『レインボーシックス シージ』、なぜこのタイミングで大盛り上がり?9年目に人口が大増加した理由を、9年戦士がウキウキで追っていく

 

ユービーアイソフトの看板タイトルであるタクティカルFPS『レインボーシックス シージ』(以下、シージ)。つい先週の3月12日、大型アップデートであるYEAR9シーズン1「Operation Deadly Omen」をリリースし、御年9年目に突入したこの長寿ゲーム、全盛期はもしかしたら今なのかもしれない……と思うほど、コミュニティがにわかに騒がしくなっている。人口が大幅に増加しているのだ。


9年目にしてローンチ以来最多の同接数を記録

Steamの統計データベースサイトSteam DBによれば、Steam版『シージ』は2024年3月17日(日本時間同18日)に同時接続数20万1933人をマーク。4年前の2020年3月に記録した19万9307人を超え、同ゲーム史上最多の数値となった。これはほかのゲームと比較しても高い水準で、この原稿を執筆している3月19日0時現在、直近24時間の同時接続数ランキングでSteamの全ゲーム中8位にランクイン。『Grand Theft Auto V』、『モンスターハンター:ワールド』、『パルワールド』といった名だたる作品を上回る勢いを見せている。


長年『シージ』に触れ、言葉を選ばずに言えばその緩やかな下落を見届けてきた者として、今回のこのV字回復には、ただただ驚きである。いくら大型アップデートが入った直後とはいえ、同時接続数のチャートの跳ね上がり方がすさまじい。なにせ前年同期比128%増、前月比97%増という伸び率である。いったい『シージ』に何が起こっているのか。いろいろな現象を見ていこう。


『シージ』の面白さを再発明したストリーマー“ Jynxzi”氏の勃興

遅れてきた春を謳歌している『シージ』の今を語るうえで、アメリカ在住のストリーマー“ Jynxzi”氏の存在を無視することはできない。Jynxzi氏は現在、X(旧Twitter)フォロワー数約46万人、Twitchフォロワー数約511万人を誇る世界でも有数の人気ストリーマーだ。昨年4月にはxQc氏、Kai Cenat氏らを抑えTwitchの最多サブスク数を記録するなど、いま世界でもっとも勢いのあるストリーマーの一人と言って差し支えないだろう。

そんな彼が主戦場とするゲームタイトルが、まさしく『シージ』なのである。ひとたび彼が配信を開始すれば、平均9万人の視聴者が『シージ』を見ることになる。直接配信をしていなくとも、彼の配信のアーカイブを流すだけのチャンネルが存在し、それ単体でもその他多くの『シージ』配信者を凌駕する同時接続数を持っている。


先般行われた『シージ』最高峰の国際大会である「Six Invitational 2024」においては、Jynxzi氏がグランドファイナルのミラー配信を敢行。結果、こちらも史上最多の視聴者がeスポーツシーンのフィナーレを見届けることとなった。Jynxzi氏を経由して『シージ』に触れる人口が爆発的に増加したという観点から、彼の貢献なくして9年目の史上最多同時接続数はなしえなかっただろう。

彼の配信はいわば「誇張しすぎた『シージ』エンジョイ勢」といった様相である。唇を突き出し、上目遣いでモニターを睨み付けコントローラーを握る(彼はXboxで『シージ』をプレイしている)。上手く相手を欺ければ高笑いし、罠にかかれば椅子から転げ落ち怒り狂う。理不尽なやられ方をした時のトラッシュトークもお手の物だ。

本気でゲームを楽しみ、ゲームの魅力を200%伝える彼が、『シージ』を好きでいてくれて本当に嬉しいと思うと同時に、『シージ』にはそれだけの味わいがあることを、9年目にして多くのファンが気づかされたのではないか。

また、Jynxzi氏との邂逅がきっかけかは定かではないが、『Counter-Strike: Global Offensive(CS:GO)』の元プロプレイヤーであり伝説的ストリーマーのShroud氏も最近では熱心に『シージ』を配信している。Jynxzi氏が『シージ』の普及に果たした貢献は計り知れない。


好調を下支える堅実なアップデート

しかし、Jynxzi氏がいかに有能な広告塔とはいえ、肝心のゲームが面白くなくては史上最高の盛り上がりを巻き起こすことはできないだろう。前述のとおり、先週YEAR9シーズン1「Operation Deadly Omen」のアップデートがなされており、これが爆発的なプレイヤー人口増のきっかけとなっている。


