『ファークライ』シリーズの開発トップがユービーアイソフトを退職。人材流出が相次ぐ同社では、一部スタジオにて賃上げ実施との報道も


ユービーアイソフトのモントリオールスタジオにて、『ファークライ(Far Cry)』シリーズのエグゼクティブプロデューサーを勤めていたDan Hay氏が、同社を退職することが明らかになった。海外メディアVGCなどが11月12日に報じている。

Hay氏は、Raven Softwareなどでアーティストとしてのキャリアを積み、Day 1 Studiosではシニアプロデューサーとして『F.E.A.R. 3』などを担当。そして、2011年にユービーアイソフト・モントリオールスタジオに移籍してからは、プロデューサーやエグゼクティブプロデューサー、あるいはクリエイティブディレクターとして、『ファークライ3』から『ファークライ ニュードーン』までのシリーズ作を手がけてきた。しばらくリリースの途絶えていた『ファークライ』シリーズを蘇らせ、その後の発展に貢献した人物だといえるだろう。

*『ファークライ3』は、レビュー集積サイトMetacriticにて、現在もシリーズ作品のなかでもっとも高い評価を維持している。


ユービーアイソフトは海外メディアVGCに対し、Dan Hay氏は現地時間11月12日付で、10年以上務めた同社を退社することを認めた。同氏の今後については明らかにされていないが、同社によると、業界のプロフェッショナルとして新たな道を模索するとのこと。なお現時点では、Hay氏自身からは何もコメントは出されていない。

同社はHay氏について、エグゼクティブプロデューサーとして多くの分野のタレントで構成されるチームをまとめ、『ファークライ』シリーズをユービーアイソフト史上もっともポピュラーな作品のひとつに押し上げたと、その功績を称えている。そして、長年の同社への貢献に感謝の意を示し、同氏の将来について幸運を祈るとした。

一方、Hay氏が抜けた穴については、当面はプロデューサーのSandra Warren氏が埋め、ほかのプロデューサーやディレクターと協力しながら、チームを率いることになるという。Warren氏もまた、『ファークライ』シリーズに携わってきた人物である。

https://twitter.com/danhaynow/status/874865838746152960

*Dan Hay氏は写真下中央


ひとつの会社に長く務めた人物が、何かしら区切りをつけて退社することは珍しいことではないが、実績あるベテランが抜けることは、ユービーアイソフトにとっては痛手かもしれない。しかも同社のモントリオールスタジオなどでは、最近開発者が相次いで辞職しており、同社にとって悩ましい状況にある。

たとえば、今年3月には『アサシン クリード』シリーズのナラティブ面を手がけてきたDarby McDevitt氏が、そして7月には同シリーズのアートディレクターなどを務めたRaphael Lacoste氏が退社し、他社へ移籍。さらに、前出のVGCが入手した情報によると、『ファークライ6』や『ウォッチドッグス レギオン』の開発を担当したトロントスタジオでは、デザインチームを率いるポジションにあるスタッフが、開発タイトルが完成したのち、事実上全員退職したという。

*ユービーアイソフトの現役・元スタッフらによるグループが、実質的かつ恒久的な職場環境の改善を求めて運動を続けている。


人材流出が相次いでいる背景は定かではなく、また理由はひとつではないかもしれないが、ユービーアイソフトにおいては2020年以来、ハラスメントが横行する社内文化についての告発が、現役および元スタッフからおこなわれている(関連記事)。同社は職場環境の改善に努め、折に触れ状況を報告しているが、それでもまだ十分ではないという内部告発が聞かれる。こうした社内の環境が、退職の動機に繋がっている可能性もあるかもしれない。

こうした人材流出を受けてか、同社はモントリオールスタジオやトロントスタジオを含むカナダ国内の各スタジオにおいて、この11月から賃上げを実施するという。上のツイートで紹介したABetterUbisoftによると、役職によって賃上げ率が異なり、追加で受け取れる金額としては年間2500ドル(約29万円)から2万ドル(約230万円)の幅があるとのこと。ただ同グループは、現在経営陣に求めている職場環境の改善に資する施策ではないとコメント。さらに、シニアレベルのスタッフの昇給額が特に大きく設定されており、スタッフ間の格差を悪化させているとも述べている(Kotaku)。

なお、本稿前半で触れたDan Hay氏の退職については、繰り返しになるがその理由は明らかにされていない。上級スタッフであった同氏の場合、こうした職場環境の問題や賃金とは無関係である可能性もあるだろう。とはいえ、スタッフの流出が相次いでいるなかでの出来事であり、より大きな注目を集める結果となった。