家に帰らなかったシナリオライターが語る「ゲームシナリオ開発」 オーツー堀川和良

「Voice of Game Industry」は、ゲームにかかわる人々の声をお届けする不定期連載企画だ。

「Voice of Game Industry」は、ゲームにかかわる人々の声をお届けする不定期連載企画だ。今回紹介するのは、株式会社オーツー開発1部の部長であり、リードプランナーでもある堀川 和良氏。オーツーはニンテンドーDS『偽りの輪舞曲』やPSP『アンティフォナの聖歌姫』、Xbox 360『ソニック  フリーライダーズ』などの開発に参加してきたスタジオである。自社レーベル「peakvox」を展開しており、2013年6月には3DS向けタイトル『CUBE タクティクス』を販売した。また今年12月には、3Dコミカルアクションシューター『GOCCO OF WAR』をSteam Greenlightに登録。世界展開も視野に入れている。

堀川氏のお話によれば、同氏の起源は「ゲームブック」であり、かつては家に帰らないシナリオライターであったという。インターネットがない時代にシナリオライターとして生きた堀川氏の半生と、シナリオライターの仕事内容について、ゲーム業界の声を聞いてみよう。

 


家に帰らなかったシナリオライター

 

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堀川氏:
ゲームの仕事に就いてから、気がつけば20年。若いといわれるゲーム業界も、徐々に高齢化の波音を聴く時代へと来ています。立場上、学生の方々と話す機会が多く、そこで、「シナリオライターって、具体的にどんなことをするの?」という質問をよく受けるので、若い世代の方にこの場を借りてお話させていただきたいと思います。

業界に身をおいてから紆余曲折ありましたが、やはり楽しいゲームの仕事。思い返せば、そこに至るまで幸福な時代を生きてきたような気がします。私がこの世界へ踏み入れることになる原点は、中学生の時にゲームブック『七匹の大蛇』ソーサリー四部作の三作目との出会いです。今では知る人も少なくなってしまいましたが、当時その界隈では有名なもので、現在でも名作としてあげられる作品です。ゲームブックをご存知でない方は検索して、できれば購入していただきたいです。『ドルアーガの塔』三部作は超オススメです。

この頃はファミコンの時代でしたが、まだ多くの家庭に普及している段階ではありませんでした。私の家庭にはなかったため、友人の家にあがり込んでは晩御飯の時間に追い出されるまで遊んでいました。『ゼルダの伝説』や『ドラゴンクエスト3』をプレイさせてもらうとか、今思うと、友人の心の広さに感謝しかありません。制限された時間は集中力でカバーするものの、やはりゲームへの渇望は果てることはありません。友人宅が全滅しても、日本橋の電気屋さんへ1時間かけて自転車で赴き店頭に置かれるデモプレイ機で閉店までプレイするような生活。そんな飢えた中学生の前にあらわれたのがゲームブックです。物語が自分の選択で展開を変え、戦闘もあるその本は、一瞬で私を魅了しました。運のよいことに、ゲームブックを大量に持っている友人もできました。毎日借りては夜遅くまで遊び、気がつけばゲームブックコンテストに応募し、賞品としてワープロをもらっていたのです。

この経験は土台となりました。『ルーンの杖秘録』や『エルリック・サーガ』などのファンタジー小説、『スレイヤーズ』などのライトノベルブームを経て、シナリオライターの自分が確立されたのだと思います。後にゲームブックが下火となりましたが、テーブルトークRPGへとフィールドを移し、ゲームマスターをしていたことも後の大きな糧となりました。

 

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堀川氏:
紆余曲折もありつつも、ゲームというフィールドで生きていくことを決意し大阪のゲームメーカーに就職するのですが、当時はまだ手書き図面で画面レイアウトや指示書を作成していた時代です。上司の指示を無視して、アーケードの麻雀ゲームなのに『信長の野望』的な要素や、『ドラクエ』的な仕組み、ギャルゲー的なものまで様々な企画書を書いてはボツにされていました。そのおかげか、発売されたPlayStationの開発ラインへと編入され、プランナー兼シナリオライターとしてデビューすることになるのですが、ここで問題が発生します。

今では、インターネットというツールがあるのですが、当時はまだGoogleは誕生しておらず、パソコンもMS-DOSで動いていました。今思えばスローライフです。当然シナリオのネタを探す手段は限られており、本屋か図書館へ入りびたることになります。1つのイベントを作るのに専門書を数冊読むという茨の道を選んでいたこともあって、時間はみるみるうちになくなりました。プランナーもシナリオライターも自分だけですが、それは自分が選んだ道。時間がないとはいえ、間に合わすために内容を簡略化するという考えもありません。若さゆえにとる道は「時間がないなら、作ればいいじゃない」。若かった私は、家に帰らないという選択をします。

