「QAスタッフはゲームデベロッパーか否か」。海外の開発者の間で議論勃発、認識の差から生まれたすれ違い


ゲームを開発し発売するまでの過程では、さまざまな職種のスタッフが携わる。そうしたスタッフに対しては、しばしば「デベロッパー」と一括りにして呼ぶことがあるが、実のところどこまでの範囲の職種を指すのか曖昧な言葉である。たとえば、「QA(Quality Assurance・品質保証)」に携わるスタッフは“デベロッパー”だろうか。このトピックについて、ゲーム業界に携わる人々がSNS上で議論を交わしている。


議論のきっかけとなったのは、CGプロダクション会社SOLA DIGITAL ARTSのクリティブディレクターであり、経済誌Forbesにてゲームなどの記事を執筆しているOliver Barder氏のTwitterへの投稿だ。同氏のある親友は日本でゲームのローカライズに携わっているそうだが、自身をゲームデベロッパー(game developer)と呼ぶことはしないというエピソードを明かした。

またBarder氏も、かつてテスターとして働いていた際には自らをデベロッパーであると主張しなかったと振り返る。ちなみに同氏は、テスターとして『Battlefield 2』などのEA作品に携わり、その後はゲームデザイナーとして『Gears of War: Judgment』や『Strike Suit Zero』などを手がけた経歴を持つ。ゲーム開発における、まったく別の分野の職種をそれぞれ経験した上での意見というわけだ。

著名開発者からの異論


このBarder氏の投稿に対して、『God of War』シリーズなどを手がけるSIE Santa Monica StudioのクリエイティブディレクターCory Barlog氏は、「QAはデベロッパーだ」とコメント。話題のきっかけは翻訳者についてだったが、Barder氏がテスターだった経験をふまえての意見を述べたことから、関係する職種であるQAについて返信したのだろう。

QAとは、大まかにいえば開発中のゲームのテストを担当する職種のこと。開発スタジオが内部スタッフとして抱えており彼らが作業する場合もあれば、外部の専門企業に発注するケースもある。仕事内容としてもっともイメージしやすいのは、テストプレイを重ねて発見したバグやゲームバランスなどの問題を報告することだろう。ほかにも、ローカライズの実装に関するチェックや、マルチプラットフォーム作品であれば互換性の保証など、テスト対象は実に幅広く、場合によっては専門的知識が求められるポジションだ。

そして、上述のBarlog氏のコメントを皮切りに、「QAはデベロッパーなのかどうか」についてゲーム業界内外のさまざまな人が、Oliver Barder氏に直接あるいは間接的に声を上げる流れとなる。


id SoftwareのゲームプレイプログラマーMark Diaz氏は、QAはゲーム開発の一部であるためデベロッパーであるとコメント。Blizzard EntertainmentのリードコンバットデザイナーBrian Holinka氏も同じ意見だとし、「そうでないという人とは戦うよ」と述べる。またArkane Studiosの2DエンバイロンメントアーティストSadie Boyd氏は、「QAはデベロッパーでありヒーローである」としている。

ここではすべて紹介しきれないが、QA経験者を含め同様の意見を持つ人は非常に多く見られる。また批判混じりのコメントも多く、前出のBoyd氏はBarder氏の意見に対し、評価にも値しないと辛辣である。The Habibisの共同設立者Rami Ismail氏は、デベロッパーという職業は特別視されるものではないと述べ、暗にBarder氏がそうしていると示唆。批判する人には、「QAはデベロッパーではない」とするBarder氏の意見が排他的に映ったようだ。ゲーム開発におけるQAの役割を過小評価し、チームの一員ではないとするかのように聞こえたのだろう。

QAの役割については先に簡単に紹介したが、まともな製品としてリリースするためには欠かせない仕事である。QAなくしてゲーム開発は成り立たず、また会社やプロジェクトによっては、QAスタッフもほかのチームと共にミーティングに参加したり、問題を報告するだけでなく改善策を提案するなど協働する場合もあるという。

食い違う解釈


もっとも、Oliver Barder氏もゲーム開発におけるQAの仕事は十分に理解しており、(翻訳者を含め)開発チームの一員として非常に重要な役割を担っていると強調している。ただそれでも、QAはデベロッパーではないという。実は、同氏に同調する意見も少なくない。この食い違いの背景には、「デベロッパー」という言葉の意味をどう捉えているかがありそうだ。

Barder氏は自身のテスターとしての経験もふまえ、QAは何かを作り出す仕事ではないため、デベロッパーではないとコメント。チームの一員であることと、デベロッパーであることは別であるとしている。一方の反対論者は、先述したようにQAは開発サイクルに組み込まれた重要なポジションであるため、ほかの職種と同じくデベロッパーだとしている。

言葉の意味を狭く解釈すればBarder氏の言うとおりだろうし、広く解釈すればQAをデベロッパーと呼ぶことは自然だろう。どちらが正解ともいいづらい。議論の中で、Barder氏の説明に納得する人はあまりおらず、逆にBarder氏が考えを変えることもなく、結局両者の溝は埋まらなさそうである。ただ先述した、Barder氏への反対意見には強い批判を伴うことが多い点は興味深い。


近年ゲーム業界においては、職場環境に関する問題の告発がしばしばおこなわれており、中には開発チーム内におけるQAの冷遇ぶりを伝えるものもあった(関連記事12)。もちろん、すべてのQAが同じような職場環境にあるわけではなく、今回寄せられたコメントの中には、ほかの職種のスタッフと対等であるとするコメントも見られる。ただ、AppleのソフトウェアQAエンジニアのDanielle Blanc氏は、QAがまさにデベロッパーのような待遇を得られるよう、(SNS上だけでなく)会社に対しても声を上げるべきだと呼びかけており、問題は根深く残っているようだ。

また、Ubisoftなどでゲームデザイナーとして勤めたLiz England氏も、QAは長時間労働を強いられるうえ賃金は低いとコメント。その上で、QAをデベロッパーだとみなさないということは、そうした待遇をおこなう会社のボスにエクスキューズを与えることになってしまうと主張している。こうした背景から、「QAはデベロッパーだ」とする意見には言葉の定義としてだけでなく、多くの場面でQAが置かれた立場を慮る側面もあるのかもしれない。そしてそうした待遇に関する問題意識については、QAの仕事の重要性の認識と同じく、今回論争を交わした両者で意見の異なるところではないだろう。


国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。