『Slay the Spire 2』にて数学者が「乱数の偏りバグ」をガチ分析し修正に至る。絶対に入手できないカードもあったバグ、“不運”は気のせいじゃなかった

Mega Critが手がける『Slay the Spire 2』にて、「乱数に偏りがある」とするユーザーの解説記事が発表。このユーザーの調査に基づき、偏りは開発元によるアップデートで早くも修正に至った。

Mega Critが手がける『Slay the Spire 2』にて、「乱数に偏りがある」とする解説記事が発表され波紋を呼んでいる。記事はユーザーのtckmn氏が発表したもので、「ネオーの骨」といったランダム要素のあるレリックやイベントにおいて、結果に有意な偏りがあることが指摘されている。こうした指摘を受けてMega Critは6月19日、メジャーアップデートv0.107.1に乱数生成器(RNG)を改修したことを発表した。

tckmnことAndy Tockman氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)出身で数学・コンピューターサイエンス系の学士号、およびコンピューターサイエンス系の修士号を取得している人物だ。同氏は6月15日、「Correlated randomness in Slay the Spire 2(Slay the Spire 2における相関ランダム性)」と題した技術レポートを発表した。同レポートでは、本作で発生するランダム要素を持つイベントの多くで、結果に偏りが発生していることを確率分布をもって示している。本作で使用されている乱数生成器には欠陥があり、それによってイベントの結果がランダムではなく一部の選択肢に有意に偏重しているとtckmn氏は主張している。同氏はその偏りの一例として、まず「ネオーの骨」を挙げている。

ネオーの骨」は、Act1開始時にネオーからもらえるエンシェント・レリックの1つだ。効果としては、取得時にランダムな「ネオーのレリック」を2個獲得するが、デッキにランダムな「呪い」カードを1枚加えるというもの。レリックを2つ分もらえる効果は強力な一方で、デッキに「呪い」を加えるというペナルティが悩ましいレリックである。そんなレリックについてtckmn氏は、ランダムと説明されている「呪い」カードの提供が実は顕著に偏っていると主張。しかも、Act1のルート「繁茂の地」と「地下水路」でそれぞれ結果が異なるのだという。

レポートによると、地下水路ルートで「ネオーの骨」を取得した場合、プレイヤーは54.25%の確率で「負債」を、40.32%の確率で「腐敗」を得る。また、繁茂の地ルートの場合は73.74%の確率で「苦悩」、18.85%の確率で「羞恥」を得る。提供される呪いカードのプールは10種類あることを考えると、これは異様ともいえる偏りである。同氏のこの発見には、プレイヤーからも驚きの声があがっている。

というのも、負債は「プレイ不可。ターン終了時、これが手札にある場合、10ゴールドを失う。」という効果を持っていて、「呪い」カードの中でも特に迷惑な1枚として知られている。つまり、地下水路ルートで「ネオーの骨」を取得した場合、意図せず難易度が跳ね上がる可能性があったわけだ。一方で、繁茂の地ルートでは「負債」を得る確率は0%となっている。ルートによってレリックの価値が変動してしまっていた格好だ。

*tckmn氏のレポートより。上が地下水路ルート、下が繁茂の地ルートの確率分布

tckmn氏はこうした現象について、RedditやDiscordで「負債」ばかりを手に入れる“不運”を嘆く人々を多数見てきたそうだ。なかにはランダムではなく明らかに頻繁に起こっていることを指摘するプレイヤーもいたという。ゲームをプレイしていて、“不運”ばかりが重なると、ゲームの側に問題があるのではないかと疑いたくなることはよくある(関連記事)。心理学では自分の疑いや思い込みを裏づける情報ばかりが印象に残りやすい傾向を「確証バイアス」と呼ぶ。しかし今回のケースでは、本当にゲームが“不運”をプレイヤーに呼び寄せていたことが明らかになったわけだ。

こうしたレリックのランダム性の偏りは「ネオーの骨」に限らず「大きなカプセル」や「薬草の湿布」、「重い石板」などでも発生する。たとえば「大きなカプセル」ではランダムなレリックを2個手に入れられる効果だが、1つ目のレリックは絶対にアンコモン以上のものが手に入るようになっていた。実は説明文よりも強力なレリックだったようだ。

