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『ファタモルガーナの館』 x 『シュレティンガーズ・コール』開発者対談インタビュー。「『シュレコ』は本当に素晴らしい」「『ファタモル』はかなりすごい」お互いへの尊敬があふれだす
『ファタモルガーナの館』と『シュレディンガーズ・コール』の開発者はお互いに多大なリスペクトを寄せているという。お互いがお互いをどのように思っているのか、対談の内容をお伝えする。

集英社ゲームズは『シュレディンガーズ・コール』を5月28日に発売した。対応プラットフォームはNintendo Switch/PC(Steam)。『シュレディンガーズ・コール』は、世界最後の話相手としてさまよう魂たちの心残りに応える、ノベルアドベンチャーゲームである。
同作は体験版も好評。そして同作を応援するユーザーの中にはクリエイターもいたようだ。その中のひとりが縹けいか氏である。縹氏は『ファタモルガーナの館』の開発者。『ファタモルガーナの館』はSteamを代表するノベルゲームのひとつで、Steamで5000件以上の評価を集め94%好評の支持を得ている。
そんな縹氏は実は『シュレディンガーズ・コール』を追っており応援していたというわけだ。一方で『シュレディンガーズ・コール』チームもまた『ファタモルガーナの館』に多大なリスペクトを寄せているという。お互いがお互いをどのように思っているのか。対談を実施したので、その内容をお伝えする。
『シュレディンガーズ・コール』の集英社ゲームズからは林プロデューサー、開発チームのAcrobatic Chirimenjakoメンバー3名の計4名が参加。『ファタモルガーナの館』においては、NOVECTの代表の縹けいか氏が参加している。
Achabox氏:
Acrobatic Chirimenjako(以下、アクチリ)でディレクションとアートを担当しています、Achaboxです。よろしくお願いします。
ame氏:
エンジニアとサブシナリオを担当しています。ameです。よろしくお願いします。3年前に一度『ファタモルガーナの館』をクリアしており、せっかくの機会なので2周目を今朝クリアしてから来ました。
Seishi Irimajiri 入交星士(以下、入交)氏:
シナリオ、サウンド、演出を担当しています、入交です。よろしくお願いします。
集英社ゲームズ 林真理(以下、林)氏:
集英社ゲームズで本作や『都市伝説解体センター』などのプロデューサーを務めております、林真理と申します。
縹けいか(以下、縹)氏:
NOVECTの代表、縹です。『ファタモルガーナの館(以下、ファタモル)』などを手がけました。
『ファタモル』開発者の『シュレコ』第一印象は
――縹さんは今回『シュレディンガーズ・コール(以下、シュレコ)』をプレイしてみて、どのような感想を持たれましたか。
縹氏:
最初からすごかったです。最初に本作を知ったのは、集英社ゲームクリエイターズCAMPオリジナルゲームコンテスト「GAME BBQ vol.1」において、本作が最優秀賞を受賞したときでした。そのときに「すごくビジュアルが良いなぁ」と思って、実際にゲームも遊んでみたいとずっと思っていました。
そのあと2025年1月開催の台北ゲームショウに個人的に遊びに行ったときにようやくプレイできて、そのときの第一印象はすごい体験をさせていただいたなぁという感じです。率直に「これは売れるぞ!」と(笑)映像美ももちろんなのですが、サウンドの作り込みがとにかく素晴らしくて、感情を揺さぶられるんです。心にダイレクトに響いてくる体験をさせてもらいましたね。

先日、先んじて終盤までを特別にプレイさせていただきました。そこでは、第一印象以上の体験を提供していただいたと感じています。感情がすごく動く作品だなと。
こんなに演出が凝っているアドベンチャーゲームは、ほかにないですよね。もちろん『都市伝説解体センター』も遊んだことがありまして、あの作品もかなり凝って作られていると感じましたが、『シュレコ』はまたそれとは異なるベクトルで、各演出が総合芸術のように渾然一体となって感情に響いてくるような感覚があります。遊んでいてまず「どこまで計算して作られているんだろう」という疑問が浮かびましたね。とにかく第一印象からずっと「素晴らしい」という印象を持ち続けています。
ame氏・入交氏:
ありがとうございます!
