Nintendo Switchのeショップの「機能性」をめぐる議論が、販売者の指摘により再び勃発。シンプルなままか、それとも多機能化希望か

 

いまやインディーゲーム市場がもっとも盛んな場所のひとつとなりつつあるNintendo Switch。他プラットフォームよりも性能は劣るものの、携帯できるという独自の強みや、ゲームの発売のしやすさという利点により、スペックをそれほど要さないインディーゲームにとってNintendo Switchは、PCもしくはそれに並ぶマーケットになっている。


しかし当然、すべてのインディーゲームがヒットするとは限らない。また、Nintendo Switchそのものに魅力があっても、ストアの機能性が議論されることは少なくない。このたび英メディアMCVUKは、Nintendo Switchのゲーム販売に挑む2名のインディーゲームパブリッシャーを直撃。『80 Days』を販売するInkleの共同設立者Joseph Humfrey氏、『Yes Your Grace』を販売するNo More Robot設立者のMike Rose氏が、ニンテンドーeショップ(以下、eショップ)に対する不満を語っている。このインタビューがRedditにて取り上げられ、議論の火種となっている。

目立つ機会がない

Inkleが発売する『80 Days』は、2014年にモバイル向けに発売された高評価アドベンチャーゲーム。かの有名小説「八十日間世界一周」をテーマとしており、シンプルでありながら奥深い作品として数多くのアワードを獲得した。鳴り物入りとしてNintendo Switch進出を果たしたが、うまく勢いをつけられていないという。Joseph Humfrey氏はまず、リリース時についてはサポートを受けたと話した。任天堂は毎週リリースする人気タイトルを取り上げており、そこに『80 Days』が含まれていた。しかしそれ以上の支援はなし。しいてあげるならば、「ゲームニュース」のみだったという。


Nintendo Switchの起動時に現れる「ゲームニュース」は、多くのユーザーに届くポテンシャルを持つ機能。しかしHumfrey氏はこれも、時系列順に消えていく関係で「ないよりマシ」程度だったと表現している。またHumfrey氏が特に不満を述べているのは、ストアのオーガニックなディスカバラビリティだ。ストアがあまりにシンプルであるがゆえに、少しのタイトルしか取り上げられることが出来ず、発見の可能性を妨げていると訴えている。小さな枠を大量のゲームが奪い合うことになるからだ。そこに任天堂自社タイトルの宣伝が入ってくれば、サードパーティーが入る余地はさらに小さい。取り上げられる可能性がある項目としても、「NEW」「セール」「ランキング」いずれにも問題点があると指摘している。

安売りを強いられる苦難

そして、より具体的に問題点を指摘し、分析しているのはMike Rose氏。自身のSNSやカンファレンスにてマーケット理論を度々語る、敏腕経営者だ。同氏がすでにいくつもの攻略理論を編み出し、結果を出しているSteam市場と比較して、eショップの問題点を指摘している。同氏はHumfrey氏同様にディスカバラビリティについて指摘しつつ、苦慮している部分について吐露。それは、目立つためには大幅な値引きが強いられることだ。というのも、現状キュレーション要素がほぼ存在しないeショップにて、小さなタイトルが目立つ方法はリリース直後短期間掲載される「NEW」に載ることと、「ランキング」に載ること。後者については一見難しそうであるが、実は攻略法が確立されている。それが“大幅な値引き”なのである。



eショップのランキングは「本数」ベースで計算されている。どんな金額のゲームであったとしても、本数さえ上乗せできれば上位にいく仕組み。そして上位にいけば売れているゲームとして取り上げられ、売上を伸ばすことができるのだ。80~90%のような派手な値引きや100円セールなどをすればユーザーの目を引き、チャート上位へと組み込める。値引きをしていれば、セール項目でも特集されることもあり、二重の意味でお得。それゆえに、ニンテンドーeショップでは数多くのゲームのたたき売りが展開され、チャート上位で存在感を出している。

実は、このやり方はRose氏のNo More Robotと実に相性が悪い。というのも、No More Robotは“値引きしない”ことで着実な収益を伸ばしてきたスタジオ。バイクゲーム『Descenders』は定価2590円とインディーゲームとして高めで、セールの割引額も控えめ。具体的には40%以上の割引はしないと決めているそうだ。Steamでは「セールはあまりしないメーカー」とユーザーに理解してもらうことで、売上を伸ばしてきた。セールをすることでしか存在感を示せないeショップは、とても苦しい場所であると、Rose氏は想いを吐露している。


また最上部にある「ピックアップ」タブに取り上げられたこともあったが、上位として載らなかったがゆえにあまり追い風は吹かなかったという。「ピックアップ」で取り上げられるのもセールや任天堂タイトルばかりであると、不満を漏らした。キュレーション機能がほぼないことを含め、Rose氏からすると、eショップはゲームを見つけだしてもらうことを念頭に置いたストアではなく、カタログであるとの見解を示している。


