PS5『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』のリベットは「胸とお尻を膨らませるか」で激しく議論されていた。女性への固定観念との闘い

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ラチェット&クランク パラレル・トラブル』の元開発者が、同作に登場する女性主人公「リベット」の背後にあった議論について明らかにしている。リベットを生み出すにあたっては、「ステレオタイプな女性」にするかどうかで激しい口論があったそうだ。つまり、「胸やお尻を膨らませるかどうか」である。 

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』は、銀河を舞台にラチェットとクランクのコンビが冒険するアクション・アドベンチャーシリーズの最新作。対応プラットフォームはPlayStation 5。今作では「異次元」がテーマとなっており、おなじみのシリーズキャラクターが異次元にて、異なる役割をもって登場する。なじみ深いサブキャラクターの異なる顔を楽しめる一方、主人公であるラチェットにも“異次元バージョン”が登場。それが、ラチェットと同じ種族「ロンバックス」でありながら、女性として登場する第2の主人公リベットである。大きな耳などラチェットと共通のパーツをもちつつ、異なる毛並みの色を特徴とするキャラクターだ。ただし、女性とはいっても体形はラチェットとそれほど変わることがなく、中性的な風貌をしている。 
 

 
今回口火を切ったのは、現在メディア企業Magnopusにてプリンシパルキャラクターアーティストを務めるXavier Coelho-Kostolny氏。同氏は2019年まで3DキャラクターアーティストとしてInsomniac Gamesに所属し、『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』や『Marvel’s Spider-Man』に携わってきた。

同氏が『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』に携わっていたとき、きわめて激しい口論が起きたという。議題は、同作における女性主人公リベットの造形についてだった。ゲームディレクターとアートディレクターは、リベットが「ステレオタイプな女性」としての姿かたちをしているべきだと主張。具体的には、胸やお尻を膨らませるべきだと主張したという。これに対し、リードライター、リードキャラクターテクニカルディレクター、そしてシニア3DキャラクターアーティストだったCoelho-Kostolny氏の3名は、あくまでリベットはありのままの姿で活躍させるべきだと主張した。 

Coelho-Kostolny氏は注意すべき点として、この議論が起きたときの男女比について述べている。リベットの胸やお尻を膨らませるべき、と主張したゲームディレクターとアートディレクターは、双方とも白人のシス男性(生まれつき性自認が男性)。一方、これに反対したリードライターは女性だった。さらに、リードキャラクターテクニカルディレクターは現在トランス男性だが、このときはまだ自身の性を移行しておらず、女性としての立場で所属していた。なおCoelho-Kostolny氏自身は白人のシス男性である。 
 

 
Coelho-Kostolny氏らのチームは20名以上で構成されていたが、議論に加わっていない人物も含めて、女性は3名しかいなかったとのこと。残りの全員は男性であった。つまり、チーム全体の女性における3分の2が、リベットをステレオタイプな女性とすることに反対していたことになる。

Coelho-Kostolny氏らが主張したのは下記の三点だ。第一に、「リベットがステレオタイプな女性の見た目をしていなくてはならない」という主張は、「どんな見た目であっても、誰でもヒーローになれる」という作品のメッセージに反する。第二に、女性であるためには、必ずしもステレオタイプな女性の姿をしている必要はない。そして第三に、「リベットはラチェットと同じエイリアン宇宙狐(ロンバックス)だと言っているだろ」とのこと。 

リベットの外見をめぐる口論は、30分以上にもわたり繰り広げられた。最終的にCoelho-Kostolny氏は、額装してオフィスに飾ってあった『ラチェット&クランク』のポスターを持ち出して、ゲームディレクターとアートディレクターに突きつけ。「ラチェットのどこが、人間の男性と似ているのか?」と追及したのだという。男性であるラチェットが人間の男性と似ている必要はないのに、どうして女性であるリベットは人間の女性のような姿をしていなくてはならないのか、というわけである。議論はこの点に及ぶと急速に鎮火し、すべてのメンバーが信じられないほど不快な気持ちを抱いたまま、お開きとなった。Coelho-Kostolny氏は、この出来事の実に数週間後にInsomniac Gamesを去っている。さらにいえば、議論に参加したメンバーのうちの3名は、すでにスタジオに所属していないという。
  

 
一連の出来事を振り返ってCoelho-Kostolny氏は、「リベットの胸を膨らませるか問題」という些細な出来事が、女性や立場的に弱い人々にとって有害で敵対的な環境を生み出す一因になりうる、と述懐している。「リベットに大きい胸をつけよう」という提案を、議論することもなく認めてしまった場合、それはそうした問題が“大したことではない”と容認していることになる。それは、ひいては人々からの信頼を失うことにつながる、とCoelho-Kostolny氏は述べる。同氏は、リベットの胸を膨らませるのが“大したことではない”なら、“大したこと”のボーダーラインは一体どこにあるのか? と問いかける。 

Coelho-Kostolny氏は自身の態度についても、必ずしも完璧ではないと述べる。というのも同氏は初めて取り組んだ仕事で、似たような出来事を看過してしまったことがあるという。Coelho-Kostolny氏はキャラクター造形において自らが下した判断を、今でも後悔しているそうだ。同氏は自身の経験で起きた“些細な出来事”を振り返りつつ、こうした小さなことについて声をあげていけば、Activision Blizzard規模の騒ぎは起こらずに済むと語った。Coelho-Kostolny氏が今回『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』での出来事を振り返るきっかけとなったのは、Activision Blizzardのセクハラ問題(関連記事)だったようだ。 
 

 
Coelho-Kostolny氏の主張は、「シス男性にとって些細な問題であるようなことが、蓄積されれば女性や立場的に弱い人々にとって有害な環境を生み出しうる」ということだ。これを敷衍して考えれば、Activision Blizzardにて蔓延していた「Frat boy」的な文化も、元をただせば単なる“男子サークル的なノリ”に過ぎなかったものが、蓄積されることで「女性従業員に対する不当な扱い」が根付く企業文化を醸成してしまった、といえるかもしれない。業界を揺るがすActivision Blizzardの一件だが、同社に限らず、雇用環境のありかたを見直すきっかけとなっていきそうだ。 

ちなみに最終的なリベットの姿はというと、身体の凹凸は少なく、スレンダーな姿となっている。ラチェットと共通する体形となっており、新たな主人公として申し分のない凛々しさとキュートさを兼ね備えたスタイルといえそうだ。『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』を遊ぶときは、 Coelho-Kostolny氏らの試みにも思いを馳せてみてはいかがだろうか。 
 

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