今「ファミコンショップ大百科」が売れているらしい。著者オロチ氏が語った意外な言葉と、ゲーム流通現場の知られざる裏側

これまでのファミコン研究の実情や、著書「ファミコンショップ大百科」の刊行に至った背景などについて興味深いお話をうかがうことができたため、お話を訊いた。

三才ブックスは4月3日、ファミコン研究家のオロチ氏による書籍「ファミコンショップ大百科」を発売した。価格は2420円(税込)。

本書は、ファミリーコンピュータのブーム到来に伴って誕生し、全国へと急速に広まった「ファミコンショップ」をテーマに、ゲーム流通の歴史を解説する一冊だ。「町のゲーム屋さん」として親しまれた店舗の隆盛から衰退まで、その変遷を当時の資料とともにたどる内容となっている。なお同著書も売れ行きは好調とのことだ。

著者のオロチ氏は、任天堂やファミコンに関する研究を長年おこなってきた人物である。レトロゲーム専門のブログ「ファミコンのネタ!!」を運営し、ニュースやコラムの掲載を通じて、ファミコンにまつわる情報を長きにわたって発信してきた。

このたび、弊誌はオロチ氏にインタビューをおこなった。これまでのファミコン研究の実情や、著書「ファミコンショップ大百科」の刊行に至った背景などについて興味深いお話をうかがうことができたため、お話を訊いた。

ファミコン研究って何?

――自己紹介をお願いします。

オロチ氏:
任天堂・ファミコン研究家のオロチと申します。Xでは「Nintendo Famicom Archivist/Historian/Collector」と名乗っていますが、もともとは一介のファミコンコレクターです。

――まず、どうして「ファミコンショップ」をテーマにした本を書こうと思ったのでしょう。

オロチ氏:
ファミコンが誕生して40年以上が経ちました。テレビゲームは産業として、文化として世の中に認められるようになり、とくにファミコンなんかは様々な立場の方々によって様々な視点から語られてますよね。でもファミコンショップや玩具屋など流通現場の視点からはあまり語られてこなかった気がします。そもそもまとまった資料がないし、ネット上の情報も消えていく一方なんです。

だからこそ、ファミコンショップの歴史を調べて一冊の本にまとめさせていただいた次第です。本書では流通の歴史をまとめた第1章と、全国のファミコンショップ・玩具をまとめた第2章、現役ショップへのインタビューをまとめた第3章に分かれています。当時、通っていたお店を思い出しながら気軽に読んでもらえたら幸いです。

――そもそもオロチさんは「ファミコン研究家」として、普段はどのような活動をされているのでしょうか。

オロチ氏:
ファミコンに関する過去の資料調査や、その情報発信を中心に活動しています。新作ゲームとは異なり、ファミコンの場合は新しい情報が自然に入ってくることは滅多にありません。そのため、昔のファミコン関連の記事やチラシを読み込んで、気になる点があれば他の資料と照らし合わせながら独自に調査をし、ブログやXでまとめています。あくまで個人の趣味として取り組んでいますが、ときどき三才ブックスの『ゲームラボ』に寄稿することもあります。

――具体的に、どういった調査をおこなっていますか。

オロチ氏:
過去のファミコン雑誌などを読んでいると、情報に矛盾があったり、通説と異なる点が見つかったりすることがあるんです。たとえば、ファミコンの総タイトル数は私が長年取り組んできたテーマの1つです。タイトル数に関して任天堂による明確な公式発表はありませんが、現在は1252本という数がなかば定説化しています。しかし中にはリストから漏れているものや、理由が不明なままタイトルのひとつとして数えられているものがあるんです。当時のファミコン雑誌や新聞記事など資料からそういったタイトルを再発見して事実関係を検証しています。

他には、「任天堂がラブホテルを経営していた」という都市伝説やファミコンカラー赤白は「プラスチックが安かったから」という噂を調査して、事実でなかったという真相を突き止めたこともありました。興味のあることはとことん追求します。

――調査のもとになる情報は、どのように入手されているのでしょうか。

オロチ氏:
私がネットを始めたのは1997年のことですが、その頃には任天堂に言及した雑誌や新聞記事などをまとめている先人たちのサイトが存在していたんですね。そうした情報を参考にしつつ、さらに自分でも一次資料をあたって調査をしてきました。

――それだけでなく、小売店向けに配られた資料のような、一般には入手困難な現物も多く参照されていますよね。

オロチ氏:
そうですね。もともとコレクターなので、調べようと思った時点で、自然と手元に資料が揃っていたところはありました。今でこそネット上には便利なデータベースがありますが、当時はそうしたものの存在すら知りませんでした。ファミコンの総タイトル数にしても現物を集めることしか確かめる手段がなかった。本当に、足で稼ぐところからの出発でしたね。その後、「大技林」のようなカタログの存在を知り、ようやく全体像がつかめるようになっていきました。

