個人開発者Lizardry氏が手がけた『Refind Self』。2023年11月14日に、PC(Steam)/モバイル版がリリースされ、2024年夏にはNintendo Switch版も発売される。『Refind Self』は、性格診断ゲームだ。本作でプレイヤーはひとりのロボットとなり、2Dマップを探索。ゲーム内でとる行動によって性格が診断され、最終的にどのようなタイプなのかを結果を知ることとなる。


弊誌では、『Refind Self』の開発者Lizardry氏と、PLAYISM代表の水谷俊次氏にインタビューを実施。パブリッシャーと個人開発者がどのような意見を交わし、ひとつの作品を生み出したのかを訊いてきた。

―― まずは自己紹介をお願いいたします。

Lizardry氏:
Lizardryです。個人開発でゲームを作っています。代表作は『7 Days to End with You』という言語解読ADVと、性格診断ゲーム『Refind Self』です。今はどんな新しいゲームを作れるだろうかと、日々模索しながら新作を開発しているところです。新しいゲームのアイデアというものはなかなか出てこないので、いつこのスタイルをやめようかと思っているところです……(笑)

――(笑) 開発者としての、これまでの経歴を教えてください。

Lizardry氏:
ゲーム開発を始めたばかりの頃は、半分趣味のような感じで、スマートフォン向けアプリのゲームなどを公開していました。当時は別の事もしていたので、ゲーム開発を仕事にする予定はありませんでした。ただ、そこである程度手ごたえを感じたので、今度は買い切りのゲームを作ろうと思って開発したのが『7 Days to End with You』でした。そのあと『Refind Self』をリリースして、今に至ります。

―― 『7 Days to End with You』がリリースされてから2年足らずで『Refind Self』をリリースされましたよね。本作がどういうゲームなのか、プレイしたことがない人にもわかりやすくご紹介いただけますか。

Lizardry氏:
プレイすると性格のようなものが出て、プレイスタイルや本人の性格が診断できるというゲームです。「ゲームって性格が出るよね」というのがコンセプトで、それを如実に体現したゲームになっているのかな、という感じです。3周することをおすすめしているのですが、それでも2時間くらいで終わる、気軽に楽しめるゲームです。

*『Refind Self』紹介トレーラー

―― 現時点でのセールスを教えてください。

Lizardry氏:
ありがたいことに、20万本を超えていると思います。割合としては、Steam版が50~60%、モバイルが40%くらいかと。最近はセールの影響もあるので、Steamはもっと多いかもしれないですね。

以前、基本無料のモバイルゲームを運営していた事もあったのですが……その時の感覚からすると、買い切りゲームでこれだけ手に取って頂けたのは、すごいことだと思っています。モバイルでリリースしたことでSteamでゲームを遊ぶ環境がないユーザーにもリーチすることができましたし、口コミで話題になったときに「自分の環境でも遊べる」という方が遊んでくれたのかなと思っています。モバイル版があったからこそ、Steam版も売れているのかなと思っています。逆もまた然りですね。

―― ここまでの反響はどこまで予測していましたか。

Lizardry氏:
売れればいいなあとは思っていましたが……(笑)というのも、『Refind Self』の企画は、プレイヤー間の相対性、つまりは誰かと比べる点に依存している部分も大きいので、話題にならない場合は面白さが担保されるか不安でした。なので、面白くなる為に売れれば良いなと思ってました。ですが、1回多くの人の反響があれば話題にはなるのではないかという自信はありました。ゲームとしてのクオリティも結構高いと思っていましたので。あとはそうですね、売れるかどうかというよりは、…『7 Days to End with You』を買って遊んでくれた方や、ストーリーが好きな方にも、しっかり楽しんでもらえたらいいな、という思いがありました。

―― パブリッシャーとしても、それくらい売れるという見立てはありましたか。

水谷氏:
ある程度は受け入れられるだろうという手ごたえは感じていましたが、それでも思ったより売れましたね。半年で20万本なので、今後の累計では50万本くらいになるかもしれませんね。期待を超えたヒット作になったので大変嬉しいし、ほっとしました。

Lizardry氏:
売れたらいいですねとは水谷さんと話していました。僕の方から「PLAYISMで扱ってくれませんか」とプッシュをしていた作品でもあったので、こちらも嬉しいです。


