ゲームデバッグにおいて、ポールトゥウィン株式会社が巻き返しているようだ。ゲーム開発において、バグを発見/報告するデバッグの仕事は、欠くことのできないものだ。どれだけ優れたコンセプトのゲームであっても、ひとつ致命的なバグがあれば、それが原因で低評価を受けかねない。そんなデバッグ業界は参入会社がそれほど多くなく、特定の会社の間でしのぎが削られてきた。そんな業界で、ポールトゥウィン株式会社の調子が良いようだ。


ポールトゥウィン株式会社(以下、PTW)は1994年に設立、以来ゲームデバッグやソフトウェアテスト、モニタリング、カスタマーサポートなどの分野で高いシェアを獲得している。現在は本社のある名古屋のほか、全国20か所以上に拠点を展開、登録スタッフを含めると従業員数は5000人を超える。

そんなPTWだが、どうやら最近“特に調子がいい”らしい。そもそもとしてPTWはゲームのデバッグにおいて古豪であり、そのPTWが業界シェアを落としていたことそのものが興味深い。「競合他社に遅れをとった10年」があったようだが、そんな中で最近になり盛り返している要因はどこにあったのだろうか。今回はPTWでCOO(最高執行責任者)を務める志村 和昭氏に、会社事情を伺った。なおPTWでは現在、以下のポジションを積極募集中である。

ポジション
ゲームデバッグリーダー/札幌・仙台・新潟・東京・名古屋・大阪・京都・博多
パチスロデバッグリーダー/東京・大阪
ゲームプロジェクトマネージャー/札幌・新潟・東京・大阪・京都・博多
モバイルゲームアカウントマネージャー/東京
ゲームカスタマーサポートリーダー/新潟・名古屋
ゲームカスタマーサポート品質管理者/新潟・名古屋
ゲーム業界向けアカウント営業/東京

──自己紹介をよろしくお願いします。

志村 和昭(以下、志村)氏:
志村 和昭といいます。現在はポールトゥウィン株式会社(以下、PTW)のCOOと事業本部長を兼任しています。PTWに入社する前はグラフィックデザイナーの仕事をやっていました。勤めていた会社を辞めてフリーランスのデザイナーになったときに、収入を安定させるために、当時住んでいた家の近所にあったPTWに請負スタッフとして登録したのがPTWで働き始めたきっかけです。


──バイトからキャリアがスタートしたということですか。

志村氏:
簡単に言えばそうです。雇用形態としては、個人事業主として請負契約を結ぶ形だったので、厳密にはバイトではありませんが。

──ありがとうございます。改めてPTWがどのような会社なのか説明いただけますでしょうか。

志村氏:
2年前にホールディングス傘下のピットクルー株式会社および株式会社クアーズを吸収合併し、現在は多種多様なサービスを展開しています。主軸の業務がゲームデバッグで、それ以外にもゲームのカスタマーサポートや検証業務、組み込み系ソフトウェアのテスト業務も近年大きく伸びつつあります。またサーバー監視、サーバー構築、投稿監視、広告審査など、ゲーム以外のサービスも手広くやっています。もちろんチャットサポート、メールサポート、コールセンター業にも対応しております。特殊な部分で言えば、外国人人材の紹介業務も行っています。これらがPTWの大枠の業務、サービスです。

──幅広くサービスを展開されていますが、規模やシェアとして大きい分野はどれになるのでしょうか。

志村氏:
規模で言えば一番大きいのがゲームデバッグです。次いで投稿監視、その次に審査が大きいですね。

──ありがとうございます。今回は主に主軸であるデバッグ業務についてお聞かせください。どのようなクライアントから業務を委託されているのか、公開できる範囲でお教えいただけますでしょうか。

志村氏:
どのような会社との付き合いがあるかについては、会社ページの主要取引項目をご覧いただくのがよいかと思われます。

成長の理由は、危機感にあり

──今回インタビューさせていただいたのは、PTWのデバッグ事業が最近さらに伸びてきているという話を小耳に挟みました。本当でしょうか?

