『アナザーエデン』『ハーヴェステラ』生みの親の高大輔氏が新会社設立して新作ゲーム開発中。スクエニ退職から2年「貯金崩し」「自己資本」で挑む一か八かゲーム開発

ゲームクリエイターの高大輔氏は2026年1月、株式会社Impachiを設立した。Impachiとはどんな会社なのか、そしてゲームを作っているのか、気になることに答えていただいた。

ゲームクリエイターの高大輔氏は2026年1月、株式会社Impachiを設立した。同氏は、グリーの『アナザーエデン 時空を超える猫』初期のプロデューサーを務めたほか、スクウェア・エニックスにて『ハーヴェステラ』のプロデューサーを務めた人物。それぞれの作品でストーリー展開を含めたユニークなアプローチを仕掛けておりクリエイターとして定評がある。

このたび弊誌は、会社設立に関する一報をいただき、代表を務める高大輔氏にインタビューを敢行した。改めて同氏のキャリアを振り返っていただきつつ、前職の退職から2年間に何をしていたのか、Impachiとはどんな会社なのか、そしてゲームを作っているのか、気になることに答えていただいた。その模様をお届けする。

空白の2年間はインプット期間

――自己紹介をお願いします。

高大輔(以下、高)氏:
高大輔です。年齢は……、若く見られるのであえて言わない方がいいですかね。

――(笑)たしかにお若く見えますよね。

高氏:
なので、秘密にしておきます(笑)キャリアとしてはWebエンジニアを12年ぐらいやって、その頃にWebの技術とゲームが合わさったモバイルゲームが誕生したんですね。mixiのゲームがちょうどオープンしたてのときに、今までの自分のWebの技術と、自分が好きなゲームが合体した素晴らしい環境だなということで、ゲーム業界にクラスチェンジしました。

その後は株式会社gumiに入社し、セガに転職して『ぷよぷよ!!クエスト』のプロデューサーをし、さらにはグリーのWright Flyer Studiosで『アナザーエデン 時空を超える猫』のプロデューサー兼ディレクターをやり、その後にスクウェア・エニックスへ転職して『ハーヴェステラ』のプロデューサーを務めることになりました。最終的にスクウェア・エニックスには6年在籍して『ハーヴェステラ』しかリリースできませんでしたが、ゲームクリエイターとしてのキャリアの中では一番長いものとなりました。

――いろんな作品を手がけられてきました。

高氏:
ただ、『ハーヴェステラ』のリリースした頃、日本のゲーム業界全体が突然苦しくなったんです。

――はい。

高氏:
非常に高い需要があったコロナ禍が明けて、突然苦しくなったんです。その要因はいくつかあると思っていて、開発費が高騰していること、開発スケジュールがどんどん長くなっていること、あとはゲームが供給過多になったこととか、それらもあって、新作ゲームを作ること自体がかなりリスクがあるという状況になってしまいました。

かつ大手ゲーム会社だと、それぞれの会社で大きなIPがあって、ちゃんとそれも売っていかなければいけない状況の中、私の得意としているミドルゾーンの新規IPが業界の雰囲気としてなかなか作りにくくなったところがあって、結果的に会社を発展的解消というかたちで円満退職することになりました。人生で一番の円満退職でした。

――その後、高さんはどのような活動をされていたんでしょうか。

高氏:
ゲームをしました。サラリーマン時代はあまり時間が取れなくて最新のゲーム事情を追えていなかったこともあり、インディーゲームはかなりプレイしましたね。

――退職後はインプット期間に入ったと。

高氏:
やっぱり業務に集中しているとなかなかゲームをプレイできないというか……、ゲームをやりだすと本当に止まらないんです。1日の24時間のうち18時間くらいプレイするとか、そういうことをやってしまうのでちょっと抑えていたんですけど、退職後はもう好きなことをどんどんやろうと思って、インディーゲームをとにかくやりましたね。

――トレンドのキャッチアップは重要ですよね。

高氏:
ゲームを作って仕事にしていますが、やっぱりゲームをプレイするのも当然好きなんです。なので、インプットでもありつつ、ストレスのアウトプットでもありますね。

――ちなみに、どんなゲームをプレイされましたか。特に印象に残ったタイトルはありますか。

高氏:
インディーゲームで1000時間以上遊んだゲームでいうと『Against the Storm』ですね。あのゲームは本当に素晴らしいゲームだなと思って感動しましたね。メカニクス部分もそうですが、しっかりと作られた世界観を全体的にまぶしているというか、構成しているのが本当に素晴らしいです。

メカニクスだけでも勝負できるゲームだと思うんですが、ちゃんとキャラクターや世界観、雰囲気、グラフィックのテイストもそうですし、すべての完成度が高くて、インディーゲームでここまでちゃんと作ることができるスタジオがあるんだなぁと思って、本当にびっくりしましたね。

