“百合を避けたのにアウト”ロシア人開発者のSteam好評ゲーム、ロシア当局にブロックされる。自主規制しても逃れられない、表現規制さらに強化か

ロシア出身のビジュアルノベル制作者が、自身の作品がロシア版のSteamストアでブロックされたと投稿して波紋を呼んでいる。

Googleでお気に入り登録

ロシア出身のビジュアルノベル制作者が、自身の作品がロシア当局によって禁止されたコンテンツのリストに追加され、ロシア版のSteamストアでブロックされたとXで投稿し、波紋を呼んでいる。制作者によると、作品がリストに追加されたのは8月18日。問題のある表現は可能な限り避けており、作品には何も違法なものはないと困惑を示しつつ、今後の作品制作のためにできるだけ早い国外への引っ越しも検討しているようだ。

今回、ロシア版Steamストアからブロックされたというゲームは『REFLEXIA Prototype ver.』だ。制作者はMAHOUMAIDEN氏。本作は、2022年8月31日にリリースされた無料ビジュアルノベルで、本稿執筆時点でユーザーレビューは7556件、うち96%が好評の「圧倒的に好評」ステータスを獲得するなど、高い評価を得ている作品だ。日本語表示にも対応している。

ちなみに本作は、『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』や『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』を制作したNikita Kryukov氏がSteamでのパブリッシャーとなって配信されている。また、MAHOUMAIDEN氏も『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』のシナリオ作成に協力している。

MAHOUMAIDEN氏によると、本作のプレイヤーベースのうちストア地域をロシアに設定していた割合は10%だったという。また、同氏はLGBTQなど政府機関から「示唆的」とみなされる可能性のある表現は可能な限り回避するよう努めていたそうだ。しかしロシア当局から規制の対象となったようで、ロシア版Steamストアではアクセス不能になっている模様。同氏は「今となっては果たして意味があったのか疑問に思っている」とやるせない思いを綴っている。

ロシアには、マスメディアの監視、検閲等をおこなう行政機関であるロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(ロスコムナゾール)が存在。活動の一環として、児童に有害とされる情報を含め、国内で流通が禁止された情報を掲載するウェブサイトなどをリストに登録し、アクセスを制限する制度が運用されている。また、暴動や過激主義的な行動、違法な街頭活動への参加の呼びかけ等の情報についてもアクセス制限の対象となっているへ。MAHOUMAIDEN氏の作品が追加されたという「リスト」も、ロスコムナゾールが管理するいわば“ブラックリスト”を指すとみられる。

ロシアでは、現在ゲームにおいても検閲によって問題のある表現があると判断された場合は、アクセス制限などの規制を受ける対象となっている。例えば、2025年12月には「LGBTに関するプロパガンダや、過激主義的な表現が含まれている」として、ロシア国内からのゲームプラットフォーム「Roblox」へのアクセスがブロックされた。その後、Roblox公式が年齢に応じたアクセス制限を導入するといった対応を実施。ロシア政府は2026年6月にRobloxのアクセス制限を解除していた。

このほか、さまざまなアーティストが描いたトランプデッキを収録するソリティアゲーム『Art of Solitaire(Flick Solitaire)』の開発者に対し、ロスコムナゾールがLGBTQ+をテーマとしたデッキが収録されていることを理由として、同作のストアからの削除を要求した事例もある。同作はApp StoreおよびGoogle Playストアでは配信が継続されたものの、Steamではロシア向けの配信が停止されることになった(Video Games Industry Memo)。

また、ロシア国内の開発者からは、流血や殺人、ホラーなどの表現も実質的に規制対象のように扱われているとの声もみられる。この事例では、サイコロジカルホラーゲームを手がけていた開発者が、政府機関からの支援を申請した際に、実際に教育機関や政府関係組織から指摘を受けたとの報告がなされている(関連記事)。今回の『REFLEXIA Prototype ver.』のケースも、ロシアにおける表現規制が強まっていることを示す事例のひとつといえそうだ。

なお『REFLEXIA Prototype ver.』のストアページには「百合」などの同性愛を連想させるワードが見られ、「大人向けコンテンツ」を含むとされている。ただし、実際のゲーム本編はことさらに同性愛を礼賛するような内容ではなく、作中で登場するシーンもそれほど多くはない。というのも本作は、ビジュアルノベルの主人公として設定されたキャラクターが、自身の存在に悩むというメタ的な構造を持った短編ビジュアルノベルだ。ストアページにある「百合」などの説明は、彼女の登場しているビジュアルノベルの設定であるという作りになっており、百合や同性愛に関する描写は少ない。キャラクターとの受け答えや、ほんの数回同性愛に関するジョークがある程度だ。

一方でLGBTQ関連の表現は、昨今のロシア国内では特に厳しく規制されているコンテンツのひとつといえる。同国では、2022年12月に同性愛宣伝禁止法が改正。未成年を対象にした同性愛への宣伝を禁じる法律の適用範囲が成人にも拡大された。さらに、2023年11月にはロシアの最高裁判所が、当局が「国際的なLGBTQ運動」と見なす活動を「過激派」であると認定している。実際にロシアでは、LGBTQ関連の描写を含むコンテンツを巡り、オンライン映像サービスや出版社への取り締まりも厳しくなっているという。

そうした状況もあり、『REFLEXIA Prototype ver.』は新たに当局からの規制を受ける対象になってしまったのかもしれない。MAHOUMAIDEN氏によると、上述したように実際に「百合」の展開がなく、ジョーク程度にとどめていたのも当局が「示唆的」とみなすような表現を避ける一環だったと語っている。

なおMAHOUMAIDEN氏は、今後『REFLEXIA Prototype ver.』のリメイクを制作することを計画していたが、健康問題などで休息を取り、その影響で経済的に厳しい状態にあるという。そのため、リメイクの制作前に2作の新作ビジュアルノベルを販売して資金を稼ぐことを考えており、1作目の『MARRY THE WITCH』を8月下旬から9月上旬ごろに発売する計画だった。近いうちに『MARRY THE WITCH』に関するお知らせを投稿する考えだったが、その矢先に受けた『REFLEXIA Prototype ver.』のブロックで大きなショックを受けているという。

MAHOUMAIDEN氏は、ロシア国内の検閲が急速に悪化したことで「将来、私の次のプロジェクトにも同様の運命が待っているのではないかと恐れている」と胸中を語っている。執筆へのアプローチを大きく見直すとともに、できるだけ早く別の場所に引っ越したいとの考えを示している。

ちなみに先述した、本作のパブリッシャーであるNikita Kryukov氏もロシア出身ながら、理由は明かしていないものの現在は日本に移住している。また宗教的テーマを扱った高評価ADV『INDIKA』の開発元であるOdd Meterは、ロシアでは刑事訴追される可能性のあるテーマを扱っていたとしたうえで、2022年に発生したロシアによるウクライナ侵攻を機に事態がさらに複雑化したと説明。16名のチーム全体がロシアを離れ、カザフスタンへと拠点を移したことが報告されていた(The Guardian)。背景や事情はそれぞれ異なる可能性はあるものの、近年ではロシアからの移住を決める開発者が複数見受けられる状況となっている。

『REFLEXIA Prototype ver.』はPC(Steam)で無料配信中だ。

この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。

Googleでお気に入り登録
Hiroyuki Furukawa
Hiroyuki Furukawa

好きなゲームがマイナーと言われると喜ぶ天邪鬼なゲーマー。アーケードゲームも嗜み、ゲームセンターにもひっそりと出没する。

記事本文: 88