既報の通り、このアップデートはいわば原点回帰と呼べるような内容となっている。チームで綿密な作戦を組み、堅牢な拠点をアイデアと連携で攻略していくという、『シージ』の一番おいしい部分を強調するような変更点が多数収録されている。なかでも「復帰勢」に好評なのが「ACOG(2.5倍スコープ)の復活」である。倍率スコープの再編がなされたことで、攻撃側を中心に懐かしくも爽快、見栄えの良い撃ち合いが復活しており、元プロプレイヤーなど、かつて『シージ』に親しんでいたプレイヤーたちへの求心力となっている。復帰勢が喜びの声を発信する→それを耳にした“OB”や“OG”が復帰する→さらに復帰の輪が広がるといった正の循環がSNSでは散見される。


また、復帰勢のみならず、新規参入者の導線を堅実に作ってきたことも功を奏している可能性がある。FPS界の老舗である『シージ』は、その長い歴史のために要求される知識量が増えていき、新規参入者に対しハードルが高いとみなされていた。近年のアップデートではチュートリアル、射撃練習場、マップのフリーラン、対AIの模擬戦など、初心者がステップアップするための施策を多く取り込んでおり、爆発的にプレイヤー人口が増える中で、それらの施策がついに結実する時が来たのではないか。

日本の『シージ』コミュニティの伸びしろ

ところで、アップデートに伴う復帰勢の回帰はともかく、「Jynxziインパクト」の爆心地は英語圏であり、日本においては(少なからず彼のフォロワーがいるとはいえ)その影響力はそれほど大きくない。日本において、今回の同接の伸長はどの程度進行しているのだろうか。

それを判断する材料の一つに、時間帯別の同時接続数プレイヤー数の推移がある。下に示す画像の通り、ここ1週間のプレイヤー数の推移を見ると、一定の周期で増減を繰り返していることが分かる。この下限に達しているのはだいたい世界標準時で朝の10時頃。すなわち、欧米圏のプレイヤーが仕事なり学業なりでPCから離れ、逆に、日本をはじめとするアジア圏では夕方から夜にかけてのゴールデンタイムの時間帯である。


いかんせん、アジア圏のゴールデンタイムにおけるプレイヤー数の伸びは、「Jynxzi経済圏」というべき欧米のそれと比べてやや鈍い。Steam全体として、「世界標準時の10時頃」というのは同時接続プレイヤー数が落ち込む時間帯ではあるのだが、最高値と最低値のギャップ、チャートの山と谷の高低差を比較すると、『シージ』は比較的落ち込みが激しい。日本においては、このビッグウェーブにこれから乗り込む余地が十分にあると考えられる。

そんな中、日本の『シージ』コミュニティもプレイヤー数増加を狙った施策を繰り出しており、これが成果を産めば日本においても過去最大の盛り上がりを見せる可能性があるだろう。たとえば、PS版『シージ』では、3月27日までPS Plus会員向けに大型割引が実施されている。『レインボーシックス シージデラックスエディション』(一部のDLC含む最もメジャーなエディション)は定価3960円のところ、今なら198円で購入可能だ。やりすぎである。公式もノリノリで販促用のコラージュを量産している。引き続き、このまま調子に乗ってほしい。


今後、この「バブル」は続くのか

いつの間にか過去最大のプレイヤー数を抱えていそうな『シージ』。今後、この「バブル」にも見える勢いは弾けて沈んでしまうのだろうか。贔屓目が多分に含まれるが、著者個人としては、ある程度落ち着きつつもこのまま堅調に推移し続けるのではないかと考えている。

その理由として、外部要因である類似のFPSゲームの動向がある。現在、『Counter-Strike 2』、『VALORANT』といったいわゆる“覇権ゲー”が君臨しているとはいえ、オンライン対戦を主とする新進気鋭のFPSゲームはしばらく現れていない。『シージ』の同時接続プレイヤー数がもっとも落ち込んだのが『GUNDAM EVOLUTION』『オーバーウォッチ2』などが相次いでリリースされた2022年の秋であったことを顧みても、「ライバルの登場」がプレイヤー数に及ぼす影響は大きい。今後、大きな流行の変化が訪れない限り、「覇権ゲー」に対する一種の箸休めとして『シージ』は今のポジションを維持し続けられるのではないか。続くんじゃないかな、続いてほしいな。筆者はそう願っているのである。

レインボーシックス シージ』は、PC/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに発売中。Xbox/PC Game Passにも対応している。現在、YEAR9シーズン1「Deadly Omen」が配信中である。ぜひこの機会に手に取って遊んでみてほしい。