3Dビジュアルノベル『ネクロバリスタ』は、「Fate/ stay night」と「コーヒー」を混ぜて生み出された。開発者インタビュー

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弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドPLAYISMが2019年内に発売する『ネクロバリスタ(Necrobarista)』。本作はオーストラリアのメルボルンに拠点を置くデベロッパーRoute59が開発を手がける3Dビジュアルノベルゲームだ。価格は1480円(税込)。対応プラットフォームはSteam/ PLAYISMとなる。なおPS4/Switch向けのリリースも予定されているが、発売時期2020年となっている。

本作の舞台となるのは“あの世”と“この世”の狭間にある一軒のコーヒーショップ「ターミナル」。そこは死者と生者が共存できる唯一の場所であり、死者が最後の24時間を過ごす場所である。最後のひと時を過ごす死者に1杯のコーヒーをもてなすのは「マディ」。マディはターミナルの経営と同時に死者の鎮魂を担うバリスタ、そしてネクロマンサーでもある。そんな彼女のもとに一人の青年が訪れたことをきっかけに、時を賭けた物語が動き出すのだ。

本作のゲームプレイは、キャラクターとの会話や店内での情報収集が中心となる。またターミナル内を一人称視点で探索することも可能。本作がもつ幻想的な雰囲気を存分に堪能することができる。物語をスタイリッシュに彩る3Dビジュアル面では、さまざまな映画やアニメからインスパイアされているという。また『メイドインアビス』や『Florence』の音楽を手掛けたケビン・ペンキン氏によるサウンドを採用。ほかにもDIYロボットや錬金術・死霊術、そしてオーストラリアの英雄ネッド・ケリーも登場するなど、多様な題材が本作の物語に織り込まれている。

このように多方面のカルチャーから影響を受けている『ネクロバリスタ』。加えて、死者と生者をテーマに捉えた世界観は発売前から注目を浴びており、東京ゲームショウなどのゲームイベントで複数回受賞している。一体どのようにしてユニークなテーマと世界観は形作られたのか。作品の魅力とともに『ネクロバリスタ』誕生までの経緯について、本作でリード・アーティストを務めるNgoc Vu氏にインタビューを行った。

───まずは自己紹介をお願いします。

Ngoc氏:
リード・アーティストのNgoc Vuです。現在『ネクロバリスタ』の開発に携わっています。

───スタジオとして初めての作品ですか。

Ngoc氏:
会社として初めての商業作品です。『ネクロバリスタ』に至るまでに実験的なデモゲームは作ってきました。テキストとフェイスシステムを融合させた3つのデモを作ってきました。

───フェイスシステムがあったから3Dビジュアルノベルを作ったのか、3Dビジュアルノベルを作るためにフェイスシステムを作ったのか、動機はどちらでしたか。

Ngoc氏:
ずっとビジュアルノベルは作ってみたかったのですが、2Dをまじえたものか、すべて3Dで作るかは決めかねていて、そのためにデモを作っていました。ただし、3Dでやりたいという強い想いはありましたね。

───開発チームの人数や構成を教えていただけますか。

Ngoc氏:
フルタイムのスタッフ4人と契約スタッフ6人です。

───なぜ3Dアドベンチャーに挑戦したいと思ったのですか?

Ngoc氏:
まず、ディレクターであるケビンのアドベンチャーゲーム制作に挑戦したいという方向性が、チームの意見と一致したからです。それとケビンは大学でゲームデザインを専攻しており、そこで3Dアドベンチャーゲームの作り方を学んでいたということも関係しています。

私達は日本のビジュアルノベルが昔から好きで、うちのクリエイターは『ファタモルガ-ナの館』や『沙耶の唄』などの日本式の長編のビジュアルノベルゲーの大ファンなんです。私個人は『ファイアーエムブレム』や『逆転裁判』といったゲームのストーリー面や世界観が好みですし、FPSなどを遊んでいるより楽しんでいます。なので、私たちの「合作」としては息が合い、ストーリーが濃い我々が作りたいものが作れたと思っています。

