ゲーム開発者が、自分の給与を公開するハッシュタグ「#GameDevPaidMe」広がる。秘密になりがちなオカネまわりの話を共有

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ゲーム開発者の間で、自身のキャリアとその時期に受け取っていた給与を公開する動きが活性化している。Twitterにて「#GameDevPaidMe」とのハッシュタグが拡散され、各デベロッパーが自身の受け取っている給与を公開しているのだ。同ハッシュタグは、もともと2020年より拡散されていた。Obsidian Entertainmentにてナラティブデザイナーとして勤務しているKate Dollarhyde氏がハッシュタグを創設。給与待遇における職業・性・人種差別を是正するべく、Twitterに自身のキャリアと給与歴を公開したのが始まりだとされる(Gamerant)。給料の話は、なかなか同僚同士でも共有しづらいトピック。しかしそのせいで、自分がもらっている給与が適正かどうか、判断しづらいデメリットもある。そんな中、給与を公開することで、透明性を高め、待遇格差を是正する動きが出てきているのである。なお多くのデベロッパーは特に明記していないが、金額規模から年収と判断して本稿には記載している。 

特に注目を集めている事例をいくつかピックアップして見てみよう。Riot GamesでGame Producer IIの役職に就くSara Dadafshar氏は、昨年に引き続き自身のキャリア歴と給与の変遷を公開。同氏はペルシャ国籍でシスジェンダーの女性、コンピュータサイエンスの学位を保有している。まずBlizzard Entertainmentにてインターンとして働いていた時代は、時給にして16.75ドル(約1824円)の待遇を受けていた。その後同社にてアソシエイト・プロジェクトマネージャーとしてのキャリアをスタートすると、年収5万9000ドル(約642万円)を得るようになる。 

Blizzard内でプロジェクトマネージャーにキャリアアップすると、年収は7万4000ドル(約806万円)に向上。のちにRiot Gamesへ転身し、プロジェクトマネージャーとして13万4000ドル(約1459万円)の年収。現在はGame Producer IIの役職として、年16万8000ドル(約1829万円)を受け取っているという。企業移籍を挟みながら、プロデューサーとして着実にキャリアアップしていった過程がうかがえる。 
 

 
一方、より大きな山を登った人物もいるようだ。シニアテクニカルアーティストを務めているというSol Brennan氏の例を見てみよう。同氏はこれまでのゲーム業界遍歴として、Insomniac Gamesにて『Marvel’s Spider-Man』に携わったほか、Ready At Dawnでは『The Order: 1886』の開発に関わっていたという。同氏は2012年、英国のBlitz Gamesにてジュニアテクニカルアニメーターとしてキャリアを開始。当初の年収入は1万7000ポンド、日本円にして約261万円程度に過ぎなかったそうだ。 

その後Brennan氏は2014年に渡米。Ready At Dawnにてキャラクターテクニカルアーティストとしてキャリアアップすると、収入は大きく向上し5万〜5万500ドル(約544万〜599万円)に。2016年にはInsomniac Gamesに移り、キャラクターテクニカルデザイナーとして7万9000〜8万9000ドル(約860万〜969万円)の収入を確保。2020年以降はUnity Technologiesにてシニアテクニカルアーティストの職に就き、年17万5000ドル(約1905万円)の収入を得ているそうだ。自身のキャリアについて「何度もめちゃくちゃにされてきた」と振り返り、「もう二度とごめんだ」と述懐するBrennan氏。給与の変遷が激しくなった原因としては、ゲーム開発の専門会社から、技術系の会社(Unity)に転身したからだろうと述べている。 
 