「行動データ」が創造するゲーム体験

―― 性格診断をベースにしたアドベンチャーゲームは、かなり珍しいタイプのゲームだと思います。このようなゲームをつくろうという着想はどこから得ましたか。

Lizardry氏:
『7 Days to End with You』をリリースしたときに、今のゲームを取り巻く環境から、いろんな人のゲームプレイを見ることができたのがきっかけです。プレイスタイルというのは人によって本当に違うな、という事は誰しも気が付くと思うのですが、そのこと、現象自体が面白いなと思ったんです。ゲーム開発をしていたからこそ気付いたことだと思います。

『Refind Self』を作る前は、自分は性格診断というものには興味がなくて、それ自体をエンタメとして楽しむことはありませんでした。ですが、そこからいろいろな性格診断に触れてみて、特にアジア圏では性格診断が根拠があるものかどうかは案外どうでも良いと思われていそうだな、という事を知りました。偏見かもしれないですが(笑)グループに分けられてラベリングされることそれ自体がエンタメとして面白いものなのだと気がついたんです。

―― Lizardryさん自身はどんな性格でしたか。

Lizardry氏:
これはよく聞かれる質問で、一応自分でプレイしたときは「平和主義者」だったんですが、自分で作ってるからあてにならないんですよね。早く他の方に性格診断ゲームを作っていただきたいです(笑)昔と違って、制作過程で性格診断が好きになりましたので。

―― 『Refind Self』では、プレイしている最中に選択肢を選ぶと、全プレイヤーの中のどれくらいの人がどの行動を取ったかのパーセンテージが出てきます。これはどういう仕組みなのでしょうか。

Lizardry氏:
仕組み自体は非常に単純で、ゲーム自体がサーバーにデータをアップロードしていて、ゲーム起動時にそのサーバーから統計データを持ってきてパーセンテージを出しています。その部分は自分のこだわりでもあって、ただ性格診断としてラベリングするだけじゃなく、自分と同じ行動をした人が何%いるかとか、自分の行動は珍しいものだったのかとか、そういうデータに意味があると思っているんです。

たとえば、「私は当然のようにこの行動をしたけど、全体から見れば5%の人しかやらなかったんだ」ということがあったら、他人との差別化において非常に有意性のあるデータになりますよね。それをユーザーにどれだけ強く提示できるかと、そのデータを面白いと思ってくだされば面白いと感じられるゲームとなる、という仕様になっていますね。

『Detroit: Become Human』など他タイトルにもある仕組みですが、複数の会話の選択肢から何を選んだ人が何%、というだけではなく、たとえばベンチに5秒以上座った人が何%いたかっていう、ゲームプレイの踏み込んだ部分の統計を取ったのは新しかったんじゃないかなと思っています。

―― 母数が集まるまではパーセンテージも出ないということですよね。サンプル集まるまでデータに偏りがあったことはあるのでしょうか。そこから性格を導き出すのは大変だったのではないでしょうか。

Lizardry氏:
はい、最初にPLAYISMさんにお渡ししたときはかなりバランスが悪かったですし、リリースの直前までずっと神経質に性格のバランス調整をしていました。ゲームを普段遊ばない人のサンプルも取らないといけなかったので、家族にオフライン上でやってもらってデータを取ったりもしました。

―― 発売直後と現在では、パーセンテージの結果が変わるようなことはありましたか。

Lizardry氏:
発売してからは不具合くらいしか調整していないので、同じ行動をしても性格が違う、ということはほぼないと思います。ただ、発売直後に買った人とセールになってから買った人とでは、性格の分布は違いましたね。特に「決断が早い」系のパーセンテージは、発売直後はとても多かったです。最新情報をチェックしていて一番にプレイしたい人は決断が早い方が多いと思うので、それが出たのかなと思っています。

―― 統計を取るなかで、開発者であるLizardryさんの視点から意外だったデータはありましたか。

Lizardry氏:
思ったより選択がばらけるな、という印象でした。リリース前は「なんだかんだ言ってみんな同じ行動を取るのではないか」と思っていたんです。大多数と少数派、みたいなグラフになっていくのかな、と思っていたんです。ただ、そのなかでも性格は絶対に出るはずなので、誰でも1つくらいは少数派の行動を取るんじゃないかなと思っていたんですが、想像以上に意見が割れるところが多くて、なかなか見ごたえのあるデータになりました。特に、3周したあとの選択肢は半々くらいになるかと思っていたんですが、想像よりも偏っていてびっくりしました。

