『ウィッチャー3』『マスエフェクト 』開発元が“高画質化Mod”に目を向ける 。野良開発者たちのリマスター技術が注目浴びる

 

次世代版が開発中の『ウィッチャー3 ワイルドハント』(以下、ウィッチャー3)、そして今月5月14日に発売をひかえた『Mass Effect Legendary Edition』。どちらもグラフィックが大きく刷新される人気作のリマスター作品だ。その陰には、オリジナルゲームの高画質化Modの影響もあったようだ。海外メディアが報じている。

Modは、プログラムやファイルを書き換え、もしくは追加することでゲームを改変する手法だ。Modと一口に言ってもその機能は多岐にわたる。ゲームに本来存在しない要素を追加するものや、ゲームシステムの不便さを改善するようなユーティリティ系Modまで種類は幅広い 。最近話題になったものでは、『バイオハザード ヴィレッジ』のドミトレスク婦人の顔を、きかんしゃトーマスに差し替えるModなどもあった(関連記事)。

気合の入った一発ネタ的なModも存在する一方、ゲームのコンテンツを大きく一新するような大規模Modも盛んに制作されている。なかでもジャンルとして定着しているのが「グラフィックオーバーホール(Graphic Overhaul)」Modだ。このタイプのModは、オリジナルゲームのビジュアルをテコ入れすることを目的としており、テクスチャの高精細化やライティングの改善などが含まれている。そうしたMod制作には、高い技術と多大な努力が必要となる。

そしてこのたび、『Mass Effect Legendary Edition』開発者の目が、『Mass Effect』のオーバーホールMod群に留まったようだ。Nexus Modsでは、特に人気を集める「METIUM」をはじめとして、オリジナル版『Mass Effect』のグラフィック改善Modが多数公開されている。これらのModは、『Mass Effect Legendary Edition』の開発にあたり、開発チームが越えるべきクオリティの“基準”として参照されていたようであると、PC Gamerが報じている。


同紙の報道によると、『Mass Effect Legendary Edition』開発元のBioWareプロジェクトディレクターMac Walters氏は、開発チームに「これ(オーバーホールModの画質)がクオリティのスタート地点だ、私達はこのクオリティからさらに上を目指さなければいけない」と伝えたそうだ。

また、同作エンバイロメント(環境)ディレクターのKevin Meek氏は、Mod制作で利用される、AIを利用したテクスチャのアップスケーリングには懐疑的だったそうだ。しかし、実際のModの出来の素晴らしさに触れたことで意識を改め、高画質化に取り組むにあたり「Modで高いクオリティを出せるのなら、オリジナルのアセットを利用できる開発者ならもっと高いクオリティを実現できるはず」 と、自信を貰ったと述べている。

Image Credit: Catachrism / C3Anderson


ほかにもMeek氏は、Mod制作の“自由さ”についても触れている。大規模ゲームの制作には、販売先プラットフォームによる審査や、収録されるメディアのサイズ制限など、多くの制約がある。同氏によれば、Modはあくまでも個人のファン活動であるため 、制限に縛られず自由に作れるというメリットがあるそうだ。また、BioWareは『Mass Effect Legendary Edition』の開発にあたって内密に数名のMod制作者に連絡を取り、協力について話し合っていたそうだ。

開発元がMod制作者に協力を打診するケースは、ほかにもある。Mod制作者のHalk Hogan氏の例がそうだ。同氏はオリジナルの『ウィッチャー3』高画質化Mod「The Witcher 3 HD Reworked Project」を手掛けている。


Hogan氏は今月5月4日、『ウィッチャー3』開発元のCD PROJEKT RED から開発協力の打診を受けたことを、Nexus Modsフォーラム上の投稿 で伝えている。また同氏は、まだ確定してはいないものの、「The Witcher 3 HD Reworked Project」が次世代版『ウィッチャー3』に含まれる可能性は非常に高い、と投稿の中でコメントしている。

KotakuによるCD PROJEKT RED への取材によれば、同社は「複数のMod制作者と連絡を取り合っている」として打診の事実を認めているそうだ。しかしながら「現時点において、いかなる制作者とも契約には至っていない」とコメントしており、実際にHogan氏のようなMod制作者の技術が製品版に盛り込まれるかどうかは、確定していないことを示した。

Image Credit: Halk Hogan


Modがゲーム企業の目に留まったほかの例としては、対戦FPS『Counter-Strike』のケースがある。同作は『Half-Life』をベースに、シビアな対人戦に特化させたModなのだ。『Counter-Strike』開発者のひとりMinh Le氏は、もともと『Quake』などのMod制作者であり、後に『Counter-Strike』を開発。同作の権利買収とともにValveに雇用されたという経緯で開発チーム入りを果たしている(現在はValveを退職し、『黒い砂漠』開発元Pearl Abyssに所属)。

また大規模なModが多く制作されている作品として、Bethesda Softworksの『Fallout』シリーズや『The Elder Scrolls』シリーズなどがあげられる。同社はかねてより、自社タイトルのMod制作ツールを提供するなど、Mod制作者に協力的だ。そのため、Mod制作を通じてゲーム開発を学ぶ間口となっている側面もある。例として、『The Elder Scrolls V: Skyrim』の大型Mod「Falskaar」を制作した当時19歳の青年Alexander J. Velicky氏は、その経験を生かしクリエイターに仲間入り。現在はBungieにてゲームデザイナーとして『Destiny』シリーズに携わっている。

最近では『GTAオンライン』のファンがゲームの読み込み速度を劇的に改善し、開発元のRockstar Gamesがアップデートに盛り込んだ例がある(関連記事)。Modと言えるかどうかは微妙なところだが、ファンの成果が開発元に取り入れられたケースだろう。

ファン活動としての側面だけでなく、開発者との架け橋にもなりうるMod制作。リマスター作品が増えている印象のある昨今、既存のゲームに手心を加えるその技術と熱意に、より一層、ゲーム企業からの注目が集まっているのかもしれない。