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Live2Dとセルシスが主催する「Live2D×CLIP STUDIO PAINT コラボ座談会」。VTuberの栢森エマ氏が生まれるにあたって、Live2Dモデラーの乾物ひもの氏およびイラストレーターの深井涼介氏がはどのようなコミュニケーションを取ってきたのかは、第1回、第2回で語っていただいた。
連載の3回目となる本稿では、VTuber制作にあたってクリエイターが実際にやっている契約実務についてや、CLIP STUDIO PAINTの小技についてをお届けする。
トラブル防止にはやっぱり書面
CLIP STUDIO PAINT 武田氏:
個人の方からの発注では、相手方が契約関係に不慣れな場合も多いと思います。契約書や発注書のような書面は残していますか?
乾物ひもの氏(以下、乾物氏):
私はすべての仕事で始める前に見積書、終わったあとに請求書を出しています。それから、Live2Dにはモデル用のファイルのほかに、cmo3ファイルというLive2Dそのものの編集が可能になるファイルもあります。これをお渡しするケースについてのみ、こちらで作成した契約書を作って契約を結んでいます。つまり、私が作ったLive2Dファイルをほかの方がいじる必要がある場合に契約書を発行するんです。それ以外の場合、相手が企業さんの方から締結してくださいと言ってくださるときに、それをチェックしつつ従っている感じですね。
深井涼介氏(以下、深井氏):
エマちゃんの場合はエマちゃんの方から、こういう取り決めでやりましょうって送ってきてくれたよね。

Live2D広報担当・須田修伍氏(以下、Live2D須田氏):
発注者として完璧すぎる。
栢森エマ氏(以下、栢森氏):
私は自衛のためにも、自分でNDA(秘密保持契約)を持っていて、弁護士さんと一緒につくりました。深井先生に別件でVTuberに詳しい弁護士さんをご紹介いただいたとき、ついでに作っていただいたんです。個人勢は自分で自分を守らないといけないので、契約まわりはなるべく気をつけるようにしています。
深井氏:
「思ってたのと違う」「こんなはずじゃなかった」を避けるために、ちゃんと根回しは必要だからね。
Live2D須田氏:
個人同士の案件の場合に 個人間だと多く感じるのが、相手のプライベートにどこまで踏み込んでいいのかというバランスの部分ですよね。契約書などにはどうしても本名が絡んできますが、それすらも、渡していい相手なのか……というところから気にする方はいますよね。
乾物氏:
私ももともとイラストレーターだったこともあって、NDAから入るというようなところは当たり前に感じます。お互いに自分の情報をやり取りしてから始まるのが割と当たり前だったので、あまり抵抗がないですね。
Live2D須田氏:
経験や慣れが必要ということですね。実は私もフリーランスをしていた時期があったのですが、それよりも前は、携帯電話の契約をする時の契約書なども「名前を書く紙だなあ」くらいの認識でした。でも、いざ自身や企業として発行する立場になってみて「自分と相手を守るための大事なものである」と気づけたんです。こういった感覚はフリーランスはじめたての方や、個人同士の案件では縁遠いものにあるような気がしています。そこももともと経験があって、慣れているかどうかという感じなんですね。私ももともとフリーランスをやっていて、契約書はなんとなく「名前を書くもの」というくらいの認識だったんですけど、いざ会社で発行する側になって「自分と相手を守るためのものである」と、大事なものだと気づいたんですね。その辺りはやはり、世間一般ではもっと縁遠いものに感じられているというか。
栢森氏:
今はSNSなどもあることを考えると、より必要なのではないかと感じますね。
乾物氏:
いわゆる「言った・言ってない」のトラブルも、書面での約束事、請求書・発注書・契約書みたいなものが一切ない状態でふわふわ進んでしまった結果起きたものが多いのかなと思いますね。きちんと作っておくに越したことはないです。
栢森氏:
依頼者側目線でも、お願いするにあたって、ある程度やり取りがある方ばかりにご依頼をするわけではないですからね。しっかりした人とやりとりしたいのはもちろんですが、初めてやり取りする方の人となりを知るには、SNSの投稿やブログの記事を読むしかないんですよね……。