 
また、先日「デベロッパーか否か」の議論で注目を浴びたQA(Quality Assurance・品質保証)を務める人々からも情報が寄せられている。現在Proletariatの『スペルブレイク』にてシニアQAを務めているというRobbie Russell氏の遍歴を見ると、2016年から2017年にかけてはHarmonixにて契約QAとして勤務。その際の給与は時給にして20〜23ドル(約2177〜2504ドル円)だったという。その後2017年から2020年にかけてはフルタイムQAとして勤務。そのときの年収は4万1000ドル〜4万3000ドル(約446万〜468万円)程度。現在は籍を移し、ProletariatにてフルタイムのシニアQAとして6万2500ドル(約680万円)の収入を得ているとのことだ。キャリアアップはしているものの、前述のPM職やテクニカルアーティストと比較すると、やや控えめな数字ともいえる。 

また、現在ジュニアコンテンツデベロッパーとして Jagex にてコンテンツ制作をおこなっているDiana氏によれば、2019年にジュニアQAだった時代は1万7000ポンド(約261万円)の年収。2020年にはフルタイムQAとなるも、年収は1万9500ポンド(約300万円)にとどまった。一方、2021年にはジュニアコンテンツデベロッパーに転身し、収入は年2万8000ポンド(約430万円)に増額している。QA職は専門知識を必要とする職業でありながら、長時間労働を強いられるうえ賃金は低いとの批判が以前から噴出していた。改めて数字として見ると、その実情の一端が垣間見られるようだ。 
 

 
一方、やはり専門性の高い職業は待遇も高いことがうかがえる。プログラマーだという Pat Cavit氏は、2008年ウェブプログラマーとしてキャリアをスタートした時点で年収8万ドル(約869万円)と高収入。その後10年間で着実にステップアップしていき、2017年には Amazon Game Studiosへ移籍し本格的にゲーム業界へ。ここではフロントエンドエンジニアとして20万8000ドル(約2261万円)の年収からスタートし、2019年にはシニアフロントエンドエンジニアに。『Crucible』の開発などに携わり、年24万ドル(約2609万円)という破格の待遇を受けている。なお同氏は今年1月をもってAmazon Game Studiosを離れている。プログラマーはIT/ゲーム業界ともに高い給与を得る傾向があるようだ。 
 

 
このほか、15年にわたるキャリアを公表している人物もいる。Riot Gamesにてシニア・プリンシパルテクニカルアーティストを務めるJeremy Ernst氏は、かつてEpic Gamesにてリードテクニカルアニメーターを務めていた人物。白人のシスジェンダー男性で、現在は30代後半の人物だ。同氏は2006年にMonolithにてアニメーターとしてのキャリアをスタートし、5万ドル(約543万円)の年収を受け取っていた。 

その後Zombieに移籍しテクニカルアニメーターとして年収6万5000ドル(約707万円)にキャリアアップ。同年にはEpic Gamesへ移籍することになるのだが、意外にもこのときの待遇は年収6万3000ドル(約685万円)にいちど下がったようだ。ただしこのときアメリカ西海岸のシアトルから東海岸へ転居し、生活費が大幅に下がったため、可処分所得は増えていたとのこと。その後同社で経験を積み、2017年にはリードテクニカルアニメーターに昇進。年収15万ドル(約1631万円)を受け取るポジションへと上り詰めた。現在もRiot Gamesにて同等の待遇を受けているようだ。 
 

 
ハッシュタグでは、大企業に務めるベテランから駆け出しのアーティストまで、さまざまなポジションのゲーム開発者が自身の給与を公表している。またそれぞれ、自身の人種やジェンダーなどを付帯情報として併記していることも興味深い点だ。総覧すれば、役職ごと、あるいは人種やジェンダーによる給与の格差が見えてくる興味深いデータとなりそうだ。今現在に至るまで、Twitterでは数多くの情報が寄せられている。特にアメリカの都市部は物価が高く、その分給与も高い。日本の年収と単純に比較できないものの、業界関係者にとっては参考になるデータかもしれない。 なおこちらでは、各地から匿名で寄せられたゲームデベロッパーの給与を一覧で確認することも可能だ。

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