着替えがなくなれば家に持って帰るというずっと会社にいる生活は、誰かにさせられるのではなく、自分でやりたいことをするため。近所の生き残った銭湯へ行って、湯上がりに天満宮をぶらついたり、帰りのゲームセンターで『KOF』を1プレイしたり、日本一辛いというカレーを完食して寝込んだりと、楽しい日々でした。もちろん、威勢だけはいい坊やな若造を支えてくれる先輩達の存在も大きく、そういう行動を認めてくれる上司や会社にも恵まれていたと思います。

 


シナリオ制作は「しんどいが、めっちゃ楽しい」

 

堀川氏:
話は変わりまして、シナリオライターは世界観を構築してキャラクターを創造し、物語を紡ぐのがお仕事です。ゲームの場合は必要な背景やマップ、キャラクターの外見や必要な表情、エフェクト、BGMやSEなど"ゲームらしく"物語を彩る大半の要素も決めていかなければなりません。スタッフによってはシナリオを書いておけばそこから必要な要素を抽出してくれる人もいます。ただ、シナリオライターが土台としてイメージや数量を意識してシナリオ中に記載し、別途リストにまとめておくぐらいはしないといけません。可能であればそれぞれのイメージする画像や音楽、動画などもリストに添えておくと喜ばれます。

この作業には思いのほか時間がとられます。しかしここを疎かにするとあとで後悔するので、息を吸うかのうようにできるようになっておくと幸せになれます。なにより、自分で考えたことをみんなが作ってくれる!なんて幸せなことなんでしょう。ゲームが出来上がってくるにつれて、それをより実感できると思います。しんどいですが、めっちゃ楽しいです。ゲームシナリオは基本セリフで進行するので、ラノベを読んでたらいいんじゃないかと思われがちです。しかし、古典や名著を読んでおくことは実力につながります。地の文に頼らず、説明的でもないセリフで情景や状況を浮かび上がらせることや、セリフのセンス自体を磨くこともできます。

 

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堀川氏:
シナリオライターは、ゲーム画面に表示できるようにコードを埋め込むスクリプターを兼ねることも多いです。つまり、物語を書き上げたとしてもまだ戦いは終わりません。メッセージ枠にうまく入らないので文章を短くしたり、改行を自動に頼るだけではなく、美しく見えるように整えたりといったことも行います。シナリオテキストを作成しながら、スクリプト化を見据えた構成にしていくことも重要です。スクリプト化が進んでも油断はできません。誤字脱字だけではなく、シナリオの修正が必ず入ります。スクリプト化まで進行しているので、スクリプトのコードが埋め込まれているファイルを直接修正してしまうと、シナリオテキストが古いままとなってしまいます。必ずシナリオテキストを修正し、その後スクリプトを修正するのも大切なことです。スクリプトから余計なコードを削除してテキスト化できるツールがあれば別ですが、同じ作業を手動で行うのは苦行です。急がば回れの精神で作業しましょう。もし、最終シナリオテキストなんて飾りですと言ってもいい環境なら、スクリプトをガンガン修正ましょう。そして、誤字脱字を発見または指摘された場合、必ず同じ言葉や類似した文言を、全ファイル検索します。同じミスをどこかでしているかもしれません。

最後に、ネットで調べたことは必ず複数のソースから裏を取りましょう。これを怠ると間違いや誤解をネットで指摘されて、赤っ恥をかくことになります。ソース元が同じだったらどうするのかという意見もありますが、よほど巧妙なものでもないかぎり、ソースが同じものかどうかは記事をみればなんとなくわかってきます。このあたりは経験です。ネット以外にも、大型書店で専門書やそれに類する雑誌を探すのもいいでしょう。

 

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堀川氏:
徒然と書いてみましたが、少しでも参考になればと思います。ゲームの仕事はどの職種も各社多種多様です。上記のことも同業の方々には「なんか違うんじゃないか」と思われるかもしれませんが、ご容赦いただけますと幸いです。

いろいろありましたが、現在までゲームを作り続けることができました。管理職となった現在も現役ではあるのですが、立場上監修をすることも多くなり、やはり実務は減ってきています。しかし、昔を思い出しながら書いていると、ワクワクしてページをめくっていたあの日が蘇り、創作意欲がふつふつと湧いてきます。まだまだ道半ば、日々研鑽を積み、いい感じのゲームを作っていこうと思います。

 

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