「海賊版・コピーのゲームしかない中国」というイメージを変えるために:インディーゲームドキュメンタリー「独行」製作者インタビュー

近年、中国のインディーゲームシーンが活発だ。Steamでは中国発の作品は日に日に増加傾向にあり、中国国内の”オリジナル”インディーゲーム開発の熱は高まっている。一方で、「中国は海賊版やパクリのゲームが多い」という認識を抱いている方も多いのではないだろうか。世界での中国ゲーム市場への印象を変えるために、2年にわたって中国のインディーゲームデベロッパー5名を撮り続け、1本のドキュメンタリー映画を完成させた男がいる。梁铁欣監督。中国の主要なインディーゲームアワードである「Indie Play」の審査員も務める人物だ。映画のタイトルは「独行」(どっこう)ストアリンク 。6月25日(火)に日本語版がSteamでリリースされた。

弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシャーであるPLAYISMも、同作の日本語翻訳および国内リリースに携わっている。そんな縁もあり、今回は梁監督に現状の中国ゲーム市場について伺いながら、「独行」を撮影した際に抱いた想いをお聞きする。

――――中国でゲームは、毎年どれくらい売れているのでしょうか?

梁監督:
実は、中国にはゲームの売上に関する正確なデータというものが存在しません。このデータやこのデータを信用するとすれば、2018年の中国内のゲーム売り上げはおよそ3兆円。オンラインゲームやモバイルゲームからの売上が非常に高い状態となっています。日本の2018年の売上が4848億円だったことを考えると、人口比では、まだ日本の方が、ゲームに支払っている金額が1名あたり1000円以上高いことになります。(中国:約14億人 2,307円/人 日本:約1.3億人 3,729円/人)このことからいっても、日本と同額程度国民がゲームに支出するようになれば、さらに莫大なマーケットとなることもあり、全世界から中国のゲーム市場に熱視線が集まっている状況です。

───「独行」の中でも海外からのコメントが取り上げられていましたね。監督が「独行」を撮影しようとした思いの中に、「海賊版・模倣品ばかり」という、世界の「中国のゲーム市場へのイメージ」を変えたかったということがあると伺っています。「独行」の中でも、デベロッパーの一人である王氏が、子供のころ道でおじさんがゲームを売っていたので、絵だけを見て母親に頼んで買ってもらったら、海賊版の日本のアダルトゲーム『蒼ざめた月の光』だったというエピソードがありましたね。実際、中国では海賊版がそこら中に溢れているのでしょうか?

梁監督:
もちろん多いです。正確に言えば、多いというよりはそれが当たり前のような状況です。1980年-1990年代の始めの頃、当時の中国人はほとんどが「海賊版は違法」ということを知らなかったので、海賊版があちこちに溢れていました。海賊版のファミリーコンピュータには4つのボタンがあるのに、オリジナルのファミリーコンピュータはボタンが2つしかないことを知らなかったというエピソードもあります。オリジナルのファミリーコンピュータのゲームは見た目がきれいだし、箱と説明書がセットで売られていることも知られていなかった。ですが、これはプレーヤーのせいではありません。当時は本物がなく海賊版だけが流通していて、誰もがその違法の海賊版が本物だと思っていたからです。海賊版を遊ぶという習慣は、ある意味ではそうならざるを得なかったということになります。

しかし10年前と比べると、コンソールとSteamのプレーヤー数は明らか増えています。また、前述の通りオンラインやモバイルゲームでのユーザーの課金は相当額となっています。
最近の中国ユーザーは、ファミリーコンピュータ、スーパーファミコン、PlayStationなどの古いPCゲームがSteamで販売されるので、幼い頃遊んだゲームを買い戻すことも増えてきているようです。まだ小さい動きですが、僕は将来的には著作権侵害は減っていくと考えています。

――――「模倣品ばかり」というイメージについてはどうですか?最近で言えば、『荒野行動』が『PUBG』に酷似しているとして話題になりました。

梁監督:
『ICEY』は、世界で200万本は売れていると言われています。その他、Steamランキングでも上位の常連である『太吾绘卷』、『Chinese Parents』、『Lost Castle』はおそらく100万本は売れているでしょう。いずれも、これまで発売された他の作品に影響は受けていますが、自分たちの作品として昇華していると思います。