――個人的に高さんはストーリー重視のクリエイターというイメージがあったので、メカニクスをしっかり見られているのは少し意外でした。

高氏:
ほかに挙げると『Slay the Spire』ですが、これはメカニクスが素晴らしいのはもちろん、バランスが本当に神懸っていると思いますね。このゲームが評価されたのはメカニクスの面白さは当然ですが、自分はとにかくバランスだと思うんですよ。

リプレイ性があって、しかもランダムだけど、その中でもそれぞれのカードにちゃんと生きていける道が残されていて、上手いプレイヤーだったら酷いドロー、酷いピックでも何とかなるかもしれないという可能性が0.1%は残っているという、その残し方が本当に素晴らしいですね。

――ちなみに『Slay the Spire』はどれぐらい遊ばれたんですか。

高氏:
1000時間ぐらい遊びました。『Slay the Spire 2』ももちろん遊んでいて、一応すべてのキャラクターでアセンション10まで到達しています。

あと衝撃を受けた作品だと、『Inscryption』。クリアして評価に悩みましたが、Act1が面白過ぎましたね。ただ、そのせいで評価がぐちゃぐちゃになっていると思います。

――面白かったけど、どう面白かったのか表現するのが非常に難しいゲームですよね。

高氏:
すごくしっかりした出来なんだけど、しっかりしていない部分もあって、逆にそのバランスの悪さがインディーゲームの良さでもあるのかなという気がします。

2年間みっちりAIの研究。しかしアートには使わない

――ゲームをプレイされていた以外、ほかにどんなことをされていたんでしょうか。

高氏:
ゲームをプレイする以外にも、AIの研究を2年間みっちりとおこないました。そういえばスクウェア・エニックスを退職するときに、退職の挨拶のメールをChatGPTで生成して送信したんですよ。

――えっ、退職メールを読んだ人は驚いたのでは。

高氏:
元々「※この文章はChatGPTで生成しました」と添えたので大丈夫です。社内ではものすごい反響がありましたよ。

――強烈ですね。

高氏:
ほかの部署から「高さんがChatGPTで退職メールを生成したらしいから見せてくれ」とか、そういう話が出回ったらしいです。噂ではつい最近も話題に出たらしくて、かなり話題になったみたいです。

今では普通のことですが、当時はまだ一般の方がAIを触ることはなかったんです。当時の会社の中ではChatGPTを使って文章を生成するとか、そういったことはあまり普通ではなかったので、かなり話題になりましたね。

――高さんが思ったよりぶっ飛んだ人で驚きました。

高氏:
辞める人間なのだから怒られようがないですからね(笑)。その後、AIをゲーム開発にどうリンクさせられるか、どういう活用ができるかということを、かなり綿密に、いろいろな方向性で研究していまして。もしかしたら、AIを活用すれば今まで自分がやってきた規模の開発をかなりコンパクトなかたちにして、新しくゲームを作っていけるんじゃないかなと思いましたね。

――AI技術は有用性もありますが、デリケートな部分でもあると思います。「生成AIを使っています」という公表がネガティブになりえる。その点はいかがでしょうか。

高氏:
はい、単にそのまますべてを使っているわけではないんです。最初はすべての要素を生成AIに任せられると私も思っていました。ただ結局のところ、AIで生成した絵や音は、ちょっと自分が求めるクオリティに達していないなと思ったんですね。

――生成AIのイラストやアートは、高さんの求めるレベルに達してないと。

高氏:
少なくとも現状の性能では、自分の求めるレベルにないですね。去年、絵の生成についてはかなり進化しました。2025年4月にChatGPTの絵の生成能力がかなり上昇して、10月にGeminiのNano Bananaがかなり一貫性のあるグラフィックが生成できるように進化をしました。でも、そこからは思ったほどの進化をしていないんですよ。ゲームの絵のアセットとして使うことにあたっては、ちょっと採用が難しいなと思っていて。で、このたび立ち上げた会社では、絵と音楽については、現時点では生成AIを使用しないという方針になりました。

――高さんの作品は、作品の中に漂う世界の空気感みたいなところも独特な作品なので、強烈な絵のパワーがないと表現しづらいですよね。

高氏:
そうですね。とはいえ、強烈な絵のパワーがなくても、少人数開発ゲームで面白いゲームは作れるとは思っています。ただ、自分が目指している「インディーを超えた新たなインディー」にたどり着くためには、ちょっと今のクオリティでは無理かなと考えています。AIの活用自体は、Claude Codeで「コーディング全般」と「ゲームデザインドキュメントの整理」、「マーケティングプランの立案とリサーチ」、それに加えて総務的な仕事を24時間体制でやってもらっています。文句を言わない優秀な相棒ですね(笑)。

