“ローマ教皇が『ファイアーエムブレム 風花雪月』で傷ついた”という情報が国内SNS上で拡散。しかし悲しむ教皇はいなかった

 

「ローマ教皇聖下は日本のRPGにご執心」、そんな噂が国内Twitter上で一時実しやかに話題になった。真実であればローマ教皇をぐっと身近に感じる出来事だ。しかし、残念ながら情報の出本はジョークサイトによる投稿だったようだ。

今回、国内Twitterを中心に話題になった噂の概要は、「ローマ教皇は日本のRPGなどを好んでおり、『ファイアーエムブレム 風花雪月』では教会が敵に回ってしまったので悲しみを感じた」というものだ。ユーザーの例示は差し控えるものの、複数の国内Twitterユーザーがこの噂を拡散。噂を受け止める側も、素直に信じてしまうユーザー、眉唾で「虚偽ではないか」とするユーザーと反応が分かれた。また、筆者の調査時にはTwitterの検索欄に「ローマ法王」や「ローマ教皇」などの言葉を入力すると、サジェストとして「風花雪月」「ゲーム」が挙がる現象が見られ、かなりのユーザーが関心を持ったことを示唆している。結論を述べると、この情報の出本はジョークサイトの“ウソ記事”だったのである。


噂を伝えるツイートで情報ソースとされていたのは、海外メディアHard Driveの記事だ。同記事では、「ローマ教皇、ほとんどの日本産RPGで教会が悪者にされていて悲しむ」と題して、ローマ教皇のゲーム事情が語られている。記事の内容を一部紹介すると、ローマ教皇がサン・ピエトロ寺院の前で教皇が観衆たちに「(教会が悪者にされるのは)マジ辛いよ、なあ」と砕けた調子で語ったとしている。そして枢機卿は「教皇はクールなアニメキャラのいる深みのあるシングルプレイヤーゲームがお好きなんです、教皇は人付き合いが苦手ですから」と赤裸々に伝え、『ファイアーエムブレム 風花雪月』ディレクターの草木原俊行氏は「うっわー、教皇、マジごめん」と謝罪しつつ「次回作では教会をめちゃんこクールにするからさ」と返答したと描写されている。当然、これらの内容はすべて事実ではない。

実をいえば、Hard Driveはジョーク記事を中心に掲載するメディアなのだ。国内でいえば、ジョークメディア虚構新聞などにあたる性質のサイトだ。上述の記事の内容も、冷静に読めば虚偽であると判断できる突拍子もない内容だ。また、同誌には「即興武器として使って良かったゲームキューブの色バリエーションTOP5」なるレビュー記事や、「ルイージがマリオとおそろいの服を着るのをやめると発表」として架空キャラクターであるルイージ氏本人のインタビューを掲載するなど、一見してジョークとわかる記事が溢れかえっている。また、Hard Driveのサイト概要ページでは、「Hard Driveは疑問を抱くべきでない、とても現実的なゲーム関連ニュースサイトです。考え込まず情報を真実として受け入れてください」としている。同誌ではいずれの記事もウソとわかりやすい作りになっているため、このサイト紹介についてもジョークであり、逆説的に「全部ウソだよ」と伝える意図なのだろう。

前述の虚構新聞については、サイトの性質を把握せず、記事を真に受けてしまったユーザーにより、虚構の記事が「真実」として拡散されてしまうケースがあった。今回の「教皇がゲーム好き」という話題が拡散されたのも、そうしたユーザーが信じ込んでしまった結果だろう。必ずしも悪意あるデマ拡散ではないものの、情報を鵜呑みにする危うさを示唆する出来事。一方で、Twitterでは複数ユーザーから「情報元はジョークサイトではないか」という指摘もなされており、噂を拡散してしまったユーザーも後からツイートを訂正する様子が見られた。

今回の一件では、情報の話題性が先行した結果として、明確なジョークが面白い出来事として受け取られ拡散されてしまった。メディア記者としても他人事ではなく、気の引き締まる思いがする。さまざまな情報が錯綜する現代においては、いかなる話題も慎重に見極めたいものである。


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