―― 本作では、たとえばベンチに5秒座ったり、街頭に触ったりといった珍しい行動もトラッキングされている認識です。トラッキング対象の行動で、まだ達成されてないものはありますか。

Lizardry氏:
達成されていないものはないですね。ですが、SNSなどネット上で見える範囲でおそらくプレイヤーさんが気付いていないコンテンツがいくつかあって……たとえば、金庫の暗証番号は実は正解が2つあるんです。水谷さんにも一度「これどうやって解くんですか」と聞かれたのですが…。ログをつけていないのでこちらから解かれたかどうか測れないのですが、おそらく誰も気付いていないか、気付いていても誰にも言わずに心のなかに留めているのかなと。金庫のように大事なものを隠すときは、ニセの正解を与えるのはもしかしたらとても効果があるのかもしれません(笑)

性格診断ゲームができあがるまで


―― 『7 Days to End with You』の頃と比較して、ゲーム的なデザインやUIの完成度が上がっている印象です。効果音なども細かくつけられていますが、開発体制はどのような感じなのでしょうか。

Lizardry氏:
絵素材を含め、基本的にはすべて自分で開発しています。ただ、プロトタイプではフリー素材を使用したりして速度を上げています。ただし、効果音とBGMだけは自分で作っていません。効果音は販売されているものや、フリー素材を利用させて頂いています。(本当に感謝しております)。BGMはジーアングルさんという音楽制作会社さんにお願いして、どんな音楽にしたいかというディレクションをして一緒に作らせていただきました。

―― 『Refind Self』はグラフィック表現もかなり高い品質ですが、ドットはご自身で打たれているんですか。

Lizardry氏:
そうですね、すべて自分でやっています。自分はもともとデザイナー畑ではないのですが。『7 Days to End with You』から『Refind Self』を作り上げるまでに1年半くらいかかったんですが、それまでにプロトタイプのようなものもたくさん作っていたので、そのぶんドット絵も上手くなったような感じですね。

―― なんだか、デザイナーやグラフィッカーとしても目覚めていった感じがしますね。1人のクリエイターが作品を通じてレベルアップしていく様子を見る機会というのはなかなかないので、新鮮な感じがします。

Lizardry氏:
僕は実際に公開しながらレベルアップしたいと思っているタイプなんです。クリエイターさんの中には実力を上げてから公開したいという方もいると思うんですが、自分の場合、小規模なゲームを作っていた時代からリリースの積み重ねで、初心者ながらも人目につくところに出して、フィードバックを貰いながら作っていくのが好きで。制作の中で勉強できればいいなというスタンスでやっています。


―― 制作期間について教えて下さい。開発期間の1年半のうち、プロトタイプの制作が1年ということは、本開発では半年くらいで仕上げたということでしょうか。

Lizardry氏:
そうですね、本編は完成してからリリースまでの間にもいろいろと時間をいただくことがあったので、半年弱くらいなのかな、と思います。

何度も作り直した理由

―― そのプロトタイプも3つほどあったとお伺いしています。開発期間のうち、そのプロトタイプを制作していた期間が結構長かったのかなと。(PLAYISM)水谷さんとやり取りをしながら開発していたと思いますが、どういう案や反応があったのか、制作秘話があれば教えてください。

Lizardry氏:
最初に水谷さんにお渡しした、プロトタイプがあるのですが、あれは実は2つ目のプロトタイプの企画書だったんです。

水谷氏:
あ、そうだったんですね。

Lizardry氏:
企画書と一緒にプロトタイプとして、バグはありつつも少し遊べるゲームとしてお渡ししていました。この水谷さんにお見せしたバージョンは、この段階でゲームっぽくなってるというか……。製品版『Refind Self』に継承されている素材や世界観もありますね。

ひとつめのプロトタイプ

ふたつめのプロトタイプ


水谷氏:
最初に見せてもらったのは、自分探しの旅に出る前の少女を操作して、性格診断するゲームでしたよね。

Lizardry氏:
そうですね。自分探しの旅に出る前の少女を操作して、その旅の準備期間にどう行動するかで性格が決定されて、性格によって旅の結果が変わる、というゲームだったんですね。ただ、それだと「ゲームって性格が出るよね」というコンセプトを守れませんでした。

