得る経験値ブーストが有料販売されている時点で、「課金を促すためのゲームバランス」になってしまっている可能性は拭いきれなくなる。経験値ブーストは時短アイテムとして収益化しやすいアイテムかもしれないが、その嫌疑を拭い去るのは難しい。F2Pゲームやマルチプレイゲームで浸透した有償経験値ブーストをシングルプレイタイトルで販売する上では、まだ課題を残していると言えるだろう。

より部分的な時短効果を提供する事例もあり、それらは『アサシン クリード オデッセイ』ほど海外メディア・フォーラム等で議論の的にはなっていない。例として『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』では、ゲーム序盤からスキルを通常より多くアンロックできるようにするスキルブースターパックが予約特典として含まれていた。10月に発売された『レッド・デッド・リデンプション2』では、デジタル版の予約特典としてゲーム内マネーボーナス、スペシャルエディションの特典としてゲームプレイブースト、ゲーム内マネーボーナス、各種ゲーム内割引。アルティメットエディションの特典としてオンラインモードのランクボーナス(オンラインでのプレイヤーランクが25まで上がりやすくなる)などちょっとした時短系アイテムが含まれている。これらはゲーム内ストアでの販売ではなく特典の一部として売り出されていることもあり、プレイヤーの注目を集めにくい。

『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』

市場動向の変化にあわせて商品の売り方や販売内容をアジャストしていくというのは、どの業界でも同じ。そして現在の海外AAA級ゲーム市場においては、ルートボックス全盛期が去り、ダウンロード販売が増え、新しい/効果的なマネタイズ手法が模索されている最中にあると思われる。

収益増を図るために何を売るのか。注目タイトルが採用するマネタイズモデルが毎度ニュースとして取り上げられるこの時代、そして海外AAA級タイトルにおいて脱ルートボックス化が進むこのご時世において、「早く遊び始め、速く遊び進める」がトレンドのひとつとして定着するのか。「ダウンロード販売の拡大」のほか「クラウドゲーミング」「サブスクリプションサービス」への投資に意欲的なUbisoft/EAといった大手が、2019年以降さらなる変化を見せるのか。海外マネタイズ事情の今後に引き続き注目していきたい。

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