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物事の始まりに、失敗はつきものだ。新しい職場や学校、スポーツや趣味、最初から上手くいくことは少ない。誰にだってそんな経験、あるのではないだろうか。ゲームも同じだ。新しいジャンルに出会う期待とは裏腹に、自らの才能を呪う。筆者はFPSが好きで、今では初心者にアドバイスできる程度にはプレイできる。だがFPSとの出会いは悲惨なもので、最初はオフラインのストーリーモードすらままならなかった。対戦でも1キル30デスなんて当たり前で、何度コントローラーを放り投げたかわからない。それでも粘り強く向き合って知識や技術を少しずつ手に入れていき、気づいたらFPSというジャンルの沼にはまっていた。 
 

 
ただし、今回の話はFPSについてではない。本稿でお届けするのは、『アイアンハーベスト』を通じたRTSと筆者の出会い、そして敗北と失敗から産まれた、「RTS入門書」である。RTSに初めて触れる読者には、筆者の屍を踏み越えて、RTSの沼へ辿り着くまでの指標としてほしい。 

 
そもそもRTSとは 

RTSとは、リアルタイムストラテジーの略称だ。ざっくりいうと、リアルタイムでフィールドにあるユニットやキャラクターに指示を出し、その配置で戦略を立てながら敵を倒したり制圧したりして、クリアを目指すというものだ。特徴的なのは主に複数のユニットやキャラクターを制御する点と、実際のアクションを操作するのではなく、指示を出すことでゲームが進行していくという点。 
 

 
『アイアンハーベスト』とは 

今回紹介するRTS『アイアンハーベスト』は、ドイツに拠点をもつKING Art Games が開発したディーゼルパンクRTSだ。日本ではDLCなどを同梱した『アイアンハーベスト コンプリートエディション』をDMM GAMESが販売。PlayStation 5/Xbox Series X|S版(パッケージ版はPlayStation 5のみ)が本日10月28日に発売されている。 

本作の舞台は、ディーゼル技術が発展した第一次世界大戦終結直後の架空のヨーロッパだ。戦争集結と同時に放棄された、ディーゼル機関を用いた巨大歩行ロボット「メック」を住民が掘り起こしたことにより、伝統的な生活とディーゼルテクノロジーが織り交ざっている。キャンペーンではヨーロッパと架空の国々で巻き起こる戦争が描かれ、ステージ内での会話とカットシーンで物語が進行していく。戦争モノとしての熱さや家族愛なども見られるので、モチベーションのひとつになってくれる。 
 

 
なお本作は、ボードゲーム「サイズ – 大鎌戦役 -(SCYTHE)」を手がけたアーティストのヤクブ・ロザルスキー氏が築いた世界観「1920+」に基づいている。ロード画面やタイトル画面では、古くから伝わる人々の生活と、正反対な存在であるメックの調和を表した美しいアートワークを見ることができる。また、ゲームプレイで扱うユニットやステージは、カメラを寄せてみるとミニチュアのようにも見える。これもまた面白く、博物館などでミニチュア模型をずっと眺めているだけで楽しいような感覚がある。 

 
はじめに 

RTSにほぼ初めて触れる筆者は、ゲームを始めて数時間、失敗と敗北の連続で心が折れかけていた。よくトロフィーや実績システムなどで、最初から数章にかけてガクッと取得率が落ちるなんてことが見られるが、これはこういう場面で挫折してしまうからかもしれない。だがめげないでほしい。ここを乗り越えるとゲーム内容としても楽になるし、RTSがもつ「計画通りの気持ちよさ」を味わうことができる。そして、その真髄を知るには、ぜひ難易度はノーマルでプレイして欲しい。どう勝てるか想像もつかなかったステージをあれこれ試してクリアできる達成感を味わってほしいからだ。なお、戦闘中にいつでも難易度を変更できるため安心してほしい。 
 

 
本作の各ミッションにおける舞台は、敵に侵略されたエリアによって構成されているひとつのステージだ。そしてそれらの目標はたいてい、ある地点へ到達することと、そこで待つ強大な戦闘を戦い抜くこととなっている。敵のエリアをひとつひとつ攻略していき、ゴールまで辿り着くことで物語を進めることができる。 

なんとなくゲーム画面を見てみると、情報量の多さと、扱うユニットの数に圧倒される。筆者はこの2つがRTSというジャンルを敬遠していた理由だった。しかも『アイアンハーベスト』はRTSの中でもクラシックでわかりやすい部類だという。だが安心してほしい、これらすべてを把握する必要はない(まぁ、ある場面もある)。いくつかのポイントを押さえて、いかに楽をするかが勝利への近道だ。 

