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パブリッシャーのAnnapurna Interactiveは7月14日、Marumittu Gamesが手がける『D-topia』を配信開始した。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア/Microsoft Store)/Nintendo Switch/Nintendo Switch 2/PS5/Xbox Series X|S。本稿では物語の核心となるネタバレには触れず、穏やかなビジュアルの裏で蠢く“人間のエゴ”について、プレイフィールを交えて紹介していこう。
『D-topia』は、“最大多数の最大幸福”を掲げるユートピア計画のもと、「The A.I.」によってすべてが最適化された居住施設「D-トピア」を舞台とするパズルアドベンチャーだ。主人公のシローは、施設内の不具合に対処する「施設整備士」として日々の業務をこなしながら、住人たちの悩みや問題に深く関わっていくことになる。

本作にて特筆すべきは、序盤に提示される生活環境の圧倒的な快適さである。ゲームはシローがD-トピアを訪れたところから始まるが、用意された部屋にはふかふかのベッドがあり、テーブルにはたっぷりのバターが乗ったトーストや目玉焼きなど、日替わりの豪華な食事が用意されている。衣食住はシステムによって完璧に保証されており、一日の労働にいたっては、午前中に少し頭を悩ませるパズル(業務)を解くだけで終わってしまうのだ。
過去にデモ版をプレイ済みの筆者にとって、本作が「単純なディストピアではない」ことは、設定や節々の不穏な描写からすでに明白であった(関連記事)。しかし、白や青を基調としたクリーンな街並み、安らぎを感じさせるBGM、そして柔らかなキャラクターデザインに囲まれていざ本格的な生活が始まると、筆者はまたしても「ディストピアでも良いからここに引っ越したい」と魅了されてしまったのだ。だが、この“居心地の良すぎる生活”を享受し、その仕組みを維持する側に回ることこそが、本作が描く「人間のエゴ」という仄暗いSF世界への真の入り口となっている。

D-トピアでの生活は、基本的に「午前は就労、午後は自由行動」というサイクルで進む。午前の仕事である施設整備士の業務は、不具合のある設備を修復するパズルゲームとなっている。指定された枠に数字入りのブロックを運ぶシンプルなものから始まり、一筆書きで指定地点を巡るもの、ブロックの複製や数値の組み合わせを利用するものなど、バリエーションは豊かだ。
さらに、物語の進行に合わせて盤面は広がり、複数のギミックを順番に処理しなければならない歯ごたえのある問題も増えていく。筆者も盤面とにらみ合い、何度もやり直しを重ねて答えを探った。一方で、各問題にはスキップ機能が用意されており、どうしても解けない場合でも物語の進行が止まってしまうことはない。そしてクリア時のスコアに応じて施設内の通貨である「Uポイント」が獲得でき、自室から過去の問題に何度でも再挑戦できるため、マイペースに労働を楽しむことができる。

午前の業務を終えると、午後はD-トピア内を自由に歩き回り、住人たちと交流したり、街中で起きているトラブルを解決したりする探索の時間となる。街にはお菓子が大好きなトット、聡明なマリなど個性豊かなNPCが大勢おり、会話のパターンも多岐にわたる。何気ない世間話から暮らしへの不満、他者への感情などを聞き出し、時には会話中の選択肢によって彼らとの親密度が変化する。
またチャットツールを通じて個別に連絡が来るなど、住人たちの解像度が少しずつ上がっていく過程が探索の中心となっている。道中で困っている住人を助けるか、そのまま通り過ぎるかもプレイヤーの自由だ。

さらに、就労での成績や住人への貢献を重ねることで、シローの「住人ランク」が上昇していく。ランクが上がれば新たなエリアへ移動できるようになり、利用できる施設やサービスも拡張されていく仕組みだ。また稼いだUポイントで自動販売機から食べ物や移動速度を上げるアイテムを購入したり、自室を飾るインテリアを集めたりと、日常の中には小さな目標と変化が絶えず提示される。こうした生活感あふれるゲームサイクルが、プレイヤーをD-トピアの暮らしへと深く没入させていくのだ。

しかし、この快適な生活環境は、D-トピアのありのままの姿を映したものではない。本作の世界では、住人が「不要もしくは不快」と判断した視覚情報を、システム側で遮断および最適化する機能が働いているのだ。施設整備士であるシローは、業務や人助けのためにこの視覚情報の補正を解除し、裏側の領域である「ブロックサイド」へアクセスすることができる。
いざブロックサイドを覗き込むと、白を基調とした清潔感のある空間は暗い寒色へと変わり、最適化された視界の裏に隠されていた汚れや雑然とした設備が浮かび上がる(なぜか人間の言葉を喋るネズミまで徘徊している)。D-トピアが掲げる幸福とは、単に問題を解決するだけでなく、不都合なものを“住人の視界から消し去る”ことでも保たれているわけだ。穏やかな街並みが心地よいからこそ、裏側を目にした際の落差は強烈だった。

