Activision BlizzardのCEOが告発される。社内のセクハラ黙認や自身のセクハラ疑惑など、組織トップへの告発により再燃するハラスメント問題

 

米経済紙The Wall Street Journal(以下、WSJ)は現地時間11月16日、Activision Blizzardおよび同社CEOであるBobby Kotick氏に関する記事を公開した。同氏が、社内のセクハラ問題について知りつつも、不適切な対応をしていたと主張する内容だ。報道は瞬く間に各海外メディアやコミュニティに波及。先のハラスメント問題に揺れたActivision Blizzardに、ふたたび激震が走っている。


Activision Blizzardは米国有数のゲーム企業。『Call of Duty』シリーズを手がけたActivisionと、『Diablo』や『オーバウォッチ』を開発したBlizzardの親会社Vivendi Gamesが2008年に合併して誕生した。同社は今年7月、カリフォルニア州の行政機関より訴訟を受けていた。同社内にて長きにわたり、女性従業員への性的ハラスメントや、待遇の不平等があったとの主張だ。訴訟後には多数の被害者からの声があがり、大規模な抗議活動に発展(関連記事)。Blizzard元社長J. Allen Brack氏の退任をはじめとして、複数のBlizzard開発者の辞職にも発展した(関連記事)。

一方で、Activisionおよび傘下スタジオでの不適切行為の告発・報道は限定的だった。Activision BlizzardのCEOであるBobby Kotick氏は騒動勃発の後も続投。同氏がいわば“Activision側のトップ”である点もあってか、引き続き職場環境改善に取り組む方針だった。しかし、先ごろWSJが報じたのは、同氏が「ハラスメント問題を認識していながら黙認していた」とする内容だった。また、同紙はKotick氏自身までもがハラスメント行為をおこなっていたと伝えている。


WSJ報道によれば、Kotick氏は前述の訴訟に先んじて、ActivisionおよびBlizzard社内でのハラスメント問題についてある程度把握していたという。しかし具体的な対策は取らず、性的暴行で告発されたある男性従業員については庇うような対応をしていたというのだ。また、Kotick氏自身も2007年前後に、女性に対するハラスメント行為をおこなっていたとの関係者証言を掲載している。

まず、Kotick氏は2018年にはある元女性従業員の代理人弁護士からのメールを受け取っていたという。元女性従業員は、Activision傘下のスタジオであるSledgehammer Gamesに勤務していた。同女性は、2016年と2017年に男性上司から性的暴行を受けたと訴えていた。また、Sledgehammer Gamesの人事部などに掛け合っても対応は得られなかったという。関係者証言によれば、女性とは法廷の外での和解が成立したとのこと。そしてKotick氏は、この問題について取締役会に報告しなかったとしている。

また、関係者証言によれば別のActivision傘下スタジオTreyarchでも問題が起こっていたそうだ。同スタジオ共同スタジオヘッドだったDan Bunting氏が、セクハラ行為をおこなったとして告発されていたとのこと。被害は2017年に発生したとされ、2019年にはActivision人事部が内部調査に乗り出した。人事部はBunting氏の解雇を勧めたものの、Kotick氏は同氏が勤続できるよう取り計らったとしている。WSJ の問い合わせ後、Bunting氏は突如として職を辞したという。また、セクハラ加害者側であった元Sledgehammer Games従業員も、Activisionの隠蔽体質について証言している。同従業員は告発を受けた後、2週間の有給休暇を経て職場復帰。Activisionから「この問題については内密にするように」との指示を受けたと語っている。いずれのケースも、Kotick氏およびActivisionがセクハラ問題を秘密裏に解決する傾向があったと示唆している。


また、今回の報道はKotick氏自身の不適切行為についても触れている。関係者の証言によれば、Kotick氏は2006年、女性アシスタントに対し殺害の示唆を含む脅迫的なボイスメールを送ったとのこと。この問題についても公にはならず、法廷の外で和解したそうだ。Activisionの広報は同問題について「Kotick氏は当時のボイスメールについて即座に謝罪しており、誇張した強いトーンで発言したことについて今も悔いています」と WSJ に語っている。

また、2007年にはKotick氏が共同所有するプライベートジェットの女性フライトアテンダントが、同氏を訴訟。「パイロットによるセクハラを訴えたあと、Kotick氏により不当に解雇された」とする内容だったそうだ。同訴訟にまつわる別の訴訟では、Kotick氏が女性と弁護士に対し「お前らを潰してやる(I will destroy you)」と言い放ったとしている。当時の仲裁人は WSJ に対して同発言について認めているものの、Kotick氏の代理人は同発言について否定している。

ほかにも、WSJの記事ではKotick氏がセクハラの事実を知りながらも、対処に足踏みしていた例を挙げている。同報道は瞬く間にコミュニティおよびメディアに波及。PC Gamerなど各海外メディアが問題について報じている。また、今まで比較的限定的だった、Activisionおよび傘下スタジオ従業員の不適切行動が明るみに出た点も注目を浴びた要因だろう。

また、Blizzardにて共同取締役(Co-head)を務めていたJennifer Oneal氏もWSJにコメントを寄せている。Oneal氏は前述のBlizzard社長退任後、今年の8月に同ポストに就任。しかし先ごろには、今年いっぱいでの辞任が発表された。就任後に、「現状のリーダーシップでは、環境改善が行われると思えない」との見解を持ったようだ。また、同じく共同取締役に就いた男性であるMike Ybarra氏よりも給与が低かったとしている。つまり、訴訟騒動後のActivisionの取り組みについても、疑問が投げ掛けられているのだ。

米国一般誌The Washington Post記者のShannon Liao氏は、今回の報道を受けた従業員の動きについて自身のTwitter上で報告。Activision Blizzard従業員たちが現地時間11月17日にストライキ運動をおこなうと伝えている。物理的なデモではなく、職務を停止する形式のようだ。要求としては、Kotick氏の解任、および従業員が指名した第三者機関の調査受け入れが挙げられている。同抗議運動には、約200人の従業員が参加しているとの証言があるそうだ。また、コミュニティによるActivisionおよびKotick氏への批難の声も沸騰しており、枚挙に暇がない。


一方で、Activision BlizzardおよびKotick氏本人も、報道に対する公式声明を発表している。会社側の声明では、「WSJは現在の取り組みによってもたらされた重要な変化を無視しており、多数の従業員の努力を考慮していない」と主張。いずれの声明も、WSJ の今回の報道は不正確であり誤解を招く内容であるとしている。そして、今後も職場環境の改善に取り組み、ハラスメント問題にはゼロ・トレランス方式で当たるとした。

今回の報道により、Activision Blizzardにはふたたび激震が走ることとなった。今後、同社は本当に「ハラスメントがなく、あらゆる人々が平等な職場環境」を築けるのだろうか。同社およびKotick氏の資質が試される。