――刻々と演出が変化していきますよね。サウンド面もすごくて、「ヘッドフォンでプレイして」と言うだけのことはあるな、と感じました。
縹氏:
そのとおりです!家族と一緒にプレイしているのでヘッドフォンはつけていませんでしたが、それでも音にはすごくインパクトを感じました。スピーカーであれということは、ヘッドフォンをしたらもう号泣してしまいますね(笑)
Achabox氏:
……ちょっと(縹)けいかさんの感想を聞いて、泣きそうになっています。
ame氏:
本当にけいかさんにそう言っていただけるのは嬉しいです。『ファタモル』も音楽で感情を盛り上げていく演出がすごく印象的で、それこそ感動しながら遊ぶゲームじゃないですか。
Achabox氏:
感動と音楽の畳み掛けがすごいですよね、本当に。
ame氏:
それを作った方にそこまで言っていただけると。
Achabox氏:
感無量でございます。
縹氏:
ゲームにおいて音楽は、すごく重要なファクターだと思っているんですよね。BGMもそうですがサウンドエフェクトも含めて、「欲しい!」と思ったところにばっちりの音が流れてくるので、「なぜこんなに適切なサウンドが作れるのだろう」と思いました。サウンドは、すべてご自身で作られたものなんですか?
入交氏:
そうですね。ざっくり言うと、プログラムに近いスクリプトというもので構成してあります。プログラム言語みたいなところにテキストや演出やサウンドをぐちゃぐちゃに詰め込んでいて……。
縹氏:
結構ハードコーディングな感じなんですね。
入交氏:
わかりやすく言うとRen’Pyとかティラノスクリプトみたいなものに近いんですけど、『シュレコ』のためだけにカスタマイズした「シュレコスクリプト」みたいなものを用意しています。それを1行1行書きながら、15分くらいでバっと曲を作ってそこへ入れてみて、セリフも書いて映像も10分くらいで軽く作って入れてみて……。PC内で映像と音楽とエディタとUnityが並行で動いているような環境です。
縹氏:
だからこそ、あれだけすべての要素が高水準で融合を果たしているんですね。エディタも含めて、みなさんで並行して作られているからこそだと思います。この作品は融合っぷりがすごいなと思ったんです。ゲーム作品の中には、すごく良いものや要素が一緒に存在はしているのだけれど、時にサウンドが融合しきれていないバラバラ感があったりするパターンもあるのですが、『シュレコ』にはそういったことはまったく感じなくて、サウンド含めたすべてが一体感を生み出していると感じました。その作り方が土台にあるからなんですね。
林氏:
基本的に制作はこの3人でおこなわれていて、この3人の中で良いとされるものはすぐに変更・適用ができるという環境の中で4年間作ってきましたね。ディレクションはAchaboxさんがしているんですけど、星士さんがコンセプトに合わせてシナリオを書いて、そこで受け手の感情を動かすための音楽や映像を自分で作ってその場ですぐに当ててみるんです。それをものすごい回数繰り返しこなしてきているのが、このチームの特徴なんです。それが1秒1秒の演出の細かさに通じていると思います。分業ではなく3人でひとつのものを作っているのが特徴的です。
縹氏:
すごく納得しました。そうでないとあのクオリティのものは作れない感じがします。音楽なども、後から考えて当てはめたという感じがしませんし、そのシーンのためだけに作られたという感じをすごく受けるので、その作り方を聞いてなるほどと思いました。
林氏:
……そのかわり、その作業をずっとやってきたために捨てることになったシナリオや曲も大量にあって、捨てたものだけでゲームをあと1~2本作れたかもしれません。
――制作のフローが想像できないゲームに、久しぶりに出会ったという感じがしました。
縹氏:
そうですね。プレイしながら、「どうやって作っているんだろう」と、そればかり考えてしまいました(笑)
林氏:
プロデューサーとして、再現してくださいって言われたら「嫌です」って答えます。
一同:
(笑)
『シュレコ』チームが『ファタモル』から学んだこと
