ヤンデレの暗殺ACT『Yandere Simulator』開発者、もがく。類似ゲームの人気に焦り、その言動が激しい批判に晒される

 

『Yandere Simulator(ヤンデレシミュレーター)』は2014年より開発が続くインディーゲームだ。その名の通り病的な恋愛感情を抱えた「Yandereちゃん」を操作し、憧れの「Senpai」に近づく恋敵を暗殺していくバイオレンス・ステルスアクションとして制作されている。学校の時間割に沿ったAIで生活するNPCや、事故に見せかけた殺害・自害に至るよう謀殺など幅広いキルバリエーションが話題を呼び、長らく注目を集めてきた。そう、本当に長らく。

足掛け6年にわたる開発は苦痛の道のりだった。資金難や人手不足、無限に湧いてくる類似ゲーム、そして開発者Yandere Dev氏への嫌がらせ。そして今、Yandere Dev氏をめぐり大きな波乱が巻き起こっている。同氏が「類似ゲームの開発者に対し、自殺をほのめかす言動で脅迫した」とする説が蔓延しているのだ。これに対しYandere Dev氏は、開発ブログにて反論を掲載している。なぜこうした状況になってしまったのか、改めて問題を分解してみよう。


類似ゲーム『Lovesick』の登場

今月5日、YouTubeに『Lovesick』と題したゲームのトレイラーが投稿された。「恋敵を抹殺する女子高生」というコンセプトは『Yandere Simulator』とまったく同じだ。キャラクターモデルも共通しており、Unity アセットストアで購入できるGame Asset Studioの「桐生あおい」アセットを使用している。動画の説明には「本作は『Yandere Simulator』の改良・再考版であり、オリジナル版のコンセプトとアイデアを改善したものです」とのコメントを記載。『Yandere Simulator』を意識して制作されたことが明確に表されている。なお『Lovesick』というタイトル自体も、『Yandere Simulator』の製品版タイトルとして候補に上がっていたものだ(関連記事)。注目が集まったのは、FAQ欄にある「開発期間」の項目だった。開発者のDrApeis氏および同チームは約2週間で本作を形にしたというのだ。
【UPDATE2 2020/7/15 20:50】
『Yandere Simulator』の主人公のキャラモデルが、アセットストアにて販売されているものであることを補足。

『Lovesick』は現在トレイラーが公開されているのみで、デモ版配布には至っていない。よってそのクオリティの是非を論ずる段階にはまだない。しかし、見た目もコンセプトもほとんど同じ『Lovesick』を半月足らずで作ったというDrApeis氏に多くのユーザーが食いついた。『Yandere Simulator』開発の遅れに不満を抱いていた人々の多くが『Lovesick』フォロワーとなったのだ。

https://www.youtube.com/watch?v=oht83GRKOmw

そんな中、あるDiscord上のやりとりがリークされる。それはYandere Dev氏がDrApeis氏に送ったとされるメッセージだ。「自分のプロジェクトが他人の人生へあまりに多くの破滅的な結果をもたらしていると気づいていたら、どうやって続行することができるでしょうか? 私にとってこれがどれだけ有害で傷つけることか分かりますよね? もし『Yandere Simulator』が他人の人生を終わらせるとしたら、私なら開発をキャンセルします」。

この画像は広く流布し、「自分のプロジェクトを終わらせられないYandere Dev氏がDrApeis氏に嫉妬し、自殺を示唆することで『Lovesick』開発を中断させようとした」という言説が瞬く間に広まった。ネット上にはYandere Dev氏をバッシングする声があふれ、同氏は四面楚歌の状態となる。その声は数多く、アメリカのTwitter上で一時的に#RIPYandereDevなるハッシュタグがトレンド入りするほど。なおDrApeis氏は一旦Yandere Dev氏に対する謝罪を投稿したとされているが、現在はその発言は削除されている模様。

https://twitter.com/YandereDevOOC/status/1282534440166666243


『Yandere Simulator』開発者の反論

こうした中、Yandere Dev氏は以前より更新を続けてきた開発ブログに記事を寄せている。このポストには本件のみならず、長らく同氏が抱えてきた悪評に対する反論を掲載。その長さは3300語以上にもおよぶ。かいつまんでその内容を見てみよう。

