『DEEMO』『Cytus』開発元Rayark、「AI技術導入し、大量の美術スタッフを解雇した」との噂を完全否定。一方、ゲーム開発の補助としてのAI利用については前向き

Rayarkは5月27日、AI技術導入に関してSNS上に声明を発表。同社が「大量の美術スタッフを解雇した」という噂について否定した。

デベロッパーのRayarkは5月27日、AI技術導入に関してSNS上に声明を発表。近頃インターネット上に出回っているという、同社が「大量の美術スタッフを解雇した」という噂について否定した。

Rayarkは、台湾に拠点を置くデベロッパーだ。『DEEMO』シリーズや『Cytus』シリーズ、『VOEZ』といったリズムゲームのほか、RTSカードゲーム『Soul of Eden』などの作品で知られ、日本でも積極的に展開。ストーリー要素を含む世界観構築や、アーティスティックなビジュアルなどに定評があり、国内外に多くのファンをもつ。


インターネット上に出回っているという「Rayarkが大量の美術スタッフを解雇した」という噂は、最近になって一部ファンの間で広まっていた模様。その背景のひとつには、Googleが主催し5月17〜18日に開催されたイベント「2023 Taiwan Industry Exchange」での、Rayark共同設立者で最高技術責任者を務めるChih-Yuan Chung氏の発言があったようだ。

イベントにてChung氏は、ゲーム開発・運営へのGoogle Cloudの導入について語るなかで、ジェネレーティブAI技術についても言及。同技術がゲーム業界に与える影響は非常に大きく、普及が進めばコンテンツ制作コストが下がると共に利益が増加し、コンテンツ産業全体の競争力が高まるだろうと述べた。また、AIの活用は必然であり、ゲーム業界においてそうした時代への変化を受け入れない者は、いずれ競争力を失う可能性があるともコメントしている(壹哥的科技生活)。

Chung氏が言及したジェネレーティブAI技術は、たとえば「Midjourney」や「Stable Diffusion」「Adobe Firefly」などのサービスが提供する画像生成AIや、対話型AIである「ChatGPT」などが知られている。Chung氏は、Rayarkとしてそうした技術を積極的に取り入れる姿勢を示したと受け取れる。

そうしたなか、Rayarkが公開していた複数のアートワークについて、細かなタッチの特徴や意匠の違和感などから、画像生成AIを使用して作成されたのではないかと一部ファンが指摘。上に掲載した、『Cytus II』とlowiroのリズムゲーム『Arcaea』のコラボを示唆したアートワークも、疑惑の対象となったひとつである。

また、Rayarkが昨年11月に“AIアートデザイナー”を募集していたことや(未來商務)、『Cytus II』の元アートディレクターCbot氏が同社のAI技術導入を批判的にコメントしていたことも注目された。そして、先述したChih-Yuan Chung氏のイベントでの発言と合わせて、Rayarkがコストカットのためにアーティストを大量解雇し、代わりにAI技術を導入していると噂されるようになっていったようだ。一部では、「すべてのアーティストが解雇された」とする噂も見受けられる。

Rayarkは今回発した声明にて、同社が「美術作品にAI技術を導入し、大量の美術スタッフを解雇した」という噂があるとしたうえで、これは「誤った情報であり事実ではない」と完全否定。そうした噂は、(同社関係者の)過去の発言を歪曲して解釈したものや、事実ではない誤った推測に基づいていると指摘した。また、アートワークのクリエイティビティとその表現方法は、同社にとって非常に貴重な財産であるとも述べている。

一方で、AI生成コンテンツについては、ゲーム産業全体に与える影響に注目しており、AIツールを“開発の補助”として利用することは産業の主流になる可能性があるとコメント。そのため、AIの専門知識をもつスタッフを新たに採用してきたという。同社は、今後やってくるであろう“大いなるAI生成コンテンツ時代”に向けて、開発プロセスとAI補助教育訓練の整備を含め、さまざまな挑戦をおこなっていくとした。

https://twitter.com/Qwik/status/1654542974276206609

近年ジェネレーティブAI技術が急速に進歩・普及するなか、職種によっては“AIに職を奪われる”といった危機感を示す声が上がったり、中国ではすでに現実化してきているという報道もあったりする。今回の噂は、そうした流れのひとつとして受け止められ、真偽が確かでないまま広まることとなったようだ。

今回Rayarkは声明にて、噂されたアーティストの解雇を否定したうえで、ゲーム開発の補助としてのAI技術の活用については積極的な姿勢をみせた。そうした取り組みは他社でも進んでおり、たとえばBlizzard Entertainmentでは、スタッフが高い品質のクリエイティブな仕事により多くの時間を割けるように、付加的な役割を機械学習やAIに任せているという(上のツイート参照)。またUbisoftは、ゲーム内NPCのセリフをAIによって生成する「Ghostwriter」を開発中。雑多なセリフを作成する単純作業をAIに任せ、スタッフによる本筋となるシナリオなどの制作により多くの時間を確保できるようにすることが目的とのこと(関連記事)。

Rayarkも、新たなツールを研究し、より効率的なプロセスを構築していく方針を述べている。そのうえで、同社は常にオリジナルIPの創造に尽力してきたとし、新たな技術が生まれ話題やトレンドが日々変化するなかにおいても、高品質なエンターテイメントを提供する初心に変わりはないとした。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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