――アクチリさんとしては『ファタモル』のどういうところから何を学びましたか。
Achabox氏:
まず私たちが『シュレコ』開発初期段階で、どのように人を救うストーリーを描くのかや世界観をどうするかで悩んで話し合っているときに、本作のアシスタントプロデューサーである福田さんから「『ファタモル』をプレイしていただくと参考になると思います」と薦めていただいて。福田さんも『ファタモル』が大好きとのことだったんです。
ame氏:
そのときまで僕は不勉強ながら『ファタモル』を知らなかったので、福田さんから聞いてプレイしてみたら「なんだこの面白いゲームは!?」と(笑)

振り返ってみて、『シュレコ』が『ファタモル』から影響を受けたと思うところはユーザーが何に集中すべきかが明確にされているところです。『ファタモル』には、伏線と開示されていない情報、どんでん返しみたいなものが大量にあるじゃないですか。にもかかわらず、プレイしていて「何がなんだかわからない!」という状態には陥らない。それがすごい。
Achabox氏:
そうそう!次の展開の前にスッと1~2行挿入されるテキストで示してくれる。
ame氏:
途中までは主人公が何者かとか、館がなんなのかもわかっていないんですけど、その章を楽しむうえでは全然気にならないんですよ。でも途中から徐々にフォーカスが変わってくるのを、間に挟まれるちょっとしたシーンで視線誘導をしてくれる感じ。しかも、そこがユーザーにとってちょっとメタに入っていって嬉しい部分でもあるんですよ。そういう細やかな意図を持ったシーンが自然と挿入されることによって、謎の多さがありつつもプレイヤーは迷わずにどんどんプレイできて、常に新しいことに驚き続けられるゲームになっている。
実際にゲームを作ってみるとわかるんですけど、普通そんなことはできないんですよ(笑)あれだけの量の謎を配置したら、普通ユーザーにとってわけがわからないものができてしまう。
Achabox氏:
どこからどう作ったんだろうと不思議に思いますよね。
ame氏:
なので、『シュレコ』のとあるシーンのように、事情が複雑であとから徐々に情報が開示されていくようなシナリオを作る際に、『ファタモル』から学んだことがいろいろ活かされたのではないかと思っています。作っている最中は無我夢中ですが、振り返ってみると影響を受けていたな、と。
縹氏:
すごく光栄なお話で感動しています。ゲームやシナリオの構成を褒めていただけるのは、書いている人間としてすごく嬉しいです。現在開発中の『Project Code M(以下、M)』に関しても、構成についてはずっと考え続けています。それというのも、私はゲーム制作ではユーザーさんの感情を常に最重要視しているからです。
『ファタモル』も、ユーザーさんの心を離さないためにちょっと驚きの要素を入れようとか、メタ的な要素を入れようとかを考えてテコ入れをしていった結果あのかたちになっています。感情を重視しながら作っているのですが、すごく論理的に考えて作っているんですよね。そして、その要素は『ファタモル』よりも、推理ゲームである『M』の方がより顕著に出ると思います。ユーザーさんの思考がとっ散らかることのないように考えて作っています。
また『ファタモル』は考えて作っているとは言ったものの、『M』に比較するともっと感情が軸のお話なので、ユーザーさんがその感情で納得すればそれでよし、というところもありました。でも推理ゲームとなるとちょっと話が変わってくるかな、と。「細かいことは良いんだよ」では済まされない難しさを今『M』の開発で感じているところではあります。
ame氏:
『ファタモル』の再プレイをしているなかで、「この人がミステリーを作ったら、一体どんなヤバい物が出てくるんだ」と思って(笑)
Achabox氏:
感情をあれだけ揺さぶられる作品を体験させてもらったあとですし、舞台が日本ということで、新作はどうなってしまうんだと思いますよね。今一番楽しみにしているゲームです。
縹氏:
それは嬉しいですね。『M』単体でも、Achaさんのようにセンスの抜群に良い方を惹きつけるような力があったということだと思いますので。本当にありがとうございます。