まず6年以上にわたり開発が遅れている件のバッシングについて。Yandere Dev氏は2017年ごろより悪質な嫌がらせに遭っていることを告白した。いたずら電話や自殺強要のメール、警察へ虚偽の通報をして同氏の自宅に機動部隊を派遣するなど、その内容は陰湿なものばかりだった。こうした中、Yandere Dev氏はうつ病を患うようになったという。熱意とモチベーションが失われ、何より生産性が落ち込んだといい、一連の嫌がらせがなければ2019年の頭には最初の敵キャラクターをリリースできていたはずだとしている。

最初のライバル「Osana Najimi」ちゃん


「ほぼ同内容の『Lovesick』が2週間以内で作りあげられた」とされる件については、このライバル作品は『Yandere Simulator』のアセットを引き抜き、ただ学校内を動き回る女の子の映像を作っただけだと主張。あたかもゲームが開発されているかのようなイリュージョンに過ぎないとして、数百ないし数千の人が『Lovesick』を支持している状況を「本当に馬鹿げている」と非難した。

そして批判の火種となった、「DrApeis氏への自殺示唆」疑惑について。Yandere Dev氏は「アセットを引っこ抜いた相手」と話をしたことを認めた。DrApeis氏の動画や説明が誤った認識を招き、Yandere Dev氏への嫌がらせを引き起こしていること、同氏への(Patreonなどの)経済的支援を損わせていることなどを伝えたという。そして議論の中で、Yandere Dev氏は「自身の気持ちを正直に説明した」。DrApeis氏に対し、彼の行動が「Yandere Dev氏の人生を台無しにしていること」「人生を破滅させていること」「人生を終わらせていること」を伝えたそうだ。すなわちTwitterで出回っている画像は「人生が終わりそうなほどつらい」気持ちを伝えた際のメッセージであり、自殺をほのめかすことで開発の頓挫を意図したものではない、というのがYandere Dev氏の説明である。

https://twitter.com/YandereDevOOC/status/1282846224874340354

*なお同様の類似ゲーム『Watashi no mono』開発者へ謝罪を求めていた会話内容もリークされている。

このほか同氏は過去に受けた非難に対しても否定を述べている。Yandere Dev氏が受けたバッシングは数に限りがないが、開発の体制にまつわるものの他に「氏はペドフィリア(幼児性愛)を性的指向として擁護している」「性的同意年齢を廃止したいと思っている」といったセクシャルな話題が目立つ。これらに対し、Yandere Dev氏は2014年に誰かと言い争っていた時のやりとりが切り抜かれていると指摘した。

ペドフィリアの議論については、「個人が制御できないものの共通例」として精神疾患と性的指向を比較したに過ぎず、幼児性愛を性的指向として認める意図はなかったという。性的同意年齢についての議論も同様の流れだといい、「人間の精神発達レベルを正確に測ることができるテストがあれば、その人の精神が大人に達していて性交する信頼をおけるかどうか判断できる」という“思考実験”を話していたに過ぎないという。これらの性的なトピックは当時のYandere Dev氏が相手を言い負かそうと躍起になっていたときの言葉の綾であり、同氏のセクシャルな主張を示しているわけではないと言明した。

『Yandere Simulator』の開発が長期化していたことは事実だ。2017年には大手パブリッシャーtinyBuildとパートナー契約を結び大きな前進が期待されていたが(関連記事)、サポートとして加わったtinyBuildのプログラマーと意見があわなかったことや、その他さまざまな部分でうまくいかず離別。そのことが明かされたのも、離別した7か月後だった。蓄積されてきた不満が今回の批判につながった点は否めない。またDrApeis氏へ送ったとされるメッセージがYandere Dev氏の弁解通りの意図だったとしても、かなり真意を掴みづらく際どいワードチョイスだったといえなくもない。

Yandere Dev氏は2016年から精神の不調を訴えていた(関連記事)。加えて同氏が報告する通りの嫌がらせが横行していたとすれば、相当なストレスを抱えていたといえる。DrApeis氏への発言は追い詰められたメンタルから溢れた言葉だったのかもしれない。今回の件がこれからの開発にどのような影響を及ぼすのか気になるところだ。
【UPDATE 2020/7/15 20:25】
タイトルを「ヤンデレの暗殺ACT『Yandere Simulator』開発者、深刻に病む。類似ゲームの人気に焦り、その言動が激しい批判に晒される」から、「ヤンデレの暗殺ACT『Yandere Simulator』開発者、もがく。類似ゲームの人気に焦り、その言動が激しい批判に晒される」へと変更。