Ubisoftを虚偽通報で苦しめた容疑で『レインボーシックス シージ』のチーターが特定される。私怨と姑息な手口で悪質すぎる嫌がらせ


昨年11月に発生した、Ubisoftモントリオールスタジオにおける“虚偽の”人質事件通報(関連記事)。同事件に関し、容疑者とされる人物が特定されたようだ。同人物は、『レインボーシックス シージ』においてたびたびBANを受けてきたチーターだったという。現地メディアのLa Presseが伝えている。 

日本時間で昨年11月14日、カナダ・ケベック州モントリオールに存在するUbisoftモントリオールのオフィスにて「人質事件が発生した模様である」と地元メディアが一斉に報じた。モントリオール市警察は何者かからの緊急通報を受け、特殊部隊を派遣して捜査を実施。オフィスがある一帯の立ち入りが規制され、大型の装甲車両も投入されるなど、一時騒然たる状況となった。しかし事件発生から5時間後、脅威は存在せず怪我人もいなかったと報告。事件性なしと判断された一方、モントリオール市警察はきっかけとなった緊急通報の主について調査を進めるとしていた。 
 

 
地元メディアTVA Nouvellesによると、この緊急通報はいたずらによるものだったとされる。すなわち、虚偽の通報で警察を送りこむ「Swatting」と呼ばれる行為だ。Ubisoftモントリオールのオフィスにて、何らかの事件をおこすと脅迫する内容の電話があり、これを受けてすぐに避難するようスタッフらに指示が出された。屋上に逃げてバリケードを築く人もいれば、オフィスの外に出ることができた人もいたという。実際には危険が及ぶことはなかったものの、業務に多大な支障が生じたほか、ゲーム業界全体から心配する声が寄せられる大きな事態となっていた。 

La Presseが入手した裁判所の文書によれば、11月の虚偽通報の犯人は現地時間13日の午後1時11分に警察へ通報したという。5人組の犯行グループが40人の従業員の身代金を要求。身代金を用意できなければ「爆破する」と伝えたそうだ。警察を欺くため、通報者はスプーフィング(なりすまし)技術を用いて電話番号をUbisoftオフィス内部のものと詐称していたという。事件はUbisoftに170万カナダドル(約1億5000万円)の生産性の損失に加え、1万5000カナダドル(約133万円)の心理的サポートサービスの負担および、4万カナダドル(約355万円)の物的損害をもたらしたという。 
 

 
さらにUbisoftモントリオールはその後も虚偽の通報被害を受けたという。12月18日と翌年1月6日に通報が入ったが、今度はモントリオール市警察が慎重な動きを見せたため、こちらはそれほど衆目を集める事態とはならなかった。 1月6日の虚偽通報の翌日、容疑者はUbisoftに電話をかけ、『レインボーシックス シージ』の開発者になりすまし会社内アカウントへアクセスしようと試みた。拒否されるも、『レインボーシックス シージ』のプレイヤーをBANするためのアクセス権を渡すよう要求したという。容疑者は加えて、『レインボーシックス シージ』プロプレイヤーであるSpoit氏のアカウントをBANするようにも要求したとされる。 

Spoit氏は1月8日にハッキング被害を受け、故意にチート利用をさせられ『レインボーシックス シージ』からBANを受けている。La Presseが入手した文書によると、 Ubisoftの内部調査の結果、虚偽通報の犯人とSpoit氏のアカウントのハッキングとの間につながりが認められた。そこから浮上したのが、Ouahioune氏の名前だった。 
 

 
最初の事件発生から5か月が経過し、容疑者と思しき人物Yanni Ouahioune氏が特定された。同人物は、『レインボーシックス シージ』にてBANを受け、その報復としてUbisoftに対するSwattingをおこなったという。また、ほかのプレイヤーをBANすることを望んでいたとのこと。モントリオール市警察は、同人物の利用していたメッセージングサービスSnapchatから身元を特定したという。調べによれば、Ouahioune氏は「Yannox」「Y4nn0XX」といったユーザーネームで知られ、『レインボーシックス シージ』にてUbisoftから80回以上のBAN処分を受けているという。 

La PresseがOuahioune氏にSnapchat経緯で取材したところ、同氏は2017年に別のSwatting事件を起こしたことを認めている。一方、11月13日のSwattingについては容疑を否認。同様に、12月18日と1月6日に起きた虚偽通報についても否認した。Ubisoftのゲームでチートしたことはあるが、Ubisoftに電話したのは、『レインボーシックス シージ』 からBANされたときだけとのこと。同氏が容疑者扱いされているのは、Ubisoftに名が知られているからだろうと、La Presseに伝えている。 

またOuahioune氏は、Spoit氏のアカウントをハックしたのは自分だと『レインボーシックス シージ』コミュニティ内で標榜していたことを認めた。しかし実際には、その実行犯は自身ではないとしている。Ouahioune氏は有名なアカウントをハックしたことによる評判や悪評を得るために、ハッキングの犯人であるふりをしたと語っている。Ouahioune氏は繰り返し、モントリオールでの虚偽の人質事件への関与を否定し、違法な行為にはすでに関わっていないことを強調した。 
 

『レインボーシックス シージ』 

UbisoftはLa Presseに対し、現在進行中の警察の調査に影響を与える懸念から、コメントを開示しなかった。 La Presseの情報によれば、現在も調査は続いているものの、警察はOuahioune氏が正式に起訴される可能性は非常に低いと見ているという。フランスとカナダの間には身柄引き渡し条約が存在するものの、フランスは自国民の身柄引き渡しを拒否しているためだ。つまりOuahioune氏はフランスで活動しているフランス国民だということだろう。なおフランスの経済・財務大臣付副大臣Agnès Pannier-Runacher氏は2020年1月、「フランスは決して自国民を外国に引き渡さない」と宣言している。