『あつまれ どうぶつの森』が環境保全を促進する可能性を研究者が論文で示す。フータの“虫嫌い”克服イベント提案も

 

自然豊かな環境でスローライフを楽しめる『あつまれ どうぶつの森』。プレイヤーは自然を眺めるだけではなく、四季折々の植生や昆虫、魚などを採取することも可能だ。そして博物館に寄贈すれば、保護の上で展示される。そうした同作のゲームプレイが自然環境保護の啓蒙に繋がると示唆する論文が、日本人を含む、イギリスの研究者チームにより発表されたようだ。
  

 
今回、『あつまれ どうぶつの森』についての論文を発表したのは、イギリス、ケント大学の研究チームだ。発表された論文はオンラインで閲覧することができる。共著者にはJessica C. Fisher氏、Natalie Yoh氏、Danielle Rundle氏、そして日本人である久保雄広氏の4名が名を連ねている。久保氏については、自身のTwitterアカウントより今回の論文を紹介するツイートをおこなっている。同ツイートは800件を超えるリツイートをあつめ、「ゲームで環境保全を伝える」という題材の注目度を示している。
 

 
論文の内容は、要約するなら『あつまれ どうぶつの森』における動植物などの自然環境の描写や、自然とプレイヤーやNPC間の相互作用、そしてゲームデザインが「自然保護のメッセージを広めるのに役立っているのではないか?」という可能性を示唆したものだ。具体的には、魚や化石、虫などを寄贈できる「博物館」や、ゴミ収集をうながす「たぬきマイレージ」など多岐にわたる要素やダイアログが挙げられている。ほかにも論文中では、同作のNPCの分類に関するデータなど、興味深い点も示されている。

まずは博物館についてピックアップしたい。同作における博物館は前述の通り、捕獲した魚や虫などを寄贈、保護できる施設だ。種類を集めるほど博物館の内容は拡充されていき、プレイヤーに寄贈を促すようなシステムになっている。同施設を管理するNPC「フータ」は、虫嫌いの一面を見せつつも、環境保護意識の高さが会話の節々に見られるキャラクターだ。プレイヤーに対して種の保存や、侵略的外来種について解く一幕も見られ、たしかに環境保全を促すメッセンジャーとしても機能しているといえる。
 

Image Credit: Animal Crossing Wiki

 
また、やりこみ要素である「たぬきマイレージ」には、河川などでゴミを釣り上げることによって貯まる「海や川をキレイにしよう!」というマイレージが存在する。こちらもストレートにゴミの投棄による汚染を改善しようというメッセージを感じる。ただ、マイレージの原文は環境保護を全面に押し出したものではなく「ゴミが釣れちゃうなんてイメージダウンだから」と、自治体責任者のたぬきちらしい表現になっている。しかし、若年層のプレイヤーに「海や川を汚してはいけない」というアイディアを与えることは考えられる。

なにより、自分で島をデザインして環境を作っていくという体験は、楽しみながら自然や生物多様性に興味をもたせる題材になりえるだろう。しかし、一方で論文は『あつまれ どうぶつの森』が与えうる“悪影響”についても触れている。稀少な動物の捕獲を促してしまう可能性のほか、ゲーム内の虫などに“価値”があることが、現実の虫の売買を正当化したり活性化させるような影響を与える可能性がある、と考えられるようだ。
 

 
論文の最後では、任天堂のゲームデザインを称賛するとともに、懸念点も含めた「より環境保護を伝えるための案」がいくつか提示されている。まず「博物館において、生物の寄贈時の会話や展示プレートにて、国際自然保護連合やワシントン条約に基づいた保護情報を提供してはどうか」というもの。ゲーム体験を損なわなければ、実際の情報がゲーム内で学べるのはよさそうだ。

また、論文で示されている興味深い点として、NPCのどうぶつたちを分類すると、ほとんどが哺乳類(Mammal)にあたるという。こうした背景を受けて、論文では哺乳類や脊椎動物ではないNPCの追加を提案している。
 

Image Credit: Fisher et al. / Could Nintendo’s Animal Crossing be a tool for conservation messaging?

 
ほかにも論文では、「釣りをしすぎると生息する魚が減っていく」「季節に合わせた生き物の変化(捕れる虫の変動など)を、日本の文化的影響ではなくリアルな生物史に寄せてみてはどうか」といった環境に関する提案や、「フータが虫嫌いを克服するイベントを追加してみては」というゲームプレイ的に面白そうな案も提示されている。

「ゲームと環境学習」という題材については、「『レッド・デッド・リデンプション2』の動物描写が生物学の学習に役立つのでは」という内容の論文が、偶然にも今月7月8日に発表されている(関連記事)。いずれの論文でも言及されているのが、任天堂の手がける『ポケットモンスター』だ。「生物の捕獲と保護」という日本の「虫取り遊び」にも通じる題材は、幅広い層へ遊びを提供する任天堂作品に、脈々と受け継がれているのだろう。

『あつまれ どうぶつの森』は、もちろん教育用途のソフトではなく、娯楽としてのゲーム作品である。しかし、ゲームプレイを損ねない範囲ならば、より環境のことを学べる内容の追加は作品の深みをさらに増してくれそうだ。同作のファンや、同作を子供に与える保護者にとって嬉しいことではないだろうか。