セレブのスマホゲームが1億ドルも売れた理由、SNSを使った広告費ゼロのマネタイズ戦略

今月17日、ラスベガスで開催された「D.I.C.E. Summit 2016」にて、スマートフォン・タブレット向けモバイルゲームを販売・運営するGlu MobileのCEO、Niccolo de Masi氏は、モデルで女優のキム・カーダシアンをテーマにしたスマートフォン向け基本無料アプリ『Kim Kardashian: Hollywood』が、2014年夏期のサービス開始から最初の5四半期(約1年と3か月)で、1億ドルの売上を達成していたことを明らかにした。スマホの波に飲み込まれた国内ゲーム市場のみならず、北米でも確実にシェアを拡大するアプリ業界。一部ではユーザーレビューを真っ赤に染めるほどの低評価も目立つセレブゲームが、いったい何故ドル箱として大成功を収めているのか。ソーシャルネットワーク時代がもたらした生きるコンテンツのマネタイズ戦略に迫る。

 

スマホとSNSが生んだセレブゲームブーム

『Kim Kardashian: Hollywood』は、2014年6月に、Glu MobileからiOSおよびAndroid向けにリリースされた基本無料のカジュアルロールプレイングゲーム。プレイヤーは、キム・カーダシアンとなってモデルや女優の仕事、クラブ遊びやデートをこなしながら名声や評価を高めることで、一流セレブへの道を歩んでいく。仕事やデートは経験値や所持金を増やせるだけでなく、高い成績を収めるほど多くのファンが獲得でき、それにあわせてセレブランクが上昇しやすくなる。また、各アクションはエネルギーを消費することで実行でき、使い切ると現実の時間経過で回復するまで行動できない。課金オプションとして、ゲーム内通貨「Kコイン」を購入することで、エネルギーの即時回復に消費できるほか、特定の衣装やアクセサリーが入手可能。そのほか、ゲーム内の所持金を追加で購入することで、カスタマイズに費やす時間が短縮できる利点もある。

『Kim Kardashian: Hollywood』 ゲーム画面
『Kim Kardashian: Hollywood』
ゲーム画面

Masi氏によると、同作はこれまで4200万回以上ダウンロードされており、プレイヤーがログインした回数は30億回以上。総プレイ時間は3万4千978年分に換算される。ゲームとしては、iTunesやGoogle Playでは高評価な一方で、レビュー集積サイトMetacriticでのメタスコアは57点、ユーザースコアは10点中たったの3.3点と、レビューが赤や黄色の酷評に染まるという一面も。しかし、基本無料アプリのマネタイズモデルとしては大成功を収めているようだ。同氏は、その理由をSNSを使ったプロモーションの賜だと断言する。キム・カーダシアンは、事あるごとに自身のTwitterやInstagramでゲームについての発言を投稿しており、その都度、あわせて1億人近いフォロワーへの宣伝効果を生み出しているというわけだ。

加えて、『Kim Kardashian: Hollywood』が目指すのは、まさに“生きたゲーム”なのだという。本作は、リアリティ番組同様に、キム・カーダシアン本人の実生活そのものがゲームコンテンツとなる。そのため、彼女が現実で活躍し続ける限り新鮮なネタが尽きることはなく、同時にマネタイズの機会も自ずと途絶えることはない。キム・カーダシアンが存在するだけで収益が増え続ける。文字通り、金のなる木といえるだろう。近年、ゲームプレイよりも収益構造に重きを置いた基本無料のスマートフォン向けゲームは、国内外に星の数ほど存在する中、このようにセレブを起用することで差別化を図ろうとするマネタイズ戦略は後を絶たない。

先日には、キム・カーダシアンの異父妹であるケンダル・ジェンナーとカイリー・ジェンナーを題材にしたアプリゲーム『Kendall & Kylie』が、同じくGlu Mobileからリリースされた。キム・カーダシアンを操作する前作と違って、こちらは自分のキャラクターを作成してインターネットの有名人を目指すという内容。『Kim Kardashian: Hollywood』がスマートフォンを横向きに持って操作するゲームであるのに対して、本作は写真やステッカーのシェア機能にフォーカスしたポートレート形式のゲームとしてデザインされている。また、『Kendall & Kylie』は『Kim Kardashian: Hollywood』よりも若年層をターゲットにしていることから、2作品が互いに共食いするコンテンツになることはないと、Masi氏は「D.I.C.E. Summit 2016」に登壇した際に説明している。

特筆すべきは、『Kim Kardashian: Hollywood』のプロモーション例に同じく、『Kendall & Kylie』のユーザーを獲得するための広告費に、Glu Mobileが一銭も費やしていないと述べている点だ。現在までに、オンラインストアのランキングで無料ゲームの頂点に登りつめたとMasi氏が語る『Kendall & Kylie』は、一重に1億5千万人におよぶソーシャルネットワークのフォロワーによって支えられていることになる。どの業界にもいえることだが、著名人の何気ない行動や発言は時としてテレビCMやインターネット広告に匹敵する宣伝効果を発揮する。一昔前、インターネットの普及により情報単価がタダ同然になった時代の流れと同様、今や利用して当たり前のように人々の日常に定着したSNSは、従来の広告のあり方にも確実に影響を与えているのかもしれない。