――ご自身の蓄積そのものが、データベースになっているのですね。

オロチ氏:
昔は今と違って、ファミコンは単なる中古品であり、古いゲーム機にはほとんど価値がありませんでした。実際、捨て値で売られていることも珍しくなかったんです。地域差はあると思いますが、1990年代初頭の空気感としてはそれが一般的で、ファミコンを集めていること自体を不思議がられるような状況でした。よく変人扱いされましたね(笑)

世間的な価値なんてまったく興味ないんです。今回「ファミコンショップ大百科」で扱っているファミコンショップ研究についても、値札や説明書の印などもともと研究を目的に収集を始めたわけではなく、ただ面白いと思って集めていたらものすごい数になってしまった。それらを管理するため分類をした。どうせなら体系的にまとめてみよう。という風に、いつの間にか学問みたいになっていました。

――「ファミコンショップ大百科」については、好調とお聞きしました。

オロチ氏:
発売前から多くの書店の担当者さんから注目していただいて、実は当初の予定よりも初版部数を増やしているんです。本の内容にシンパシーを感じていただいた部分があったのかもしれませんね。その後もさらに予約注文があって発売日前に重版が決定。いま第2刷を印刷しているところです。本当にありがたいことだと思っております。

「道楽」としてのファミコンショップ研究

――ところで、本書のテーマである「ファミコンショップ」とは、そもそもどのようなお店を指すのでしょうか。

オロチ氏:
本書の定義でいうと、広義のファミコンショップは、単にファミコンを取り扱っていた小売店全般のことです。家電量販店なども含めて、ファミコンを流通させていた店舗はすべてこれに該当します。

一方、狭い意味では、「わんぱくこぞう」や「カメレオンクラブ」のように、自らファミコンショップやゲーム専門店を名乗っていた店舗のことを指します。本書の研究対象はファミコンとスーパーファミコンですので、ファミコンが発売された1983年7月から、スーパーファミコン最後のソフトが発売された2000年までの間に、両ハードを取り扱っていたテレビゲーム専門店を、狭義のファミコンショップと位置づけています。

――なるほど。では、ファミコンソフト収集の延長として、ファミコンショップならではのシールやチラシも集めるようになったということでしょうか。

オロチ氏:
はい、これには明確なきっかけがありました。非売品ゲームコレクターのじろのすけさんが、ご自身のブログで、いわゆる「ファミコンショップシール」という、カセットの裏面に貼られた店名入りのシールに注目されていたんです。当時はそれはまったく重視されておらず、むしろ不要なものとして剥がされる対象になっていました。彼はそれを「ファミコンショップの遺産」として紹介したんですね。

私はその視点に感銘を受けました。そこでコレクションを見直してみると、思ったより持ってなかったことが逆にコレクター心をくすぐりました。そのとき見つかったのは「アスク・チェーン」といシールだったのですが、これを検索してみたところほとんど情報が残っておらず、店舗の写真も見つかりませんでした。そこで、ふと気づいたんです。もしかしたらこのシールこそ、このファミコンショップが存在したという唯一の証拠なのではないかと。こうした経緯から、ファミコンショップ研究に本格的に取り組むようになりました。

――世間的に見過ごされていた資料も多いはずですが、どのように収集されてきたのですか。実際のところ、そううまく情報は集まるものなのでしょうか。

オロチ氏:
まず、長くブログ「ファミコンのネタ!!」を続けてきたことが大きいと思います。1997年からサイトを運営しており、現存する中では日本最古のファミコンサイトだと自負しています。こうした活動を継続していると、メールやコメントが寄せられることも多くて。「これ知っています」「ここの店長でした」といったような、さまざまな情報が集まってきました。

また、一昔前まではそれほど価値が認識されていませんでしたので、中古ショップのジャンクコーナーなどにカセットが転がっていたりすることもありました。それから、オークションも重要な入手経路の1つです。オークションでは、出品写真の2枚目以降をひたすら確認していきます。1枚目はカセットの表面であることが多いため、裏面が写っている画像を重点的に見るんです。すでにカセット自体は全部持ってますので、シールの有無を確かめる目的でチェックするんですよね。なかには裏面の写真が掲載されていなかったり、シールが貼ってあると記載されているだけの場合もあるため、出品者に裏面の確認をお願いして、不審に思われることもありました(笑)

――(笑)

カメレオンクラブのFC用ケースの表(左)と裏(右)、ブルートの FC用  ケースの表(左)と裏(右)

オロチ氏:
それから、ファミコンショップが独自に作成していたカセットのケースなども、「ソフトは要らないから箱だけ売ってほしい」とコメントして入手したことが何度もあります。これも、たいてい最初は不審がられるんですよね(笑)

