松野泰己氏参加で「FFT」の精神的後継作を謳った『Unsung Sotry』、開発が今年1月に経営危機迎える。発売は2016年以降に延期へ

 

2013年9月の東京ゲームショウに発表された『Unsung Story: Tale of the Guardians』(以下、Unsung Story)を覚えているだろうか。『オウガバトル』シリーズで知られる松野泰己氏が原案・世界観構築として参加、『ファイナルファンタジー タクティクス』のような重厚なタクティカルRPGとして、ゲーム開発スタジオPlaydekが現在も制作を進めているタイトルである。2014年1月にはKickstarterキャンペーンがスタートし、1万5823人から約66万ドルの開発資金を集めたが、その後は経営危機を迎えたりと様々な問題を抱えていたようだ。

語られなかった経営ストーリー

『Unsung Story』はiOS/AndroidおよびPC向けに開発が続けられているタクティクスRPGだ。2つの大国が77年にわたり戦争を繰り広げている世界「ラスファリア」を舞台に、プレイヤーは時代も主人公も異なる様々なエピソードをクリアし、77年戦争の真実を解き明かしてゆく。前述の松野泰己氏に加え、同じく『オウガバトル』シリーズなどのキャラクターデザインを担当した吉田明彦氏などが開発に携わること、さらに日本語ローカライズにも対応することで話題となった。

e126e3c7f04c64cf05c1f73df126d1bd_originalしかし『Unsung Story』のKickstarterキャンペーンが2014年2月に成功したあと、同年5月まで頻繁に続いた情報アップデートは徐々に途絶え、スタジオからの報告は2か月から3か月に1回ほどへと減少していった。開発は大きな進捗を見せず、公開されたスクリーンショットもほんの数枚だけ。Kickstarterの情報更新ページでは時おり「Refund!(返金!)」の声が挙がり、ファンとPlaydekの関係は目に見えて険悪になりつつあった。

ことが大きく動いたのは今年9月22日である。PlaydekのCEOであるJoel Goodman氏は、あらためて『Unsung Story』の開発状況をKickstarter上で報告した。それによると『Unsung Story』をキャンセルするプランはなく、今後も開発は続けられていく。しかし予想していた以上に制作スピードが遅いため、当初2015年7月に予定していたリリースは延期され、来年からベータテストが実施されるのだという。また情報更新が遅れた理由としては、複数のパブリッシャーと『Unsung Story』のパートナーシップを結ぶ話を進めていたためで、その詳細をビジネス上語ることができなかったと説明した。

さらなる問題は、同年1月に経営危機に陥ったため、コアメンバーを含む複数のスタッフをレイオフしていたという事実だ。このスタッフのなかには『Unsung Story』のゲームエンジンを制作していた技術畑の人物も含まれており、結果として『Unsung Story』の開発に大きな影響を与えることになったという。

unsung_story_1600.0

さらに『Unsung Story』開発の舵取りに関しても支援者たちは困惑している。現在完成しているコンテンツは、なぜか当初言及されていなかったPvPコンテンツがメインとなっており、さらに2016年にはPvPコンテンツのベータテストが長期間実施されるのだという。これらのPvPテストはゲームバランスの調整をするために実施するために実施するものとされており、シングルプレイヤーキャンペーンの開発には一切影響を与えないことが明らかにされている。

しかし前述の経営危機や開発スタッフのレイオフなどを聞いて、その話を素直に信じられる者は少ないだろう。Kickstarterには「自分たちはPvPではなくシングルプレイヤーキャンペーンがプレイしたい」との訴えが多数書き込まれ、その後Redditにて実施されたAMA(ユーザーによる質問スレッド)でも「なぜ作品のコンセプトを変えたのか」との質問が矢継ぎ早に繰り出されていった。『ファイナルファンタジー』や松野氏の名前で注目を浴びた『Unsung Story』だが、その実であるストーリーは少なくとも当分楽しめないという開発の方針に、ユーザーたちからの信用は失われつつあるようだ。

Playdekはもともとモバイルゲーム開発スタジオではあり、『Agricola』や『Ascension』といったカードゲームを多数リリースしてきた。一方で今回の『Unsung Story』にて予定されている3Dグラフィックのゲーム開発経験は乏しく、今後開発が順調に進むのかは気になるところだ。今回のアップデートによれば、現在は内製のコアゲームエンジンとUnityエンジンを統合して使用しているという。


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。