 
どこから手を付ければ良いかわからない 

まず筆者がつまずいたのは、「どこから手を付ければ良いかわからない」ということ。たいていのミッションには、メイン目標とサブ目標が設定されている。メイン目標を達成するとそのレベル(ステージ)クリアというわけだが、スタート地点からメイン目標は遠いことが多い。スタート地点に放り出され、メイン目標にばかり目を向けてしまうと、筆者のように何をすればよいかわからなくなる。多くの場合はサブ目標がクリアまでの道しるべになっていることが多いので、まずそれを目指すとよい。クリアまでの道筋を見出せるかが大事になってくるのだ。 
 

 
では何をすればいいのか。具体的には、全体の目標を前提に、小規模戦闘を繰り返して自軍を侵攻させたり、自軍の補強のために拠点を築いたりする。そのためには、自軍と敵軍が支配している領域を把握することと、それに合わせたエリアコントロールが求められる。マップを眺めて敵がいそうな場所と、こちらが手に入れればクリアへ向けて有利になる場所を順番に取っていき、それに応じて拠点を拡充することがゲームの基本だ。 

ただ、小規模戦闘のリスクは、常につきまとう。マップに示された敵の拠点を近くから叩いていくというのも良いかもしれない。基本的に、クリアに必要のない敵を倒して、むやみにこちらの戦力を削られる事態は、極力避けたほうが良い。ミッションによってはリソースが限られていることもあるので、なるべく低燃費に進軍することを考えると、攻略しやすくなるだろう。リソースは、味方ユニットのことだけでなく、金属や原油といった資源のことも含む。これらはマップにある鉄鉱山を制圧することで手に入れるか、マップに落ちているものを拾うこともできる。ステージ序盤などでは不足することが多いので、リスクがなければ必ず拾っておこう。 

 
どう戦えば良いかわからない 

敵との戦いで、なぜか負けるor大きくHPを削られる場面が多く、序盤は特に苦労した。本作でプレイヤーが操るユニットは、ミッションによって異なるが、基本となるのは、歩兵とメックだ。歩兵にはいくつかのクラスが設定されており、クラスによってできることが異なる。たとえば、ライフルマンであれば文字通りライフルで敵を攻撃してくれる。エンジニアであれば、拠点やメックの修理(回復)だけでなく、土嚢や鉄条網で自軍を防御することができる。このほかにも兵士の回復役や、敵メックへの攻撃に特化したクラス、それらの上位クラスが用意されている。 

このクラスは、最初から与えられているもの以外にも、兵舎や司令部で増やすこと(製造)ができる。また、マップ内に落ちているアイテムを取ることで、クラスを変更することも可能だ。どのクラスもユニットとして大切だが、その中でもエンジニアはとくに重要だ。エンジニアは兵士を増やすことのできる施設を作成できるため、エンジニアからすべてが始まるといって良い。 
 

 
最重要となるエンジニアを確保したうえで、さまざまな状況に対応できるよう、各種のユニットをバランス良くもっていることが大事だ。あえてライフルマンなどの攻撃型ユニットを極端に多く採用し、やみくもに突っ込んで敵を混乱させる、なんて戦い方もできてしまうが、その先でコテンパンされて振り出しに戻されることがあったので、おすすめしない。白状すると、ゴリ押しでクリアしてしまえと何度か実践したが、結局できないようなデザインになっていることが多かった。丁寧に拠点を取っていき、徐々に自軍の安全圏を広げていく楽しさを味わおう。なお、本作に登場するディーゼル兵器「メック」は攻撃の要となる、優秀で頼もしい存在だ。メックを主導体とし、歩兵に援護させることも大切なので、メックを出せる場合はそもそも歩兵同士で戦わないという選択もある。 

 
ユニット同士の戦いにやたら負ける 

敵味方、同じような歩兵同士で戦っているのになぜか負けてしまう場面が多かった。このような場合は、遮蔽物や立ち回りを見直すと、楽になることが多い。まず、遮蔽物がある場所にユニットを配置するのはもちろん、敵の射程圏内や向いている方向を避けるというのも重要である。マップによっては難しいが、回り込む戦法が有効だ。回り込むと、敵はこちらを臨むうえで有利なポジションへ移動しようとしたり、向きを変えたりする。このような細かいアドバンテージを重ねて、戦闘を仕掛けよう。また、敵に直接殴り込む「近接攻撃」も可能だ。こちらが突っ込んで近接攻撃すると、敵は射撃をやめて殴り返してきたり、間合いを取るために位置を変えたりする。相手を混乱させるようなイメージだ。敵と自軍のユニットの相性が悪い場合に積極的に使っていきたい。このような、ユニット単位の戦いで起こる細かなエリアコントロールも、RTSの楽しさのひとつだ。 
 