アドベンチャーゲームの「理解度」バランス調整
――アドベンチャーゲームはユーザーの理解度という不可視なものと向き合う必要がありますよね。どのようにユーザーの理解度に寄り添って、歩調を合わせる作品作りをしているのでしょうか。
縹氏:
私の場合はQAをたくさんするというのに近いと思います。自分の中に空想のユーザーの視点をいくつか持っておいて、書いたあとに一回自分をリセットしてから読んでみたときに、ちゃんと情報が入ってくるかを確かめる。その試行錯誤を脳内で繰り返します。そこで、この情報はちょっと唐突すぎるかなとか、こんなことを急に言われてもユーザーは心が追いつかないだろうとかに意識を向けます。
あるいは、テキストだけでは追いつかないかもしれないけれど、ここに良い感じのサウンドやビジュアルが挿入されたら受け止められるかも、ということを考えながら作っていく感じです。
小説ならそもそもサウンドや映像はないので、テキストだけを考えればいいんですけれど、ゲームとなるとまた話が変わってくるかなと思うんです。そのゲームをやって文章を読む人だけではなくて、プレイしている仮想ユーザーの視点を自分の中に持つ必要があると思っています。
――ご自身が創造主であるにもかかわらず、知らない自分にもなれるということですか。
縹氏:
そうですね。そういうスタンスでないと、「これでは感情が動かないだろう」というような判断ができないと思います。
――アクチリさんの場合は、アドベンチャーゲームのユーザー視点での理解度把握はいかがでしょうか。
入交氏:
アクチリの場合は仮想で話すというよりは、集英社ゲームズの方と週に2~3回くらい打ち合わせをしてきましたね。さきほど話に挙がった福田さんも、世界観のジャッジメントをかなりしてくださいます。お客さんがこの時点で知っていないと話がわからなくなるというラインと、知らないままでも外連味として受け入れて楽しんでもらえばいいという部分とがあって。その判断を集英社ゲームズさんにもお手伝いしてもらいました。
Achabox氏:
まず、こういう電話をすることになって、こういう感情が生まれるというのをグラフで構成して、それをもとに各自シナリオやロードマップなどを書いていきます。一回作ってみたあとで、意外とグッと来ないなというときに、もっと心が動くようなシーンや音楽が足りないのではということで直して、また見てもらって――というのを繰り返しました。
ame氏:
『シュレコ』はプレイアブルな要素が多いので、それを通じてユーザーさんが理解を深めていくというのを意識するようにしましたね。たとえば手帳を書くとか手帳を使うという行動をとることができて、それによってユーザーさんはどれだけ情報をインプットできるか、またそれ自体が楽しいかどうかということを考えましたね。

Achabox氏:
『シュレコ』の画面の構図は「座って電話しているだけ」の状態がほとんどなんですけど、かといってシーンや情報を増やしすぎるとわかりづらくなると思うんですよね。本当はキャラクターの背景をもっと語らせたりするべきところも削ることでわかりやすさの方へ振って調整しました。それでもまだわかりづらくなったり忘れそうな部分が出てくる場合は、手帳でクイズパートを加えたり、メアリーが情報を整理するシーンを盛り込んで補完するなど、やりすぎかなというくらい繰り返していますね。
縹氏:
快適さの意味ですごく「令和のゲーム」という感じがしました。『シュレコ』は常にユーザーに寄り添っていて、やっていてわからないというところはまったくありませんでした。
それに、たとえばその手帳というアイテムが初めて出てくるタイミングなども適切なんです。「なんで今?」みたいなことはまったく起こらなくて、必要なときに必要な情報を整理できたので、Achaさんが仰っていたロードマップが活きているのだろうと思います。
林氏:
今すごくカッコよくまとめましたけど、この3人はとっ散らかる3人なんですよ。4年のうちの大半がめちゃくちゃな状態で、そもそも3人のうちの誰も自分たちの表現したいものをどう作ればいいかがわかっていなかったんです。最初の3年くらいは、どう表現すべきかという作り方そのものを模索する時間でした。