中国では2014年に『Monument Valley』というゲームがヒットしたことにより、中国のゲーマーの中で「インディーゲーム」という概念が広まりました。このことにより、中国のインディーゲームブームは加速し、2015年には中国のインディーゲームもAppStoreで配信されるようになりました。中国内では2016年に、各プラットフォームでインディーゲーム専用ページが設置されました。2017-2018年にかけては、中国でいくつかのゲーム会社がインディーゲームを応援しており、Kickstarterのように必要な資金を提供しています。

現在でも、インディーゲームはまだ中国にとって新しいものであり、中国のインディーゲームデベロッパーは中国内で500人から600人しかいないと推定しています。人口が14億ですから、この少なさが分かると思います。先ほど触れた3作品のデベロッパーは、『ICEY』は10人弱のチームで、他3作品は5名以内でこのゲームを作っている。まだ全体的な人数は少ないですが、中国内でも確かな実力を持つデベロッパーが育ってきていると感じています。

───今回取り上げられた5名の実力派インディーゲームデベロッパー も、小規模のチームばかりですね。

梁監督:
そうですね。多くても10名規模のチームです。先日Steam版がリリースされ、連日Steam売上上位にラインクインしている『HARDCORE MECHA』もかなりクオリティが高いゲームですが、20名以内のチームで作っています。

1 高鸣(ガオミン) 『キャンドルちゃん』開発者

アジアトップ大学に選ばれた「清華大学」卒業生。
Indie Play 受賞者。

2 王妙一(ワン・ミャオイー) 『WILL:素晴らしき世界』開発者

同じくアジアトップ大学に選ばれた「清華大学」卒業生。
元NetEaseエンジンプログラマー。

3 穆飞(ミュ・フェ) 『Hardcore Mecha』開発者

チームを率いる代表。家賃の高い北京でオフィスを借りている。
クラウドファンディングで多額の資金を得る。
日本でも6月27日に『Hardcore Mecha』をリリースした。

 

4 李远扬(リ・ユーアン)『Button Bros』開発者

自分のスタイルにこだわりを持ち、家族に応援されながらゲーム開発を続ける。
パブリッシャーとの関係に悩んでいる。

5 陈静(チンゼイ ネット名:iiley)『FR Legends』開発者

今年36歳。会社は破産。多額の借金を背負いながらゲーム開発を続ける。

 

───「独行」の中では、それぞれのデベロッパー達の苦悩にスポットが多く当てられていました。

梁監督:
作中ではどのデベロッパーも、お金や人、そして過労の悩みを抱えています。実際問題として、登場デベロッパーの一人である王さんも中国内トップ企業NetEaseを退職して自分でゲームを作っています。しかし、会社を辞めるということは、定期的な収入がなくなるということです。このストレスは計り知れない。また、ゲームにはプログラミングの他に、グラフィックや音楽も必須となります。これを一人でこなせる人はなかなかいない。そうなると必然的に人を雇う必要がある。そうすれば、オフィスも必要だし、人件費もかかる。登場するデベロッパー達がいつもお金に苦労しているのは、これが原因です。

───作中で、デベロッパーのお父さんが「インディー(独立)ゲームは人も「独立」している必要がある」とおっしゃっていますね。

梁監督:
そうですね。しかし、費用を自分で集められる人は本当に少ない。作中でもクラウドファンディングで1000万円以上を集めた例が1つだけ出ていますが、あれは成功例 です。多かれ少なかれ親や知人からお金を借りたりしているし、パブリッシャーから支援を受けようとしている。お金がなければ、人を雇えないから自分でやるしかない。そうするとおのずと過労になります。

───破産したデベロッパーも出てきましたね……。それでも彼はゲームを作り続けている。象徴的なのは、彼の友人が「進撃の巨人」の二次創作を勝手に作ってアップロードし、多額のお金を稼いだということです。それでも彼は同じことはせず、自分が持っていた最後の資金であるビットコインをすべて売ってゲームの立ち上げ費用に充てたというエピソードも印象的でした。


