カナダ東部沖にて6月18日、「タイタニック号ツアー」に用いられていた潜水艇との連絡が途絶え、現在も捜索が続いている。ツアーの安全面が議論されるさなか、過去のニュース映像にて、潜水艇が古いモデルのゲームパッドで制御されていたことが注目されている。海外メディアArs Technicaが伝えている。
【UPDATE 2023/6/21 19:57】
記事初版の見出しのヘッダー画像が、特定のゲームパッドが潜水艇にて用いられていたことを確定付ける印象を与える画像となっていたため、画像を変更いたしました。お詫び申し上げます。
【UPDATE2 2023/6/22 0:05】
あわせてタイトル文も変更
「タイタニック号ツアー(Titanic Expedition)」は、アメリカの観光・海洋調査の民間会社であるOceanGateが2021年から開催しているツアー。参加費25万ドル(約3500万円)にて毎年初夏に数回ほどおこなわれており、海底に眠るかの有名なタイタニック号を潜水艇で調査するというふれこみだ。同社によると本ツアーに使われている潜水艇「Titan」は水深4000mの潜水機能を有していながら、リアルタイムで搭乗者の健康状態をモニタリングが可能。緊急時の安全性が高いと謳われていた。
その潜水艇Titanとの連絡が途絶えたのは6月18日。搭乗者5人を救助するため、米ボストン沿岸警備隊が捜索隊を派遣したことが報道された(Forbes)。本稿を執筆している6月21日現在も潜水艇は発見されておらず、捜索は難航している。
この事故を受けて2022年11月27日に、米国大手テレビ放送局のCBSが放送した本ツアーの特集が注目されている。カメラがTitanの内部に入った場面で、OceanGateのCEO Stockton Rush氏自らがTitanの“操縦桿”を紹介。改造の施された“ゲームパッド”で潜水艇の全体制御をおこなっていると明かされたのだ。これにはCBSアナウンサーのDavid Pogue氏も「冗談でしょう!(Come on!)」と顔を手で覆い、驚きを隠せない様子を見せていた。
Titanの操縦に使われていたのは2010年に発売されたロジクールF710。映像では操作をしやすくするためか、スティック部分に長い突起状のパーツが取り付けられている。なお映像にはキーボードも映っているが、Rush氏がゲームパッドを持って「すべてこれで動かしている(We run the whole thing with this)」と述べているため、少なくとも当時は操縦や制御の多くがゲームパッドでおこなわれていたと見られる。過去のCBSの映像が物議を醸しているのは、10年以上前に発売されたモデルのゲームパッドが潜水艇の制御に使われていた可能性が、安全性などの側面から問題視されているからだろう。
一方で、機械制御のためにゲームのコントローラーが使われることは、これまでも各分野でたびたびおこなわれてきたことだ。海外では軍隊が兵器の操作にゲームパッドを取り入れている例がある(Bussiness Insider)ほか、日本でも建設重機の遠隔操作にレバー型コントローラーを使用する試みもある(関連記事1、関連記事2)。そのため少なくともゲームパッドが用いられてる点については、必ずしも安全性の問題に結びつかない点は留意したい。
なお先述のCBSの特集にて取材をおこなっていたDavid Pogue氏も自身のTwitterアカウントにて今回の事態についてコメント。潜水艇には浮上する手段がいくつも用意されているはずなのに、なぜ浮かんでこないのかと懸念を示している。なお取材当時は無造作に詰まれた建設用パイプが船体の重量バランスを保つバラストに使われているなど、信頼性に疑問が残る点も紹介されていた。また当時、搭乗時の同意書には未認可の実験的潜水艇であると記されていた。そして取材の際にも、数時間にわたって潜水艇との連絡が途絶える一幕があったという。そうした各種安全面の課題が、6月18日の出港時点でどこまでクリアされていたのかも不明だ。
さらに過去にはTitanの安全性に警鐘を鳴らした社員が解雇されたという報道もある(The New York Times)。古いモデルのゲームパッドが使用されていた点を除いても、Titanの安全性には懸念が付きまとっていたといえる。本校執筆時点では潜水艇の所在や、行方不明になった原因は明らかになっていない。いずれにせよ、今はただ潜水艇の乗員が無事であることを祈りたい。