EAはスタジオVisceral Gamesの閉鎖の先に何を見据えるのか。リニアなシングルプレイゲーム制作からの脱却が意味するもの

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Electronic Arts(以下、EA)によるVisceral Gamesのスタジオ閉鎖発表が大きな反響を呼んでいる。『Dead Space』を手がけたことで知られる、実力派大型スタジオの歴史に幕が閉じられたことは、業界人にとってもショックな出来事であったようだ。まず当事者の反応に目を向けると、Amy Hennig氏とともに「スター・ウォーズ」プロジェクト(通称、Project Ragtag)の共同ライターを務めたTodd Stashwick氏は、現在の心境を表現するためか、ツイッター上でフランク・シナトラの「That’s Life」の歌詞や、オビ=ワン・ケノービのセリフを引用している。Amy Hennig氏は発表後発言していないが、唯一、Stashwick氏の言葉だけはリツイートしている。プロジェクトを牽引してきたリードメンバーにとって、望まぬ結果であったことは言うまでもなさそうだ。

SNS上では、『Dead Space』シリーズを手掛けたスタジオの閉鎖そのものや、「スター・ウォーズ」プロジェクトの頓挫を悲しむ声。そしてEAが同スタジオの閉鎖にあわせて表明した「リニアなシングルプレイ体験からの脱却」に対する反応が見られる。Visceral Games在籍メンバーの争奪戦もはじまっており、ツイッターのハッシュタグ「VisceralJobs」では、Naughty Dog、CD Projekt Red、2K Gamesなど複数のスタジオが求人情報を発信している。

「スター・ウォーズ」作品の延期は、業界関係者やファンだけでなく、投資家にとっても不安材料となったようで、発表当日にはEAの株価が3%下がったことがCNBCにて報じられている。ただしアナリストからの評価は大きく変動しておらず、たとえば英国の投資銀行Atlantic Equitiesのアナリストは、本プロジェクトのセールス・ポテンシャルは依然として高く、800万本ほどの売上が期待できるとCNBCに伝えている。また同アナリストはEAの充実したポートフォリオを評価し、2019会計年度のEPS(1株当たり利益)の予測値を2%下げるだけにとどめている。

伝えたかったのは閉鎖ではなく変化

Visceral Gamesの「Project Ragtag」コンセプトアート

仮に企業全体としての業績に大きな影響が出ないとしても、最低でも4年間にわたり投資を続けていたプロジェクトを仕切り直すことで、莫大な埋没費用が発生するはずなのだ。それでもなお、「リニアなシングルプレイ」から脱却するという決断を下した、その事実に着目したい。スタジオ閉鎖のインパクトが強すぎてあまり触れられていないが、発表文のタイトルは「Visceral Gamesの今後」や「Visceral Gamesの閉鎖について」ではなく、「Visceral Star Warsプロジェクトに関するアップデート」。スタジオの閉鎖は主題ではなく、本文でも1行しか触れられていない。この発表文は「プロジェクトの方針を変更した」ことを表明するものであり、EAが伝えようとしているのは、あくまでもそこである。

そもそも、方針の変更と、スタジオの閉鎖がどこまで関係しているのか定かではない。本件についていち早く報じたKotakuのJason Schreirer氏にいたっては、独自に仕入れたソースをもとに「シングルプレイだからという理由でゲームがつぶされたわけではない」と発言。EAの発表は、プロジェクトが難航していたというネガティブな印象を与えないための、投資家向けの建前だとしている。これまでコンセプトアート以外の情報がほとんど公開されてこなかったことを考えると、マイルストーンを達成できずに開発が行き詰まっていたというのは十分にありえそうな話だ。方針の変更とスタジオの閉鎖。この2つのトピックは、決して無関係ではないと思われるが、直接的な関連性が現時点で不明である以上、本稿では切り離して考えることとする。

「Game as a Service」へ

では「方針の変更」の方に話をフォーカスしてみよう。EAの目標は「プレイヤーが戻ってきたくなるような、長く楽しんでもらえるゲーム体験」を届けることである。その手段として、当初予定していたリニアなシングルプレイゲームから、「よりバラエティ豊富で、高いプレイヤー・エージェンシーを実現できる」ゲームデザインにシフトしていくと述べられている。前半の目標部分は、スクウェア・エニックスの「2017年3月期 アニュアルレポート」(PDFリンク)にて代表取締役社長の松田洋祐氏が語った言葉と似ている。「ゲーム自体のライフタイムバリュー」を向上させるための、「一度プレイしていただいたら終わりではなく、より楽しくより長くプレイしていただけるようなゲームデザイン」、つまりは「Game as a Service」というコンセプトである。

