Wii U向けゲームのパッケージ版が3月に発売。“利益が見込めない”状態で発売することになった泥沼の背景

 

パブリッシャーのLimited Run Gamesは3月16日、Thomas Happ Gamesが手がけた2Dアクション・アドベンチャーゲーム『Axiom Verge』のWii U向けパッケージ版「Multiverse Edition」を3月29日に発売すると発表した。Limited Run Gamesは、ダウンロードのみで販売されているインディーゲームを、完全数量限定でパッケージ(物理メディア)化して自社サイトで販売しており、同様の事業をおこなうメーカーの草分け的存在である。ただ、生産終了して久しいWii U向けというのは同社においても珍しい。発表の中で同社は、今回のリリースは数年にわたる困難の末に実現したものであり、本件に関する法廷闘争が継続していると述べている。

『Axiom Verge』のゲーム本編にアートブックやポスターなどを同梱する「Multiverse Edition」の発売は、もともとスペインのパブリッシャーBadLand Gamesから2017年に発表されていた。当時同社は、本作を開発したThomas Happ氏の息子が難病を患っていることを知り、パッケージ版の収益のうち同社の取り分の75パーセントをHapp氏の家族に寄付すると申し出ていたことで話題となった(関連記事)。しかし、Nintendo Switch/PS4/Vita版については欧米で発売されたものの、Wii U版については延期を繰り返していた。その裏で何があったのか、Happ氏のビジネス面のパートナーを務めるDan Adelman氏が明かしている。

 

販売元の突然の資金難

『Axiom Verge』のパッケージ化にあたっては複数のパブリッシャーが興味を示していたが、BadLand GamesのCEO Luis Quintans氏はHapp氏の息子の病状を気にかけ、他社と同じ収益配分を提示したうえで上述の寄付を申し出てくれた。そのためHapp氏とAdelman氏は、BadLand Gamesに本作のパッケージ版の生産と販売を委ねることにしたのだという。しかし、いざ生産を始めるとなった際に、BadLand Gamesから生産にかかる資金を貸して欲しいと頼まれ、同社が資金難に陥っていることに気づく。

Luis Quintans氏は海外メディアGamesIndustry.bizに対し、当時同社はメインバンクのひとつのミスにより窮地にあったと語る。そのメインバンクは、BadLand Gamesからのローンの返済が滞っていると中央銀行であるスペイン銀行に誤って報告し、スペイン銀行から通知を受けたほかの銀行がBadLand Gamesへの融資をキャンセルしてしまったのだという。その数か月後に通知は正しいものに更新され、融資も復活したものの、ホリデーシーズンを逃してしまった影響を受け、同社は2018年10月に閉鎖へと追い込まれてしまった。ただ、Quintans氏ら同社スタッフは別レーベルであるBadLand Publishingに事業を移行させて、現在も活動を続けている。

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連絡が途絶え訴訟へ

BadLand Gamesは、こうした最中に資金を集めて、『Axiom Verge』のWii U版を除くパッケージ版を欧州で発売した。一方、北米地域での販売にあたってはLimited Run Gamesの協力を仰ぎ、受け入れたLimited Run Gamesは各バージョンの販売に手を貸すと同時に、BadLand GamesにWii Uパッケージ版の生産資金として7万8000ドルを支払ったという。しかし、約束の期日になっても生産したパッケージ版がLimited Run Gamesのもとへ送られてくることはなく、連絡も途絶えがちに。結局BadLand GamesはWii Uパッケージ版を生産せず、7万8000ドル分のNintendo Switch/PS4/Vita版を代わりに送付するとLimited Run Gamesに約束したが、これも一向に果たされないため、Limited Run GamesはBadLand Gamesを相手取って訴訟を起こした。

また、欧州での売り上げからの収益および約束されていたHapp氏の息子への寄付を受け取る時期になり、Adelman氏がBadLand Gamesに問い合わせたところ、こちらも連絡が途絶えてしまったのだという。Adelman氏は、BadLand GamesがHapp氏に支払うべき金額についておよそ20万ドルになるはずだとし、同じく訴訟を起こすこととなった。これらが、今回のLimited Run Gamesの発表の中で言及されていた法廷闘争にあたるわけだ。

前述したように、BadLand Gamesは不幸なミスにより厳しい状況にあったため、一定の同情の余地はあるだろう。ただ、約束を履行しないまま連絡を絶ったことで信頼関係は崩れてしまったようだ。同社がBadLand Publishingに名を変え今も新作をリリースしている状況についてAdelman氏は、Happ氏とLimited Run Gamesに返すべきお金で事業を続けているといらだちを隠さない。

*Limited Run Gamesの代表Josh Fairhurst氏が、Wii Uパッケージ版はすでに完成しており、発売日から間違いなく発送されることを報告。

話は戻って、今回発表されたWii U版『Axiom Verge: Multiverse Edition』は、Limited Run Gamesがあらためて生産して販売するものだ。結局同社にとっては2回生産するだけの出費となり、利益は見込めないだろうと述べている。ただ、最高のインディーゲームを所有できる喜びをWii Uファンに届けたいとのこと。またAdelman氏によると、Limited Run GamesはThomas Happ氏に対し、BadLand Gamesが約束していたのと同じ条件で収益から支払う予定とのことだ。

【UPDATE 2019/3/17 18:45】
BadLand Publishing(旧BadLand Games)のCEO Luis Quintans氏は3月16日、本件について声明を発表した。Quintans氏はまず、Thomas Happ氏およびLimited Run Gamesへの支払いを拒否した事実はなく、支払う気持ちは常にあると述べる。ただ、前述した資金繰りが悪化する事態に陥ったことで、それが難しくなっていたと説明。そして両者に対して今後の支払い計画を提案したものの、受け入れてもらえなかったとしている。なお、この点についてLimited Run Gamesの代表Josh Fairhurst氏は、BadLand Gamesを提訴した後になってそれまで音沙汰なかった同社から提案が送られてきたため、確実に支払ってもらうためにも、提案は拒否して司法の手に委ねることにしたと述べている(GamesIndustry.biz)。

Quintans氏はまた、『Axiom Verge』のWii Uパッケージ版の発売が延期されたことについては、ディスク版への移植作業が困難で時間がかかったと説明。さらに、Thomas Happ氏の息子が難病を抱えていることを利用して契約を勝ち取ったかのように伝えられたことについては、自身の息子もまた似た境遇にあったため助けになりたいと考えただけだとし心外だと述べる。そして、会社として難しい状況にあったとはいえ、両者に損害を与えることになったことについて謝罪している。一方、本件に関連して、誤った情報によりBadLand Publishingや自身を毀損する行為には、法的措置も辞さないと警告している。

この声明に対してThomas Happ氏のパートナーDan Adelman氏は、Quintans氏はHapp氏を騙すつもりで契約した訳ではないことは理解しており、当初は順調に仕事をできていたと述べる(Game Informer)。とはいえ、Happ氏への支払いがおこなわれないまま連絡が途絶えたことが現在の状況に繋がっており、またBadLand Publishingはこの間に複数の新作を発売しており、その現金を返済に充てなかった判断に疑問を呈す。そして、ただただこの問題を解決させたいとコメントしている。