『トロとパズル~どこでもいっしょ~』5月10日をもってサービス終了へ。ユーザーに優しく、ゆるやかだった課金圧

 

フォワードワークスは2月10日、『トロとパズル~どこでもいっしょ~』のサービスを5月10日をもって終了すると発表した。具体的な終了日時は2021年5月10日13時59分。2019年10月に『どこでもいっしょ』シリーズ20周年を記念してサービスが開始された本作だが、約1年半で幕を引くこととなった。

『トロとパズル~どこでもいっしょ~』は、iOS/Android向けのパズルゲームだ。ある日プレイヤーの元に届いたのは「温泉旅行バスツアー」の招待状。招待状を手にして向かった先は、山と海、そして色とりどりのフルーツに囲まれた温泉街「天つ空」だった。かつて賑わっていたとされる天つ空は活気を失っており、閑古鳥が鳴いている有様だ。

そこでプレイヤーが出会ったのは、人間になれる温泉を探してやってきたというネコのトロ。プレイヤーはトロと一緒に天つ空を巡り、定められた手数内で同じフルーツのピースを揃えて消していく、ステージクリア型のパズルでさまざまな問題を解決。街に活気を取り戻していく。

温泉街にはクロネコのクロや町の看板猫のソラ、ウサギのジュンといった個性豊かな「ポケピ」たちも登場する。ポケピたちに知らない言葉を教えていくことで、ゲーム内でユーザー独自のユニークな会話劇が繰り広げられるように。パズル要素だけでなく、ほっこりとした毎日が贈れるコミュニケーション要素も魅力となる作品だ。


そんな本作は、200万人を超える事前登録者数を達成しつつサービスが開始された。開始直後のユーザーの反応はというと、序盤はシンプルながらもゲームの進行によって徐々に歯応えある難易度になっていくパズル要素や、シリーズお馴染みの可愛いキャラクターとのコミュニケーション要素が好評だった様子。シリーズファンはもちろんのこと、日々トロたちと贈る毎日を楽しむ新規ユーザーも散見されていた。筆者もそのユーザーのうちの一人である。

その後サービスが継続されていく中で、新たなストーリーやパズルステージ、さまざまなポケピの衣装や家具を追加。サンリオキャラクターや『サルゲッチュ』との魅力的なコラボイベントも開催され、ゲームの魅力は拡充されていった。そんな本作がサービス終了へと舵を切ったのは、スタートからわずか1年余りのこと。サービス終了の経緯については運営側から明かされていない。舵を切ることとなった要因は何だったのだろうか。プレイヤーとしての視点を踏まえて推測していきたい。

一般的なカジュアルパズルゲームシステム


その要因のひとつとしては、ユーザーを課金へと導く導線にあったと考えられる。まず本作にはつい最近、昨年12月まではガチャシステムが導入されていなかった。他のスマートフォン向けアプリでは、使用可能なキャラクターをアンロックするためにガチャシステムが使用されていることも多い。しかしながら、本作で触れ合えるポケピを選ぶための課金は不要。すべてのポケピがパズルをクリアしていくことでアンロックされていく。加えて、パズルに挑むためのハート(スタミナ)も30分でひとつ補充される。このハートはステージクリアに失敗した場合のみ減る仕組み。ステージをクリアし続ければハートは減らず、すべてのハートを使い切るまでは何度もパズルにチャレンジ可能だ。プレイを続けていくことで、おのずとポケピが解放されるようになっている。

解放したポケピたちとのコミュニケーション要素についても特段制限は無い。いつでも好きな言葉を教え、触れ合うことができる。ポケピたちを着飾る衣装や自室を飾る家具の中には販売限定アイテムこそあるものの、ステージ進行やイベント達成で入手できるものも多く存在する。ゆえにポケピたちとのコミュニケーション要素は、課金せずとも存分に楽しむことができるわけだ。よってユーザーが課金に至るまでの動機となる大部分を占めたのは、パズルをクリアするための手助けとなるおたすけアイテムを入手する場面だろう。

先述したように、本作はゲーム進行とともにパズルの難易度が上がっていく。具体的には新たなピースやギミックの登場によって難易度が上昇するほか、クリアまでに必要なフルーツの数やフルーツを操作できる手数といったクリア条件が厳しくなっていく。自力のみでクリアするのが困難なステージも増えてくるわけだ。そこで必要となるのが、ブースターアイテムなどのおたすけアイテムである。アイテムを使用し、ステージ開始時に周囲2マスのピースを消す爆弾などを設置することで、難解なステージでもクリアまでの道筋が見えてくるのだ。



