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長時間ゲームしてばかりの子供、「プレイ時間を減らせば健全」とは言い切れない可能性。“逃げられる場所としてのゲーム”を示す研究
ユトレヒト大学の研究グループにより、思春期のゲーマーを継続的に追跡した研究論文が発表された。研究ではゲームの依存度/プレイ時間と心理・社会的健全性との関連性について論じられている。

オランダにあるユトレヒト大学のBas van Nierop氏の研究グループは今年3月、「思春期のゲーマーにおけるゲーム習慣の軌跡と心理・社会的発達に関する4回の縦断的研究(Adolescent gamers: a four-wave study of gaming trajectories and psychosocial development)」と題する論文を発表した。本研究は国際学術誌「Current Psychology」に掲載され、オンライン版はSpringer Nature Linkより、誰でも無料で閲覧できる。
研究グループは、2015年から始まった調査において、当時7年生(約13歳)の男女のゲーマー約1300人を対象にアンケートを実施した。参加した少年少女たちのデータからゲームプレイ時間の推移パターンをもとにグループ分けを行い、それぞれのゲーム習慣が心理的な状態とどう結びついているのかを検証した。
“逃げられる場所”としてのゲーム
研究では7年生時点を初期状態として、16歳になるまでの4年間、計4回にわたる調査を通じてその歩みを追跡。一週間当たりのゲームプレイ時間の傾向として、男子を4つのグループに分類し、女子を2つのグループに分けた。男子女子ともに最も多かったのが、一週間当たり10時間前後のプレイ時間を4年間安定して継続していた「安定低位(Stable Low)」のグループだ。

これらの「安定低位(Stable Low)」のグループは、4年間で概ね良好な心理・社会的結果を示したという。しかし、明らかな脆弱性が見られたグループも存在する。男子と女子の「減少型(Decreasers)」だ。このグループのゲームプレイ時間は、調査開始時点で約40時間前後だったのに対し、4年間で10時間程に急減していた。
男子の「減少型」に見られた特徴としては、初期状態(I)での「社会的能力(Social competence)」と「生活満足度(Life satisfaction)」が低い傾向にあったことが指摘されている。なお調査において、各項目の点数が高いほどその項目のレベルが高いことを示している。たとえば「生活満足度」の点数が4点と3点であれば、4点の方がより生活に満足していることになる。
研究グループは、「社会的能力」が低い子供は、“安全な”交流環境を求めてゲームを利用する可能性があると考察。つまり、より低コスト/低リスクでコミュニケーションが取れる手段としてゲームをプレイしている、という見方だ。
その上で、思春期が進み、年齢を重ねるにつれて、ゲーム時間の減少は発達上の感受性を反映しているとの見解を示した。たとえば思春期の中では、学校や恋愛への関心によって、各メディアに費やす時間が自然に減少すると考察しているわけだ。

上の表は男子における各グループの心理・社会的傾向を表している。「減少型(Decreasers)」では初期状態(I)での生活満足度(Life satisfaction)と社会的能力(Social competence)の「平均値(M)」が他と比べて低いことが分かる。
女子の「減少型(Decreasers)」の場合はより顕著な傾向を示した。彼女たちは13歳の時点で「心理・社会的な健全さ」の面で大多数と大きな差異はなかったが、年を経るにつれて、アンケートにおける「自尊心(Self-esteem)」の項目が明らかに悪化していったのだ。
また「生活満足度」も、女子の「安定低位(Stable Low)」グループと比較すると一貫して低いことが分かっている。研究者らはこれを、「女子のゲーム行動と周囲の同調圧力やジェンダー規範との摩擦が関係している可能性がある」と解釈している。

上の表は女子における各グループの心理・社会的傾向を表している。「減少型(Decreasers)」では初期状態での自尊心(Intercept Self-esteem)の「平均値(M)」が「安定低位(Stable Low)」と比べてもむしろ高いのに対し、調査回数(W1~4)を重ねるにつれ1点以上減少。「安定低位(Stable Low)」のグループと比べて有意に急な減少だと分析されている。
「ゲームをしなくなる」ことが「健全になった」わけではない
ここで重要なのは、ゲーム時間が減少しても、その後の心理・社会的な“健全さ”の指標が必ずしも改善したわけではなかった点だ。男女ともに「減少型(Decreasers)」の子供たちでは、ゲームプレイ時間や「ゲーム依存(IGD)」の状態を測る指標には一定の低下が見られたものの、それが“健全さ”の指標と完全に結びついているとも言い難いのが実情だ。少なくとも本研究の範囲では、「ゲーム時間の減少=心理的健全化」という単純な図式は確認されなかったのである。

上の表はアンケートで集計したそれぞれの要素の関係をまとめたものだ。Wは調査回数、Mは平均値、SDは得られた値のバラつきを示している。またrは各要素に対応した相関係数で、正負関わらず、1に近づくほど要素の関連が強いとみなされ、0では無関係となる。一般的に、rが±0.3前後になると一定の関連があると解釈されることが多い。「インターネット・ゲーム障害(IGD, Internet Gaming Disorder・厚生労働省)」と「一週間当たりのゲームプレイ時間(Gaming hours per week)」の間には、r=0.4~0.5程度の正の相関関係が認められた。しかしそれらと各心理・社会的指標は、大きくてもrが-0.25前後となっており、強い相関関係にあるとは言い難い。つまりプレイ時間が長くなるにつれてIGDスコアが高くなる傾向にある。一方でIGD傾向とプレイ時間は、青少年の心理状態の良し悪しに、必ずしも直結しているわけではない、と考察されているのだ。
研究グループは、青少年のゲーマーは単一的に語られるべきではなく、ゲームをプレイすることは、いまや多面的な発達過程の一部であると主張。また、ゲームを“何時間遊んでいるか”のみに注目せず、そのゲームが子供にとって“どのような役割”を持っているかを考えるべきと結論付けている。

今回の研究は、同じ子供たちを長期間追跡したデータを用いたもので、年齢を重ねることによる変化が十分に分析されている。一方で、調査対象の子供たちが何のゲームをプレイし、どのような感情を抱いたのかというミクロな観測は行われていない。さらに研究チームは、「なぜゲームのプレイ時間が減少したのか」や、「なぜ一部の心理・社会的指標が低下したのか」といった因果関係については、結果からは断定できないとしている。論文内でも、家庭環境や学校生活、友人関係、元々の心理的傾向など、ゲーム以外の要因が影響している可能性が繰り返し指摘されている。
そのため、背景にある問題を解決しないまま、プレイ時間が多いとして単純にゲームだけを制限することは、場合によっては逆効果となる可能性にも注意を促している。というのも、社会で苦しい立場に置かれた子供にとって、ゲームが数少ない安心できる居場所や対人交流の手段になっている可能性があるからだ。また研究グループは、「ゲームは男子の趣味」という固定観念によって、女子のゲーム習慣が偏見に晒される状況にも注意を促している。
ゲームと精神に関しては、たとえばオープンワールド作品が癒しにつながる、といった内容や、『パワーウォッシュシミュレーター』がメンタル改善に効果がある、といった、各タイトルが人々に与える効果についての研究が注目を集めていた(関連記事1、関連記事2)。一方で本研究は、同じ調査対象を長期にわたって追跡し、「人々のゲームに対する触れ合い方」の変化を中心に分析したという点で興味深い。研究チームは、「ゲームをすること」自体を一律に問題視するのではなく、実際に困難や脆弱性を抱える青少年に対し、それぞれが抱えた背景など、文脈に応じた適切な支援を行うべきだと提言している。
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