一心不乱にモニターと向き合って、ふと時計を見ると信じられない時間になっていて、なんてことは、ゲーマーにとって“あるある”だと思う。やはりインタラクティブ性の高いゲームというメディアにおいて、自分がキャラクターになって行動することへの没入度は高く、気がつけばあっという間に時間が過ぎ去っていくものだ。

ゲーム世界へのダイブを、より強固なものにする要因は複数あると思う。それはプレイのテンポや、飽きない物語、冒険心をくすぐる細部など、コントローラーから手を離したくないと思わせてくれる演出は数知れない。

だがやはり、もっともプレイを続ける動機のひとつとなるのが「やることが尽きない」ことではないだろうか。本稿で紹介する『ゴッサム・ナイツ』はその典型的な例であり、広大なオープンワールドで表現されたゴッサム・シティを舞台に、強大な敵組織や、終わりのない犯罪との戦いを描いたアクションRPGである。そう、文字通り泉のように湧き出てくる犯罪に対し、一心不乱に正義の鉄槌を下すことができるのだ。


『ゴッサム・ナイツ』は、アメリカンコミックス「バットマン」の世界観を舞台とし、バットガール・ナイトウィング・レッドフード・ロビンの4人を主人公に据え、強大な敵との戦いを通じた成長がオリジナルストーリーで描かれる。国内向けには、PS5/PC(Steam/Epic Gamesストア)およびXbox Series X|Sにて発売中だ。

ゴッサム・シティといえばバットマンのイメージが強いが、本作ではバットマン(ブルース・ウェイン)が死亡するシーンから物語が幕を開ける。これまでバットマンが影から守ってきたゴッサム・シティに残された4人の主人公が、バットマンが生前追っていた事件などを手がかりに、新たなヒーロー(ダークナイト)として成長し、街を守る存在になっていくのだ。


なお、筆者は「バットマン」シリーズに明るくないが(最近の映画を少しかじった程度)、本作の物語の大筋は理解できたうえに、詳細なキャラクター設定なども確認できるアーカイブも用意されているので、ヒーローに対する知識について、あまり心配する必要はない。ゴッサム・シティが“犯罪蔓延るとんでもない場所”ということさえ理解していればオーケーだ。

本作はゴッサム・シティをオープンワールドで表現し、バットガール・ナイトウィング・レッドフード・ロビンの4人の主人公を切り替えながら、街で起こる犯罪やイベントを解決しながら物語を進めていくアクションゲームだ。主人公の4人はそれぞれ大枠のアクションは同じだが、攻撃に特化した力や、ステルスに特化した力など、アビリティを通じて成長の方向性に個性が設けられている。レベルアップで入手したポイントを使ってアビリティなどをアンロックしていくが、レベルは4人で共有されるので、キャラを切り替えるたびにレベリングをやりなおす必要がないのも嬉しい。

装備によってキャラクターの衣装も変化する


犯罪の街、ゴッサム・シティは“やることが尽きない”

一見すると、本作のオープンワールドはそこまでやることが多くないように思える。濃密というよりは、あちこちに「やることが転がっている」状態だ。実際に街を探索していると、そこら中で犯罪行為が起こっているのを目撃することになる。金庫を破壊して金品を盗もうとしているギャングや、一般人に襲いかかる粘土のような化け物、警官や市民が襲われているなど、とにもかくにも治安が悪い。それらを見つけたら、ビルの屋上から颯爽と空中攻撃を仕掛けて犯罪者たちの前に立ちはだかり、成敗していくことが、本作のオープンワールドで発生するバトルのひとつだ。


これらはスルーしても構わないが、この小粒な犯罪者たちを尋問することで、翌日に起こる犯罪計画などを聞き出すこともできる。これによって、爆弾をつけられた人質事件や、違法電波を流す計画、犯罪組織の取引など、さらに大きな犯罪を発見することができ、それらを阻止することで、「チャレンジ」(ミッションのようなもの)が進み、アクションが開放されるほか、物語に関連するさらに大きな陰謀の手がかりを見つけていく。街に根付いた大きな犯罪を、小さな犯罪から手繰り寄せるように見つけていく感覚が味わえるだけでなく、アビリティやアクションが増えるなど、できることが増えていくというわけだ。

この犯罪の連鎖が、本作の体験をより没入感の高いものにしてくれる要素のひとつであり、ゴッサム・シティをパトロールしているなかで見つけた犯罪を解決していく動機となり、街と物語の関係性をより密なものにしている。

物語が大きく進行するバトルはロードが挟まるが、その手がかりを探るオープンワールドの中での戦いはロードを挟まないというのもポイントで、街で調査している感覚を、よりシームレスなものにしている。


繰り返しになるが、とにかくこの街は治安が悪い。少し歩みを進めればパトカーのサイレンがビルの谷間から響き、誰かの悲鳴や銃声が聞こえてくる。これらの犯罪を止めることでどんな新しい犯罪が見つかるのだろうと胸を躍らせながら犯罪者に殴りかかるのが楽しいと思えるなら、本作は時間を忘れて楽しむことができるだろう。

また、前述の通り「チャレンジ」をこなしていくことで、新しいアクションやサイドストーリーが開放されるため、それらの達成に必要な特定の敵を倒したり、犯罪計画を止めたりと、バトルがなにかしらの目的につながることも少なくないため、意味のないバトルは起きにくい。