縹氏:
ゲームクリエイターズCAMPで大賞を獲られた時点では、どのくらい今に近いゲームだったんでしょうか。
林氏:
ゼロ%です。
一同:
(笑)
林氏:
そもそも企画書のコンペだったのでビルドはなかったんです。それに加えて、この3人の中ではAchaさんがほかの人の作るゲームにお手伝いで参加したことがあるくらいで、基本ゲームを作ったことはないメンバーなんですよ。ameさんも星士さんもゲーム開発は初めてなうえ、最初はモバイル向けの縦型画面でのタッチ操作アドベンチャーを作ろうとしていたんです。
それをちょっと作ってみながら、やりたいことをヒアリングしていった感じですね。絵のクオリティも当初からかなり上がりましたし、シナリオも大量に捨ててきました。メンバーの成長とともに、良いゲームになってきたんじゃないかなと思います。
縹氏:
集英社ゲームズさんは実際どのようにフィードバックをされた感じでしょうか。
林氏:
本作に関しては僕のチームで週1回の定例打ち合わせからスタートして、それが週2~3回に増えたりもしつつ、会社の立ち上げからメンタル面まで、ずっと並走してきましたね。パブリッシャーというよりは、二人三脚で一緒に作ってきたメンバーという感じがしますね。
入交氏:
衝突もありました。ただどちらかというと、集英社ゲームズさんの方は作家性を大事にしようとしてくれて、僕たちはもっとゲームっぽくしたがるという、おそらくみなさんの想像と逆のパターンで。林さん福田さんは、これで勝てるしこの表現で行ってほしいと言うんですけど、僕たちの方が「体力ゲージ入れよう」みたいなことを言い出して(笑)
一同:
(笑)
入交氏:
いっぱい入れたいものはあったんですけど、やっぱりどんどんズレていって「違う」ということで今の表現に落ち着いた。
Achabox氏:
林さんと福田さんからは『シュレコ』は感情を伝えるための演出のゲームなんだ、と。君たちは演出が最強なのだから、それを頑張ってほしいと言われました。
ame氏:
でも、ゲージ制を入れるか入れないかを悩んだことの副産物はありました。「正解を選ばないと先に進むことはできない」というゲーム的なギミックや構成と、どう人に寄り添って感動させるかというシナリオ的な価値づけを、いかに同居させるかですごく悩んだんですね。そのひとつの手法が体力ゲージの存在やゲームオーバーだったんです。いろんな手法を試した結果、最終的に『シュレコ』の思考解放パートのシステムに落ち着きました。そこに行き着けたのは、人間って誰しも、同じことを何度も繰り返して自分で苦しんでしまう体験をしてるんじゃないかと気づいたからです。
つまり「失敗というのは繰り返しだ」という解釈にたどり着いて、僕らが思考解放パートと呼んでいる部分を生み出すに至った。それがある種ブレイクスルーだったなと思います。シナリオ的・ゲーム的の両面での必要性に応えるシーンを作れたな、と。


Achabox氏:
「このゲームで表現したいのは、相対するキャラへの論破じゃないよね」と。正解を突きつけるというのは、自分たちがやりたい寄り添うこととを真逆だよねという話になって。だけどゲームとしては緩急の必要だし、彼/彼女の心に寄り添うとか、入っていくというのはどういう行為なのだろうと考えたときに、今の形に行き着いたんですよね。
縹氏:
すごく盛り上がりとか、クライマックス感が感じられます。
ame氏:
林さんの「絶対にアレはなくすな」という主張で(笑)
林氏:
このチームは4年間ずっと“模索”を続けてきたので、注意・指摘するとそのシステムとかシナリオがなくなっちゃうんですよ。「ここは残して」というのははっきり言わないと、丸ごとなくなってしまって結構大変でしたね。ただ、そういう作っては捨て作っては捨てという繰り返しの能力とかパワーは、このチームの特徴であり良さだと思いますね。
――林さんはいろいろなゲーム開発現場を見てきたと思うのですが、アクチリさんみたいな作り方は普通のゲーム会社でも可能なのでしょうか。
林氏:
いや、できないです!