 
Waveに耐えられない 

ここまでは、ステージの進め方や歩兵同士の戦いについて述べてきたが、ステージの後半や物語終盤では、Wave形式で迫りくる敵を殲滅するほか、一定時間耐えるというフェーズが用意されている。筆者は最初にこのWave方式を経験した際、バグを疑うほど一瞬で防衛網が破られ全滅してしまった。しかし、数回の失敗を繰り返すと徐々に耐えられるようになっていった。このWaveに耐えるための準備や、その準備で思い描いていた展開を作り出せる瞬間が、本作を遊んでいて一番楽しい時間だ。 
 

 
まず、Waveの前には敵を迎え撃つ準備時間が設けられている。この間にユニットを配置したり、エンジニアで前哨基地などを建設したりするわけだ。ここで大事になるのが“前線”の意識だ。 

筆者はFPSで「ライン」という言葉をよく使う。「このラインで戦おう」とか「このラインを崩そう」という具合だ。これが本作でいう前線のことで、ユニット全体を見た大枠の間合いのことだ。RTSは、いってしまえば壮大なデジタル陣取りゲームだ。その陣の境を前線と定め、その陣が取られた場合の想定や、その対策を練るのが実に楽しい。 

たとえば、最前線をまず定める。そこには大型のメックを置き、その背後にはメックを援護するライフルマンを配置する。もしそのメックのHPが大きく削られたら、メックを一時ライフルマンの後ろへ退却させる。つまり、前線を下げる。そしてその背後で待機させておいたエンジニアにメックを修理させ、再び歩兵の前へ出す。つまり、再び前線を上げる。ここでライフルマンの体力状況などを見て駆け引きしていくということだ。そして最終的に自軍がもっとも守るべき場所に張った「絶対防衛線」を守り抜くことが目標だ。最前線が優秀であればあるほど楽になっていく。よくアニメなどで「絶対防衛線、突破!」というセリフがあるが、それがいかにピンチか、RTSをやるとよくわかる。 

実際にプレイしていると、ここまで理想どおり完遂できることはほぼない。なぜか突破してきた歩兵がいたり、想定を上回る敵の猛攻に最前線が一瞬で消滅してしまったり、そもそも敵の勢いに飲まれて自軍のユニットをまともに動かせないことがほとんどで、失敗も多いだろう。だが、コンティニューしてそれに対する対策を講じている時間や、それが思い通りになったときは最高に楽しい。 
 

 
RTSというジャンルがもつ楽しさとは 

これまで述べてきた、「エリアコントロール」と「役割の理解」、「前線の意識」の3つを意識するだけで本作の攻略はグッと楽になるはずだ。本作は直接的な射撃センスやアクションが要求されるわけではなく、あくまでプレイヤーがユニットを動かすことだけでゲームが完結する。その中でいかに「自分の思い通り」を作り上げるかがRTSの楽しさのひとつであり、それを初めて知った時の高揚感と気持ちよさは格別だ。エリアコントロールをしていく中での支配者としての全能感。自分が思ったとおりにユニットをスムーズに動かし、拠点を形成し、それが決まったときの爽快感。正直地味だと思っていたRTSというジャンルに、このような楽しさがあるとは知らなかった。 

『アイアンハーベスト』は、ユニットを動かし拠点を築く基本的なRTSの要素のほかにも、メックを筆頭にディーゼルテクノロジーを用いた独特の世界観、カットシーンで描かれる熱量を持った戦争。愛着がもてる暖かみあるグラフィックなど、新たなジャンルに触れる苦悩を乗り越えるモチベーションがたくさん含まれていた。ゲームを理解していく過程で生まれる気持ち良い高揚感や達成感、RTSの楽しさを知るにはちょうどよいタイトルだと感じている。 

アイアンハーベスト コンプリートエディション』は現在、PS5/Xbox Series X|S版が販売中だ。SteamではPrime Matterより『Iron Harvest』としてPC版も配信中である。 

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