プロトタイプ版では、プレイヤーがどういう動きをするかという診断にはなってはいたんですが、明確なストーリーがあったせいで、その旅先で何が起こるか見ることを目的として動くようになっていて。それでは性格が出てくることを楽しみにするんじゃなくて、性格によって引き起こされる何かを楽しみにするゲームになってしまうんです。そこはコンセプトと違っているな、というのを、丸々作ってから気付いてボツにしました。

―― そのプロトタイプの内容を再利用して表に出すような予定はないのですか。そのゲームもちょっと遊んでみたいので……。

Lizardry氏:
その予定はないです(笑)一部の素材は『Refind Self』に流用していますが……。プロトタイプ版の設定は、この少女がどうして生まれてきたのかを探る旅になるんですけど、世界観としてはこの子だけが人間で、それ以外はロボットという世界観なんです。『Refind Self』の100年後の世界で、この少女が生まれてきた理由が『Refind Self』で描かれています。

『Refind Self』をどういう物語にするかを考えたときに、プロトタイプの設定のバックグラウンド部分をきちんと描いたら面白いものになるのかなと思って構想した感じですね。もともとは旅に出て、どうして世界や自分がこんな風になってるのかを調べて、製品版『Refind Self』で描かれた部分のストーリーを探るゲームだったんです。

―― なるほど、ゲームの芯の部分はブレるようにしなかったと。

Lizardry氏:
そうですね。『Refind Self』に関してだけではなくて、ゲーム制作は本当にコンセプトをどれだけ守れるかが大切だと思います。コンセプトは途中で変更するものではないので、ゲームのリリースできるかどうかはコンセプトを守れてるかどうかなんじゃないかなと。どっちが売れるかとか、どっちが面白そうかとかよりも、自分がやりたいコンセプトができるかということを大切にしています。

プロトタイプの方もちゃんと作れば面白かった可能性もあるんですが、それだとおそらくマルチエンディングのゲームに性格診断要素がちょっとだけくっついてるみたいなゲームになっちゃうんです。正直、マルチエンディングのアドベンチャーゲームやるならほかにもっと面白いゲームがあるので、それをやればいいじゃないかと。わざわざ僕のゲームをやる必要はないよね、という判断でした。

水谷氏:
Lizardryさんにいただいたモックを遊んだ印象としても同じ印象でした。性格診断場面で少女が旅に出た後、いろいろな変化があって帰ってくるというお話を聞いて、いろいろなエンディングを見たくなってしまうな仕組みだな、と。そうなると自分の性格と関係ない行動を取り出してしまうので、果たしてそれは「性格診断」になるのかなという点は気になっていました。

旅に出た後にどうなるのかが本編になってしまっていて、準備期間が果たしてどれくらい楽しいのかと疑問に思っていました。僕もいま初めて聞いたんですが、「もうちょっとしたら完成品をお渡しします」と聞いてしばらくしたら、最初に見ていたものが全部捨てられてました(笑)

Lizardry氏:
捨てる前のバージョンを水谷さんにお渡ししていた後に、この路線をやめたということを言っていなかったんですよね。だから「変えました!?」って驚かれました(笑)

水谷氏:
そんなこともありましたね。懐かしい。

―― すべて作り直したのが2つ目のプロトタイプとのことでしたが、その後現在の『Refind Self』にはどのように近づいていったのでしょうか。

Lizardry氏:
水谷さんにお渡しした、バージョン3のプロトタイプで、現在の『Refind Self』のやりたいことにかなり近づきました。そのバージョンをPLAYISMさんに提出したらいろいろなフィードバックをいただけたので、その点を調整して『Refind Self』になりました。リリース版の『Refind Self』はバージョン4ということになりますね。

―― どのようなフィードバックがあったのでしょうか。

水谷氏:
「きれいすぎる」といったフィードバックでした。バージョン3では女の子が旅に出る話ではなく、思い詰めて自分探しをしているというストーリーでした。いろいろな行動をして、自分探しの旅に出た結果、「ひとりひとり性格は違う。プレイヤーがどれだけいても、あなたとまったく同じ行動を取る人はいない。だからあなたは個性的だ」というようなメッセージがあって……、ちょっといい話にまとめすぎてるなと感じたんですね。行動がバラバラなだけであって、個性とは違うんじゃないかと。