――そうしたことを踏まえて、仰った新たな会社を構えて、しっかり開発をしているわけですか。

高氏:
はい。株式会社Impachi(インパチ)という会社を今年の1月に設立しました。

――前職の退職から会社設立までの間は、受託案件をして生活を繋いでいたわけではないんですね。

高氏:
基本的には財産だけで細々と生きていました。

――もう退職されて2年ですが、基本は貯金だと。すごいですね。

高氏:
後先考えないだけなのかもしれないですけど、とにかく自分の興味があることを今やらないと仕方がないですし。あと、大きな仕事を受けて取り組むというのが、やっぱり自分には向いていないのかもしれないですね。

――ロックですね。会社所属だとなかなか言えないこともありますし……。

高氏:
すべて自分の意志で話して、自分で責任をもつので、本当に自分にとって良い環境だなと思います。

一か八かImpachi

――では、今年1月に設立された株式会社Impachiについて聞かせてください。Impachiは高さん以外のほかのスタッフと一緒にゲームを開発するスタジオということですか。

高氏:
そうですね。メンバーが私を含めて3人いまして、まずは取締役に古本CTO(最高技術責任者)がおります。リードエンジニアで、『アナザーエデン 時空を超える猫』の開発初期に担当してもらったエンジニアです。その後もいろいろな会社で開発や執行役員も務めた人間ですね。

もうひとりが上村というゲームデザイナーで、彼は『アナザーエデン 時空を超える猫』と『ハーヴェステラ』のバランス調整を担当した人物です。ほかにはアート面で協力スタッフがいますが、外部の方になりますね。

今回、完全自社パブリッシングをしようとしています。で、外部出資もなしなんです。ベンチャーキャピタルとかも入っていませんし、親会社もいません。

――実は中国の大きな会社が後ろ盾にあるとか。

高氏:
そういうこともまったくなく、純国産会社として立ち上げています。実際のところ、いろいろ出資をしてもらってもっと大きな規模で作ることも絶対可能ですけど、我々が生活できるぐらいでいいじゃない、と。

あと、やっぱり自分自身の話ですが大規模なゲームをそれほど作りたくないというか。人員の数でコンテンツ量が足されていくようなものではなくて、もっとコアなメカニクス部分で勝負したいというところがあるんです。なので、少ない人数で細々と作って、最初は全然見向きもされないかもしれないですけど、皆さんと一緒に大きくなっていきたいなぁという、そういった会社です。

――地道な挑戦ですね。面白い。

高氏:
ぜひ、皆さん応援してください。ちなみにImpachiという会社名は「一か八か」ということでして……。

――会社名が「一か八か」、すごいですね。

高氏:
(笑)まあ、チャレンジ精神でということなんですけど、元々私の誕生日が1月8日なので、それと合わせたダブルミーニングにもなっているというのと、あと私は麻雀が好きなんですが、親の跳満をアガると1万8000点、つまり“インパチ”なんですね。

で、親の跳満、インパチをアガると、大体その半荘、そのゲームは勝てるんですよ。麻雀好きならやっぱり役満をアガりたいんですけど、役満はそうそうアガれるものではないので、一か八かとはいえ、やっぱりチャレンジ精神はありつつも、1万8000点ぐらいのスマッシュヒットをどんどん飛ばしていきたいなというところもあって、インパチという会社名になったとご理解いただけたでしょうか。

――1万8000点でいいんですか。

高氏:
1万8000点で大丈夫です。親の倍満(2万4000点)ぐらいになるとちょっと……、やっぱり出現頻度が低いので。

――(笑)

高氏:
親の倍満にチャレンジしても、時間だけがかかって子方の1000点、2000点にかわされてしまうことがあるんです。でも、親の跳満ぐらいだったら子方は勝負してこないだろうし、手作り的にもしっかり仕上げられるということで、現実的なチャレンジなんです。だけど一か八かという、絶妙なバランスです。

――ヒットを当てて一山当てたいという気持ちは?

高氏:
結局利益じゃなくて、やっぱり製品として良いものを届けたいというのが第一ですね。

――ちなみに、このタイミングで会社設立を公にしようと思ったきっかけはありますか。

高氏:
公にしようとしたきっかけ……、何だろう。

――えっ、ないんですか。

高氏:
ただ、した方がいいんじゃないかなと思ってした感じなんですけど、ただ「はい、会社作りました」というのはもったいないので、せっかくだったら取材していただきたく、お声がけしました。

――ありがとうございます。

新作ゲームについても訊く後編は、明日4月22日公開予定だ。

[書き起こし・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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