キュレーションの問題についても踏み込んだ同氏。任天堂はIndie Worldというプログラムを立ち上げ、熱心にインディーゲームを特集している。この取り組みを認めつつも、Nintendo Switch本体からIndie Worldが見られないという問題を抱えていると指摘。編集およびコンテンツチームと、ソフトウェア開発チームの足並みが揃っていないのではないかと分析した。なおRose氏はこのインタビュー後に、結局同社が販売する『Not Tonight』を90%オフセールに出し、「ストアを操るのがどれだけ簡単かわかった」と語っている(Twitter)。また、他のプラットフォームではPlayStation.Blogに取り上げられたり、Xboxにてさまざまな特集を受けたりしたにもかかわらず、任天堂には何も取り上げてもらっていないとの不満も漏らした(Twitter)。


あちらを立てればこちらが立たず

同氏が指摘する点は、いずれもこれまで議論されているトピックではある。eショップのランキング構造については特に、ホットなトピックだ。本数ベースの仕組みは、金額ベースのSteamと真逆の構造。Steamでは金額ベースの現仕様によって幅広い作品が顔を出し、ランキングそのものがキュレーションとして機能している。eショップも同様に金額ベースにすべきだという要望も根強い。

Steamのランキングは顔ぶれ多彩。話題の新作セクションなどでも新タイトルが発見できる


そもそもの話、投げ売りメーカー自体も投げ売りをすることで、さほど大きな恩恵を受けられていないようだ。100円セールでおなじみの『グーニャファイター』については、弊誌の過去インタビューにて販売元のMUTANが「100円セールをすることで利益は大赤字」と語っていた(関連記事)。利益を犠牲にして注目を集め、ゲームの中身にふれてもらい、ゲームそのものを評価してもらうことがセールの意義であるとコメント。多くの人の手に渡ることで成果はあったとも語っていたが、100円セールそのものは販売メーカーにとってもそれほどおいしくはない。誰も勝ってない状況だ。

ただし、とあるインディーメーカーの担当者に意見を聞いたところ、金額ベースにすることで、安価にゲームを販売するインディーメーカーはさらにチャンスがなくなる可能性を指摘。そのほか、それなりの価格で販売され多くの本数が出ている任天堂タイトルばかりになってしまうのではないか、との懸念もあるという。Steamにはいない“任天堂”という巨大メーカーの存在が、ランキングの構造決定を悩ませているのだ。またeショップを多機能にすべきという議論に際しては、今のシンプルなeショップを崩してほしくないとの反論が生じるのが常だ。Redditでは新たな機能の要不要をめぐり、意見がかわされている。ゲームニュースそのものも、不要との声が出ているほどだ。今のシンプルでスリムなストアを望むユーザーも少なくないということ。

一方で、Indie Worldの頑張りが浮いているという指摘については、おおむね認められるかもしれない。任天堂は、2人の担当者SOEJIMA氏とBOKU氏によるIndie Worldなるプログラムを続けている。同プログラムのTwitterアカウントは、各タイトルのゲームを日記風に紹介したり、各メーカーの宣伝ツイートをRTしたり、大人向けのタイトルを宣伝するなど、大胆で草の根的な活動をする“任天堂らしからぬ”アカウント。光るタイトルを取り上げるキュレーターとして、機能している。


しかし2名のこうした活動が見られるのはTwitterと特別番組放映時のみ。“ゲームファンが見るTwitterアカウント”の域を出ていない。Wii U時代のeショップでは、ゲームや企画や動画など、さまざまなコンテンツをストアに組み込んでおり、それらをワンタップで確認できた。Indie Worldのようなコンテンツがストアの目に付きやすい場所にあれば、マーケットの風も変わる可能性があるだろう。ただしこうした実装においても、シンプルさを捨てるというリスクがつきまとう。

https://twitter.com/RaveofRavendale/status/1290294453920362496

実は前出のRose氏は最近になりPS4についてさらに厳しく批判している。コンソール3機種同時にゲームをリリースしたものの、PS4版の週末の売上はNintendo Switch版の週末の売上の5%にしかならなかったと語っており、“PS4ではほぼ何も売っていないのと同じ”とコメントしている。同氏はSteamでは攻略法を見出しており(関連記事)、XboxではGame Passによって存在感を示せていることもあり(Twitter)、新たなプラットフォームへ挑戦し、うまくいかない現状がもどかしいのかもしれない。

Nintendo Switchは、巣ごもり需要や『あつまれ どうぶつの森』の爆発的な売上などの後押しを受け、その勢いを強めている。出るタイトルも多いが、新たなユーザーを開拓している。ポテンシャルは高いだけに、ストア部分のシンプルさをもどかしく思う販売者がいるのだろう。たびたび比較対象となるSteamについては、ストアの機能性について開発が進められており、ユーザーの嗜好にあわせてゲームを勧める機能やコミュニティの推薦タイトルなどがかなり充実している。


ただし、Nintendo SwitchはNintendo Switchの特性があり、前述したようにランキングも機能性も、Steamを真似することが正解とは限らない。取捨選択が必要になるのだ。任天堂は、何を捨て、何を拾うのか。もしくは何も変えないのか。オレンジ色のストアの今後に、多くのユーザーと販売者が注目している。