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“ひきこもり”などになりうる心理的リスクが高いプレイヤーは、ゲーム内でも他者との交流や協力などを好まない傾向が見られたという。

奈良先端科学技術大学院大学などの研究チームは7月、「日本のゲーマーにおける社会的周縁化リスクと社会的交流傾向の負の関連性(Social marginalization risk and its negative association with socialising preferences in Japanese gamers)」と題する論文を発表した。本論文はオープンアクセスの国際総合学術誌「PLOS ONE」にオンライン掲載され、誰でも無料で閲覧できる。本研究では、社会的に孤立しうるリスクと、ゲーマーがゲーム内でどのようなプレイスタイルを好むのかの関係性を統計的に分析。結果として、社会的に孤立し“ひきこもり”などになりうる心理的リスクが高いプレイヤーは、ゲーム内でも他者との交流や協力などを好まない傾向が見られた。
ひきこもりは近年、日本のみならず世界で社会問題化している現象だ。厚生労働省の定義によれば、就労や就学、交遊などを回避し、原則的に6か月以上家庭にとどまり続けている状態を指すという。日本においては100万人以上が影響を受けているとされており、かつては若い男性を中心に広がっていると見られていた。しかし、2023年の政府調査では女性も相当数を占めており、本論文中では従来考えられていたほど大きな男女間の差が見られなかった例として紹介されている。本論文ではいくつかの先行研究を引用し、新型コロナウィルス感染症のパンデミック後には、社会的に孤立状態にある人の報告が世界規模で増加していることを指摘している。
長期にわたる深刻な社会的孤立は、さまざまな身体的、精神的疾患とも関連が指摘されている。そして論文では、ひきこもりを社会的撤退の一形態として扱いつつ、そこに至る前段階を含め、社会の中心的な活動から遠ざかりうる心理的傾向を「社会的周縁化リスク」という尺度で捉えている。こうした状態と、性別や年齢、日本をはじめとする文化的背景などとの関係性は先行研究の結果が一致しておらず、関連性がいまいちはっきりとしていないそうだ。
そんな中、“ゲーム”が社会的に周縁化しうる人を再び社会に繋げうる糸口になる可能性を探る研究が実施された。本研究では、集めたゲーマーのゲーム内行動の好みや、お気に入りのプレイスタイルを調査。ゲームを遊ぶ人のプレイ傾向と、社会的周縁化のリスクの間にどのような心理的特性が存在するのか分析が行われた。

まず研究チームは、クラウドソーシングサービスから募集された587人のゲーム経験を持つ日本人を対象とし、アンケート形式で調査を実施。学術的に実績のあるさまざまな尺度(NHR・HEXAD・GTSなど)を用いて、社会的周縁化のリスクとゲームのプレイスタイルの関係を調べた。なお、調査に参加した587人の平均年齢は39歳で、男女比はほぼ半々となっている。