加えて物語の節目では、住人の運命を大きく左右する「脳内会議」というイベントが発生する。ここでは当事者の事情や周囲の証言を整理し、チャート上に並ぶ問いへ順番に答えながら、自分なりの結論を組み立てていく。たとえば施設には、「3回問題を起こした住人はZ-トピアと呼ばれる矯正施設へ送られる」という厳格な規律が存在する。
もし、あと1回でZ-トピア送りになってしまう住人がトラブルに関与していた場合、プレイヤーはどうするべきか。規則に従って真実を報告すれば施設の秩序は保たれるが、その個人の人生は大きく変わってしまう。逆に、該当人物を守るために「設備の老朽化が原因だった」と嘘の結論を導き出せば、施設全体や他の誰かに負担を強いる結果になるかもしれない。目の前の問題に対して、単純な善悪では割り切れない事情を突きつけられるたび、プレイヤーは「施設整備士として何を優先するのか」という重い責任を引き受けることになるのだ。

物語を進めていくうちに、D-トピアの秩序を揺るがしているのはA.I.の暴走やシステムの不具合などではなく、「人間自身の身勝手なエゴ」であることが浮き彫りになっていく。The A.I.は住人の幸福を最大化するために生活環境を整えているが、そこに入居している人間たちの心までは完全に統制しきれていない。たとえば、住人ランク制度によって生じた特権階級的な慢心から他者を見下す者や、奉仕するトロイド(ロボット)に対して理不尽な怒りをぶつける者。
さらには、自らの好みに合わせて遺伝子デザインしたペットの仕上がりが気に入らないからと、「視覚ブロック機能」を使って自らの視界から消し去り、そのまま飼育放棄するといったおぞましい事例にも遭遇する。環境が極限まで満たされ、不快なものを簡単に消し去れる世界だからこそ、人間の持つ傲慢さや怠惰、そして果てのない欲望がかえって醜く、鮮明に浮かび上がってくるのだろう。

こうした住人たちの剥き出しのエゴと向き合うなかで、プレイヤーは本作の描く「D-トピア」の真の恐ろしさに気づかされる。それは、決して「A.I.が人間を支配し、弾圧している」わけではないということだ。The A.I.はあくまで住人の幸福を第一に考え、秩序を守ろうと尽力している。真にユートピアをディストピアたらしめているのは、完璧な衣食住と快適な環境を享受しながらなお、他者を見下し、傲慢に振る舞い、欲望を肥大化させていく「人間」なのだ。
むろん、本作におけるプレイヤーには選択の自由がある。「脳内会議」において、冷徹な規則に従うだけでなく、温情をもって住人を救い出すことも可能だ。しかし、誰かを助けるにせよ切り捨てるにせよ、表に出せない泥臭い後始末を引き受け、実際に手を動かして判断を下しているのは施設整備士であるシロー、すなわちプレイヤー自身である。たとえ良心から手を差し伸べたとしても、結果的にこのエゴにまみれた歪んだシステムを裏で維持する「共犯者」へと組み込まれていく。自らの意思で選択できるからこそ逃れられないこの構造こそが、本作が抱える静かな、そして決定的な狂気と言えるだろう。

以上が、『D-topia』をプレイしての所感だ。プレイヤーは選択を通じて目の前の住人を救い、綺麗事を貫こうとあがき、寄り添うこともできる。しかし、そうして誰かを救おうと悩み、システムとの折り合いを模索していくなかで、私たちはある決定的なパラドックスに突き当たることになる。
“最大多数の最大幸福”を掲げる完璧なサイクルにおいて、摩擦や歪みを生み出し、システムの維持を困難にしているのはA.I.の不具合などではなく、いつだって人間たちの身勝手なエゴなのだ。極端に言えば、完璧な規律のもとで真のユートピアを完成させるために、最も不要な存在こそが「人間」そのものなのかもしれない。
『D-topia』は、柔らかなビジュアルと居心地の良いゲームサイクルでプレイヤーを優しく包み込みながら、その裏で荒々しいまでの人間の業を容赦なく突きつけてくる作品だ。施設整備士としての日々を過ごし、住人たちの醜いエゴや自らの良心と向き合いながら重い決断を下していく過程を通じて、本作は「ユートピアとは一体誰にとっての幸福なのか」を深く考えさせられることだろう。
『D-topia』はPC(Steam/Epic Gamesストア/Microsoft Store)/Nintendo Switch/Nintendo Switch 2/PS5/Xbox Series X|S向けに配信中。Steamではリリース記念セールとして、7月29日まで定価から10%オフの税込2070円で購入可能だ。そのほか各ストアでもセールが実施されている。価格や期間はストアごとに異なるため、詳細は各ストアページを参照されたい。
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