『ベヨネッタ3』で降板した英語版元声優のギャラオファーは「声優の主張する額よりもっと高かった」との報道。食い違い続ける主張

 

俳優のHellena Taylor氏は10月15日、自身のTwitterアカウントを通じて声明を発表した。同氏は『ベヨネッタ』シリーズの主人公ベヨネッタの英語版声優を務めてきたが、新作『ベヨネッタ3』では降板。声明では降板した理由を明かし、理由のひとつとして報酬の少なさを挙げていた。一方で同氏の明かした報酬額に、食い違いを見せる証言も報じられているようだ。海外メディアBloombergとVGCがそれぞれ伝えている。


『ベヨネッタ3』でのベヨネッタの英語版ボイスには、これまでずっとベヨネッタを演じてきたHellena Taylor氏が再登板するものと思われたが、今年10月になって降板することが正式に公表。代わりにJennifer Hale氏が担当することとなった。主役声優の交代について、開発元プラチナゲームズの本作のディレクター宮田祐輔氏は、“さまざまな事情が重なった”ために、Taylor氏をふたたび起用することが困難になったと説明していた(Nintendo Everything)。交代の具体的な理由については、開発元から明かされていなかったわけだ。

一方Taylor氏は10月15日に、声明にて降板した理由を明かし、さらにファンに対して新作のボイコットを呼びかけた(関連記事)。同氏によれば、プラチナゲームズから提示された報酬は4000ドル(約60万円)であったという。同氏は、『ベヨネッタ』シリーズおよびそのファンに捧げてきた時間と自身の才能からすると、そのような金額は侮辱的であると述べていた。

しかしながら海外メディアBloombergおよびVGCの報道によれば、プラチナゲームズは当初、Taylor氏を『ベヨネッタ3』に続投する予定だったようだ。両誌が関係者からの情報として伝えるところによると、同氏に対しては少なくとも4~5回程度のスタジオ収録で、それぞれ約3000ドルから4000ドルのギャラが提示されていたという。総報酬額としては約1万5000ドル(約220万円)ほどが見積もられたとのこと。

Taylor氏の声明が投稿された際に、米国でのゲーム作品の声優に支払われる報酬について、俳優のLily Emil Lammers氏が言及していた。もし1日4時間の収録を4セッションこなして完了する仕事であれば、全米映画俳優組合の規定に従うと4000ドル程度の報酬がベースになるだろうとのこと。今回両誌の伝えた情報が正しければ、Taylor氏には相場よりも手厚い報酬が用意されていたことになるだろう。またAxiosのジャーナリストであるStephen Totilo氏もまた、Taylor氏へのオファーは1万5000ドルほどであり、プラチナゲームズとしては二番目に高い(であろう)オファーであったと聞いたと伝えている。

そしてBloombergによれば、Taylor氏は『ベヨネッタ3』出演のオファーに対し、“6ケタ”の報酬とゲーム発売後の収益に応じた報酬も要求したとされている。またVGCもまた、ゲーム発売後の報酬を要求した点については確認しているようだ。Bloombergによると、交渉が長引いた結果、プラチナゲームズは新たな声優を迎えるオーディションを決断したとのこと。降板したTaylor氏へは、1セッションの料金でカメオ出演(小ネタ的な出演)を依頼したが断られたとも。両誌の報道が事実だとすると、Taylor氏の降板の理由は、ギャラが安かったのではなく、ギャラ引き上げ交渉の決裂に起因しているように見える。

一方でTaylor氏はこれらの報道および問い合わせに反論。同氏は合計約1万5000ドルの報酬提案があったとする報道の情報源について、「完全な嘘であり、プラチナゲームズは保身に走っている」と述べているとのこと。プラチナゲームズ側が意図的に情報を流していると推測しているように聞こえる。そして同氏は依然として、自身の声明動画で語ったことは真実であると主張しているという。今回の報道を受けて、動画にて語った内容を撤回するつもりはないようだ。

なおTaylor氏が10月15日に声明を投稿した際には、プラチナゲームズの神谷英樹氏が自身のTwitterアカウントにて英語でのツイートをしていた。その内容は、「虚偽の意見に触れ、悲しく嘆かわしい」「いま言えるのはそれだけである」というもの。Taylor氏の声明に対してのツイートかどうかははっきりしないものの、もしそうであればTaylor氏の主張のいずれかの部分、あるいはすべてが、神谷氏の認識とは異なるかもしれない。そもそもとして、演者へのオファーに関してはエージェンシーや事務所など第三者が噛んでいるケースも多い。なんらかの要因により、プラチナゲームズが出したオファーとTaylor氏が見たオファー額にギャップが出ている可能性もあるだろう。

Taylor氏の声明や両誌の報道のどこまでが真実なのか、第三者にはさらに判断し難い状況になったといえる。そもそも任天堂およびプラチナゲームズ側がオフィシャルな主張をしていない以上は、判断しようもない。いずれにせよ、すでに新声優も決まっており発売日も固まっていることから、Taylor氏がどのような主張をするにしても、このまま『ベヨネッタ3』は発売にむかって進んでいくことにはなりそうだ。

【UPDATE 2022/10/21 13:40】

プラチナゲームズは10月21日、日本および海外向け公式Twitterアカウントを通じて声明を発表した。同社は、長年にわたり『ベヨネッタ』シリーズの創造に多大な貢献をしたすべての協力者や、シリーズを支えてくれたコミュニティに深い敬意と感謝を抱いているとのこと。そのうえで同社は、『ベヨネッタ3』にてベヨネッタの英語版ボイスを担当するJennifer Hale氏の立場と主張を支持するとコメント。同氏やほかの協力者に対する、尊厳を傷つけるような行動は控えてほしいと呼びかけた。

プラチナゲームズは、“Jennifer Hale氏の立場と主張”が具体的に何なのかは言及していないが、おそらく先日同氏が投稿した声明のことを指しているのだろう。同氏は、あらゆる俳優が十分な報酬を受け取る権利があると訴えてきたことや、ベヨネッタの英語版前声優のHellena Taylor氏が提起した報酬に関する意見の相違が、友好的に解決されることを望んでいることなどを述べていた。

Taylor氏が10月15日に声明を発表して以降、プラチナゲームズをはじめとする『ベヨネッタ3』の関係者に対しては、出演声優に十分な報酬を提示しなかったとみなしての批判ツイートが寄せられていた。そのなかで、Hale氏に対しても批判が及んでいたようだ。そして、Taylor氏に提示された報酬は同氏の説明よりもはるかに多かったとする一部報道が出た後には、Taylor氏に対する批判が巻き起こる状況となっている。今回プラチナゲームズは、関係者に対する過度な批判を控えるよう呼びかけた格好だ。

一方で、Taylor氏と報道で食い違う報酬に関する事実については言及しなかった。なお、Taylor氏は報道内容を否定している。最終的に真実は明らかになるのだろうか。