――(笑)
林氏:
3人じゃなくて50人でこのやり方をするという内容だったら、俺絶対プロデューサー引き受けないです。絶対完成しなそうだもん!3人だからやれるかなという腹積もりがあったのであって。
縹氏:
インディーの良さでもあると思いますね。インディーだからこそ、少人数のギリギリのラインでまとまるみたいな。この人数を超えてしまうと、それはちゃんと組織化して、役割も決めて、各々のやることをやっていかないと逆に崩壊する。熱意があると裏目に出そう。
林氏:
人数が少ないからこそ小回りがきくし、生み出せる細かさが出ているところがありますね。
縹氏:
緻密さ、細やかさというのはまさに、プロジェクトが大きくなればなるほどなくなっていくんじゃないかなと思っていて。たとえば10~20時間くらいのプレイ時間のゲームをこの人数で作るとなると、より一層作品としての緻密さの水準が上がっていくのかな、と。
今、我々が作っている『M』は現段階でのプレイ時間が40~50時間の見込みなんですけれども、それをダレさせないためにいろいろなミニゲームが挿入されているんです。そうすると、一つ一つに対する演出の緻密さの追求に限界が出てくるので取捨選択が必要になってくるんですけど、作品の緻密さの方を限界まで高めていくとなったら、今のアクチリさんの作り方が最適解なのかなと感じました。
林氏:
僕は最初総プレイ時間10時間くらいという仮の目標を設定したんですけど、それというのもアクチリが作れるギリギリの時間に設定すればいいなと思ったからで、何時間じゃなきゃダメということではないんですよね。もっと短くしようかと話していた時期もありましたし。大型のプロジェクトだと最初に大体何時間くらいのゲームで、予算はこれで、開発メンバーが何人いて――ということがはっきり決まって始まると思うんですけど、今回はあまりルールは決めずにやりたい表現を探してもらったんですよね。
――縹さんの方で『シュレコ』において、自分のタイトルに導入したいなというインスパイアを受けた部分はありますか。
縹氏:
やはり演出が素晴らしすぎるので、演出をパクりてぇ~という感じですね(笑)感情を揺さぶる瞬間の演出がピカイチで素晴らしいと思っていて、映像もサウンドもすべてですね。サウンド、うちに入りませんか?(笑)
一同:
(笑)
縹氏:
サウンドは、うちはまだまだ仮状態でこれからという段階なんですけれども、どこまで真似られるか、どこまであんな雰囲気を出せるかなというのには、挑戦したいと感じました。真似たいところですね!