長く遊んでもらえるということは、マネタイズ機会が増えるということ。開発費が高騰し続けるAAA級タイトルを支える上でも、そして増益増収という企業としての至上命令を達成する上でも、少額のゲーム内課金であるマイクロトランザクションの導入は、避けることのできない業界スタンダードとなりつつある。10時間20時間で完結し、マネタイズ手段が限られてしまうような「リニアなシングルプレイ」の開発にリソースを割くことは、少なくともAAA級タイトルの市場においては、採算の合わない話なのかもしれない。ゲーム内課金のような、継続的な収益確保を可能にするマネタイズモデル。それに適したゲームデザインを模索した結果が、今回の方針変更なのだろう。プロジェクトこそ延期になったが、長期的な視野で見ると、株主にとってはポジティブな情報であるともいえる。

『Middle-earth:Shadow of War』

『Middle-earth:Shadow of War』にてルートボックスが実装されたように、シングルプレイのゲームでもマイクロトランザクションを実装することは十分に可能だ。ただし『Middle-earth:Shadow of War』は「オープン」なシングルプレイゲームである。「リニア」な作品となれば、課金モデルを組み込む余地は限られてくる。それに、エンドコンテンツがなく、プレイヤーをとどめることができなければ、マイクロトランザクションがあっても追加収益は期待できない。それならば、はじめからマイクロトランザクションが馴染みやすいゲームデザインを採用した方が、企業としては理に適っているといえるだろう。

さらにVisceral Gamesが開発していた「スター・ウォーズ」プロジェクトに関しては、『Star Wars Battlefront』フランチャイズや、Respawn Entertainmentが開発中の「スター・ウォーズ」作品との差別化も図らなければならず、単純にマルチプレイを追加するだけでは足りない。「Game as a Service」、そして「よりバラエティ豊富で、高いプレイヤー・エージェンシーを実現」するゲームというキーワードから、IGNPolygonは、Bungieの『Destiny』シリーズや、BioWareが開発している『Anthem』のような「シェアード・ワールド」タイプのゲームになるのではと推測している。『Destiny 2』の成功や、『Anthem』にかけられた期待の高さを踏まえると、「シェアード・ワールド」として「スター・ウォーズ」の世界を描くことにEAが可能性を見出したとしても、不思議ではない。

10月24日にPC版ローンチをむかえる『Destiny 2』

AAA市場に空くリニアな物語という穴

このように、EAがリニアなゲームから脱却しようとする意図は理解できる。一方で、『God of War』のゲームディレクターCory Barlog氏が「リニアなシングルプレイゲームが大好きなだけに、リニアという言葉が悪い意味として使われるのは悲しい。リニアなストーリーのゲームでも、プレイヤーの主体性をつくれるのに」と発言しているように、リニアなゲームからの脱却を強調するEAの発表を残念に思う気持ちもわかる。

ただ、EAが着目しているのは「長く楽しんでもらえるゲーム体験」を届けることであって、プレイヤーの主体性(エージェンシー)は、それを実現するための材料のひとつに過ぎないのかもしれない。おそらく、リニアなゲームが、オープンなゲームと比べて劣っていると考えているのではなく、マネタイズのポテンシャルが限られてしまうという理由で避けているのが実情ではないだろうか。なお継続的な収益源となりうる「Game as a Service」に着目しているのは、EAや先述したスクウェア・エニックスだけではない。Epic Gamesもその方向に舵を切っているし(gameindustry.biz)、UbisoftのCEOであるYves Guillemot氏も、「Games as a Service」がマーケットの成長につながると肯定的なスタンスを示している(gameindustry.biz)。市場全体の動きを考えると、今回の方針変更は必然であったように思える。

この流れが続き、AAA級ゲーム市場からリニアなゲームが去っていけば、ぽっかりと穴が空く。インディーやAA級タイトルを開発するスタジオにとっては、その穴を埋めるチャンスが生まれると、ポジティブに捉えることもできるだろう。ゲーマーにも、生き残ってほしいと思うジャンルやマネタイズモデルに対し、財布で意思表示するという術が残されている。

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