『フォーオナー』お触り禁止。女性ヴァルキリーの胸元を掴むアニメーションが「不適切な表現」として修正される


剣戟アクション『フォーオナー』にて、女性限定ヒーロー「ヴァルキリー」用に追加された「ノータッチ」というエクセキューション(処刑アニメーション)に修正が入ったことで、redditコミュニティ内で嘆きの声が高まっている(reddit関連スレッド)。本作のエクセキューションには、倒した相手の頭部を槍で串刺しにしたり、地面に叩きつけた相手の首を斧で斬り落としたりといった残忍なフィニッシュムーブが数多く含まれている。金棒で対戦相手の急所を突き上げ、前のめりになったところを下腹部で突き飛ばすという、わずかながらユーモアを盛り込んだアニメーションも存在する。

お触りは禁止よ

11月初旬に追加された「ヴァルキリー」用の新たなエクセキューション「ノータッチ」では、まず腹部にスピアを突き刺された対戦相手が「ヴァルキリー」の身体に倒れこんでくる。彼女の身体を支えにすることで、なんとか体勢を持ちこたえる対戦相手。だが両手を置く場所がいけなかった。女性である「ヴァルキリー」の胸元に、両手をピタリと当ててしまったのだ。自らの無礼に気づいたのか、相手はすぐさま彼女の胸元から手を離し、故意に触ったわけではないとアピール。首を横に振り、両手を上げて許しを乞う。だが彼女は「そんなことで許されるとでも思っているのか」と言わんばかりに相手の股間を右膝で蹴り上げ、悶絶する間も与えぬよう小盾で顔面を殴打する。もはや立っていられなくなった相手は、そのままうつ伏せに倒れこむ。「私に指一本でも触れたら許さないわよ。ノータッチよ」というセリフが聞こえてきそうな、「ヴァルキリー」のたくましい女性像にピッタリともいえるアニメーションであった。

ところがこのエクセキューションは、追加されてから数時間のうちにゲームから削除されてしまう。Ubisoftからの説明はなく、そのまま1か月以上の時が流れた。そして12月18日に配信された「アップデート1.17」にてようやく復活を遂げる。パッチノートでは「バグ修正」の項目として、「ノータッチ」の処刑技が利用可能になった旨だけが記載されている。なるほど、バグ修正。きっとプレイヤーに気づかれなかっただけで、ファイルなり挙動なりに不備があったに違いない。何はともあれ、これで「ヴァルキリー」の粋なエクセキューションを活用できるわけだ。しかしながら購入ページに遷移したプレイヤーを待っていたのは、以下の新しいアニメーションであった。

以前はよろめきついでに胸元をまさぐっていた相手の両手が、「ヴァルキリー」の小盾でブロックされているのだ。Ubisoftは胸部をタッチする描写を不適切な表現として、自主規制したのである。たしかに『フォーオナー』は色事とは無縁のゲームであり、修正前の「ノータッチ」は世界観にそぐわないという意味でも違和感があったかもしれない。

この変更について、コミュニティ内で一部のユーザが嘆きの声をあげている。たとえばredditのスレッドでは、「女性が自己防衛することの何が悪いのか分からない」「もう7000スティール(注釈:ゲーム内通貨)も叩いて購入する価値はないや」といったコメントが見られる。たしかに、やましい気持ちなんぞ生まれるはずもない戦の最中に、アクシデントで胸を触っただけの表現が規制されるのはおかしい。納得がいかない理由もわかる。また別のスレッドでは、redditユーザ「Byron517」氏がレーティング審査の問題ではなかろうかと冷静に推測している。『フォーオナー』のESRBレーティングは「M(17歳以上対象)」だが、レーティング概要に性的描写の項目は含まれていない。再審査を避けるために削除したのではないか、というわけだ。

『フォーオナー』のレーティング概要。ESRBより

不適切なジェスチャー

こうした疑いが生まれる中、海外メディアKotakuにコメントを寄せたUbisoftは「ヴァルキリーと対戦相手との間に、不適切なジェスチャーが含まれていました。これは無神経なコンテンツであると感じたため、エクセキューションに変更を加えました」と語っている。実際の変更内容から察するに、「不適切なジェスチャー」とは胸をタッチする仕草を指していると思われる。またUbisoftは修正前の「ノータッチ」について、誤って実装されたもので、本来は追加される予定ではなかったものだと答えている。この発言から、修正前の古いファイルが入り込んでしまったという可能性も考えられる。いずれにせよ、同じ過ちが繰り返されないよう『フォーオナー』の開発チーム内には新たな確認制度を設けたとのことだ。

こうして、胸を触ったわけでもないのに股間を蹴り上げられ、落雷を受けたかのような激痛に苦しみながら無様にも倒れこむ戦士の姿が残った。一見すると理不尽に思えるが、盾で防御しなければ相手の手は確実に「ヴァルキリー」の胸をタッチしていた。彼女からしてみれば、触れそうになった段階でアウトというわけだろう。「ノータッチ」というアニメーション名の趣旨は、修正後の内容でも十分に伝わってくる。

セクシャル表現の規制はたびたび話題にあがるトピックであり、最近では『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』のテストサーバにて、女性キャラクターの股間にスジが見えるという指摘があがった(関連記事)。Ubisoftの過去事例でいうと、『ウォッチドッグス 2』にて女性キャラクターのある部分が克明に描かれていたことから、レンダリング表現を修正したという珍事件がある(関連記事)。それらに比べると今回の「ノータッチ」事件はマイルドな部類に入るが、Ubisoftが語ったように「無神経な対応」と捉えられる可能性は十分にある。今回の自主規制は、企業としてセクシャルな表現を軽く扱うつもりはないことを示す効果もあったのではないだろうか。

ちなみに『フォーオナー』では12月21日から1月4日にかけて、ウィンターイベント「フロストウインド祭」が開催される。期間中に追加される新モード「アイスブロウラーズ」では、通常の「ブロウル」(2vs2の対戦)とは違い、薄い氷の張った湖で戦うという冬季イベントらしい果たし合いが楽しめる。しばらく本作を起動していない方は、これを機に復帰してみるというのも手だろう。


元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)