Activision BlizzardのCEO告発を受け、関係者が反応。『オーバーウォッチ』プロデューサーや共同取締役らが、会社の内部事情明かす

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一連のハラスメント問題により、厳しい局面に立っているActivision Blizzard。7月の訴訟に端を発した騒動は、先ごろのThe Wall Street Journal(以下、WSJ)による報道で再燃した。「同社CEOがハラスメント問題を知りつつ黙認していた」と報じられたのだ。衝撃的な記事を受けて、抗議運動はふたたび活発化。多くの業界関係者が見解を述べるまでに波及している。

Activision Blizzardは『Call of Duty』シリーズを手がけるActivisionと、『Diablo』や『オーバウォッチ』の開発元Blizzardを擁するゲーム企業。同社は今年7月、有害な職場文化と性的ハラスメントの氾濫を理由に、行政機関から訴訟を起こされていた。そして、今月11月16日にはWSJがActivision BlizzardのCEOであるBobby Kotick氏について報道。「Kotick氏は問題を認識していながら、隠蔽するような傾向を見せていた」とする証言を伝えた(関連記事)。同報道について各メディアが広く報じたほか、コミュニティや業界関係者からも批難の声があがっている。


まず、今回の騒動再燃を受けてBlizzardの従業員たちはストライキを敢行。Kotick氏の辞職などを求めた。米一般紙The Washington Postによれば、Blizzardのアーバイン社屋で100名を超える同社従業員がデモを実施したとしている。また、先ごろには同紙記者であるShannon Liao氏が、リモートでの業務停止による抗議予定を伝えている。デモに出席しなかった従業員も含め、抗議はかなり大規模に及んだと見られる。

また、同社の株主たちも抗議の声をあげている。The Washington Postの別の報道によれば、約480万株に相当する株主グループが同社に連名による書簡を送った。このグループは、米労働組合連合Strategic Organizing Center(SOC)の投資家グループが中心となって結成されているとのこと。同グループは書簡のなかで、Kotick氏が社内での性的暴行や男女差別を認識しつつも、適切な対処を実施しなかったと糾弾。同氏の辞任を求めている。

また、Activision Blizzard内部からの声もあがっている。『オーバーウォッチ2』のゲームプロデューサーであるTracy Kennedy氏は、自身のTwitterアカウントにて今回の一件への意見を共有していた。同氏は現在ツイートを非公開としているため、以下に概要を記す。同氏は、『オーバーウォッチ2』チームから離れる決断をした主要開発陣が辞任の挨拶において、Activision Blizzard社内の文化的問題について述べていたとしている。辞任したメンバーは、『オーバーウォッチ』開発チームとほかの社内文化に“ズレ”があり、現状のリーダーシップでは改善はできないと考えていると吐露したそうだ。


『オーバーウォッチ』開発チームからは、訴訟問題勃発の前後に複数のメンバーが離脱している。例として、今年4月にはBlizzardにて19年勤め上げたJeff Kaplan氏が退職。同氏は開発報告動画などで『オーバーウォッチ』の“顔”としてファンに親しまれる存在だった。Kennedy氏は、Twitter上でKaplan氏について「企業の欺瞞を嫌い、退職まで戦い抜いた」と言及。Activision Blizzardにおける悪質な企業文化やプレッシャーから開発者たちを守り、『オーバーウォッチ』チームを醸成したと伝えている。しかし先ごろには、一連の騒動を受けてチームから多くの人員が離れてしまったそうだ。Kaplan氏の人柄と努力がうかがえる貴重な証言である。

【UPDATE 2021/11/18 16:25】
Kaplan氏にまつわるKennedy氏のツイートについて追記

また、『オーバーウォッチ2』開発責任者のChacko Sonny氏は今年9月に退職が報じられた。複数従業員の証言によれば、同氏は在職中に社内スタッフから敬意を払われる存在だったという(関連記事)。『オーバーウォッチ』には多彩なキャラクターが登場する。デザインや能力のみならず、人種や性指向までも十人十色の設定が与えられている。そうした多様性を重んじる作品に関わるスタッフの一部は、会社に存在する有害な文化に隔たりを感じていたようだ。また、Activision Blizzard傘下のスタジオであるToys for Bobは、Twitter上で従業員たちを支持する声明を投稿。抗議活動に用いられるハッシュタグ「#ABetterABK」を用いて同スタジオの姿勢を示した。

ほかの業界関係者では、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のCEOであるJim Ryan氏がスタッフ向けにメッセージを送ったようだ。海外メディアBloombergが報じている。同誌によれば、Ryan氏はメッセージのなかでWSJの記事を取り上げ、Kotick氏の対応について落胆を述べたという。Ryan氏はWSJ報道の直後にActivision Blizzardに連絡を取ったとのこと。しかし、適切な対応が見込めるような返答は得られなかったそうだ。また、同氏はSIEのスタッフたちに安全な職場環境を提供すると約束し、差別やハラスメントの報告を促す呼びかけをしている。

ほかにも、一連のWSJ報道を一部裏付ける証言が出ている。同報道には、Blizzardにて共同取締役(Co-head)を務めていたJennifer Oneal氏がコメントを寄せていた。Oneal氏は今年の8月に取締役に就任。しかし先ごろには、今年いっぱいでの退社を表明している。Oneal氏は、Blizzard傘下のスタジオVicarious Visionsにて要職を13年にわたり勤め上げた人物だ。また、同スタジオは今年まではActivision傘下にあったため、同氏はKotick氏とのビジネス上の付き合いも長いと見られる。

同氏はWSJ報道のなかで「私は“お飾り”にされ(Tokenized)、ないがしろにされ、差別を受けてきました」と社内での体験を語っていた。また、2007年前後にはKotick氏とともに“肌もあらわな衣装の女性が踊る”ようなパーティーに出席したと証言。自身が受けたハラスメントに類する行為を伝えていた。また、同時に共同取締役となったMike Ybarra氏にくらべて賃金が低かったともコメント。訴訟騒動後も男女間の賃金格差が存在したと示唆している。同氏が辞職を決めた背景には、女性従業員としての長きにわたる苦闘があったのだろう。

現地時間17日、米IGNはYbarra氏がスタッフに送ったメッセージについても公開している。声明はメールおよびSlackにて、Blizzard従業員に向けて送られたという。同氏は声明のなかで「取締役就任後も前のポストの契約を引き継いでいたため、賃金に格差が生じていた」と背景を説明。格差をなくすようOneal氏と共に訴えていたとした。また、就任後には賃金が同一になるはずだったとも述べている。Oneal氏も同様の証言をしており、度重なる賃金是正の要望は拒否されたと主張。後に平等な賃金が提示されたものの、それは同氏が“辞職を表明した後”だったという。つまり、「一連の訴訟問題後も、男女間の不当な賃金格差が残っていた」と裏付ける証言が新たになされたのだ。

WSJの報道を発端に、コミュニティ・従業員・株主一丸となった抗議を受けるActivision Blizzard。新たな報道や証言もあらわれ、訴訟問題後の対応の適切さが疑問視されている。四面楚歌の状況に、Kotick氏は何らかの答えを示せるのだろうか。

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