経験則にはなりますが、有名な方のイラストを手がけた実績があれば安心できるかというとそうでもないんです。このポートフォリオ内容なら安心できるかな?と思いイラストをお願いしてみたら、納期を大幅に超過されてしまったこともありました。最終的にイラストはしっかり納品いただきましたし、連絡なしに遅くなってしまったことも謝罪されて、報酬もしっかりお支払いして円満に終わったんですが、やっぱり数字や実績がすべてじゃないなと感じてしまいました。大手さんとのお仕事をしているからと言って、その人が丁寧な仕事をする方であるとは限らないんですよね。なので個人の方はクリエイターさんを見極める目が必要になるし、判断が難しいなと思っています。
深井氏:
自分の場合は、打ち合わせや連絡を重ねたり、あるいは過去に良いお仕事をした事のある方からのご紹介で「この人は信用できるかな!」とわかってから初めて作業に入る感じなので、後から「おや?おかしいぞ」となるパターンは近年ほとんどないですね。ちなみに、イラストレーター視点で“仕事をしっかりするクリエイターの見極め方”の一例を提案すると、「いろいろなところと継続的にお仕事をしているか」というのが判断材料の一つになるかもしれません。ラノベの挿絵やゲームの宣伝イラスト、自治体の看板キャラクターデザイン、さらに個展などを並行して進めていて、その傾向が続いている、っていう方がいたら、僕は「この人めっちゃ仕事できる人だ……」と思います。自分が発注する側ならそういった方に声をかけたくなりますしね。
あとは大きなゲームの案件をしっかり続けている方も信頼できる方が多いかもしれませんね。。ゲームはたくさんの人が開発に関わって、その会社の命運がかかっているコンテンツで、それをこなせている方はきちんと仕事ができる方なんだろうなと感じます。

Live2D須田氏:
ゲームのような人が多く関わる案件は、そのあとの工程にも大きく影響しますからね。
乾物氏:
モデラー目線の話では、そもそもLive2Dでの作業は、イラストレーターさんが作ってくれたお体がないと始まらないものなんですよね。なので、一つ前の工程で止まってしまっている状況に対してクライアントさんから謝罪されるということが過去に何回かありました。VTuberさんも複数のクリエイターさんが関わっていくものなので、連携していくのが大変だなと感じます。
深井氏:
モチベーションとビジョンとスタイルのマッチングがうまくいくと良い仕事ができるんですけど、そうじゃない場合は何かしら楽しくないことが起きてしまうこともありますよね。僕も小さい経験としていくつかあります。逆に僕たち3人のように楽しく仕事が続けられる空間ができるとモチベーション高く回していけますし、そういう関係を大事にできたらいいなと思いますね。
栢森氏:
個人の方は本当にクリエイターさんの実績をしっかり見ることが大事だと思います。クリエイターさんのポートフォリオがあったら見に行って、しっかり更新があるか、実績内容はどんなものがあるかを確認する。でも、「この実績ならお願いできる」と思えるクリエイターさんを出会うのにも、さまざまなコストがかかります。これから始める方は良いクリエイターさんと出会うためにも、時間とお金を十分に用意しておいた方がいいのかなと思います。

CLIP STUDIO PAINT、Live2Dに超便利
CLIP STUDIO PAINT 武田氏:
今でこそこれだけ体制が整ったというのもあると思いますが、VTuberというものが登場した頃は、仕様について困ったことや試行錯誤などはありましたか。
深井氏:
僕はVTuberを13人担当しているんですが、そのなかでLive2Dを持っているのは2人しかいないんですよね。ですが、『天華百剣』というスマホゲームに携わったときにキャラクターのパーツ分けをしたことがあったので、そのときの経験を活かせているのかなというのはありますね。「ここを分けてくれていると、あっちのスタッフさんが動かしやすくて嬉しいよね」とか。
乾物氏:
深井先生からいただくデータは、ちゃんと差分のフォルダに記号がついてるんですよ。まず、フォルダすべてにしっかり名前がついている。カテゴリ分けみたいなものもあらかじめできている。「これはここに使うパーツとして想定して作っていますが、要らなかったら削除してもOKです」みたいなメッセージも全部書いてあって。
深井氏:
僕は普段からレイヤーに名前をつける方でもありますね。海外の仕事だったら、レイヤー名を全部英語にして出していたりもします。