志村氏:
はい、本当です。開発市場が元気になるのに比例してデバッグの受注量も増えるので、それに伴って伸びているのもあるのですが、どちらかと言えば現在PTWとして取り組んでいる施策が徐々に功を奏しつつある、そこで競合のパイを奪えている状況です。市場の全体のパイ自体は極端に大きくなることはないので、我々の地力が少しずつ上がってきているのかなと考えています。


──地力が上がった要因は何ですか。

志村氏:
思い当たる要因は何点かありますが、2年前の3社統合が一番大きいと思います。統合によって会社方針が一気に変わったのです。以前のPTWは良くも悪くもすごくディフェンシブな会社でしたが、統合によってオフェンシブに意識を変えました。これは社長の橘が先頭で推進したことなのですが、それがまずひとつ大きかったです。

──ディフェンシブからオフェンシブに変わったとは、具体的にはどのようなことでしょうか。

志村氏:
簡単に言えばお金のかけ方が変わりました。10年ほど前まではどちらかと言えば、コストカットを徹底し、売上達成と共に利益も十分に確保することを重視していました。

──BtoBサービスはそうなりがちですよね。

志村氏:
どうしてもコストを圧縮する方向にいきがちです。たとえばスペックの低いPCを使い続けていたり、セキュリティを言い訳に作業環境のアップデートを最低限に抑えた結果、業務効率がかえって悪化してしまうこともありました。そういうところにお金をかけて改善していこうと。業務環境をよくすることで、デバッグ品質も上げていこうというのが、ひとつオフェンシブに変わった例です。

営業にしてもそうで、ゲームデバッグは外注先が3~4社に限られるので、極論、待っているだけでも自然と仕事をいただける環境にいたのです。そういったスタンスを変えて、ブランディングを強化するために、広報・マーケティング、訴求方法など、手を入れ始めています。

当然それをするためには、既存人材だけでは十分ではないので、外からも経験者を積極的に獲得しています。また、2年前の3社統合にあわせて組織も大きく変更しています。たとえば、今のデバッグのトップはもともとPTWで勤務しておらず、会社統合前のピットクルーで部長をやっていた人間です。いい意味で新陳代謝ができ、優秀な人材を組み替えていけたのも、3社統合で組織力を高められた部分です。

「苦しみの10年」を乗り越えて

──PTWさん規模の会社でそこまで大きく方針を変えるのも珍しいと思います。なにが改革のモチベーションだったのでしょう。

志村氏:
ある種の危機感がモチベーションになったと思います。もともと10年ほど前までは、PTWはゲームデバッグ外注企業として業界No.1でした。残念ながらそこから、方針を見誤ったことで陥落してしまうのですが。


──見誤ったというと?

志村氏:
簡単にいうと、モバイルゲーム市場がここまで成長するのを予測できなかったのです。いわゆるガラケーからスマホに切り替わっていく時代、我々が力を入れていたのが、パチンコ/パチスロ業界のQAでした。パチンコ/パチスロ業界は当時ピークと言っていいほど業績が伸びていたので、そちらに注力したのですが、それが大きな誤りでした。

一方でスマホは急速に普及し、発展しました。競合会社のA社が、モバイルゲームQAに一気に力を入れたことで、モバイルゲームQAの知見で差をつけられる状況になってしまった。弊社としては二歩ぐらい出遅れたわけです。そこから数年で、モバイルに関わるゲームデバッグ分野では競合のA社にダブルスコアを付けられる状況になってしまいました。

当時はモバイルゲーム以外の分野では競合他社にダブルスコアで勝っていたので、トータルの業績で言えば競合のA社とPTWは僅差でした。早めに手を打っていれば、すぐ巻き返せたかもしれません。ただ、ずっと業界No.1だったおごりからか、このぐらいの差だったら簡単に覆るでしょうという、裏付けのない自信を持ってしまった。