Lizardry氏:
僕は人の性格というのは「どう行動するか」から見えると思っています。たとえば散歩しているときに、人の動きを見るのか、木の揺れを見るのか。行動がピックアップして性格診断をするのは、そういう行動を見る思想からです。それを重ねてエンタメとしてオチをつけたかったんです。そういう意味では、バージョン3ではオチをきれいに落ち着けすぎたかな。ベタというか、初めから読めるというか。「みんな違ってみんないい」みたいな感じでとりあえず作ったので。

水谷氏:
バージョン3は普通の女の子のお話なんですが、グラフィック含めてキャラクターがとても魅力的で、性格診断に加えてこの世界をもっと探索したいという気持ちも湧いてきました。でも、プレイヤーが女の子になるというのが少し僕は引っかかっていて……。自分の性格を、この物語の女の子に投影しているという点に違和感がありました。

―― プレイヤーは少女ではないですものね。

水谷氏:
そうなんですよね。僕はおっさんなので……(笑)おっさんなのにこの女の子に性格を投影して大丈夫かな、というところが気になってしまったんです。あとは、バージョン3ではゲーム設計的にただただ途中で探索を切り上げさせられてしまうというようなシステムでした。もっとやりたかったのに、という気持ちになってしまう。もう少し性格診断を使った面白いアドベンチャーに化けそうなのに、というもったいなさを感じました。そうした感想が、バージョン3のフィードバックでした。

Lizardry氏:
PLAYISMさんのなかの多くの方にもやっていただいたんですが、だいたいみんな面白くなさそうな反応だったんです。でも、そこで不評をいただいたからこそ、見せたいものの輪郭が見えてきました。PLAYISMさんがかなり協力的にプレイしてくださったので、フィードバックをもとに一気に現在バージョンを制作して、水谷さんにお渡ししました。そうしたらかなり感触が良かった。

水谷氏:
主人公がロボットだと、自分の性格を投影してもどこか納得できるんですよね。あれですごい納得度が上がったので、これはいけるのではないかと思いました。そういえば当時、Lizardryさんは「とにかく早く出したい」「もう終わらせたい」とすごいおっしゃってましたよね。僕としてはもうちょっと粘ってもいいと思っていたのですが、あれはどうしてだったんですか。

Lizardry氏:
自分のなかで、今までは制作期間が3か月あればかなりブラッシュアップできる自信があったんです。パブリッシャーさんと契約すると、お話が決まってからリリースまで時間がかかる。その為、ほとんど完成した状態での契約になると、熱が入っているうちにリリース出来ないと思っていました。なので、今、熱が入っているうちに早く話を決めちゃいたいと思っていたんです。でも、ちょっと性急すぎましたね(笑)

パブリッシャーがいたことによる利点

―― Lizardryさんは『7 Days to End with You』の初期はセルフパブリッシングでしたよね。お話からフットワークを重視される方のようにお見受けしますが、パブリッシャーと組むとそうしたスピード感は落ちる印象です。『Refind Self』でPLAYISMというパブリッシャーと契約しようと考えた理由は何だったんでしょうか。

Lizardry氏:
Nintendo Switch版『7 Days to End with You』を販促するにあたって、一緒にお仕事したときに好感度が高かったことが大きいです。自分のゲームを預けるなら、PLAYISMさん以外はないかなと感じました。『Refind Self』は『7 Days to End with You』と比較してボリュームも増えましたし、性格診断というゲームの性質上、テストプレイも多くの方にしてもらう必要がありました。性格診断がきちんとできているかというテストは、正直なところPLAYISMのスタッフさん全員にお願いしても足りないくらいだったんです。

また、ゲームの性質上、多くの人にテストしてもらうことが面白さに直結してくるので、パブリッシャーの販売力も必要でした。単なるテスターではなく、信頼できるテスターを求めていました。ゲームのコンセプトから、パブリッシャーの協力が必要不可欠だったんです。

こういう経緯なので、次の作品もPLAYISMさんにパブリッシングをお願いするかはなんとも言えないところです。個人的に一緒にお仕事はしたい気持ちはあるのですが、ゲームの内容によってはPLAYISMさんと協力することが本当にタイトルのためになるかは難しいところなんですよ。タイトルによっては、より尖らせたいなら一人で黙々と制作したほうがいいと思うんです。『Refind Self』だったからこそ、PLAYISMさんというパブリッシャーと一緒に作りたくて、水谷さんに猛プッシュしたんです。

