国会議員の赤松健氏が“過去のゲームの合法的なプレイアブル保存”について国会で話し合ったと報告。あらゆるゲームを残す試み着実に進む

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参議院議員の赤松健氏は6月1日、「プレイ可能な状態での過去のゲームの合法的保存」に向けた取り組みを進めていることを報告した。着手から10か月がたち、国会にて本件についての質疑応答もおこなわれたそうだ。


赤松健氏の“野望”

赤松氏は「ラブひな」「魔法先生ネギま!」などの人気作品を手がけた漫画家だ。漫画執筆業のかたわら表現規制への反対活動を続けてきた同氏は、第26回参議院議員通常選挙にて漫画家として初めて国会議員に当選。創作表現に対する規制反対を掲げ、全国から52万8053票の指示を集めていた。その出自や活動から、漫画・アニメ・ゲームなどを好む有権者らの支持層も厚いと見られる。

赤松氏はこれまで「プレイ可能な状態での過去のゲームの合法的保存」を、国会議員となったうえで実現したい目標としてきた。レトロゲームやガラケー向けのゲームなど、これまでに世に出てきたゲームのなかには、現在はプレイすることが難しいものも多い。それらのゲームを何らかのかたちで保存し、リモートでプレイできるような環境および法律の整備を目指していきたいと伝えていた(関連記事)。



国立国会図書館での実現に向けて

今回、赤松氏は自身の公式ブログにて、この取り組みの実現に向けた経過を報告している。まず同氏は、プレイ可能な状態での過去のゲームの合法的保存をもっとも高い可能性で実現できるのは国立国会図書館であると言及。その理由として「ゲーム会社と違って倒産の危険性がない」「納本制度によりゲーム会社からソフトを納めてもらえる」「一般人からのゲームソフトの寄付も可能」「一定の場合、権利者の許諾なしに著作物を複製できる」との見解を挙げている。なお国立国会図書館における納本制度では、国内で発行されたパッケージ版ゲームソフトが対象となる。

一方でこの取り組みには課題もある。赤松氏は、ゲーム機やゲームソフトが故障などの経年劣化により使えなくなることを課題点として指摘。特にゲームソフトの経年劣化については“喫緊の課題”とされている。同氏はこの問題への対処として「エミュレーターの使用を視野に入れる」「経年劣化に弱いメディアから優先的に近代的なメディアへのマイグレーション(データ移行)をおこなう」「コピープロテクトの合法的な解除をおこなう」ことが必要だと説明している。

赤松氏は「エミュレーターの使用/マイグレーション/コピープロテクトの解除」は、これまで民間でもおこなわれてきたゲーム保存の取り組みにおいて高いハードルとなっていたと述べている。そこで同氏は、自身の国会議員という立場を活かし、このハードルを越えることを目指しているという。


“仁義”を通す全国行脚

また赤松氏は目標達成に向けて、弁護士たちと共に法的な側面からの検討をおこなってきたほか、既存のゲーム保存団体への説明・見学も実施。これまで、ビデオゲームの歴史や系譜など文化を記録する「ゲーム文化保存研究所」、ビデオゲームの黎明期に制作されたメディアの保全をはかる「ゲーム保存協会」、これまで発売されてきたゲームがどこでどのように所蔵されているかの調査および組織化活動をおこなっている「立命館大学ゲーム研究センター」などを訪問してきたそうだ。また国内の大手ゲーム会社との意見交換もおこなったという。

一連の訪問には、今後赤松氏がゲーム保存の取り組みを進めるにあたって既存のゲーム保存団体・ゲーム会社への“仁義”を通す意図があるとのこと。さらには既存団体との協力関係の確認およびゲーム保存におけるノウハウを学ぶ機会にもなったようだ。また海外視察として、フランス国立図書館および韓国のネクソン・コンピュータ博物館を訪れたことも伝えられている。


ついに国会での話し合いに

そうしたさまざまな視察を経て、赤松氏は「ゲームの振興およびプレイアブル保存」について国会での質疑応答に漕ぎつけたことを伝えている。同氏は自身の所属する参議院・文教科学委員会の会議にて、文化庁や文部科学大臣に質問を実施。各省庁が今後もゲームを含めたメディア芸術の復興・発展に前向きな姿勢にある点を確認したという。

