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「メトロイドヴァニア」……『メトロイド』と『キャッスルヴァニア』(『悪魔城ドラキュラⅩ 月下の夜想曲』 以後の悪魔城シリーズ)の名前を組み合わせた造語であり、両者のゲームデザインに共通する「迷宮探索と発見による強化」要素を、そのまま自身のデザインにも下地として敷いた2Dアクション作品群を指す言葉である。昨今ではソウルライクやローグライクといった異種カテゴリの特徴を取り込みつつ、独自のジャンルとして変貌を遂げつつある。そんな中、2D『メトロイド』の新作が発売されるという。面白い要素をさらに面白くした作品が世に溢れかえっているにもかかわらず、わざわざ埃を被った文献を読み直す必要があるのか?今遊んで楽しめるものなのだろうか?

私が愚かだった。正直舐めていた。銀河最強の戦士は長年抱えた弱点を完全に克服し、さらなる強さを得て帰ってきた。迷宮をウロウロしつつ強化して敵を倒すだけでこんなにも面白いものなのか。そのクオリティは今もなお、同系作品の手本と呼べる完成度に仕上がっている。傑作という言葉はまさに『メトロイド ドレッド』のようなゲームに相応しい。


作品紹介

『メトロイド ドレッド』は2021年10月8日に任天堂から発売された2Dアクションゲームであり、『メトロイドフュージョン』以来およそ19年ぶりとなる2D『メトロイド』シリーズにおける完全新作である。賞金稼ぎ「サムス・アラン」と宇宙最強の生物兵器「メトロイド」にまつわる因縁がひとまずの決着を迎えることになる。開発を担当したのはスペインのスタジオであるMercurySteam。過去には『キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ』『メトロイド サムスリターンズ』を手がけている。

本作はそもそも15年前から作品のコンセプト自体は存在していたものの、ニンテンドーDSというハードスペックの問題や、開発体制の問題などから、企画は凍結。その後『メトロイド サムスリターンズ』をMercurySteamが手がけたことで、任天堂が彼らに可能性を見出し作品の実現に至っている。


「自由度の高い迷宮探索」と「迷わない快適性」のバランスを追い求めたレベルデザイン


昭和61年に誕生した『メトロイド』。まるでアリの巣のように広がる迷宮を自由に探索する2Dアクションと、探索を通じたエリアのアンロックや、それに伴って入手できる強化要素を組み合わせた、高難易度ながらも遊びがいのあるゲームデザインは、『メトロイドⅡ』を経て『スーパーメトロイド』に到達し、一つの完成形を見た。その後、プレイの幅をあえて狭めることでストーリーテリングを強化した続編『メトロイド フュージョン』や、FPSをシステムに取り入れた『メトロイドプライム』シリーズが登場。前者は迷宮の自由な探索という魅力に伴う負の側面「ゴールが見えないストレス」の軽減を狙った作品であり、後者は一人称視点による没入感だけでなく、3D空間を活かした探索体験の拡充を狙った作品群であった。

『メトロイドⅡ』のリメイク作品『メトロイド サムスリターンズ』ではフリーエイムの導入など、過去作と比較して操作性が大幅に改善されただけではなく、異色作『METROID Other M』におけるWiiリモコンを使用した爽快アクションを2Dに落とし込み、「メレーカウンター」「グラブシーケンス」として成立させた。歯ごたえある難易度とキャラクターを動かす心地よさを両立することに成功したのだ。

こうした文脈を経て世に出た『メトロイド ドレッド』のゲームデザインは、作品の根本となる発想こそ原点から1ミリもぶれてはいないが、初作発売から35年にも渡る歴史の中で、移り変わるゲームプレイのあり方や、シリーズが汲み取ってきたものを美しく融合させた素晴らしいものだ。

なかでも注目したいのは秀逸なレベルデザインである。本作は『スーパーメトロイド』にて確立された「自由度の高い迷宮探索」をデザインの基盤としつつも、かつて『メトロイド フュージョン』にてフィーチャーされた「迷わない快適性」の導入=探索に伴うストレスを、軽減するための手段を再び形を変えて、数多く盛り込んでいる。


『スーパーメトロイド』以降のレベルデザインといえば、先述したようにアリの巣のような部屋割りがなされた「迷宮」を基調としつつも、その壁面に1ブロック単位でアイテムを忍ばせておいたり、プレイヤーの技術力いかんによってはデフォルトで想定されている攻略ルートを無視することが可能であったりと、単純にゴールを目指してチェックポイントを踏破していくだけにとどまらない、高い自由度と「発見」の面白さを内包していることに大きな特徴がある。広大な迷宮をあてもなく彷徨うなかで発見した無数の「点」が、時間をかけて線で結ばれ、最終的にプレイヤー独自の攻略法という「絵」として完成する快感は筆舌に尽くしがたいものがある。