乾物氏:
高カロリーなLive2Dな場合、レイヤー数が900とか行くときがあるので、それでレイヤー名が一切ないと結構大変なんです(笑)
CLIP STUDIO PAINT 武田氏:
CLIP STUDIO PAINTはVer.2で[レイヤー検索]パレットから、レイヤー名を入力して検索できる機能が搭載され、今はちゃんとレイヤー名をつけていただければ、のちのちの管理はすごく楽だと思います。バージョン1の時代はそういった管理面が課題もございましたが、複数回のメジャーバージョンアップを通じて、より便利に使える様、各種機能をアップデートしています。、。どういうデータにすると複数名で作業する際に取り回しがしやすいのかというところには、どのジャンルにおいても重要な点なので、そ今後もまたいろいろとご意見を伺えればと。
乾物氏:
私は自分の新モデルで初めてCLIP STUDIO PAINTを使ってみたんですが、すごく便利だと思いました。特に、フォルダごと投げ縄ツールなどで「ゆがみ」などの一時変形が使えて、さらにカットしてコピペすればフォルダがちゃんと分かれて別々になるところ! Live2Dは基本的に左右対称なので、まず対象定規を真ん中に引いてパーツを描いていく。すると、左右のパーツが一旦同じレイヤーに描かれるじゃないですか。Live2Dではすごいモデルになってくると、目だけでもレイヤーが25枚とかあるんですね。でも、CLIP STUDIO PAINTなら片方の目を一括で選択して、Ctrl+X→Ctrl+Cすれば簡単に分離できる。この機能はもっと早く知りたかったです……!

CLIP STUDIO PAINT 武田氏:
フォルダに入れたレイヤーを、一括で編集できるのはCLIP STUDIO PAINTの強みですね。対象定規機能など、CLIP STUDIO PAINTは効率もアップしながら、描きたいものをより楽しく描ける機能作りをすごく頑張っています。イラストレーターさんによっては、まずど真ん中に対象定規を置いて、綺麗に左右対称のモデルをラフで描いてからスナップをオフにし、ブラシの質感で細かく描き込んでいくパターンもあるようですね。VTuberデザインでも役立つ機能については、過去にLive2Dさん主催のイベントの中でも葉丸さんというイラストレーターの方にセッションを行っていただいたこともあります。
乾物氏:
いろいろな機能がありますよね。もっと早く知りたかったですし、これからどんどん使っていきます!

Live2D須田氏:
最後にお三方からご挨拶と、クリエイターやVTuberを志す方に向けてメッセージをいただけますか?
栢森氏:
今回はパパとママと揃って対談できて、本当に嬉しかったです!VTuberは数年前よりからたくさんの方がデビューされ、日常の様々な場所で見かける機会がも増えて、昔よりも聞き馴染みのあるジャンルになってきたなと感じています。同時にこれから始めるには競争率も上がっていて、魅力がないとなかなか見つけて貰いづらくなってきているのも事実です。
私からはVTuberを志す方向けへのメッセージになりますが、やっぱり自分の魅力を盛大にクリエイター様に伝えてほしいなと思います!ママ・パパのデザインやモデルが大好きであっても、全部をおまかせ・丸投げにはしないで欲しいのです。もちろん全ておまかせプランのクリエイター様もいらっしゃいますので、全クリエイター様にそうして欲しい!ということではないですが……。
自分の好きなものや得意なもの、苦手なものだけでなく、普段どのような場所でどのような生活をして、どのような性格で、なぜ今回VTuberデビューに至ったのか……など、あなたの世界観や魅力をクリエイター様に上手く伝え切れず、出来上がりを見て「自分はこうじゃないのにな」となってしまうことがクリエイター様にも自分にも一番良くないと思うのです。
まずは自分を構成するものは何なのかを知っておきましょう。それがクリエイター様とのより良いアイデア出しに繋がり、魅力的なお仕立ての1ピースになると思います。私自身もVTuberとして活動をしてきて、自分の魅力を知っていればいるほど熱量をもってファンの方へ伝えられる「力」にもなると感じています。
こう喋りながら、自分は改めて意見や感想をお互いに出し合いながら、共に楽しくお仕立てし合える深井先生、ひもの先生に出会えて幸せだなと感じています。この度はこのような素敵な場を設けてくださり、誠にありがとうございました!