『Refind Self』の統計画面


―― パブリッシャー視点で、開発中に印象的だったことはありますか。

水谷氏:
『Refind Self』をパブリッシングするにあたって印象深いことは2つあります。実はPLAYISMでは、ここまでゲーム内容に口を出したことはないんですよ。基本的にはデベロッパーが作りたいものを作ればいいというスタンスなので。でも面白くなりそうな気配がすごくしたので、いろいろなことをお願いしました。たとえば、初期は『ゲームって性格出るよね』というタイトル案だったのですが、ちょっとマーケティング感が強すぎたのでそれは変えてほしいとお願いしましたね。最終的には『Refind Self』という素敵なタイトルが出てきて良かったなと思っています。

それから、このゲームは1周あたり30分くらいで終わってしまうので、プレイ時間が2時間以内だとSteamではあっさり返金されてしまう。あの世界を探索していたいという気持ちもあったので、もうちょっと長くてもいいのでは、とお願いしました。そうしたらLizardryさんが本編をクリアした後に遊べるシミュレーターのようなミニゲームを作ってくれたんですが……それを「やめましょう」と言って止めたりとかしましたね。

開発中止となったミニゲーム


Lizardry氏:
そのゲーム、エンディングまで作ったんですよ。結構面白かったですよね?

水谷氏:
そうですね、いつか単品で出しましょう。

Lizardry氏:
でも、英断だったと思います。そのぶん本編をブラッシュアップする方向にシフトできましたから。ドットやUIの素材もリリースが決まった後に1回全部ブラッシュアップできましたから。

水谷氏:
それで、「じゃあ3周くらいプレイしたら真エンドに行けるようにならないか」という無茶振りに応えてくれたのが感動的でしたね。

Lizardry氏:
はい、ストーリーの大筋は変わっていないんですが、ゲームへどう組み込んでユーザーに伝えていこうかと考えました。3回プレイする理由づけとして、ユーザーさんの性格の見方や仕様を、ユーザーがどうやったら楽しめるかを上手くまとめられればと。

水谷氏:
素晴らしいまとめ方でした。

―― Lizardryさんはこれまで個人で制作を続けてきたとのことですが、パブリッシャーがついたことで他者の意見が入り込んでくることについてはどう感じられましたか。魂こめた作品に、変なフィードバックが飛んでくると嫌なのでは。

Lizardry氏:
自分自身、フィードバックが欲しいタイプなので心強かったです。PLAYISMさんはインディーゲームや個人開発のゲームをたくさんプレイされている方々なので、そもそもゲームというジャンルのファンからの言葉であるのは頼もしいと同時に、だからこそ聞かなくてもいいポイントを自分でジャッジすることもできると考えていました。

――ご自身でパブリッシャーのフィードバックを精査する能力もあったと。

Lizardry氏:
はい。不特定多数の人に意見をもらうと、その人のバックグラウンドを知らないので混乱することもあります。たとえば「ゲームが難しすぎる」というコメントひとつとっても、その人がゲームをまったく遊ばない人なのかゲーマーなのかで調整の仕方は変わってきますよね。ゲームのことをたくさん知っている方からの意見だからこそ、とてもありがたい、参考にすることが出来るフィードバックとなりました。

―― Nintendo Switch版も発売される予定ですが、新要素などはありますか。

Lizardry氏:
性格の詳細なデータが見られるようになり、自分のより深いデータがわかるようになります。Nintendo Switch版のリリースに合わせて、他プラットフォーム版にも追加される要素です。個人的にはNintendo Switchでゲームをする層の診断がまだできていないので、興味がありますね。

―― もはや学者のような発想ですね(笑)

Lizardry氏:
(笑)ちなみに、移植作業はPLAYISMさんにお願いしています。『7 Days to End with You』のときもそうだったのですが、ユーザー目線で開発をしてくれるので本当にいいものができると思っています。

実は『7 Days to End with You』の移植については、当初僕は反対だったんです。文字を入力するゲームなので、PCかモバイルじゃないとユーザー体験が損なわれるんじゃないかと思っていて……。でも、全くそんなことはなかったですね。PLAYISMさんのご協力もあって成立した経験があるので、今回も良い感じにしてくださると信頼しています。

―― ありがとうございました。

『Refind Self』は、PC(Steam)/iOS/Android向けに発売中である。2024年夏にはNintendo Switch版が発売される。

[聞き手・執筆・編集:Aki Nogishi]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]