結果として、社会的周縁化リスクの高いゲーマーほど、ゲーム内で他者を助けたり、交流したりすることを好む度合いが低かった。上の表は社会的周縁化リスクを示すNHR(NEET-Hikikomori risk)と、論文中で想定された「仮説変数(Hypothesis Variables)」とされたものの関連を示している。
一つ一つ見ていくと、まず「H. Philanthropist(利他主義者)」とされるものは、ゲーム内におけるゲームやゲーム内コミュニケーションにおけるプレイヤーの動機を6つに分類したHEXADのうちの一つだ。Philanthropistのプレイスタイルを好むプレイヤーは、他プレイヤーを助け、サポートすることに魅力を感じるとされる。「H. Socialiser(社交家)」も同様にHEXAD分類の一つであり、これはギルドやチームの結成や他人とのチャット、友人などとの協力プレイに魅力を感じるプレイスタイルだ。
上の表ではそうしたゲームにおける嗜好と、社会的周縁化リスク(NHR)との関連が示されている。表における「Standardized β(標準化ベータ係数)」とは、単位の異なる変数同士を比較できるように数値を標準化して算出されたもの。一般的には絶対値が大きいほど関連が強いと解釈され、値がマイナスなら一方の得点が高いほどもう一方の得点が低い関係を示す。今回の場合は、社会的に孤立しうるリスクが高い参加者ほど、ゲーム内で他人と助け合ったり、交流したりする傾向が有意に低い傾向にあったことが示されている。なおここで確認されたのはあくまで統計的な関連であり、一方がもう一方の原因であることを示すものではない点には留意したい。
ちなみに、「G. T. Social(社会的志向)」は、プレイヤーがゲームに対して持ちうる嗜好を5つに分類したGTS(Game Traits Scale)のうちの一つだ。こちらも協力プレイなどの他人との関わりを重視する嗜好であり、Standardized βは-0.208とPhilanthropistやSocialiserより関係は弱いものの、論文では統計的には有意な弱い負の関連があると報告されている。
これらの傾向は、年齢や性別を勘案しても同様に確認された。また参加者が外向的かどうかを考慮した場合でも、Standardized βが示す関連はやや弱まったものの、同様に統計的には有意な結果が示されている。なお研究チームによると、社会不安を抱える人と社会的周縁化リスクの高い人とでは、オンラインゲームにおける振る舞いが異なる可能性があるという。社会不安の場合は、対面時の否定的な表情や評価への敏感さが交流回避に関係する一方、匿名のオンライン環境ではむしろ交流しやすくなる場合があるとのこと。対して社会的周縁化リスクの高い人は、ゲーム内コミュニティを「有害(Toxic)」と考える場合、参加することで逆に孤独感やストレスを高めてしまうと想像し、自己防衛的な回避行動を取っているのではないかと考察されている。
なお論文によれば社会的周縁化リスクを示すNHRの高さは、社会的な支援や親密な関係といった「社会的資源」の乏しさと結びついている。一方で論文では先行研究に基づき、オンライン上で得られる支援や所属感がデジタルな社会関係資本となりうる点に着目し、オンライン上での関わりがリアルな社会関係を一定程度補完する可能性に言及。さらに、他プレイヤーとの対戦や社会的対立を避けられる、より「低リスク」な体験の候補として、物語主導型のビジュアルノベルが挙げられた。物語における登場人物との擬似的な社会関係によって、プレイヤーがデジタル上での社会的資源を得たり、維持したりできる可能性があるという。
プレイヤーのゲーム上での嗜好や動機の分類であるHEXADとGTSには他にもさまざまな分類が存在する。研究チームは得られたデータから残りの計8項目と、NHRの高スコアとの関連性を調査した。