さらに、こうした乱数の偏りの背景には、より根本的な問題があったという。同氏によれば、『Slay the Spire 2』は前作とは異なる乱数の仕組みを導入しており、それによって、1つの乱数生成器の出力結果が、ほかの乱数生成器の出力結果に関する情報を与えてしまっていると説明している。これは「相関した乱数生成器(CRNG:Correlated RNG)」と呼ばれるもので、イベントや戦闘、ルートなどのランダム要素の結果を観察し続けることで、ゲーム内で次に何が起こるかを高い精度で予測できてしまう状況があったようだ。

CRNGを確認できた例として、ディフェクトのライトニングオーブが挙げられている。地下水路ルートの弱プールでは、冒頭の雑魚敵として「ヒキジャクシ」または「屍ナメクジ」が2体揃って登場する。通常、ターン終了時に敵が2体生存している場合、ライトニングオーブがどちらの敵を攻撃するかはランダムで予測できないはずだが、実は偏りがある。特に地下水路ルートでの最初の戦闘では、75%の確率で最初のオーブ攻撃は、左側の敵に直撃するそうだ。これは「デュアルキャスト」でオーブを誘発した場合でも同じ偏りがあらわれる。

くわえて、屍ナメクジとの戦闘の場合は、それまでにゲーム内で発生した乱数結果のパターンを観察することで、オーブが攻撃する方向を95%以上の確率で予測できるそうだ。つまり、本作にみられる乱数の偏りは完全に独立したものではなく、ほかの乱数と相関した関係を持っていたため、過去に確認した偏りを手がかりにすることで、その後に発生するゲーム内のランダムな挙動を高い精度で見通せるようになっていたとみられる。

またtckmn氏は、こうした運営が意図しないであろう偏りの結果として、とあるカードが“入手不可能”になっていたことも明かしている。「リバウンド」はイベント「ガラクタの山」でのみ得られる特殊なアタックカードだ。同イベントでは10種類の「忘れ去られた過去のカード」の中からランダムで1枚を受け取ることができるが、こちらの提供プールにも確率の偏りがあり、「リバウンド」を取得できる確率は0%となっている。つまり「リバウンド」は入手不可能の“幻のカード”だったわけだ。ただしマルチプレイモードの場合は取得可能だったという。

*画像は『Slay the Spire』第1作のもの

同氏はレポートの締めくくりで「開発者への嘆願(Plea to the developers)」として、本作のこうした乱数に関わる仕組みはバグであり、修正されるべきだと言及。CRNGそのものは前作でも確認されていたものの、今回は開発サイクルの早い段階で発見されたうえ、ゲームもまだ早期アクセス中であることから、開発チームが修正してくれるはずだとの期待を述べた。

そしてこの発表からわずか4日後の6月19日、Mega Critはメジャーアップデートv0.107.1を配信した(関連記事)。公開されたパッチノートでは、開発チームがこれまでの乱数生成に偏りがあったことを認めるとともに、真のランダムを提供する新たな乱数生成器を実装したことを報告。通常ならベータパッチでの検証を経てからメインブランチでの実装に至るところだが、今回は異例ともいえるスピードで修正が施された格好だ。Mega Critはtckmn氏に感謝を述べながら、「あなたの苦しみは今や完全にランダムです!(your suffering is now truly random!)」と伝えた。

今回はMIT出身のユーザーによる分析をきっかけに、『Slay the Spire 2』における重大な欠陥が迅速に修正された格好だ。前作から長年ゲーム開発に携わってきたMega Critでも調査が及ばなかった確率の問題を、1人のユーザーが“学術的”に分析したというのは興味深い。運の良さや不運そのものがゲーム体験の1つとなる本作にとって、大きな改善がもたらされたといえる。いずれにせよ、今後の本作ではより純粋で予測不能な“不運”が待ち構えていることだろう。

『Slay the Spire 2』はPC(Steam)向けに早期アクセス配信中だ。

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Kousetsu Taguchi
Kousetsu Taguchi

レトロゲームショップに入ると真っ先にセガサターンのコーナーを確認するタイプです。

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