そこから、簡単に言えば負け続けることに(笑)。パチンコ/パチスロ系のQAはどんどん減少し、モバイルゲームのQAには遅れての参入に近いので、先に参入している競合のA社に、人材でもコネクションでも差をつけられていました。

──モバイルゲームの開発にはベンチャー企業も多かったので、古豪のPTWさんはコネクションの地の利を活かせず、機を逸したせいで、そうした新興会社とのタッチポイントもなくなってしまったと。

志村氏:
そうです。パチンコ/パチスロ業界の成長が落ち着き、反比例するようにモバイルゲーム業界が元気になっていく。QAも同じようなベクトルで、パチンコ/パチスロに力を入れたPTWが平行線をたどる中、競合のA社が右肩上がりで成長していく。いよいよこれはまずいぞとなったのが5~6年前です。

そこでようやく、方針を少し変えました。当然モバイルゲームに力を入れようとなりました。PTWはコンシューマーのQAには強かったので、ここは得意分野として伸ばそう、という方針で臨んで、少なくともコンシューマー分野は、だいぶ巻き返すことができました。

ただモバイルゲーム分野では依然として厳しかったです。モバイルゲーム自体がピークアウトし始めたこともあり、なかなか伸びず、パチンコ/パチスロ分野もどんどん停滞していく。私は4年前からピットクルー株式会社に転籍していたので、詳しくはわからないのですが、4年ほど前からPTWの売り上げも成長が鈍化し、何をやってもうまくいかないような状況だったらしいです。これはまずい、と社長の橘自身が感じたことが、経営統合と組織再編の大きなモチベーションになったのだと思います。


人を育てて、品質にこだわる

──最近シェアを盛り返せている、調子が良くなっているのは、志村さん自身実感されているのでしょうか。

志村氏:
ダイレクトに、お客様の声が変わったなと感じます。懇意にしているお客様からお話を伺う機会があるのですが、去年ぐらいから良い評価が聞こえてくるようになりました。

──それはどういった点が評価されているとお感じでしょうか。スピード感なのか、品質なのか。

志村氏:
品質が評価点として大きいと思います。特にリーダーに対する指導や教育は、この2年で圧倒的に力を入れた箇所で、そこが評価されていると感じます。10年くらい前までは、手探りというか、各リーダーの肌感でデバッグをやっていました。QAの基礎を踏まえたテスト計画を作るといった発想がない時代でした。

そこを改善していこうと、去年からリーダーにJSTQB(Japan Software Testing Qualifications Board)の資格を取ることを推奨するなど、教育面でのクオリティアップを進めています。実際、何十人ものリーダーが同資格を取得しています。

また、業務の効率化も品質向上に繋がっていると考えています。統合した初年度は準備段階で、なかなか思い通りの結果には繋がらなかったのですが、去年の後半は特に成功事例が増えていて、肌感として品質が向上しているのが感じられました。

──QAの効率化の点で言えば、昨今はAIを用いてテストを自動化する試みが行われていますよね。PTWさんでも自動化技術への対応は行われていますか。

志村氏:
プロジェクトチームを組んで研究は行っています。ただゲームQAにAIを使う場合、環境や開発エンジンが固定化されているならできる部分もあると思いますが、クライアントによって環境もエンジンも違う現状だと、汎用性持ったAIを作るのもなかなか難しいと考えています。技術研究は進めつつも、弊社としてはやはり「信頼できるチームや担当者」といった、人が重要であると考えています。

──逆に今、PTWとして課題としている部分はどこでしょうか。

志村氏:
やはりモバイルゲーム、特に大型タイトルの案件が取れていないのは課題です。開発会社様としても、一度外注先を決めるとなかなか簡単にリプレースするわけにもいかないですから、スタートダッシュで遅れたことが未だに響いています。今のモバイルゲーム業界は飽和状態で、ランキング上位のタイトルに変動のない状況が1~2年続いているので、ランキングに食い込むような大型ゲーム案件自体が生まれづらくなっています。そうすると、モバイルゲーム分野で競合と差を縮める手段が、かなり限られていて、そこは苦しい所ではあります。