ゆるやかな課金圧

では難解なステージをクリアする手段として、すべてのユーザーが課金によっておたすけアイテムを入手しているのかというと、そうとは言い切れない。このおたすけアイテムはログインボーナスや毎日引ける「おみくじ」といった手段でも入手可能だからだ。おまけにパズルには、無償コインを用いてコンティニューする手段も親切に用意されている。この無償コインもまた、ゲームを続けていくことで自然と貯まっていくものだ。このようにパズル要素においても、無償で利用できる複数の救済措置が用意されている。したがって早急にクリアを目指す熱心なユーザー以外は、おたすけアイテムやコインが貯まるまで待ってからステージに挑もうとしただろう。

このパズルをクリアしていくメリットとしては、温泉街で繰り広げられるポケピたちとの日常を絡めたストーリーが読み進められることと、天つ空を観光客で賑わせ発展させていけるという点だ。しかしながら、たとえストーリーの続きや街の発展こそ見れなくとも、本作ではシリーズ通例の魅力といえる、ポケピたちとのコミュニケーション要素が楽しめる。


ポケピたちを開放するまでのパズルはそこまで難しくなく、たとえパズルが苦手でも入手したアイテムを併用することでおのずと到達する。その後のコミュニケーション要素については満足するまで楽しむことができる。パズルの進行はイベント用の衣装や家具の入手以外には強いられることもない。よって先述した救済措置が貯まるまで、ポケピたちとの触れ合いを楽しみながらのんびり待つという術がとれる。コミュニケーション要素の大部分が中盤までにすべて解放されるという点は、ユーザーにとっては非常にありがたい仕様だ。ただし運営目線でみると、課金への導線をゆるくする枷となったとも考えられる。パズルを進めるために、衝動的に課金したくなるような課金誘導を薄くする要素にもなっているのだ。

一方でパズル要素も同時に楽しみたいユーザーにとっては、運要素も絡むとされる難解すぎるパズルがゲーム離れを加速させる要因になったとも考えられる。レベルが上昇していくにつれて、一部のステージではよほどパズルが得意なプレイヤーでないかぎり、複数アイテムを使用したパワープレイが要求されることもある。極端に難しいステージの導入については、課金への導線を配慮した結果といえるかもしれない。しかしながら、その極端な難易度設定によって振るい落とされた者が存在することも事実だ。現にアイテムを使用してもクリアできず、ストーリーの続きは気になるものの、やむなくゲームから離れてしまったというユーザーの声もあがっている。この辺りは絶妙なバランス調整が必要とされるため、運営側も頭を悩ませたことだろう。



優しさと迷いと

これらをふまえたうえで全体的に見れば、本作は他のスマートフォン向けタイトルよりも課金システムがゆるく、無課金もしくは微課金でもシリーズならではの魅力が十分に楽しめるタイトルといえる。少なくとも、筆者としてはゲーム内容・課金要素ともに優しいゲームであると感じていた。逆にいえば、課金をする必要が感じられなかったゲームとも言える。一般的なモバイルパズルゲームと比べても、その傾向は強かった。

緩やかな課金システムについては、運営側が把握したうえで実装されていたのかは定かではないが、ゲーム内には動画広告を任意再生することでアイテムが入手できる広告収益システムも採用されている。そこではクロから「動画広告見ないかにゃ?」などと促されていた。クロにはちょっぴり似つかわしくないこの一面。ここからも、サービスモデルを模索する姿勢が垣間見えた。

そのようなユーザーに優しい運営を継続していく中、売上額が想定に達しなかったことが今回のサービス終了へと舵を切る要因となったのかもしれない。12月からパズルに役立つバッジ要素が突如ガチャシステムとして導入されたことからも、その背景がうかがえる。しかしながら、ユーザーを第一に考える姿勢はシリーズファンを満足させる結果になったはずだ。サービス終了を嘆く声やこれまでの運営を労う多くの声がそれを物語っている。

なお、本作のサービス終了までの今後の日程としては、2月10日のメンテナンス終了後にコインの販売を終了する。現在所持しているコインはサービス終了まで引き続き利用可能だ。未使用の有償コイン残高については、サービス終了後の5月10日14時より払い戻し対応が開始されるとのこと。そして2月19日にはストーリーの最終章、および最終パズルステージが更新される予定だ。

本作のトロたちとお別れするまではあとわずか3か月。しばらくプレイしていなかったという方も、久しぶりに天つ空へ訪れ、ストーリーの結末を見届けてみてはいかがだろうか。そして本作は幕を引く形となったが、今後また違った形でトロたちと会えることに期待を寄せたい。