だが一方で、高い自由度は「何をすればよいか分からない」というストレスを生んだ。あえてゲーム側からの指示を最低限に抑え、ガイドライン度外視の行動を誘発するための工夫が、プレイに対する敷居を高くしてしまったのだ。その問題の解決を狙ったのが『メトロイドフュージョン』であった。ストーリー展開と迷宮の内容を連動させ、ゲームフローを明確化することで「迷ってしまう」ストレスを大幅に減らすことに成功した。しかしながら、「発見」や連続ボムジャンプなどを通じた「自分なりの攻略」という魅力とトレードオフになってしまったことは否めない。

あちら立てればこちらが立たぬ。そこで今回制作陣が採った手法というのが、心理学的な連想をレベルデザインに取り入れること。たとえば帰路の最中、カレーの匂いをかぐと、どこかの家の夕飯はカレーなのだろうという連想が行われる。「特定の状況に特定のギミックを用意することで、プレイヤーの行動を誘導する」というものである。


ドアからダメージ源である熱気や冷気が漏れ出ている、強化アイテムのすぐ近くにエリア移動の施設を配置する、順序立てて開ける必要がある扉の場所を背景美術で示す、停電しているエリアを設ける、ボス部屋が近づけば背景で怪物がうごめき、鳴き声が迷宮にこだまする。さらにはボス戦のギミック内容を一部カットシーン内で示唆するなど、言外のメッセージを随所に配置しておくことで、強制力を低くしたまま、プレイヤーを自然に誘導できている。奥行きをもって作り込まれた美しい背景は、このメッセージをオブジェクトのひとつとして潜ませ、露骨なものとして目立たせない。視聴覚体験を、より綺羅びやかにするだけのものでは決してない。

加えてこの手法は「このルートを通れ」という明確な指示内容を伴わない都合上、プレイヤーに対し「指示された通りにやったのに」という不快な気分を与えることなく、隠しルートを設置することができる。 結果「自由度の高い迷宮探索」を阻害していない。「言外の要素」にしたことで直接的な指示を聞く必要はなく、ゲームスピードの保持に加え、シリーズの醍醐味である「探索を通じた発見」の要素に組み込んですらいる。

メトロイド初挑戦のプレイヤーは言外のメッセージを「自力で発見」することで、スムーズかつ醍醐味を味わいながらゲームをプレイすることができ、シリーズをすでに遊んでいるプレイヤーは遠慮なくマグマの海にダイブし、とりあえず壁にボムを添えることができる。一部ボスには「自分なりの攻略」を前提とする撃破ギミックが仕込まれている者もおり、シリーズが抱えてきた問題に対する回答としてはこの上ない仕様であると言っていいだろう。


新たに登場した7体の「E.M.M.I.」と彼らが徘徊する「E.M.M.I.ゾーン」は俗に言う即死ギミックであり、ストレス源であり、攻略必須なため強制的にアクションやエリアの構造把握が求められる。これはプレイヤーのスキル向上を促す働きをもっているのだが、最終的に「自力で破壊する」ギミックとして用意したのは興味深い。無敵のストレス源を自ら打倒することを通じ、スキルアップをカタルシスを伴って非常に強く印象づける。やがて対処に慣れてくるが、それこそ恐怖の象徴を打倒していくという本作のコンセプトに噛み合っている。E.M.M.I.ゾーンという区切りを設けたこともストレスを限定的にする工夫で素晴らしい。

また、E.M.M.I.との追走劇は背景美術や映画「エイリアン」を彷彿とさせるホラー演出と相まって、単調になりがちなゲームプレイに清涼剤を与えるだけでなく、狙ってか知らずか配信映えする。メトロイドの系譜に連なる探索型ゲームに共通する課題として、移動がゲームプレイの主体になるため、ゲームの進行が緩やか故にプレイ中に退屈な印象を持たれるというものがあった。定期的にピリッと刺激を与えてくれるE.M.M.I.の存在はこの課題の解決策として理にかなっている。明確に盛り上がる場面が逐次あるということは、配信者と視聴者が存在する、今のゲームプレイのあり方にも適している。現に本作は発売前にプロモーションの一環として、著名ストリーマーによる先行プレイや、Nintendo Directのナレーションでお馴染み、声優の中村悠一氏によるプレイ動画を配信する運びとなった。

その他、スライディングをさんざん使用してからのモーフボール入手や、2段ジャンプからの無限ジャンプ、身動きが制限される水中や移動を妨害する敵の登場を経てから移動能力を強化するアビリティを入手することになるなど、能力強化の段階設定に関しても事前に「あと一歩足らない」ストレスをプレイの中で与えることにより「チェックポイントに着いた」だけに留まらない高揚感をプレイヤーにもたらすなどの工夫が見られる。上記の要素をサポートするマッピング機能もさらに便利になり、隠しアイテムが残存しているエリアが点滅したり、ギミックに対応するアビリティの確認が可能となっている。