もちろんただ手をこまねいているだけではなく、モバイルに特化した拠点を設立し、人材を集約させることで、人材育成含めた品質向上を進めています。責任者も外部からモバイルに強い人材を採用しました。その責任者にお願いしているのが、とにかくQA品質を上げて一種のブランドにしてほしい、ということです。

簡単に言えば、顧客のQAチームよりも上のチームを作ってほしい、その品質を一種のブランドとして売り込むわけです。そのためにはこれまでのPTWのQAのやり方自体もリセットしていいし、他拠点のことも考えなくていい。管轄するセンターを突破力のある組織にし、頭3個ぐらい飛び出た存在にすることを今は目指してもらっています。

──モバイルQAの専門集団というのはおもしろいですね。たしかにそういった専門チームがあれば、仕事を依頼する側としても、検討したくなると思います。そういったチームを組織できたのも、3社統合したことが大きいのでしょうか。

志村氏:
それもありますが、社長の橘の方針が一番大きいと思います。組織の風通しを良くしたいと橘本人も意識していますし、それに我々も追随しています。橘は「役職関係なく誰でもやりたいことがあったらプロジェクトチームを作って進めていい」と言っています。実際それでプロジェクトチームが何個も作られています。

たとえばリモートワークのためのプロジェクトチームですとか、私も新規事業案を募集するためのプロジェクトを立ち上げましたし、ファンテストプロジェクトチームもあります。先ほど言ったモバイルの強化プロジェクトも、橘がけん引して始めたプロジェクトチームが元になっています。こういった取り組みが既存サービスの強化にも繋がりますし、変化球として使えるものも生まれてくるので、売り上げの下支えになるケースもあります。

“業界No.1”というブランドを目指して。PTWの進む道

──改革が成功して好調なPTWさんですが、今後の目標について教えてください。

志村氏:
これまでは競合他社と比較し、競合に勝つことを具体的な目標として設定していたのですが、今期や来期は業界No.1になることを目指していきます。No.1というのは売り上げ面だけでなく、品質でもそうです。大手の開発会社様は自社のQAチームを持っていることが多いですが、そこよりもクオリティを高くしたいです。そのために人材の育成や、外部採用も積極的に進めていきたいと考えています。投資すべきポイントには、しっかりとコストをかけてクオリティを上げていきます。


──利益が減ってでも、品質向上のための人材や研究に投資すると。

志村氏:
デバッグで利益を出すには分母、案件の数で売り上げを作るのが基本で、そのために他社とどう差別化を図るかとなると、どれだけ優秀な人材を揃えておけるかが一番重要です。ゲームQAに限らずQAは人材が資産です。顧客先にあった人材が出せるか、顧客先の方針に合わせられる人材がいるかが重要で、シンプルに人を育てる、QA品質を上げていくのが、結果的にはNo.1への近道かなと思います。

──ありがとうございました。

近年、大きな変革と成長を遂げたPTWだが、今回インタビューして分かったのは、その成功が決して金脈を掘り当てるようなラッキーヒットによってもたらされたものではないということだ。人材の育成にコストをかけ、地道にクオリティを追求する姿勢が、業界内での評価につながっているのだろう。今後PTWが業界No.1というブランドを獲得できるのか、あるいはその座を守り続けられるのか。注目していきたい。

なおPTWでは現在、以下の募集を積極募集中である:

ゲームデバッグリーダー/札幌・仙台・新潟・東京・名古屋・大阪・京都・博多
パチスロデバッグリーダー/東京・大阪
ゲームプロジェクトマネージャー/札幌・新潟・東京・大阪・京都・博多
モバイルゲームアカウントマネージャー/東京
ゲームカスタマーサポートリーダー/新潟・名古屋
ゲームカスタマーサポート品質管理者/新潟・名古屋
ゲーム業界向けアカウント営業/東京

[執筆・編集:Junichi Matsui]
[聞き手・写真・編集:Ayuo Kawase]