『Apex Legends』開発者、レジェンド調整について持論を熱く語る。格差是正の真意からレイス対ホライゾン時代の幕開けまで、よもやま話

 

『Apex Legends』開発者のひとりが、レジェンドの調整方針にまつわる思想を語っている。ここ数日でコミュニティから熱い注目を集めているのが、通ごのみで知られるニッチな強キャラワットソン(関連記事)。そして勝率ランキングで1位2位を獲得したホライゾンとレイスだ(関連記事)。開発者から思わぬ情報がもたらされていることで、普段から活発なレジェンド調整の議論はさらに勢いを増す。そうした中では、開発者その人に直接レスで「こんな調整のアイデアはどう?」と投げかけるユーザーも少なくない。しかしそうした中で、ゲームデザイナーのDaniel Zenon Klein氏は改めて「どのような意図でレジェンドを調整するか」という方法論を語ることにしたようだ。

きっかけは、もともとのスレッド(前述)で挙がっていた「フェンスのオンオフを可能にする」というもの。Klein氏はこのアイデアを気に入りつつも、実際の試合ではどれだけ効果を発揮するかわからない、と述べるにとどめていた。ここに別のユーザーからさらなる“ヒラメキ”が飛んでくる。いわく、「効果の強いアクティブモードと弱いパッシブモードで切り替えられたらどう?」というもの。このアイデア自体は別段Klein氏の心には刺さらなかったようだが、野放図に飛び出すアイデアには「語りたい心」を刺激されたようだ。スイッチの入ったKlein氏は長文にて、レジェンドの調整やゲームデザインにまつわるこぼれ話を披露している。
 

 
Klein氏の心に引っかかったのは「〜したらどう?」という言い回しのようだ。これは多くの若手ゲームデザイナーが通る道で、彼らはゲームを作るときに単純にクールなアイデアからスタートする。これをKlein氏は「したらどう? のデザイン」と呼んでいる。対してベテランは違う。まず熟練のゲームデザイナーは「面白そうなアイデア」ではなく「問題ありき」で考えるのだという。まず何ができるかではなく、課題が何であるかを特定し、数値化すること。何が、どう間違っているかをハッキリさせることが、「問題ありき」のアプローチだという。一方、ときにはこの考え方を押し進めることで、「実はそんなに問題じゃなかった」という結論に陥ってしまうことも。

Klein氏はもっとも望ましいやり方として、「ゴールありき」のデザインを挙げている。個々の問題や面白そうなアイデアを取り上げる前に、いかなるシスステムデザインも何が目標かを決めておくやり方のことだ。たとえば、各レジェンドのバランスを調整する目的は何か。いらだたしい要素や不公平に思えることを取り除くこと、がひとつとして挙げられるだろう。あるいは、特定のレジェンドを選んだからといって荒らし扱いされることがないようにするためでもある。とはいえ『Apex Legends』はレジェンドの性能ありきではなく、あくまでガンベースのゲーム。では、本当にレジェンドのバランスを更新することの理由は何だろうか。

Klein氏の意見は、次のとおりだ。レジェンドひとりを作り上げるには、アニメーター・モデラー・サウンドエンジニアなど、数多くのスタッフの努力が結集されている。しかし、ある突出したレジェンドが存在してしまうと、残りのレジェンドの多くにかけられた労力がほとんど無駄になってしまう。これが意味するところは、将来、仮にチームがワットソンかレイスのスキンを作るとして、ごく少数のプレイヤーしか使用していないワットソンと、みんなが使っているレイスのどちらのために作業するか……という選択をせざるをえないということだ。“合理的”な判断をするなら、どちらをとるかは明確になってしまう。つまりKlein氏の言いたいことを要約するならば、リリースした以上すべてのレジェンドに同量の労力を惜しまないためにも、力関係を平衡に保つ必要がある、といったところだろうか。
 

 
Klein氏は、すべてのレジェンドのピック率を同じにすることはできない、と断言する。クリプトやワットソンといったキャラクターはその知的な役割ゆえに、ペースの早い本作では常にニッチな需要しか得られない。開発チームとしては彼らのようなキャラクターが勝ちやすくするようにすべきだが、クリプトがもっともよく選ばれるレジェンドにするような努力は時間的にもマンパワー的にも適切ではないという。

Klein氏はワットソンがもっと使って楽しいキャラクターにしたいと強く考えているが、あくまで現実的な思考を崩さない。すでにワットソン使いを楽しんでいるユーザーの体験を損なわないように、彼女の楽しさを増す方向を模索したいとのことである。最悪のケースとしてKlein氏が懸念しているのは、ワットソンを強くしすぎることで、いずれのパーティでも彼女が“必須”だと捉えられてしまうこと。やりたくもないのに、誰も選ばないから仕方なくワットソンを選ぶ……といったユーザーが現れることは、もっとも避けたい未来のひとつのようだ。

ところでKlein氏がユーザー発のアイデアで唯一好反応を示したのが、先述した「フェンスのオンオフを切り替えられるようにして敵をびっくりさせる」というものだった。以前より同氏から語られているのは、『Apex Legends』のゲームデザインの根幹が「行動の予見性」にあるということ。どこで/いつトラップが発動するか分からない要素を試合に添えることは、防衛型レジェンドの第一義であることが以前にも説明された(関連記事)。「プレイヤーに意思決定を迫る要素を増やす」という「ゴール」に合致していたからこそ、デザイナーのお眼鏡にかなう提案だったのかもしれない。
 

 
なお調整関連の話題でいえば、勝率ランキングでレイスを抜いてホライゾンが躍り出たことはそれなりに驚きをもってコミュニティに受け止められている。本件については、Klein氏とともにレジェンド調整を担っているJayBiebsことJohn Larson氏がコメント。ここ最近の躍進を受けて、ホライゾンがナーフを受けていることは確かだ。とはいえ重要なのは、弱体化を「どうやって」実行するかということ。すでに彼女がもっている「能力セット」を作り替えることには断固反対で、と戦術による無重力浮上とパッシブによる着地効果軽減のシナジーは譲りがたいという。

一方、戦術アビリティのグラビティリフト単体で見てみると、上昇速度や離脱時の加速度、クールタイムなど調整可能な項目は多数ある。いくつかのポイントは調整・テストが用意であるものの、開発チームとしてはあくまでホライゾンの設計意図や、プレイ時の体験を損なわないようにしていきたいそうだ。なおLarson氏は、勝率においてホライゾンがレイスの対抗馬として現れてきたことを喜ばしく思っているそうだ。そもそも従来、新レジェンドはあえて抑えめの性能でリリースされてきたのに対し(関連記事)、ホライゾンは最初から比較的強力なレジェンドとして送り出されたことが明かされている。
 

 
ここ数日でさまざまな議論を巻き起こしたレジェンド調整論争。終わりのない問いかけを追究する開発チームとともに、この壮大なライブサービスを楽しんでいきたいものだ。