ゲームの「コストパフォーマンスのデータ」を提供するストアが物議を醸す。ゲームの価値をプレイ時間で表現する手法に批判

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海外のゲームストアGreen Man Gamingが先日からストアページにて表示している「STATS & FACTS」というデータが物議を醸している。Green Man Gaming(以下、GMG)は、PCゲーム、PlayStation 4やニンテンドー3DSのダウンロードコードを販売するデジタルゲームストアだ。さまざなプラットフォームに対応するが、柱となるのはSteamコードの販売である。独自性のあるサービス展開を特色としており、たとえば以前からクーポンの発行によって安価にゲームを購入できるほか、以前にはゲームをプレイし実績を解除することでゲームを割引購入できるサービスPlayfireを展開していた。長年にわたり、他のストアと差別化するための施策を続けている。そのひとつが「STATS & FACTS」だ。

「STATS & FACTS」は、同ストアでゲームを購入したユーザーのデータを収集し、その統計をデータ化するというもの。ユーザーの多くはGMGのアカウントとSteamアカウント紐づけており、それを介して個人のデータを収拾し、集積し統計としてそれぞれのゲームのストアページにて公開している。この統計データでは「クリア率」から「ゲームの所有者」「平均のプレイ時間」といった興味深いデータが赤裸々に明かされている。この中で賛否両論を呼んでいるのは「Average Cost Per Hour(時間ごとの平均コスト)」である。

「Average Cost Per Hour」は、ゲームの価格を平均プレイ時間で割って算出する数字だ。オープンワールドRPGの金字塔『The Elder Scrolls V: Skyrim(以下、スカイリム)』のデータからこの数字を見てみよう。GMGが取得データとしては、『スカイリム』購入ユーザーの平均プレイ時間は69.5時間。そして通常版の価格は19.99ドル。19.99ドルを69.5で割ると出る数字は0.29ドル。これが「Average Cost Per Hour」となるわけだ。この数字が低ければ低いほど、遊ぶ時間に対してコストが安い。つまり、コストパフォーマンスが高いゲームであると言えるわけだ。

『Frostpunk』のデータ

ほかの例でいえば、『No Man’s Sky』の平均プレイ時間は、26.8時間と比較的長いが、定価が59.99ドルと安くない価格設定であるので、「Average Cost Per Hour」は2.24ドル。『スカイリム』と比べると約2.0ドル高く、同作と比べるとコスパはそれほど芳しくない作品と表現することができる。GMGは利用者の多いストアとあってサンプル数も揃っているので、ある程度なら数字の信憑性もある。購入する上では、興味深いデータと見ることもできるが、一部の開発者やメディアはこのデータを好んでおらず、大きな批判を受けている。

議論の火付け役となったのは『Descenders』などを手がけてきたMike Rose氏の指摘だ。「GMGのAverage Cost Per Hourは、ゲームがどれだけ遊べるかを価格の基準にするという危険な発想を浸透させる」と指摘。長く遊べるゲームを良きものとするという発想について強く危惧している。同じくインディー作品を複数手がけてきたRami Ismail氏を代表に多くのインディーゲーム開発者が、氏の危惧に同意。ミニマルなゲームを排除する思想ではないかと抗議している。

メディアもこの動きに呼応する。PC Gamerは「Average Cost Per Hour」でゲームの価値をはかるのは馬鹿げているというタイトルを付け、GMGはゲームを“消費するもの”として見ていると激しく批判。Motherboardも同様に、コストパーアワーによってゲームをジャッジするのはひどい手法であるとし、GMGの手法に否定的な見解を示している。USgamerは、そもそもこのプレイ時間の算出には、空起動やエラー起動の時間も含まれており正確ではないと懐疑的な目線を向け、さらに『Star Wars バトルフロント II 』を例にあげ、コンテンツのアンロックに膨大な時間を要するゲームが優れたゲームになってしまうと危惧を示している(同作のアンロック仕様はのちに修正された)。

確かに、GMGの「Average Cost Per Hour」では、長く遊べる大型タイトルほど優れた数字が出るという計算になっている。たとえば、広大なマップを特徴とする『ジャストコーズ3』の「Average Cost Per Hour」は0.42ドル。オープンワールドサバイバルゲーム『Conan Exiles』の「Average Cost Per Hour」は1.06ドルとお財布に優しいというデータが出ている。一方、前述したRose氏の手がける『Descenders』は、平均プレイ時間が5.8時間ということもあり、「Average Cost Per Hour」は4.30ドル。全世界で大ヒットした『INSIDE』は同じく4.24ドル。一度の体験に比重を置いている作品は、コスト的にはお得ではないという数字が出る傾向にある。

すべての開発者が長大なゲームを作れるわけではない。そして、プレイ時間は短いがユニークな体験ができるゲームにも価値はある。「Average Cost Per Hour」は、そうした作品を低く見るというデータであるからこそ、開発者やメディアから批判を受けているわけだ。PC Gamerは、近年海外で重宝されているHowLongToBeatと呼ばれるサイトを比較にあげて考察。HowLongToBeatは、ゲームをクリアするのにどの程度の時間を要するのかというデータを集積したデータベースサイトだ。同サイトがGMGと異なるのは、データの項目が細かい点。たとえば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』においては「メインストーリー」のクリア平均時間やコンプリート、DLCなど細かく項目を分けて表示している。一方GMGのデータは「平均プレイ時間」と曖昧な表現であり、クリアなのかマルチプレイなのかもわからない。誤解を招く可能性があると、PC Gamerは指摘する。

こうした批判に対し、GMGのCEOであるPaul Sulyok氏が反応。PCGames Insiderに対し、ゲームは非常にコスト的には効果的なエンターテイメントだと強調。「Average Cost Per Hour」はユーザーがどれくらい遊べるかというものを示した、コミュニティから要望されていたものに過ぎないとコメント。そしてこの数字は、ゲームの体験の価値と関連付けるものではないとも語っている。

HowLongToBeat

GMGは、ストアページ内には、レビューやコミュニティの投稿を表示させたり、現在Twitchの配信中のストリームを表示させるなど、多岐にわたる情報をユーザーに提供しようとしてきた。「STATS & FACTS」は、あくまでそのひとつだろう。平均プレイ時間やクリア率といったデータはプレイヤーにとっては有用なデータではあるものの、それらを「Average Cost Per Hour」といういわゆる“コストパフォーマンス”のような形で表記してしまったことが問題になってしまったと見える。ゲーム体験の価値や楽しさというのは、言語化および数字化しづらい曖昧なものだ。GMG側は否定したものの、開発者やメディアにとっては「Average Cost Per Hour」は、その価値を強引に数字化しようとしたように映ったのかもしれない。

GMGでは依然として「STATS & FACTS」が表示されているが、一部作品は非公開。GMGは比較的頻繁に仕様やレイアウトが変わるストアであるので、時間が経てば表示されなくなる可能性もある。各タイトルにおける「Average Cost Per Hour」を含むスタッツをチェックしておきたい方は、GMGストアを訪れてみるといいだろう。

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