『Apex Legends』にてコースティックの「不適切なセリフ」が削除される。火種となったのは、クリプトに向けられた“あのひとこと”

 

Respawn Entertainmentは9月4日、『Apex Legends』のアップデートを実施した。ボディシールドの仕様が戻ることやバグ修正などの記載が並ぶ中、ある項目が一部で話題となっている。それは「コースティックの不適切なセリフを削除」との修正だ。普段から陰湿な発言の多い彼だけに、ユーザーからは「どのセリフが?」と注目を集めた。

答えは、クリプトが味方にいるときだけ発生する特殊なセリフだ。クリプトから「ありがとう」を送られた際、「どういたしまして」と返答するのに代えて「これで済むと思うな、ドブネズミが」と言い放つ。別パターンでは「私に歯向かったことを後悔させてやる、ドブネズミが」とも述べており、クリプトに対する口癖になっていることがうかがえる。いつにもまして辛辣な発言だあって印象に残っていたプレイヤーもいたのではないだろうか。「クリプトの生い立ちを知った上での言動なのでは」という考察から、「知らないプレイヤーの謝意を受け取りたいのに暴言すぎて気が引ける」といった“あるある”まで、何かと話題になりやすいボイスラインだったといえよう。

https://youtu.be/vRGZp3PtrYg?t=638

*10分40秒にて削除前のセリフを確認できる。

インパクト大のセリフである一方、他人を人体実験の材料にするような男にしてはまだかわいい悪口にも見える。なぜ「ドブネズミ」発言だけが取り沙汰されるのか。実はことの発端は先月下旬にあった。『Apex Legends』のライターTom Casiello氏およびManny Hagopian氏に対し、ネズミボイスについて「アジア人として不快に思う」とリプライを送るユーザーが現れたのだ。曰く、「ネズミ(rat)は第2次世界大戦以来、アジア人の蔑称として使われてきたからです」。

クリプトの本名はパク・テジュンであり、コリア系のルーツと考えられるキャラクターだ。その彼に、大戦中アジア人(日本人とも)への蔑称として使われた「rat」という単語が向けられるのをよしとしない意見が送られたのである。これに対し、Casiello氏は即座に反応。ratが人種差別的な意味をもっていることをチームが把握していなかったとして謝罪を述べた。日にちは未定ながらじきに修正を入れると約束し、実際に半月足らずで今回の対応がとられたかたちだ。同氏は今後のライティングではいっそう注意を払うと伝えている。

今回の修正に対し、「過剰反応ではないか」「コースティックの悪役表現が薄められるのは残念」との声も上がる。Casiello氏に言わせてみれば「われわれライターがもっと悪い侮辱を思いつかないとでも?」とのことで、フンコロガシ・蛆虫・ゴキブリなど今後さまざまな言葉でクリプトがののしられる可能性を示唆している。わざわざセンシティブなリスクのある単語をチョイスしなくとも、人物像や関係性を深めるボイスラインは書きようがあるということだろう。表現の自粛についてCasiello氏が拒否するのはあくまで「伝えたい物語やキャラクター性が歪められるときだけ」であり、今回の修正はこれに当たらない旨を強調した。ちなみにコースティックはクリプトをしばしば「裏切り者」とも呼んでおり、ドブネズミ発言はネズミがもつ「狡猾」などのイメージを引いてのものだったのかもしれない。

人種差別的用語やモチーフは時代や文化圏によってあまりにも幅広く、事前にリサーチを行ってもすべてを把握することが難しい。さらに『Apex Legends』ではマオリ系と見られるジブラルタルやジャマイカ系を思わせるライフラインなど、多彩なルーツのキャラクターが活躍する。もちろんゲーム内世界が完全に現実の国家・人種と対応しているわけではないものの、世界中にいる本作のプレイヤーにとって自分と同じルーツをもつキャラクターには特別な親近感が湧くこともあるだろう。今回の一件はゲームにおけるセンシティブ表現の難しさを示すと同時に、『Apex Legends』キャラクターの多様性も表しているといえるだろう。

コースティックとクリプト、さらにワットソンも絡めたセリフの掛け合いは奥深いものが多い。今後も異なる描かれ方で深まっていく人間関係に期待したいところだ。