───そのなかで、どうして「死」と「コーヒー」を組み合わせたゲームを制作することになったのですか。

Ngoc氏:
これには面白い経緯があります(笑)。最初はオーストラリアのメルボルン文化全体をゲーム内で再現するゲームを作りたかったんです。リソースの関係でその全てを作ることは困難でした。なので、メルボルンの文化が凝縮された“コーヒー(バリスタ)”に焦点を当てることになりました。“死”という部分はディレクターのケビンが『Fate/ stay night』のファンで、錬金術などの“ダーク”な部分が好きという理由でテーマに採用することになりました。

───(笑)。コーヒーと『Fate/ stay night』をまぜて『ネクロバリスタ』というアイデアにチームは納得しましたか。

Ngoc氏:
シンプルなデザインのプロセスだと言っていました(笑)。

───そのようなダークな要素はゲーム内の登場人物にも反映されているのでしょうか。

Ngoc氏:
はい。面白くて個性的なキャラクターがたくさん登場します。

───その個性的なキャラクターたち同士での対立や恋愛などを含む人間関係は物語で描かれていくのでしょうか。

Ngoc氏:
そこに関してはネタバレになってしまうのであまり多く語れませんが、人間が信じる正義と、法律で禁じられていることの対立といった部分が作中で描かれていきます。

───本作に暴力的な表現は含まれたりするのでしょうか。

Ngoc氏:
どちらかというとコメディ色が強く、バイオレンスな表現は控えめとなっています。

───コーヒー(バリスタ)以外のメルボルンの文化についてはゲーム内にどのように取り入れていますか。

Ngoc氏:
ゲーム内には現代的なメルボルンの文化を取り入れています。その一つの例として、メルボルンの朝食ではアボカドトーストが若者に人気です。なぜならメルボルンは土地が高く、若い人は家を買えません。でもアボカドトーストなら高くても買えるから人気というジョークがあったりします。

───土地が高くて若者が家を買えないという現状が本作の世界にも反映されているということですね。

Ngoc氏:
はい、そういった風刺的な要素も含まれています。

───ということはメルボルンへの愛情だけでなく皮肉も交えていると。

Ngoc氏:
ゲーム内に登場する世界作りにおいて、実際にメルボルンで体験してきたことを反映させたいという気持ちがありました。東京やニューヨークといった街はメディアでもよく取り上げられますが、メルボルンはあまり取り上げられません。なので、自分たちのつくるゲームを通じてメルボルンの文化を伝えていきたいと思っています。

───メルボルンの文化を題材とする本作では、どのようなユニークな体験が提供されるのでしょうか。

Ngoc氏:
ビジュアル面でもストーリー面でも“読む”ことに重点を置いています。プレイヤーには読むことで喜びを見出してもらえると思います。

───3Dアドベンチャーゲームを開発するにあたって、取り組んだ工夫はありますか。

Ngoc氏:
開発に近道はありませんが、チームごとのつながりは強くしています。
どういった表現をするべきか、などのディレクションにはこだわりをもって取り組んでいます。

───ということは時にたくさんのリテイクが必要なシーンも?

Ngoc氏:
ゲーム全体を3回ほど作り直しました(笑)。

───3回ですか……!3回目にして作品が形となり、順調に開発が進んでいるのはなぜだと考えていますか。

Ngoc氏:
プレイしたとき、面白く一番手触りがよかったのが、3回目にできあがった作品だからです(笑)。

───長い旅路だったんですね。日本のファンも増えつつある本作ですが、最後に日本のユーザーへメッセージをお願いします。

Ngoc氏:
『ネクロバリスタ』は日本の作品から着想を得てつくられたゲームです。この作品にはそんな日本への恩返しの意味も込められています。日本が私たちの作品の制作を支えてくれたように、日本のユーザーの皆さんにも私たちの作品からなにか感じ取ってもらえると嬉しいですね。

───本日はどうもありがとうございました。

メルボルンの文化に個性的なキャラクターたちを交えて繰り広げられる「死とコーヒーで紡がれる物語」。幻想的かつ独創的な世界でのユニークなプレイ体験が期待できそうだ。なおSteamでは体験版の配信も予定されている。気になる方はウィッシュリストに登録しておこう。

[聞き手: Nobuya Sato/Minoru Umise]
[執筆: Nobuya Sato]
[撮影: Minoru Umise]

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