――なにか特別な収集ルートがあるのかと思っていました。かなり地道な方法なんですね。

オロチ氏:
本当に地道なことの積み重ねですね。図書館へ行って古いビジネス誌や新聞記事のデータベースをひたら調べたり、SNSで情報提供を呼びかけたりしています。意外と有用なのが「まちBBS」など地域情報系の掲示板ですね。そこに「◯◯ってつぶれたの?」とか、何気ない書き込みがありますよね。「あの建物にあった◯◯か」なんて地元の人しか知らないような話が展開されていると嬉しくてガッツポーズですよ(笑)。そうした些細な手がかりから店舗を特定しては1人でニヤニヤしています。

――嬉しくニヤニヤするのが調査のゴールなんですか……?(笑)

オロチ氏:
そうですね。それぞれの店舗に地域性があったりして本当に面白いんです。たとえば父親の遺産でジャズ喫茶店をはじめた兄弟がのちに全国展開するチェーン店を創業した話や、もともと鰻のエサ用イトミミズの卸業者だったあの有名店の話。なかには当時、ダビング機を使ってコピーしたものを内緒で売っていたお店とか、ブラウン管テレビに本体がつながれていて、店主に100円を払えば10分間ファミコンが遊べたお店などなど。全国的にひろく見られるエピソードの他に、小学生がふざけて投げ込んだ花火が在庫の段ボールに燃え広がってボヤ騒ぎになった話とか、なぜか現在、うどん屋として食べログに登録されている乳母車店だとか、店主の息子がギャンブル好きだったという噂がいつの間にか「地下に秘密の賭博場がある」なんて都市伝説になっていった話などなど。正当な歴史書ではぜったいに取り上げないであろうエピソードが山ほど出てきて本当にたいへん興味深いですね。もちろん本書ではそのようなエピソードがてんこ盛りです。

よく誤解されるんですが、私には特別な使命感があるわけではなく楽しいからこそ研究している、というのが実際のところです。

――使命感はないんですか。意外でした。

オロチ氏:
そういう意識はまったくありません。趣味を楽しむのに義務感とか使命感なんて要りませんよね。もちろん熱い想いはありますが、根本にあるのは「純粋な知的好奇心」だけなんです。ファミコンソフトは全部で何種類あるのか、どんなショップシールが存在するのか、といったことが気になって調べているうちに、自然と資料も知識も集まっていったという感覚です。

任天堂元社長・山内さんの「ユーザーはソフトのために仕方なくハードを買う」という有名な言葉があるんですが、その言葉を借りれば我々マニアは「仕方なく知っている」といったところでしょうか。本来、知識なんてひけらかすようなもんじゃないし、ましてやマウントの道具にするようなものでもない。少なくとも私は好きだから仕方なく知っている、くらいのスタンスがいいです(笑)

――では、昨今のレトロゲーム高騰化やそれを扱った動画については、どのように見ていらっしゃいますか。

オロチ氏:
レトロゲームはいろんな楽しみ方がある。プレイするのはもちろん、集めて楽しむ。見て楽しむ。レトロゲームそのものの歴史を楽しむ。いろんな楽しみ方があっていいじゃないですか。

――ファミコンショップ研究における、最終的な目標はあるのでしょうか。

オロチ氏:
自分の集めた資料を、いつか展示のようなかたちで公開したいという思いはあります。博物館というよりも、ショッピングモールの一角のような、多くの人がふらっと立ち寄れる場所で展示して、気軽に楽しんでもらえるのが理想ですね。

――最後になりますが、ファミコンショップ研究の魅力とはなんでしょうか。オロチさんのように自分なりの探究を志す方へ向けて、メッセージをお願いします。

オロチ氏:
ファミコンカセットの裏に貼られているショップシールや、パッケージに貼られている値札など、もともと誰にも注目されず、むしろ邪魔者扱いされていたものでも研究してみたら非常にローカル性にあふれ、奥が深かった。もちろん、ファミコンショップの文化を記録として残したい、という大義名分はありますが、あくまでも結果的にそうなっていくのが理想です。

だからこそ、世の中の価値なんて関係ないと言いたいですね。どんな分野でも構いません。とことん楽しんで突き詰めていけば、こうして本を刊行できるようにもなるんですから。(笑)

――ありがとうございました。

「ファミコンショップ大百科」は、税込2420円にて発売中。

なお、大阪梅田で5月5日に出版記念イベントを実施するそうなので、興味がある人はチェックしてほしい:

開催日
2026年5月5日(火)

開演時間
18:00

開場時間
17:30

会場
梅田Lateral (大阪府)

公式サイト
https://lateral-osaka.com/schedule/2026-05-05-18877/

[聞き手:Jun Inaniwa]
[書き起こし・編集:Niki Jinnnouchi]

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