ゴッサムの新たなダークヒーローとしてのロールプレイ

そして、純粋に犯罪者をぶん殴るのが楽しいのだ。クラシックな3Dアクションゲームである本作は、近接・遠距離攻撃を中心に、それらの攻撃で溜まっていくゲージを消費して使う技「モメンタムアビリティ」を使うといった、シンプルなデザインになっている。バトルで得た素材を使って武器や防具などの装備や、MODと呼ばれる細かなカスタム要素も用意されている。敵を倒すと武器がドロップするなど、ちょっとしたハクスラ要素もあり、犯罪者を殴る理由はなにかと見つけやすい。


アビリティの使い所や、倒す順番を見極めるなど、基本的なアクションゲームの文法に則ったバトルは、治安の悪い街で何度も起こるバトルをテンポの良いものにしている。本作においてバトルはゲームプレイの大きな軸であるが、「ゴッサム・シティで起こっている犯罪と戦うダークヒーロー」としてのロールプレイがその中心にある。筆者は少し難易度を落として(具体的には中ボスをちょっと苦労する程度)遊んでいたが、街中で犯罪者をなぎ倒していくこと自体がとてもカッコよく思えた。最後の敵を倒す際のフィニッシャーや、後述のグラップルを使って敵を翻弄するさまなど、突然現れて悪者を倒して去っていくという、多くのプレイヤーが思い描くダークヒーローを、実際に動かしている喜びが大きく、本作の真髄はそこにあるように感じる。難易度は4段階からいつでも自由に変更できるので、もちろん難易度を調節してひとつひとつの戦闘に手応えと戦略を持って挑むのも良いだろう。

美しく描かれたゴッサム・シティ

そのロールプレイで気分を高めてくれる要素に「美しい街」も欠かせない。本作は前世代機(PS4/Xbox One版)版の発売を見送っただけあって、影、水面などの細かな部分がしっかり描かれ、とても美しくゴッサム・シティが表現されている。綺羅びやかな街灯や表通り、それらが作り出す美しい夜景と、その一方で降りしきる雨や、側溝から沸き立つ水蒸気、ビルの屋上に流れるシンとした空気など、“明”と“暗”がしっかりと描き分けられているのも特徴のひとつだ。本作は、原則として夜が舞台となるため、街の暗部が溢れ出している部分(主に犯罪)を目にする時間が多いが、その対極にある歴史的建造物や夜景の美しさはゴッサム・シティという街のリアリティと高め、画面全体を説得力のあるものに仕上げている。

フォトモードも用意されているので、その美しさを余すことなく楽しむことができる。


また、その美しい街の中を移動する手段も多彩に用意されている。ひとつはグラップルで、ビルの屋上や街灯にひっかけて高速で移動することができる。高層ビルの屋上で黄昏る時間もまた一興だ。グラップルはバトルの中でも有用で、敵の頭上の梁を素早く移動してステルス攻撃を仕掛けるなどの使い方も用意されている。「バットマン」にはお馴染みのバットサイクル(バイク)もあり、大通りを爽快に駆け抜けるだけでなく、地下や住宅密集地など狭い場所をぬうように進んでいくさまは、まるで映画のワンシーンのようなスリルを味わうことができる。チェックポイントを通ってゴールを目指すチャレンジなども用意されているので、寄り道がてら遊んでいくのも面白い。その他にも、レッドフードはエネルギーの足場を作り出すジャンプ移動「ミスティカル・リープ」や、バットガールの「グライダー」など、キャラごとに用意された移動方法や、ゴッサム市警のドローンをハックすることで使えるファストトラベルなど、幅広い移動方法によって、移動が体験を邪魔しないデザインになっている。


リッチなカットシーンで魅せる物語

映画のワンシーンのような場面は、カットシーンでも抜かりない。本作では、狂気はそのままに更生した(?)姿を見せる「ハーレイ・クイン」や、復讐に燃える粘土男「クレイフェイス」など、バットマンの世界観でお馴染みのヴィランも登場する。メインとなる物語は、ゴッサム・シティに古くから都市伝説のように扱われてきた組織についてじわりじわりと迫っていく様子や、バットマンが生前になにをしていたかなどを紐解いていく。カットシーンでは、映画のように凝った演出の会話シーンや、見応えのあるど派手なアクションシーンも多く、操っている主人公ごとに異なるセリフが用意されているなど、とてもリッチな仕上がりになっている。


2人用オンライン協力プレイに対応しているのも大きなポイントだ。オープンワールドでゴッサム・シティを共闘して守ることや、一緒にストーリーミッションを進行することができるので、フレンドと一緒にできるゲームを探しているなら、本作は有力な選択肢のひとつとなるだろう。筆者は、たまたま出会った国外のフレンドと長時間プレイしたが、互いにカバーし合う共闘感は、犯罪が絶えないゴッサム・シティで遺憾なく発揮され、犯罪を止めてはまた次の犯罪を探しに行くという、どっちが野蛮かわからないプレイングは、時間を忘れてずっと遊べるものだった。


述べてきた通り、キャラクターごとのバトルや成長要素、リッチなカットシーンに彩られた物語、美しいグラフィックで表現された街と、本作は多くの魅力を持つ。だがやはり、ゴッサム・シティを舞台に、絶え間なく犯罪と向き合い続ける“没頭感”が、本作における圧倒的に大きな魅力だ。犯罪から犯罪を導き、さらに犯罪を見つけていく楽しさと、それが物語につながって大きな影の組織へつながる体験は、文字通り時間を忘れるほど熱中できる。バットマンの意思を継ぐヒーローとしてゴッサム・シティに足を踏み入れ、正義の鉄槌をひたすら下してみてはいかがだろうか。

ゴッサム・ナイツ』はPS5/PC(Steam/Epic Gamesストア)およびXbox Series X|S向けに発売中だ。