『Apex Legends』アプデ頻度を上げるために、開発スタッフは「1日15時間労働」はしない。ディレクターが怒れるユーザーに反応

 

Apex Legends』のディレクターが、同作への不満で激昂するプレイヤーに対し「チームをクランチすることは拒否する」と明言する一幕があった。海外掲示板Redditにて、シーズン7開幕にともないユーザーから幅広く質問を募ったQ&Aスレッドでの出来事である。同スレッドにはRespawn Entertainmentの主要開発者が総出で、ファンの疑問に回答。オリンパスのデザイン意図などの素朴な注目ポイントに始まり、やはり長らく議論を集めているバトルパス改変問題に対し率直な見解をぶつけるプレイヤーの姿も。それぞれのレスに開発チームの主要メンバーが反応を返すフラットな意見交換の場が設けられた。一方、オープンな意見の場にて怒りの意見をそのままぶつけてしてしまうユーザーもいたようだ。


スレッドの中でゲームディレクターのChad Grenier氏は、バトルパスの変更意図について明言。「1.進捗度の確認をシンプルにすること」「2.シーズンを通じてバトルパスに取り組めること」という目的をはっきり伝え、プレミアムバトルパス購入を強制するための策略ではないと強調した。リリース直後に批判を受けて必要経験値を大幅緩和したことも挙げて、今後も現行のバトルパスへ徐々に調整を加えることを約束した。しかしこの発言は、一部で「新バトルパスの改善を続ける=バトルパスを従来バージョンに戻すつもりはない」との文脈で受け取られてしまったようだ。方針に不満を抱くユーザーから、Grenier氏のレスには1500件以上のDown Vote(低評価)を付与されてしまっている。
 

 
批判が高まる中で、中には感情が爆発してしまうユーザーも現れた。あるレスではバトルパスにまつわる話題から逸れ、もっと期間限定イベントを与えろと要求。同時に、『Apex Legends』に期間限定イベントが少ないのは開発チームが実装を恐れているからだと挑発的に言及している。同ユーザーは、『Call of Duty』など他作品がアップデート頻度の点で『Apex Legends』より優っていると述べ、運営によるコンテンツ発信が遅すぎると怒りをあらわにした。

ユーザーが Grenier氏を「嘘つき」呼ばわりしたのに対し、同氏は不快感を示しながらも回答。まず開発チームはすでに多くの期間限定イベントを実施しており、実装に対する恐れはまったく抱いていないと断言。同時に、期間限定イベントは最初の数日のみ人気を集め、その後はマッチメイクが困難なほどに人口が激減するとのデータを明かした。たとえば2週間サイクルで期間限定イベントをおこなうことは割に合っていないというわけだ。
 

 
さらにGrenier氏は、「チームをクランチすることは望んでいない」とはっきり述べている。クランチとは、長期間にわたる半強制的な長時間労働を指す。もし1日に15時間勤務すれば今よりコンテンツ発信ペースが早くなるかもしれないが、そうした形態はまったく望ましくないと断言。Grenier氏によれば、コンテンツへの需要に追いつくため、『Apex Legends』のローンチ以来チームは2倍の規模まで拡大しているという。したがって運営はあくまで健全なペースで質を保ったコンテンツを提供しようとしているとのことだ。

今年に入ってRespawn Entertainmentの労働環境に対して注目が集まったのは今回が初めてではない。今年7月には、思わぬ窓口からチームの勤務形態が注目を集める一件があった(関連記事)。発端となったのはアメリカの企業口コミサービス「Glassdoor」で発見された投稿。Respawn Entertainmentにて『Apex Legends』に携わっていたと見られる人物が、在宅環境における開発において身体的・精神的にきわめて苦境に陥っているとの訴えを語っていたのだ。

これに対し、やはりChad Grenier氏が社内の実情について伝えた。イレギュラーな事態への対応でスケジュールや従業員のコンディションに負担がかかっていることを認めつつ、各種手当や無制限の有給休暇支給、上層部における職員の健康状態への注意喚起など、さまざまな配慮がなされていることを説明している。
 

 
そもそも『Apex Legends』はその出自から、クランチ開発に対するカウンター思考のもと設計されている(関連記事)。2019年の「GamesBeat Summit」パネルセッションにて、 Respawn EntertainmentのCEO Vince Zampella氏が同作のアップデート頻度について説明。『フォートナイト』のような、1~2週間ごとのコンテンツ追加アップデートをおこなわない意向を示していた。その理由として同氏は、ラッシュによる開発チームの過労や品質低下を避けたい考えを述べている。

怒涛のアップデートを続ける『フォートナイト』と『Apex Legends』は対照的なライブサービスだった。土日返上で開発を続ける Epic Gamesの過酷さに対し、控えめなコンテンツ量で健全運営を維持する『Apex Legends』。ローンチ当初は現在より格段にコンテンツ量が少なかったことから、 Respawn Entertainment のスローペースな運営には一部から憂慮の声もあった。

しかし Zampella氏が宣言したとおり、「“大量の弾丸ではなく1発の爆弾”をシーズンごとに落とす」スタイルで同作は拡充が続けてゆく。数か月にいちどのシーズンアップデートを約2年間継続しており、Electronic Artsの収支報告によれば、『Apex Legends』は年間で5億ドル以上の収益を生み出せる見込みのIPに成長した(関連記事)。持続可能なゲーム運営という、ある種挑戦的な開発スタイルをとった Respawn Entertainment。成果を見るに、その試みはある程度成功しているといえる。
 

 
近年、ゲーム業界のクランチ=強制的な長時間労働は議論の対象として話題に上がることが多い。『サイバーパンク2077』マスターアップ直前で苦しむCD PROJEKT REDも、開発途上で従業員に強制しない方針を表明していたが、結局9月になりスタッフへ週6日勤務を義務付ける通知を発布することに。最終的にはクランチが横行する例になったとして批判を呼んだ(関連記事)。業界全体でクランチをタブー視する動きが高まる中で、『Apex Legends』ディレクターの口から改めてクランチを避ける意向が聞かれたのは興味深い。シーズン7リリース以来波乱が続く同作であるが、適正な労働環境を保ちながら改善していけるか、注目されるところだろう。