*先日亡くなってしまった人気YouTuberガイルくんことEtika氏の在りし日の姿も登場する

梁監督:
登場するデベロッパー全員がお金や人、そのほかさまざまなことで苦労しても「それでも自分で作りたいゲームがある」という強い意志を持ってゲームを作り続けています。それが彼らに密着した理由です。実をいうと「独行」に関しても、この映画でお金を儲けようとは全く思っていません。2年間にわたる取材にかかった費用は膨大です。他の言語に翻訳する費用を捻出することも難しい。でも、取り返せなくて構わない。ただ、より多くの人に懸命にゲームを作り続ける中国の小さなデベロッパーのことを知ってほしい。その想いで価格も非常に安くしました(520円。48時間レンタルは310円)。是非、日本の多くの人にこの映画を見てほしいです。

───いろんな方に見てほしいですね。ありがとうございました。

 

最後に、登場人物の一人である『WILL:素晴らしき世界』の王氏にも今回のインタビューに当たって、いくつかの質問に答えてもらった。

───中国でインディーゲーム制作をする時の苦労はなんですか?

王氏:
中国はまだ買い切りでオフラインのゲームを買うユーザーは少なく、テーマに制限があることが制作するうえでの苦労の一つです。そんな苦労もあってか、中国のインディーゲームデベロッパーは皆知り合いで、よくグループで情報を交換し合って励ましあっています。

───作中ではほぼ鬱状態になったこともあったと話されていましたが、実際に苦労したことや、反対に嬉しかったことはなんですか?

王氏:
お金や人が不足して、自分の経験のなさもあって開発には非常に苦労しましたが、ゲームを無事にリリースし、ユーザーから手紙をもらったりフィードバックをもらうことができたことやゲームで賞を受賞できたことは何事にも代えがたい喜びです。どんなに苦労しても、やっぱりゲームを作ることが好きだから乗り越えられました。

屈託なく答える王氏からは、確かにゲーム制作への愛が感じられた。 作中では、彼女が『キャサリン』や『HUNTER × HUNTER』など、日本のゲームや漫画が大好きなことにも触れられている。「最近の商業ゲームは似たものばかりだと感じる。だから、自分で面白いゲームを作りたい」と語っていた王氏。親にお金を借りて、自分は無給で作り続けた『WILL:素晴らしき世界』。以前、本誌のインタビューで『街~運命の交差点~』や『428〜封鎖された渋谷で〜』から影響を受けたことを語っていたが、彼女もオリジナル作品から影響を受けて自分の作品に昇華することに成功し、日本も含めた海外で一定の評価を獲得している。

どんな苦労をしても、自分が考える面白いゲームを作りたい―――この想いは、どの国にいても変わらない。このような熱い想いを持ち高いクオリティのゲームを作るデベロッパーがどんどん増えれば、「中国製のゲーム」に対する世界のイメージは、確実に変わるだろう。同じアジアの国である日本でも、年々高いクオリティのインディーゲームがリリースされている。PLAYISMでもまったくの未経験ながら一人でインディーゲームを作っているデベロッパーの2作品『Orange Blood』、『OUTRIDER MAKO ~露払いマコの見習帖~』をリリースすることを先日発表した。まだまだ英語圏のデベロッパーが強いインディーゲーム業界で、アジアのデベロッパーが勢力を拡大していくことを期待したい。

ここまで読んでいただいた読者の方のために、「独行」のSteamキーを提供するキャンペーンを実施する。Twitterで 「#独行インタビュー」のハッシュタグで投稿された方から5名さまに、AUTOMATONのTwitterアカウントよりダイレクトメッセージ(DMをオープンしているユーザーのみ対象)にてSteamキーを送付する。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただく予定である。キャンペーン期限は7月29日23時59分まで。「独行」を見てみたい方は、ぜひ気軽にハッシュタグをつけて投稿してほしい。

 

[執筆:Sayuri Murabayashi(PLAYISM)]
[翻訳:Elaine Wong(PLAYISM)]

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