このほか、同社は今月はじめ、女性としては史上初となる2度のグラミー賞に輝いた世界の歌姫、テイラー・スウィフトと提携し、モバイルゲームの開発に着手していることを発表した。詳細は明らかになっていないが、2016年後半のローンチを予定しているとのこと。さらに、さかのぼること昨年4月には、同じくグラミー賞獲得の実績を持つポップ歌手、ブリトニー・スピアーズと提携したことも伝えられていた。こちらは今年前半を予定。テイラー・スウィフトのSNSフォロワーはおよそ2億2700万人、ブリトニー・スピアーズは9000万人におよぶといわれており、ソーシャルネットワークが張り巡らされた世界で知名度を武器にしたプロモーション戦略は留まるところを知らない。

自身のブログでゲームを紹介するリンジー Image Credit:GameSpot
自身のブログでゲームを紹介するリンジー
Image Credit:GameSpot

こうした女優や歌手を題材にしたセレブゲームは、これまでGlu Mobileの作品以外にも多数が世に送り出されてきた。2014年12月には、『Grand Theft Auto V』の登場人物が自身をモデルにしたものであると主張し、Take-Two InteractiveとRockstar Gamesに利益を求める訴訟で一躍脚光を浴びた女優、リンジー・ローハンが、Space Inchの基本無料アプリ『Lindsay Lohan’s The Price of Fame』でフィーチャーされた。また、2015年8月、モバイルゲームメーカー大手Pocket Gemsが、映画『アナと雪の女王』の主題歌「Let It Go」をカバーしたことでも知られる歌手、デミ・ロヴァートをテーマにした無料ゲーム『Demi Lovato: Path to Fame』をリリースしたことも記憶に新しい。

余談になるが、キム・カーダシアンの夫で、ミュージシャン・ヒップホップMC・音楽プロデューサーとしてマルチに活躍するカニエ・ウェストも、自身のゲーム『Only One』を発表している。2007年に亡くなった彼の母親が天国へ旅立つという内容で、タイトルは2014年にリリースされたポール・マッカートニーとの共同制作曲「Only One」に由来している。なお、対応プラットフォームや発売日は今のところ未定。

 

バブルが生んだタレントゲーム黄金時代

現代のハリウッドを中心に流行するセレブゲームと同様に、かつての日本にもタレントゲームというバブル時代の申し子が存在する。さかのぼること1986年、攻略情報なしでは絶対にクリアできない伝説のクソゲーとして今なお愛される『たけしの挑戦状』が世に放たれた。ゲーム内にビートたけしはほとんど登場しないが、本人が監修に携わっており、タレントゲームブームの火付け役になったといわれている。その後、『さんまの名探偵』や『所さんのまもるもせめるも』をはじめとしたファミコンソフト、『中山美穂のトキメキハイスクール』や『リサの妖精伝説』といったディスクシステムの企画ものなど、芸能人の名を冠するタレントゲームが続々と登場。90年代に入るまでラッシュは続いた。

そんなブームに一役買ったのが、1987年に発売された家庭用ゲーム機、PCエンジンだ。その翌年にCD-ROMに対応したことで、タレント本人の肉声を収録できるようになったほか、実写画像を取り込むことでリアリティまで追求できたのだ。その代表作に、歌手の小川範子と知り合いになれるアドベンチャーゲーム『No.Ri.Ko』や、“のりピー”こと酒井法子の救出を目指す『鏡の国のレジェンド』が挙げられる。しかし、その後、バブル崩壊に呼応するかのようにタレントゲームの販売本数は激減。1992年以降、『みつばち学園』をきっかけに一般公募からハドソンのイメージガールとして芸能界デビューし、コンパイル時代の『ぷよぷよ』シリーズで「アルル・ナジャ」の声優を務めたことでも知られるアイドル、井上麻美と恋人になった気分になれるゲーム『井上麻美 この星にたった一人のキミ』を境に、タレントゲームが乱舞する黄金時代は終焉を迎えた。

『龍が如く4 伝説を継ぐもの』
『龍が如く4 伝説を継ぐもの』

2000年代に入った頃からは、それまでタレントゲームの立役者としてゲーム事業に着手していたレコード会社の大半が、ゲーム機の進化に伴う開発費用の高騰を理由に次々と撤退。芸能人を全面に出した作品は稀有な存在となった。一方で、PlayStation 2以降の3Dゲームにおけるモデリング技術の発達に伴い、登場人物のキャプチャーモデルとして俳優を起用するプロモーション手法が目立つようになった。カプコンの『鬼武者』シリーズが好例で、1作目の主人公に金城武、2作目に松田優作、3作目にジャン・レノと、それぞれ名だたる俳優を起用したことで脚光を浴びた。また、そういった観点では、多数の俳優やタレントがゲスト声優として出演する『龍が如く』シリーズも、ある意味タレントゲームといえるかもしれない。なお、4作目以降は、フェイスキャプチャーで出演者の顔をモデリングして主要キャラクターに反映させている。現在、こうした手法は国内外のトリプルA級タイトルにおいて主流となりつつある。

このように、セレブやタレントの知名度をプロモーションやマネタイズに利用する流れには、国内外を問わず長い歴史がある。日本では一度は衰退したタレントゲーム文化。一方で、海を渡ったハリウッドでは少し毛色は異なるものの、スマートフォンとソーシャルネットワークの普及に伴うアプリゲームの台頭により、セレブゲームとしてまさに隆盛を極めている。バブルの勢いに乱舞した日本のタレントゲームが、数か月の賞味期限といわれるほど足の早い生ものだったのに対し、『Kim Kardashian: Hollywood』は“生きたゲーム”という表現どおり、これまでのところ息が長い。無論、その背景にはハリウッドとアプリ業界という比べ物にならない金の動きがあることは確かだが、波に乗ったセレブゲームブームは果たしてどこまで続くのか。ドル箱の行く末に注目したい。

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