総じて『メトロイド ドレッド』のレベルデザインは、シリーズが伝統として維持してきた「自由度の高い迷宮探索」というコンセプトをしっかりと引き継ぎつつも、便利な新要素を追加するだけに甘んじることなく、「迷わない快適性」とのバランスをはじめとする、シリーズが長年抱えてきた課題に対して真摯に向き合い、適切なアプローチを施すことに成功している。伝統と変化を両立するその姿勢は、シリーズ最新作を名乗るにふさわしいクオリティであると断言していい。


快適な操作レスポンスと複雑なコマンド入力


次に着目したいのは移動や戦闘を含むアクション全般についてだ。『メトロイド ドレッド』における2Dアクションは『メトロイド サムスリターンズ』からさらなる操作性の向上が図られており、ボタン入力に対するレスポンスは抜群。空中における落下速度が一時的に緩やかなものになったり 崖際の判定を緩くしているなど、心地よい操作感覚を生み出すための手触りに関しても洗練されている印象を受ける。

戦闘に関しては『メトロイド サムスリターンズ』から引き続き、大ダメージを与えるメレーカウンターの存在を前提とした高速戦闘に落ち着いている。そのおかげで基本的に敵は固く倒しづらくなっている。被弾した際のダメージ量も大きい。しかしながら、敵を倒した際にばら撒かれる回復アイテムの量がかなり多くなっているだけでなく、勝てなければ強化アイテムを探しに行けばいいため、敵の強さは迷宮を探索する動機にもつながる。

加えてゲーム中盤~後半に取得可能な武装の火力が凄まじいものになっており、カウンターとあわせて「使いこなすことができれば」たとえボスであろうがサクサクと討伐が可能。倒しづらい敵がすぐに倒せるようになることで、試しに使ってみればこの装備はこんなにも強いのかと、本作の根幹にある「発見」することの楽しさや、上述したアップグレードに伴う高揚感の付与にも一役買っている。

ボス戦といえば、本作のボスたちは多種多様な戦法を伴って参戦している。ギミック戦から高速戦、逆にスロウペースの戦闘、複数体の同時処理、キャラクターコントロールが試されるものなど、内容はバラエティに富み、プレイヤーを最後まで楽しませてくれる。練度の向上が直接プレイフィールに反映される本作の戦闘は、周回プレイやゲームの早解きを前提とする仕様にも噛み合っている。『メトロイド ドレッド』における2Dアクションは、ゲームとしての利便性を上げつつも、「探索して発見し強くなる」というシリーズが掲げる根源的な楽しみを奪わない、すさまじい完成度へと仕上がっている。


だが、コマンド入力にかかるボタンの多さに関しては苦言を呈したい。本作はコマンド入力を完遂するにあたって1回に必要なボタン量が3つ以上になることが多い。具体的にあげるとミサイル射撃は「フリーエイム操作+Rボタン+Yボタン」。コントローラーをフル活用するコマンド入力は、多様なアクションをゲームスピードを一切落とすことなく即座に発動させることができるという利点があり(しかもメカの操縦席にいるような感覚を覚える)、それこそ練度が直接反映されるメトロイドらしい仕様なのだが、昨今のコマンド入力にかかるボタンを可能な限り減らし、ユーザビリティ向上を図る風潮とは真逆を征くものでもあり、連続ボムジャンプはまだしも、スピードブースターからの空中シャインスパークなど、本作を楽しみ尽くすためのアクションを習得するにあたって障壁になっている感覚は否めない。

であれば、『キングダムーハーツ』シリーズや最近では『スカーレットネクサス』などが取り入れている、入力するコマンドを極力変えずアクションの内容だけをリアルタイムで切り替える方式にしたほうが、 プレイヤーの間口を広げるという点で良かったのではないかと筆者は考えている。このほか懸念点を挙げるとするならば、エリア移動にかかるロード時間の長さくらいだろうか。これは本作の軽快なアクションとテンポの良さを阻害する残念な点ではあるが、ハードウェアの都合上致し方ない点でもある。ゲームボリュームに関しては周回プレイを前提とする本作にはちょうどいい量であると個人的には考えている。筆者はある程度のアイテム収集込みで1周に9時間40分ほどかかった。


「メトロイドヴァニア」という言葉が両親のもとから離れ、ソウルライクやローグライクといった数々の出会いを経て、独立したジャンルを形成する一歩手前まで差し掛かった昨今。本家本元が長年の弱点を克服しつつ、改めて「探索と発見」の原始的な面白さを体現する堂々たる佇まい、歴代最高の完成度で現代に凱旋を果たしたことは、知名度の復権のみならず、後に生まれる沢山の子どもたちに対しても素晴らしい影響を与えていくことだろう。宇宙を股にかけるバウンティハンターの物語はもう過去から伝え聞く神話ではない。銀河最強の戦士サムス・アランはあいも変わらずここにあり。

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