――『M』はリリースまでもう少しかかりますか。
縹氏:
まだかかります!もっとコンスタントにゲームを出したい気持ちはあるんですけど、大作志向というか……。長編が好きなんですよね。その世界に長くどっぷり浸って、あのゲームは楽しかったな~という感情になれることがすごく好きで。そういう体験を自分の作ったゲームをプレイする人にも与えたいなと思うと、大作寄りになってしまうというところがあります。

Achabox氏:
私たちは3人で10時間のゲーム作ろうとして死にかけているので。
入交氏:
1章が1時間半くらいのものとして仕上がって、これ10時間分は無理だと思って。
Achabox氏:
林さんが8~10時間くらいにしましょうって言って、「無理です。5時間くらいでお願いします」と(笑)
一同:
(笑)
縹氏:
『シュレコ』の作り込みでプレイ時間8時間相当のものを作れと言われたら、無理ですよと言いたくなる気持ちもわかります。
林氏:
制作中はそう話していましたが、結果的に8時間くらいのものになりましたね。
入交氏:
もっと章が必要ですとか、パートを長くしたいとかバチバチやって、結局延びましたね。
いかにして物語を作るか
ame氏:
物語の書き方って、プロットは作らず積み上げていくやり方と、先に枠組みを決めて逆算するものがあると思うのですが、『ファタモル』はどちらだったんですか。
縹氏:
大きな全体の話と各章のプロットはあったにはあったのですが、『M』と比較すると『ファタモル』はプロットはないに等しかったですね。おおまかな話しかなくて、このへんにどんでん返しがあるよくらいのメモしかなく、書きながら詳細を決めていったことが多いですね。書いている最中に、自分で知る事実すらある、みたいな。
一同:
えぇー!
縹氏:
「こうやって繋がっちゃったんだ……」みたいな(笑)『M』は逆で、緻密なプロットを用意しています。全体あらすじを20稿近くやり直して、そこから各事件の詳細プロットを作成したんですが、それも修正を重ねたので、最終的に100稿くらいプロットを書いたと思います。どこで何のアイテムを取得して、それをどこで消失するかまでも記載しました。なので、自分のやり方はこうというのを一概には言えないですね。大変でした。二度とやりたくないです。
一同:
(笑)
縹氏:
内製エディタを使用した演出作業、いわゆるスクリプティングも私がやっているんですけれども、演出がうまくハマらなければシナリオを書き換えなければいけなかったりもするので、まだまだユーザーに思ったとおりの感情を与えられるのかという不安を抱えながら変更を加えている最中ですね。
入交氏:
『シュレコ』の場合は「この音楽を使おうか」「この表現できるかな」と、良くも悪くもフレキシブルにやっているので、それが「思ったのと全然違うものができた!」にも繋がるんですけど。けいかさんの場合はそういうのを全部断ち切って、「これをやるんだ」と決めてからやっているから、すごく大変だなと思って。
縹氏:
推理ゲームって難しいなと思って作りました。
――縹さんのプロジェクトは、壮大な設計図があってやるべきことも多く、途方もない、直すとなったら量も大変というなか、どうやってモチベーションを保っていますか。
縹氏:
実際、開発中にまるっと捨てたテキストもかなりの量あります。自分でも、なんでモチベーションを保てているのか疑問なんですよね(笑)
一同:
(笑)
縹氏:
自分の人生において、これを達成しなきゃいけないという認識で生きているので、これを捨ててしまったら自分には何もないってなっちゃうと思うんですよね。何もない人になりたくないからこそ、やり続けるしかないというところはあるかもしれません。もちろん楽しいんですけど、楽しいからやれているのではなくて、成し遂げなければいけない使命感みたいなものがモチベーションかもしれない。アクチリさんはモチベーションがなくなるというようなことはなかったんでしょうか。
Achabox氏:
私は全然ないですね。私も使命感なのかも。私はこれを作りたいんだ、作るんだと決めているからモチベーションが落ちるということのほうがよくわからないです。
縹氏:
同じような感じがしますね。モチベーションがなくなるということのほうが、なんだかよくわからないみたいな。
Achabox氏:
企画書を出した時点から、私はこのゲームを完成させるんだという強い意志があったので、落ちることがないんですよね。
縹氏:
それはわかります。きっと同じ気持ちですね。ディレクションする人がそうなってくれてることって重要だと思うんですよね。ディレクターが「なんかやる気ねぇわ~」みたいなテンションだったら、チーム総崩れというか。ディレクターはモチベーション高くあらねばなりませんね。
――頑張ってやる気を出すのではなく先天的にあると。
縹氏:
そうですね、これは先天的な感じもしますね。また、自分たちの企画だからこそというのもあると思います。外注とか下請けだったりすると、ここまでのモチベーションは保てないかもしれないですし。
――締めになりますが。アクチリさんは『シュレコ』において、縹さんは『M』において、どういう体験を届けるためにゲームを作ったかをそれぞれお聞かせください。
Achabox氏:
私が最初に本作の企画書を作ったときの動機の源は、「誰かに話を聞いてほしい」という感情でした。このゲームはコロナ禍で作られたので、まさに人に相談をできない状況にもあったんですね。このゲームは、人の話を聞いてあげるゲームなんですけど、話を聞きながらひとつひとつ言葉をかけていくときに、話を聞いてほしかった自分自身にも話しかけているような感覚になるゲームだと思います。なので、プレイし終わったあとに「あの人と話したいな」とか「友達に電話をかけたいな」「元気にしてるかな」という気持ちになってもらえたら嬉しいなと思っています。

縹氏:
『Project code M』はエンターテインメントを届けようという意思で作っているところが一番にあります。前作ではヒューマンドラマ的で、心の機微であったり、愛を伝えるというテーマがあったんですけれども、今回はもっとド直球にエンタメを楽しんでいただきたい、と。そういう気持ちで、殺人パートでは「殺人を楽しむ」という、本来やってはいけないこと、悪事に手を染めることも含めて、ユーザーが楽しんでしまう――そんな今までにない楽しみを提供したいというふうに思っております。
主人公たちの視点は殺人ではなく探偵側なんですけれども、探偵もただの探偵ではなくちょっとアンダーグラウンドな死体処理屋というテーマを持っていて、倫理的に問題のある行動もしていくんです。現実ではもちろんできないことですが、だからこそユーザーとしてはフィクションを楽しめると思うんですよね。それに加えてキャラの良さも押し出していってます。最近、プレイ時間長めの大型推理ゲームがあまりない気がしていて、それをうちがぶつけたいという気持ちでやっております。
――お互いの作品におすすめコメントをつけるとしたらどのような言葉になりますか。
Achabox氏:
『ファタモル』は絶望と優しさの緩急がすごい作品です。もちろん良い意味でですが、何度この作品に裏切られたことでしょう(笑)。辛くて辛くて、何度読むのをやめようと思ったかわからないんです。それでもこの世界にのめり込み、彼らの幸せを願ってしまう。人間の美しさと醜さがすごく同居していて、終わる頃にはどんなキャラクターに対しても、「悪いところはあるけれど、その人なりの事情があったんだろうな」と許せる箇所を探してしまうような素晴らしいゲームだと思っています。この作品の中にある苦しさと、その先にある愛を、ぜひ皆さんに体験していただきたいです。

縹氏:
素敵なコメントをいただいて光栄です。『シュレコ』は本当に唯一無二の演出の作品だと思います。あそこまで、人の感情を動かすということに特化したアドベンチャーゲームはないと断言してもいいと思っています。あれで心が動かない人間はいないと思うので、何か日常のなかで落ち込んでいるとか、渇きがあるとか、そういう人にこそ『シュレコ』をやっていただいて、心をダイナミックに動かしてもらうことで精神療法的な効果があるのではと思っています。私はプレイしていて、やる価値がある、やらないともったいないという気持ちが湧き上がってきましたので、この記事を見た方は絶対に買って体験していただきたいです。
――ありがとうございました。
『ファタモルガーナの館』は、Nintendo Switch/PS4/PC(Steam)などで配信中だ。『シュレティンガーズ・コール』は、Nintendo Switch/PC(Steam)向けに5月28日より配信中である。
©Novectacle ©Acrobatic Chirimenjako / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
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