さらに同会議で赤松氏は、国立国会図書館に対しても「(納品制度による)ゲームソフトの収集状況」「ゲームのプレイ可能な状態での保存・利活用」について尋ねたという。同図書館の答弁によると、ゲームソフトの収集状況については、2022年12月時点でのパッケージ版ゲームソフトの収集点数は約7200点とのこと。内訳としては、2000年以降に発行されたものが約6800点、同年より前に発行され寄贈により受け入れられたものが約400点だったそうだ。


一方で、同答弁によると文化庁の「メディア芸術データベース」での平成12年以降登録された物理パッケージのゲームは約2万件。国内におけるパッケージ版ゲームソフトの発行数を網羅的に収集・把握することは困難とされているものの、少なくとも同データベースの数値に基づけば発行数全体の約3割しか納入されていないことになる。国立国会図書館は赤松氏に対して、今後納入実績がないゲーム会社などに対して納入依頼をおこない、納本制度の対象となるパッケージ版ゲームソフトの納入に繋がるように努めていくと回答したそうだ。

またゲームのプレイ可能な状態での保存・利活用について、国立国会図書館では、実際のゲーム機を用いてプレイアブルな形で提供することを一部のゲームソフトに対して試行的におこなっているとのこと。今後は、ゲームの調査研究の目的に応えることができるように、ゲーム機の種類を増やすなどの利用環境の整備を進めていくそうだ。収集したゲームソフトの資料としての保存のために引き続き細心の注意を払いつつ、提供対象を広げていく予定とのこと。

一方で国立国会図書館に保存されたゲームをプレイできるのは、現状ゲームの調査研究を目的とする利用者のみ。赤松氏は答弁の締めくくりに、ゲームの調査研究のほかに、古いゲームの内容や技術にインスピレーション受けて新たなゲーム開発に生かすことも、保存されたゲームの重要な役割だと伝えている。国立国会図書館に対して新たなゲームの開発目的でもプレイ可能になるような、保存されたゲームを利用できる目的の範囲拡大を検討してほしいとの意見を述べ、このトピックについての質疑応答を終えたそうだ。


今後の課題

赤松氏は先述のとおり、最終的にはゲームのマイグレーションやエミュレーターの使用も視野に入れたゲームソフトのプレイアブルな保存を目指している。また過去にはリモートでプレイできるような環境・法律の整備を目指したいとも伝えていた。一方で現時点での国立国会図書館でのゲームのプレイアブル保存においては、調査研究目的かつ館内での利用に限定される。同氏の目指すかたちでのゲームのプレイアブル保存に向けては、まだまだ課題が存在するだろう。

なお先述の海外視察において、フランス国立図書館では古いゲーム機に向けたゲームソフトは、場合によってはエミュレーターを用いるかたちでプレイアブル保存されていたという。またそうしたゲームソフトはコピープロテクトを外してマイグレーションされていたとのこと。これは違法にコピーされたゲームソフトともいえるが、館内の所蔵物にアクセスするためという目的が優先され、例外的に使用が許可されているそうだ。ただし図書館内のみでしか利用できず、スクリーンショットも禁止された研究目的の制度であったという。

ちなみに赤松氏は今回の質疑応答において「ゲームの振興及びプレイアブル保存について」の質問に絞った理由を「エミュレーターなどの高度な要請をいきなりおこなっても政府答弁が混乱するから」と述べている。各省庁や政府機関がゲームソフトの保存に関する認識を深めることもゲームのプレイアブル保存における課題のひとつとなりそうだ。

なお政府によるゲームを含めたメディアへの取り組みとしては、文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図る「文化芸術推進基本計画」がある。第1期基本計画は2018年3月に策定され、その成果と課題を踏まえた第2期基本計画が今年3月に閣議決定された。赤松氏によると、当初の第2期基本計画案においては、前文のメディア芸術の例に「ゲーム」の記載がなかったという。ここに同氏の提案でゲームが加わり、現在の「現代的な、美術・音楽・演劇・舞踊等の芸術、映画・マンガ・アニメーション・ゲームといったメディア芸術」との記載になったそうだ。

赤松氏によるゲームのプレイアブル保存に向けた取り組みが明かされた2022年7月から約10か月。この間に既存のゲーム保存団体との話し合いなどがおこなわれ、このたび国会での質疑応答に至ったかたちとなる。赤松氏の描く夢は実現に向けて着実に歩みを進めており、今後の動向にも注目していきたい。




※ The English version of this article is available here

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なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。