『オーバーウォッチ2』のゲームプロデューサーが「CEOが開発を遅らせていた」と批判。現職開発者が組織トップに怒り


Blizzardの開発者Tracy Kennedy氏は1月20日、Activision BlizzardのCEOであるBobby Kotick氏が「開発に悪影響を与えていた」との見解をSNS上に投稿した。Kennedy氏は、『オーバーウォッチ2』のゲームプロデューサーを務める主要開発者だ。

『オーバーウォッチ』は、Blizzardが開発し2016年にリリースされたオンライン対戦FPSゲーム。前作は6対6のチーム対戦で、多彩なキャラクターが能力を駆使する戦略性の高い戦いが特徴だ。多くのユーザーの人気を集め、公式プロリーグなども発足しeスポーツシーンの一翼も担っている。新作である『オーバーウォッチ2』は、2019年に正式発表された。以降、ファンの期待を集めつつも開発には時間がかかっており、先ごろには「2022年中にはリリースできない」との情報も出た(関連記事)。


さらに、昨年7月には開発元親会社Activision Blizzardが職場における性差別問題などで告訴され、Blizzard内でのセクハラなどの告発も続出。同社は大騒動に揺れることとなった。前述の『オーバーウォッチ』ゲームディレクターのJeff Kaplan氏は問題浮上直前の4月に退職するなど、騒動の前後には開発メンバーの退職も相次いだ。そんななか、今年1月18日、マイクロソフトが突如として同社を買収するとして合意を発表。組織健全化がなされるかどうか、開発およびサービス中のタイトルはどうなるのか、今後の動向が業界および多くのファンから注目されているところなのだ。

そして、セクハラ問題浮上後から現在に至るまで、一貫して批判を浴び続けているのがActivision BlizzardのCEOであるBobby Kotick氏だ。同氏は、自身がハラスメント行為をおこなっていた、またセクハラを知りつつ黙認していたとして、関係者などから告発を受けていた(関連記事)。同氏は買収合意に際しひとまず留任が決まったものの、2023年に見込まれる買収完了後の進退については不透明(関連記事)。そして今回、現職の『オーバーウォッチ2』主要開発者 Kennedy氏から、Kotick氏は開発にも悪影響を与えたと批判されている。

Kennedy氏は、Kotick氏のインタビューを取り上げた海外ポータルWowheadへの引用リツイートのかたちで、自身のTwitterアカウント上に見解を投稿。「Bobby(Kotick氏)、あなたが開発チームに押し付けた『オーバーウォッチ』のプロジェクトについてみんなに話して」と書き出した。Kennedy氏によれば、当時の開発チームはKotick氏による『オーバーウォッチ』向けの複数開発プロジェクトへの取り組みを指示され、そのために残業などが発生していたとのこと。そして、そうしたプロジェクトは『オーバーウォッチ2』の開発期間を圧迫したばかりか、最終的には中止されてしまったそうだ。同氏は、開発チームの多くのスタッフがKotick氏の行動を理由にして離職していったと主張。Kotick氏自身が、傘下であるBlizzard作品の開発プロセスに悪影響を与えていたとの旨を伝えた。

https://twitter.com/dogspinster/status/1483872301175107584


Kennedy氏はさらに続くツイートで「ああそうだ、あなたは臆病者だから身代わりの後ろに隠れますよね。失礼しました」とKotick氏に痛烈な皮肉をぶつけた。そして一連のツイートは、Kotick氏への別れの言葉で締めくくられている。この“別れの挨拶”が心情的な皮肉や個人的な今後の進退を踏まえてのものなのか、あるいはKotick氏がいずれ退任すると見越してのものなのかは不透明だ。しかし、現役開発者が組織のトップへ公に批判を口にする点からは、Kotick氏が少なくとも一部開発者たちからは歓迎されていない様子が伺える。また、マイクロソフトの買収によって緊張が緩和された面もあるかもしれない。

Kennedy氏は過去にもBlizzardの内情について語っている。騒動の渦中にあった昨年11月には、複数開発者が社内の文化的問題に言及していたと伝えていた。また、前述のKaplan氏については、問題浮上以前から、悪質な企業文化やプレッシャーから開発チームを守るために戦っていたと伝えている(関連記事)。Kennedy氏は今回の買収劇についてもコメントしており、マイクロソフト傘下に入ったスタジオにいる同氏の友人からは良い評判を聞いているため「警戒しつつも楽観的に見ている」と述べた。一方で、「Blizzardにおいては、多くの有害な人物が過去マイクロソフトに在籍していた」との見解を示し、マイクロソフトがBlizzardの文化健全化に挑む点が因果応報めいていると語った。

https://twitter.com/dogspinster/status/1483563516992782338


今回の証言は、Kennedy氏の視点からの証言であり、事実関係はあくまでも不透明な点には留意したい。しかし、現職の開発者が組織トップを名指しで批判するのは異例。Activision Blizzardを取り巻く環境の大きな変化も感じさせる。今回の証言が事実だとすれば、経営体制の変化は開発者たちにも好影響をもたらしうる。マイクロソフトによる買収が、『オーバーウォッチ2』や『ディアブロ IV』など、開発進捗が危ぶまれるBlizzard作品たちに良い効果がもたされることを願いたい。