上の表は年齢と性別を考慮した追加分析の結果だ。HEXADやGTSの8項目のうち5項目がNHRと有意な負の関連を示している。特に、高難度の挑戦的要素や実績を求める「H. Achiever(達成者)」の項目がNHRと中程度の負の関連を示している。また、自由な探索やキャラクターのカスタマイズを好む「H. Free Spirit(自由人)」や、クエストの達成や敵からのアイテムドロップなど、報酬を得る機会に駆られる「H. Player(報酬獲得者)」にくわえ、困難を克服することを好む「G. T. Challenge(挑戦志向)」の3項目ともNHRとやや弱い負の関連が存在している。つまり、社会的周縁化リスクが高い参加者ほど、ゲーム内で自由に振る舞ったり、達成感や困難を求めたりする傾向がやや低かったということになる。また、ゲーム内で用意された報酬に惹かれるとも限らないという点もやや弱いながら関連が見て取れる。このほか、物語への志向を示す「G. T. Narrative」にも弱い負の関連が見られた。
研究チームは、「H. Achiever」や「G. T. Challenge」とNHRとの負の関連に着目。論文中では先行研究を引用して、NHRが高い人ほどネガティブなフィードバックを受けた際に、困難な課題への継続性が低下した研究結果が紹介された。ゲームにおける急激な高難度化や、プレイヤーの失敗を強く責めるようなフィードバックの存在は、社会的周縁化リスクの高いプレイヤーの挑戦意欲や、継続意思を削ぐのではないかと指摘している。
また、研究チームは「H. Free Spirit」の項目とNHRの負の関連についても言及。社会的周縁化のリスクの高い参加者については、より内向的で、人目や他者からの評価を意識しやすく、自分の考えや感情を表現することに難しさを抱えている可能性があると考察している。論文においては、そういった自己表現の困難さについて、日本社会の集団主義的な文化背景が影響している可能性を示唆。論文中では先行研究を引用し、社会的に周縁化した若者ほど、日本社会における「相互依存」や「同調圧力」を避ける傾向が報告されている点に言及。今回の研究チームは、そうした文化的影響が心理に残り、ゲーム内で自由に探索・表現することへの志向を抑えているのではないかと考察している。
論文では、社会的に周縁化し、孤立しうるリスクのある人に向けたゲームデザインも提案されている。ここでは調査におけるデータにくわえ、「SDT, Self-Determination Theory(自己決定理論)」という心理学の枠組みを利用して3つの具体例を提示している。
まず、研究チームはSDTにおける「Competence(有能感)」を満たすため、ゲームの難易度を急激に上げず、複雑なゲームシステムは段階的に導入すべきだと提案している。いきなり現れる困難や、否定的なフィードバックによってプレイヤーの意欲を削ぐことを避けつつ、成長や上達を感じられる設計が望ましいという。
2つ目は、オンライン要素として対戦や競争よりも、協力や交流をゲームプレイにおいて重視すべきという提案だ。SDTにおける「Relatedness(関係性)」を満たすことを狙って、これも初めは緩やかな繋がりから長期的な交流へと段階的に導入されるのが望ましいとのこと。強制のない緩やかな連帯は「自分が迷惑な存在になってしまうのでは」という恐れや、有害な人間関係への恐怖を軽減できるのではないかと考察されている。
最後の3つ目は、プレイヤー自身がそのゲームを「いつ・どれだけ遊ぶか」をコントロールできる点を重視すべきというものだ。これはSDTの「Autonomy(自律性)」を満たすもので、自分のペースを自分で管理できることがストレスの軽減やプレイのしやすさに繋がるのではないかと説明されている。1回のプレイ時間が短く済み、柔軟にプレイを止めたり再開できたりすることが、ゲームが交流や社会参加への“入り口”であり続けられるという点で望ましいのではないかと提案されている。
本研究では多数の参加者から集計されたデータから、ゲーム内の嗜好と社会的周縁化リスクの関連性が示された。しかし、調査に参加した587人の日本人ゲーマーのNHRスコアの平均は103.4であった点は明記したい。NHRのスコアは104以上で高リスクとみなされるため、参加者の半数以上(52.3%)が高NHR群であったといえる。参考として、日本の大学生を対象とした過去の調査では、高NHR群は21.7%にとどまり、シンガポールの地域住民を対象とした調査でも22.3%であった。調査対象や募集方法が異なるため単純な比較は難しいものの、今回の研究の参加者において、NHR得点の高い人が比較的多くを占めていたことがうかがえる。またNHRの得点に限らず、年齢や文化的背景など、今後はより多様な参加者を対象とした追加研究も期待される。
このほか、調査方法が自己報告式のアンケートである点や、ゲーム内で実際にどのような行動を取ったのかという詳細なログがない点も研究チームは考慮すべきだと伝えている。また、日本語化されて用いられたHEXADおよびGTSは、主要仮説で扱われた項目については尺度として許容できる結果が得られた一方、尺度全体では各項目が想定どおりの分類に分かれることを十分に確認できなかったという。さらに、社会的周縁化リスクの高さがゲーム内の嗜好に影響したのか、あるいはゲーム内の嗜好が社会的周縁化リスクを高めるのかという因果関係についても明言することができないとしている点には留意したい。今回示された結果は、あくまで両者の関連にとどまるわけだ。

ゲームをプレイすることは今や一般的な趣味と言える。好きなジャンルやプレイスタイルも人によってさまざまで、特定のプレイスタイルを好むからといって病理的な問題と結びつくわけではないだろう。本研究では、ゲームのプレイスタイルとしてオンライン交流を避けたり一人でオフラインゲームを黙々としたりするプレイヤーの社会的周縁化リスクが高いと示しているわけではない点には注意したい。実際のところNHRはあくまで社会的周縁化のリスクを測る尺度というだけであり、高スコアだからといって、“ひきこもり”と診断されることを意味するわけではない。
一方で本論文は、ゲームという身近な娯楽が、精神的に困難な状況にある人々に如何にして寄り添いうるかを考えるきっかけを示しているだろう。最近では、こうしたゲームの有用性に着目した試みも数多い(関連記事1、関連記事2、関連記事3)。ゲームが娯楽として成熟した現在、その設計がプレイヤーの心理や社会とのつながりにどのような影響を与え、また進化していくのか、今後の研究にも注目したい。
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