『Apex Legends』開発者が「プレイヤーに攻撃される苦しみ」を告白したことで、ユーザーたちが反省し始める。深まるコミュニティと開発者の絆

 

Apex Legends』の海外ユーザーたちが、コミュニティとしての態度を見直しつつあるのかもしれない。きっかけは12月8日に開発者が書き込んだある投稿だ。Respawn EntertainmentゲームデザイナーのDaniel Zenon Klein氏が海外掲示板Redditにて、開発スタッフの多くがオンラインで直接ユーザーとやりとりすることを避けている実情を告白(関連記事)。自身が脅迫を受け取った経験も挙げ、インターネットの攻撃性と付き合っていくデベロッパーの苦悩を打ち明けた。この議論は波紋を呼び、弊誌を含めたメディアに取り上げられている。こうしたメディア記事をもとに新たなスレッドが立てられ、同トピックについて改めて議論がなされたのである。

ゲームデザイナーKlein氏による、プレイヤーから攻撃を受ける苦しみ吐露への反応はさまざま。一連の説明には「運営側の責任逃れだ」と批判する向きもある一方、事情に理解を示す声も現れている。ユーザーたちが、自分たちの行動の是非を問い始めたのだ。スレッドが立てられたことも、そうしたユーザー側の問題提起的行動だ。ある書き込みは、ゲーム中にマッチ相手から開発メンバーのひとりだと勘違いされ、自殺教唆などの嫌がらせを受け取ったことを告白。攻撃的なユーザーへの嫌悪感をあらわにした。また他ゲームと比べ、『Apex Legends』掲示板における開発者のレスポンス率が非常に高いことも注目されている。改めてKlein氏をはじめ、掲示板の利用者と積極的に交流を図る開発チームへの感謝を伝えるレスも連なった。今回の呼びかけは『Apex Legends』だけでなく、ゲーム業界やインターネット全体への喚起になるだろうと唱えるもある。こうした流れを受け、ユーザーと関係者のつながりを見直す動きが活発化しているのだ。
 

 
同スレッドでは運営側の事情を汲み取るような投稿が多く、「一部の開発者がネットユーザーたちとの交流を避けている」との報告を受け、あるユーザーは「自分としても連中と関わりたくない。同時に、自分も連中に含まれるひとりに過ぎない」と本音をポロリ。続くレスでも、インターネットがきわめて毒気の強い環境であるとの同意が寄せられたほか、「自分たちは全員クソッタレだ」と悟ったコメントも寄せられた。ネットやSNSだけでなく、ゲーム中でのプレイヤー間における愚痴にも発展。プレイヤーのひとりは、「実は知らない人と遊ぶとき、いつもボイスチャットをミュートにしている」と打ち明けた。素行の悪いユーザーと当たったとき、暴言が飛んでくるのを見越しての行動ということだろう。

別のユーザーからは、今回の件は『Apex Legends』やRespawn Entertainmentだけでなくゲーム業界全体にかかわる問題だと注意喚起がなされた。これに対してはKlein氏がジョーク混じりに返信をつけており、前職の経験を踏まえて「(『Apex Legends』より)『League of Legends』の方がよっぽど酷いよ」とぶっちゃける一幕も。このほか『Dead by Daylight』や『Call of Duty』シリーズなど、多くの他作品の掲示板での“荒れ具合”が語られた。ライブサービスの対人戦ゲームは必然的に議論が生じやすく、書き込みもヒートアップしやすい傾向にあるのかもしれない。あるユーザーは、対戦ゲーム界隈の毒気は競争環境における副産物だと述べている。『Apex Legends』だけにはとどまらない、運営とユーザーとの距離が近いゲームの抱える悩みである。
 

 
「対戦ゲーム全体の問題」という視座でいえば、コミュニケーションディレクターのRyan Rigney氏による考察が示唆に富んでいる。Rigney氏はシーズン7のバトルパス改変に関する問題で、頻繁に情報発信・意見交換をおこなってきた。(関連記事)。同氏は、開発者とゲームを遊ぶ人々の間の関係に“行き詰まり”が発生しているとの所感。『Apex Legends』に限らずあらゆる場所で同じサイクルが繰り返されているという。普段は隠れている開発者が時おりコミュニティに顔を出すと、たちまち集中砲火を受ける。それを嘆いたユーザーがスレッドを立て、2万件強のUpvoteを獲得。しかし次の週には有料コンテンツの価格設定が炎上する。そしてまた開発者とユーザーの“塹壕戦”が続く……といった具合だ。

Rigney氏は、『Apex Legends』開発チームがこうした行き詰まりを打開しようとしていると述べる。シーズンごとに公式スタッフが総出でユーザーとやりとりするQ&Aスレッドはその取り組みの一環だ。Respawn.comでのメッセージ発信や、Klein氏などコミュニケーションに積極的なスタッフによる交流など、運営者とプレイヤーの関係改善に向けてさまざまなチャンネルで模索していることを伝えた。スレッド全体で、ユーザーたちがRespawn Entertainmentのスタッフを気遣う投稿が寄せられている。そうしたユーザーの歩み寄りが生まれたからこそ、さまざまなスタッフがスレッドに参加し、お互いをリスペクトし率直な気持ちを吐露しあえているのかもしれない。
 

 
コミュニティから運営への反発が高まることはインターネットにおいて珍しいことではないが、開発スタッフから直接指摘を受けてユーザーたちが自浄に走る動きは珍しいといえるだろう。Respawn Entertainmentによる積極的な交流の取り組みは、その意味ではプラスの効果で作用しているのかもしれない。今回の一件を受けて、ファンと開発チームの関係はポジティブな方向へ前進したともいえそうだ。