深井氏:
今回はこんな素敵な場にお呼びいただけて光栄でした!ひもの先生から「深井さんはVTuberやクリエイターとすごく仕事が上手く回せているので…!」というお話を頂戴して今回お声がけ頂いたのですが、恐縮のかぎりです……!
「仕事をどうしたら上手く回せるんですか?」という点についてはシンプルそのもので、人と丁寧に接して、常に対話をしていく事が一番じゃないかなあと思っています。あらゆるクリエイティブのメインステージがインターネットに移行して20年ほど経とうとしていて、ともすればクリエイティブが、他人の存在を知覚せずに完結する世界、のように捉えられる事もあると思います。でも、例えば「いいね」をもらうのも、フォロワーやチャンネル登録者が増えるのも、商品が売れるのも、もちろんオンラインで完結するようなお仕事をするにも、それらは全部他人が居てはじめて成立する事なんだという事を、ぜひ意識の中で大切にして頂けたらなあと思います!
深井がお話させていただいた「トゥギャッターにまとめられた話」でもお話しましたが、イラストレーターは「好きなものを描いて、褒められて、お金が貰えるうえに、会社に行かなくていい」仕事というわけではありません。もうちょっと踏み込むと、「絵が描ける事は尊くて偉いこと」ってわけでもないですよね。もちろん、これは絵に限らず、クリエイティブ全てに言えることかなと思うんですが、「創れる」という事はあくまで技能であって、決して特権などではありません。他人が「クリエイターである自分」に合わせてくれる事や、甘やかしてくれる事を期待しちゃうと、もしかしたらちょっとずつ何かを失うのかもしれません。身もふたもないですが、他人は自分の思い通りには動かないですからね。だからこそ、対話が大切なんです。
目の前にいる人、隣にいる人、自分を見てくれている人、自分がなりたい目標に居る人、そういった他人との対話で作る関係の中で、初めて「皆で創る事」がきっと楽しく健康に成立するのかなあ、と、深井は思っています!
乾物氏:
本日はこのような貴重な機会を頂き本当にありがとうございました!須田さんから座談会のお話をいただき、真っ先に浮かんだのがエマさんと深井先生だったんですが、今日こうやってお話出来て、改めてここまで楽しく・円滑に・そして末永くお付き合い出来ているチームは貴重だなと思いました……!
恐らく、今日お話したことを全て取り入れる・参考にするのはとても難しいと思います。明日からでも参考にできる部分もあれば、この3人だから成立してる部分もあると思うので(笑) それでも、1つでも多く、今後のクリエイター活動・VTuber活動のヒントになれたらとても嬉しいです!
VTuber業界は、近年急激に成長してきた業界です。だから皆さん明確な「正解」がなく、思い悩むことも多いのかなと思っています。そんなときにこの座談会の内容が、「こういう答えもあるよ」というアンサーになれたら良いなと思います!
いろいろなクリエイター論みたいなことも熱く語ってしまいましたが、私もこの10年間、何度も失敗を重ねながら試行錯誤して続けてきて今があります。振り返るとやっぱり、「リスペクト」とか「対話」とか「熱意」とか、そういう根源的なものが続けるうえでは大事なのかなと思います。ルールとかモラルとか考え方なども話してきましたが、突き詰めれば全てそこに帰結するのかなと! 逆に言えば、根源的な他者へのリスペクトや熱意を忘れなければ、自ずとやりたいこと・やるべきこと・やっちゃいけないことも見えてくるのかなと思いますし、失敗もリカバリー出来ると思います。私自身も改めて「この業界で生きていく為に必要なこと」みたいなのを再確認出来た気がします!初心を忘れずに頑張りたいです!

「Live2D Cubism」PRO版は単月プラン2288円から利用可能。また、「CLIP STUDIO PAINT」はPC(Windows/macOS)/タブレット・スマートフォン スマートフォン・タブレット(iPad/iPhone/Android)向けに、月額単月480円から利用可能だ。
[執筆:Kei Aiuchi]
[取材・編集:Aki Nogishi]
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